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カタクリズム:中編  作者: ウナ
聖剣と魔剣
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6章 第6話 常闇の剣

【常闇の剣】







しばらく2人の間に会話はなく、

先程までの死闘が嘘のように静かな時が流れていた


静寂を破ったのはアヴァロンだった

アヴァロンは自身の右眼に突き刺さっている鞘を引き抜いて投げ捨てる

すると、一瞬で目は再生し、何度か瞬きをしてから上体を起こした


「なんだよ、治るのかよ」


「当然だ、今の俺は魔力を具現化しているにすぎん」


シルトは半歩引いて剣に手をかける……が、

アヴァロンはそれを手で制して首を横に振った


「無用だ、俺は負けた、これ以上の戦いは無粋というものだ」


剣から手を離したシルトはギリギリ間合いの外で腰を下ろす


「ふっ……まぁいいだろう」


随分用心深いことだ、とアヴァロンは笑ったが、

これまでしてきた事を思えば当然と言えた


挿絵(By みてみん)


「んで、僕が勝ったからこれからは従うんだよな?」


「あぁ、約束は違えぬ……だが、目に余るほど貴様が腑抜けになれば別だ」


この時、アヴァロンの笑みを初めて見た

憎たらしい感じで笑うことはあったが、今の顔はそれとは違うものだ


「腑抜けねぇ、精々頑張るよ」


「気を抜くなよ、いつでもお前を見ているぞ」


「気持ち悪い言い方だなぁ」


少しだけ緊張の糸がゆるみ、シルトは大きく息を吐き出す

呼吸はとうに落ち着いていたが精神的な疲労は別だ、

短時間とは言え限界の戦いをしたのだ、疲れないはずがなかった


シルトが立ち上がり、先程アヴァロンが投げ捨てた鞘を拾ってくる

剣を納めた彼はそれを手にしながらアヴァロンに言う


「なぁ、力ってのはこの剣じゃないんだよな?」


「当然だ、そんな玩具ではない」


「さいですか……」


この剣ですら玩具なのかよと思わなくもないが、

人類の王とやらの秘宝だ、それほどの物なんだろう


聖鉄の剣クラスでラルアースでは最上級の武器と言えるが、

これ以上となるともはや想像がつかない

シルトの記憶上にある最高の武器を思い浮かべても、

やはりそれは聖鉄の剣と大差はないだろう


いや、オエングスが持っていた剣なら……あれはヤバかった


「ついて来い」


思いにふけっていると、立ち上がったアヴァロンが歩き出す


「あ、待って、この剣って貰っていいか?」


チラリとシルトを見るアヴァロンの眼は鋭く、

怒りすら含まれているように思えるものだった


「分かったよ、置いてくよ」


惜しい気もしたが、アヴァロンの眼力がそれを許さなかった


「当然だ、それは我が財の一部だ、貴様になどくれてやらん」


後ろ髪を引かれる思いで剣を手放し、アヴァロンの後をついて行く

彼の歩くペースは速く、ドカドカと進んで行き、

戦闘前に聖鉄の剣を取ってきた船内へと入っていく

小走りに後をついて行ったシルトは船内に入った瞬間に目を見開いた


「なんだ……これ……」


船内はどう見ても外観と合わない広さがある

空間が歪んでいるとでも言うのだろうか?

