24話 【先手4】渓流釣りをやっていきます
登山に続き、アウロラ達とそのまま渓流釣りへと雪崩れ込む。
河原で準備をしながら、邪神が二人に質問をする。
「渓流で何が釣れると思う?」
「なんかしましまのと水玉のやつです」
アウロラはもはや柄で覚えている。
「あんたらの故郷の川ではブラントラウトというマスがメインだな。このあたりではアユに加え、ヤマメ、アマゴ、ニジマス、イワナなども釣れる」
邪神が前にいた世界では渓流釣りで魚を取りすぎないよう禁漁期間が定められていることもあったが、この世界の人間はあまり川魚を食べないようなので、今のところ設定する必要はなさそうだ。
例によって、アウロラ達の服や装備、タックル(釣り道具一式)などは全て邪神が準備している。
ロッドは5メートルほどで、仕掛け、重りをつけている。
「渓流釣りでは岸から届かないポイントに入るときは水中に立ち込む。そのための装備が必要だ。まずは防水服だろ、苔の上でも滑りにくい靴だろ、両手をあけるためのベルトだろ、網だろ、タックル。渓流釣りでは、餌釣り、ルアー釣り、フライフィッシングなどの方法があるが、初心者は餌釣りのほうが釣果がいい。そこでアウロラと取ったミミズの出番だ。ミミズは淡水魚のほぼ全てがバイトしてくれる。ミミズが足りなくなったらその辺の岩をひっくり返して川虫を補充しろ」
昨日収穫して木箱に入れておいたミミズを確認する。
昨日と変わらず動き回っている。
アウロラは満面の笑み、これを触るのかとイリアの顔は曇った。
「ぶりっぶりに元気ですよ!」
「ミミズに針を通すときは、胴体のあたりを一箇所刺せばそれでいい。もう少し釣果を上げる方法はあるが、初心者はそれでいい。あまり魚が賢くて餌を取られるようなら、ミミズの中に針を通して隠す」
「でも、魚が賢いなんてことあります?」
アウロラは半信半疑だ。
「渓流魚は警戒心が強いし、上方向の視界がきく。人間の接近にバレバレで、餌だけ取っていくなんてこともありえる。まあ、そう簡単にはいかないからやってみるがいい」
邪神は含みを持たせた言い草だ。
「この装備ってことは川の中に入るんですか」
「そうだ。水流と深さを考えて入れよ。水圧を過小評価するな。足が滑ったらすぐ流されるぞ。釣りをするときは必ず二人以上にしろ」
アウロラとイリアは邪神にアシストされながら、岩の上を渡り、水中のポイントに着く。
キャストするときに互いに糸が絡んだり針を引っ掛けかけないよう、釣り人同士はほどよく距離をとる。
「渓流釣りの基本は、ポイントの下流から上流に向かってキャストすること。そしてゆっくりと流してゆく。こうだ」
邪神はイリアのロッドを借りて渓流の深瀬を狙い、実演してみせる。
ものの10秒ほどでバイトした。
邪神はひょいっと引き上げて網の中にキャッチする。
30センチほどの見事なアユが涼しげな姿を見せた。
「わー! 美味しそうです!」
「で、これは俺が釣ったので戻す。渓流魚の魚体を持つ時は手を冷やしてから持て。人間の体温で火傷をさせてはリリースする意味がない」
「ああーっ! 大ぶりの貴重な一匹が!」
アウロラが叫ぼうと喚こうと、容赦なくリリースだ。
「俺は食わないから、自分の分は自分で釣れ。このポイントを使ってみろ。一度アタリがあったら、もう一度ぐらいはかかるかもしれない」
「でも、入れ食いってことはたくさんいるってことですね! やってみます!」
邪神のすることを見て、いつものように簡単そうだと錯覚する愚か者、それがアウロラである。
5分が経ち、小鳥の鳴く声と川のせせらぎで森林浴だけは捗った。
「うーん爽やかで暇です」
「人間は川の音を聞いているだけでも心は安らぐそうだが」
邪神は魚の視界に入らないよう岩の上で体育座りをして休憩をしている。
「安らぎませんが」
「そうか」
「えーすぐかかるかと思ったのに全然釣れません」
「本当に餌とられちゃいました……」
「フックアウトというんだ。ほらな、魚は賢いだろう?」
アウロラもイリアも素直に音を上げる。