そんなまさかと思うが、入り口の扉をよく見ると、

掴んでいる自身の手が歪んで見えるのが分かる


松明などの照明が見当たらないが、異様に明るい

上を見上げれば白い石造りのような天井が発光しているように見えた


「マジか」


船内は一見は倉庫のようにも見えた

木箱が大量に並び、宝箱のような豪華な箱も並んでいる

室内は至ってシンプルな木造の造りで、

外観のイメージとのギャップに少しばかり驚く


「しっかし広いな」


「そうか? 大したことはなかろう」


そうは言うが、これはどう見ても城の宝物庫よりは広いだろう

大商人の倉庫でもここまでの広さがあるかどうか……


「ここに収めし物は我が財の2割程度だ

 特に価値ある物のみを集めたが故、たったこれだけになってしまった」


「たったこれだけ……ねぇ」


シルトがパッと見渡した感じでは、

木箱が2000,宝箱が800といったところだろうか

聖鉄の剣をここから持ってきた事を考えると、

おそらく中身は同等クラスの物が入っているのだろう

いくつの国の国家予算になるのか、考えただけでゾッとした


「なぁ、これだけあるならあの剣2本くらい……」


シルトがそう言うと、アヴァロンは再び怒りの眼差しで睨む


「はいはい、返しますよっと」


サラに渡したかったのだが仕方ない、

それほどに今のアヴァロンからは有無を言わさぬ殺気があった


山のように積まれた木箱の道を進み、

船内中央辺りに黒い鉄のような材質の柵が見えてくる

檻とも言えるそれの中央には下へ続く階段があった


その前で止まったアヴァロンが、右手で中空に何かを描き、

それが文字である事だけは分かったが、何の文字かも分からなかった


アヴァロンが描いたのはこの檻を開く呪文だ

ソニレヒヒク……古代エウタ語で解錠という意味だ

この鍵は彼の持つ濃密かつ膨大な魔力が無ければ開くことは叶わない


檻の黒い鉄格子がガチャガチャと音を立てながら動き出し、

その枷を外してゆく……そして、地下へと続く階段への道は開かれた

これから降りてゆく、そう思った瞬間アヴァロンが振り返る


「ここから先は我が血脈を受け継ぎし者しか入る事は許されぬ」


「子孫ってこと?」


「そうだ、貴様も我が子孫ではあるが、その資格があるかな……ふっ」


自分がアヴァロンの子孫という事に何とも言えない気持ちになるが、

仮にその資格が無かった場合はどうなるのかと聞きたかったが、

聞かなくても何となく想像出来てしまい、シルトは黙っていた


階段を降りてゆくアヴァロンに続き、シルトも地下へと足を進める

特に身体には何の変化もなく、資格とやらがあったのだろうと安堵した


階段を降りた先はほぼ暗闇の空間だった、

僅かな明かりと言えば階上からこぼれる光のみである

しばらくすると眼が慣れたのかぼんやりと室内の輪郭が見えてくる


「どうやら大丈夫だったようだな」


アヴァロンの言葉の意味は理解している、

やはり資格が無ければ死んでいたのだろう


「で、どこにあんの」


「まぁ待て、そう焦るな」


薄っすらと正方形の部屋なのは分かるが、何があるかまでは見えはしない

しばらく目を慣らそうとしていると、部屋の中央にほのかな灯りを感じた


黒の中に浮かび上がる黒……この暗黒の世界でもなお黒い

それは全てを飲み込まんとする黒、

生きとし生けるもの全てが理解など出来ずとも拒絶したくなる黒だ


星々が煌めく夜空のような煌めきとは少し違う、

だが近い漆黒の空を映し出したような刀身は、

剣という1本の武器の中に宇宙を感じるかのようだった


「それが……」


「あぁ、神剣カレドヴールッハだ」


神剣(しんけん)? 元聖剣の魔剣じゃないの?」


先日聞いた話ではどう考えても魔剣の類だったが……

そう考えていると、アヴァロンが"それ"に近寄ってゆく


「貴様らが言う神々、あれは力の集合体にすぎん」


何の話か一瞬悩んだが、シルトは黙って聞く事にした


「この剣もまた同じ、1柱の神と言えよう」


「へぇ……」


神様ってのはそういうものなのか、

シルトは深くは考えず、ただ聞いていた

その最中、一時も剣から目を離すことはできずに……


「あまり見るな、瞳を喰われるぞ」


「っ!?」