「うぐぐ……私、猫以下で魚以下なんですか?」
全く釣れない二人は、邪神にアドバイスを求める。
「何かコツとかないんですか?」
「まずは二人共物音がうるさすぎるな。魚にバレないように、水流と同化するんだ。振動や物音を立ててはならない。アウロラはその岩の陰を狙ってみろ。イリアはその、淵にそそぐ流れの白泡の切れ目のあたりに入れて、ゆっくり流す」
神眼によって全ての魚の動きを見ている邪神は、二人に同時に違うポイントを勧める。
「えーそこさっき攫いましたよ」
「もう一度、ゆっくり流すんだ」
「えっ、当たりました! 引き上げますね!」
アウロラの引き上げた魚を、邪神が網でキャッチする。
「アユだが、小さいな。それはリリースしろ」
「折角釣ったので嫌です」
「調理もできん、逃がせ」
「うう……さよなら」
アウロラは泣く泣くリリースした。
「あっ、私も当たりました! 引きが強いです。どうしましょう」
辛抱強く流していたイリアはイワナを釣った。
体調25センチ。まずまずの大きさだ。
その後、少しコツを掴んだらしい二人は、一時間ほどかけて二匹ずつ釣り上げた。
まだまだ粘ろうとする二人に、邪神が声をかける。
「まだ食べるのか? 食べる分だけ釣れと言ったが」
「私は二匹でいいです。アウロラ、私の釣った三匹目をあげるよ」
「ならもう終わりでいいよな」
日が傾いて夕方になってきた。
今日の夕食をゲットしたところで、日が沈む前にそろそろ食事をして帰りたいところだ。
「まだまだ食べられますが、まあ足が濡れて気持ち悪いのでいいでしょう」
「アウロラ、イリア。あんたら魚はさばけるのか?」
「私なら頭からまるごといきますけど?」
アウロラはいつも通りのワイルドライフだった。
「内臓……取りたいですよね。私、間違ってます?」
「いや大半の人間は取るし、食うべきではない」
イリアはアウロラより多少文明人だった。
「細菌に寄生虫がうじゃうじゃいる。あと、生で食うなよ。持ち帰るにしろ、そのまま食うにしろ、釣った魚はすぐに締めておけ。即死させろということだ。こうすることで魚が長く苦しまず、味も落ちない」
イリアは邪神の指導のもと、イワナの目と目の間を叩く。
下向きだった目が上を向けばシメは完了。
都会育ちのイリアは、魚の目を見て鳥肌が立っていた。
「エラから背骨を切断し、尾ひれ側の背骨を切る方法もある。血抜きもできる方法だが、渓流魚は血液量が少ないので血抜きしなくてもいい」
邪神は渓流のほとりで塩焼きにするための焚き火を起こしながら、腸の取り方と下処理の方法を教える。
背骨の血合いを残すとくさみがでる、だとかエラを取れ、だとか色々と細かい。
ナイフ使いが怪しいので、アウロラのぶんもイリアにさばいてもらった。
「串の刺し方だが、口から背骨を軸に波打つようにうつ。焼いている途中で身が崩れたり抜けないようにな。串に差したら塩を振る。腹の皮目と、尾のあたりには念入りにしておくと型崩れしにくい」
邪神は一本は実演としてやってみせ、あとは二人にやらせる。
串を打った魚は、焚き火を囲むように並べて立てる。
「渓流魚は弱火でじっくり焼くのだ。焼き上がるのに一時間ぐらいかかる。その間に帰り支度をしろ」
「色々学びましたし、何より楽しかったですね」
カリカリに焼き上がった渓流魚の串を外し、二人ははふはふしながら背中の肉からほおばる。
アユは独特の香りがあるので、塩焼きが一番だ。
イワナはサケの仲間なので塩焼きはもちろん、ムニエルや唐揚げ、あらゆる調理でも美味しく食べられる。
「わ、身がぷりぷりのふわふわのサクサクです!」
「もう少し食レポをするにも語彙力が上がると良いな。何を食べたのか分からん」
何を食べても同じような感想を出してくるアウロラである。
「これで全行程終了だ。満足したか?」
「大満足です!」
「邪神さん、グランピングとアクティビティの段取りや準備、ありがとうございました」
二人は焼きたての魚と炊きたての米を頬張り、ほどよい疲労感をお土産にキャンプを終え、幸せな気分で邪神の拠点に戻った。