慌てて視線を外すが、気になってチラチラと見てしまう

剣を見ただけで目が喰われる? 想像もつかない事だ


目が慣れたのか、室内の構造がハッキリと見えてくる

どうやら神剣は台座に寝かすように置かれているようだ

だが、剣には幾重にも巻かれた太い鎖が見える


その鎖にはどこか見覚えがあった……

ジーンの使った悪魔召喚術によるものと似ている


「これ大丈夫なのか?」


「さぁな、今の貴様で扱えるかは分からぬ」


何故か近寄ることが出来ずにいた

それは恐怖からなのか、シルトには分からなかった


ただなんとなく、そう、なんとなくだ、

なんとなく近寄ってはいけない、そう感じていた

この剣を手にしたら全てが壊れてしまうような、

言い様のない不安が胸に渦巻いている


だが、ハッキリと分かる……この剣は必要だ


「鎖を解いてくれ」


シルトがそう言うと、アヴァロンは頷いてから剣へと近づき、

自身の左手小指を引き千切って剣へと放った


指は鎖に吸い込まれるように消え、鎖は形を変え蛇となる

蛇が剣の刀身を隠すように絡みつき、

一塊になった途端固まり、あっという間に鞘へと姿を変える


刀身が隠れた事により一気に空気が変わった

室内はぼんやりと明るくなり始める……

この部屋の天井も倉庫と同じ発光する白い石造りだったのだ

あの剣が存在するだけで光が奪われていたのだ


シルトが剣へと近寄り、アヴァロンを見ると、

彼の千切れた左手の小指は再生していなかった


「魂の一部を喰わせたのか?」


シルトの読みは正解ではないがハズレてもいない

しかし、アヴァロンはその問いには答えず、

静かにシルトを睨みつけていた


「手に取れ」


「おう……」


先程まで感じていた底知れぬ不安は今は無いが、

やはり恐怖に似た感情はあった

恐る恐る手を伸ばして剣を握ると、全身の毛が逆立つような感覚が走った


力がみなぎるなんてそんな生易しいものではない

もっと邪悪で、もっと醜悪で、もっとおぞましいものだ


触れてはいけない……心がそう警告してくるが、

触れた指先が離れようとしてくれなかった

まるで張り付いたかのように手に馴染み、

自身の腕の延長線上のような錯覚すらある


これは生きている……命だ


「生きてるのか」


シルトの口から漏れた一言にアヴァロンは口角を上げる


「左様、神剣カレドヴールッハは命ある神だ」


「意識は?」


「無い、純粋な力のみの存在だ」


確かに言われてみれば意識のようなものは感じない

間違いなく生命なのだが、生きてはいない、そんな気すらしてくる


恐れに近い感覚がシルトを蝕むが不快感はない、

自分の身体の一部のような安心感すらあると言ってもいい


「1つ、話しておかねばならぬ事がある」


「ん?」


剣ばかりに意識が持っていかれていたが、

アヴァロンの神妙な雰囲気に彼を見ると、

自信に満ちた普段の彼からは想像もつかないような、

どこか不安気な表情をしていた


「貴様がその神剣を使えるとは限らん」


「どういうことだ?」


アヴァロンは少しばかり思案し、言葉を選ぶように口を開く


「本来であればそれは勇者のための剣だ、

 貴様にその資質があるのか俺は知らん

 そして……その剣は気が狂ったように魔力を喰らうぞ」


「魔力……」


シルトは自身に魔力が無いのを知っている

手に馴染む神剣を見て、これほどの剣が使えないのかと肩落とした


「どういう訳か貴様からは微塵も魔力を感じる事ができん

 俺には貴様がどうやって生きているのかも分からんが、

 魔力の無い身ではその剣は扱えるとは思えんな」


「じゃあ、なんで力をくれてやるみたいに言ったのよ」


「可能性だ」


「可能性……?」


アヴァロンは自分で言って自分で笑ってしまう

可能性、そんな曖昧なものに何を期待しているのだ自分は……と


「貴様なら或いはな……そう思っただけだ」


「ん? ちょっとよく分からんけど、どうすりゃ試せるん?」


「甲板へ行くぞ」


早足で去ってゆくアヴァロンの後をついて行き、

倉庫の明るい光に眼を細めながら、改めて神剣を見ると、

蛇が変化して生まれた鞘は黒と紫の淡い光が這うように蠢いていた


この鞘も生きてるのか?

そんな事を考えるが、触っている感じではそうは思えない

何の金属なのかも分からないが、金属である事は間違いなさそうだった


甲板に出ると、アヴァロンは何やら術式を中空に描いている

ジーンの描く魔法陣はよく目にするが、それとは異質なように思えた


1時間近くかけて描かれた魔法陣は大規模なもので、

幾重にも重ねられた魔法陣が1つの木のようになっている

しかし、その木の上下が逆という点が気になった

最後になにかの文字を入れ、アヴァロンが振り向く


「これより、神剣カレドヴールッハを目覚めさせる」


「……」


緊張が背筋に走り、手には汗が滲む


「死ぬなよ」


「え、死ぬの?!」


シルトが慌てるが、アヴァロンはお構いなしに術式を発動した

幾重にも描かれた魔法陣が回転し、発光し、

魔法陣と魔法陣を繋ぐラインに魔力が流れていくのが肉眼でも分かる

シルトにはどれほど凄いのかは分からないが、

あれが途方も無い魔力なのは分かった


「剣をここへ」


アヴァロンの指差す位置は魔法陣の木の先端とも言える部分だ

そこへ剣を置き、3歩ほど離れて見ることにした


「我、アウレリアヌス・A・ヴェルクリエ・イースタルの名において命ずる」


シルトは長い名前だなぁとくだらない事を考えていたが、

次の瞬間にはその考えなど吹き飛び、目を見開くこととなる


死樹(クリフォト)よ、我が魔を糧とし、その偉大なる力の片鱗を示せ」


死樹(クリフォト)と呼ばれた魔法陣の木から1滴の黒い雫が落ち、

神剣カレドヴールッハに吸い込まれるように消える

それとほぼ同時にシルトの身体は10メートル以上後方へと吹き飛び、

船の外周を囲む柵へと衝突した


「がはっ」


見えない何かに吹き飛ばされたようだった

一瞬だが呼吸が出来なくなり、むせてしまうが、

そんな事よりも大事なことがある……ピクリとも動けないのだ


見えない圧が全身を襲う

指1本すらまともに動かせないほどの圧が、

途切れることなく押し寄せ、目が陥没してしまうのではないかと不安になる


「ぐ……ぁ」


(はりつけ)にでもされたようにシルトは柵から動けなかった

かろうじて開いた目に映るのは黒い世界、

闇の中から闇の風が吹き出し、辺りから光という光は消え、

完全なる黒の世界になっているが、更に濃い黒の風が渦巻いている


本能でそれを見てはいけないと察したシルトは瞳を閉じ、

以前常闇の外套による転移をした時のように魔力を探る……


中心点は先程置いた神剣カレドヴールッハだ、それは間違いない

そこから無限に溢れ出る闇がこの空間を埋め尽くし、

容量の限界になった闇たちは剣に戻ろうと足掻いている……そう感じた


無形(トフー)……虚無(ボフー)…………(ハセク)


アヴァロンがそう唱えると、

無限とも思える溢れ出る暗黒の力が急速に剣に吸い込まれ、

シルトを押し潰そうとしていた圧は消え、身体は解放された


「さぁ、剣をとれ」


死樹(クリフォト)の目の前にいたアヴァロンは1歩も動いていなかった

あの圧の中で動かずいれた事に驚くが、シルトはよたつく足で剣へと向かう


眼下にあるは(しん)なる剣……暗黒神カレドヴールッハ


闇を生み、光を喰らい、生ある全てのものの天敵であり、

死が訪れるものの救い手であり、理を破壊するものなり


意を決したようにグッと拳に力を込めてシルトは剣に手を伸ばす

僅かに震える手で掴んだ"それ"は先程までとは別のものに思えた


生命の鼓動のように流れてくる力の激流、

無尽蔵に溢れ出るその力が全身を満たし、

自身が内部から炸裂してしまう想像を掻き立てる


だが、どういうわけだろうか……

感じたこともない母の温かみのような感覚があった


「……これが神剣」


シルトが神剣を持ち上げると、彼の手に合わせたように剣が変化してゆく

長さ、重さ、細さ、厚み……

全てがシルトの好みの幅広剣(ブロードソード)へと変わった


「持ち主で変化する剣なのか?」


「そうだ」


「すごいな……いや、ホントすごいな」


語彙が働いてくれない、それほどの衝撃だった


「抜け」


「……あぁ」


言われるがまま剣を引き抜く

鞘とこすれるような感覚は無く、スッと素振りでもするように抜けた


「…………」


言葉が出ない、この剣はそれほど異質なものだった

聖鉄の剣が空気を両断する感覚があったがそれの比ではない


刀身は夜空を切り取ったかのような輝きを秘めた漆黒、

柄などの装飾はシンプルだが、1つ1つが丁寧に作られている事が感じ取れる

芸術品とまでは言わないが、武器としての美しさは見たこともないレベルだった


挿絵(By みてみん)


黙ったまま2度3度素振りをする

聖鉄の剣で切り裂いた感覚を凌駕するそれは、

空気が最初から無いかのように剣を振れた


試しに切っ先を地面にコトっと音がする程度に置いてみる

すると、切っ先は船の床など無いかのように吸い込まれ、

斬っている感覚すらほとんどないほどだった


「……怖い剣だな」


「何を言う、切れ味など表面上のものでしかない」


「ん?」


「剣に魔力を込めろ」


そうアヴァロンに言われるが、

魔力を込めるという感覚がまだ掴めていないシルトは困惑する

何度かやってみるが出来ている様子はなく、何も変化は無かった


「やはり使えぬか……チッ」


アヴァロンは悔しそうに舌打ちする

いや、舌打ちしたいのこっちなんだけどね?


「でも、なんか不思議な感じだな……なんだろ、この感覚」


シルトは数回素振りをしながらウンウンと唸っていた

その様子を見たアヴァロンがこんな事を呟く


「聞いてみるがいい、剣にな」


「は?」


意識はないって言ったじゃん、などと思うが、

喉に魚の骨が刺さったようなこの嫌な感覚を拭いたいシルトは、

言われた通り剣に問いかけてみた


「お前は何が欲しい」


その瞬間、剣を握っている手から体内に何かが流れるような感覚がし、

まるで体内を侵食されているような……それは恐怖でしかなかった


「ぐあっ……な、んだ、こいつ……」


しかし剣は離せなかった、手を開いてもくっつくようにそこにあり、

シルトと一体化しているようでもあった


「やめ……ろ…ッ」


刹那、体内の侵食はフッと消え、シルトの手から剣が落ちる


「ハァハァ……何なんだよ、ったく」


額に滲む嫌な汗を拭いながら悪態をつくが、

彼は気づいた……分かるのだ、何が必要か、どうすればいいのか


「……そういうことね」


「どうやら使えそうだな」


「あぁ、うん……まぁ、何とかなるかな」


神剣カレドヴールッハを拾い上げて眺める

安易に使っていい力ではない事は分かったが、

1度くらいは試しておいた方が今後ためになるかもしれないと思い、

シルトは意を決したように剣を構えた


「くれてやる」


彼がそう呟くと同時に剣が共鳴し、

放たれた一撃は空間そのものを両断する


剣の刀身部分が通った中空の景色が2つに分かれ、

黒い銀と紫の斑な空間が口を開く


「……」


シルトは黙って剣を鞘へと納めた

眼前にはこの世のものとは思えない空間が見えている、

これがどこへ繋がっているのかなど彼には分からないが、

ジーンが行った悪魔召喚の儀や、ラピが行う聖獣召喚の儀の、

開いた門の先……異世界とも言える"それ"に似ていた


「ほぅ、世界を斬ったか」


アヴァロンの一言で確信に変わる、

やはりこの開いた空間は"あちら側"と繋がっているようだ


「これ大丈夫なの?」


「すぐに世界の傷口は癒える……いや、修正されると言った方がいいか」


「修正? 誰に?」


「いいところに気がつくな、悪くない問いだ」


アヴァロンは関心するように2度頷き、

その行動が馬鹿にされているようでシルトには少し腹が立つ


「少し話をしてやろう……この世界の真実を」


「いや、待って、その前に1ついいか?」


初っ端から話の腰を折られ、

明らかに不愉快そうな表情になったアヴァロンは、

不機嫌なのを隠そうともせずに返す


「なんだ」


「これからお前はどうなるの、僕に従うとは言ったけど具体的には?」


「まず、その"お前"というのをやめろ、話はそれからだ」


面倒臭い奴と一瞬思うが、これから長い付き合いになる相棒だ、

ここで面倒に拍車をかけても意味がない


「分かった、アヴァロン……でいいか?」


「構わん」


「じゃあ、アヴァロン、これからどうするんだ?」


「何、貴様の中にいる事には変わりない

 時々だが力も貸してやろう、俺の力も無尽蔵ではないのでな」


思えばアヴァロンは魂のような存在だ

魂というものがどんなものか正確には分からないが、

不安定なものなのかも知れない、そうシルトは考えた


「身体を奪ったりはしないんだな?」


「それは貴様次第だ」


「ってか、その貴様ってのやめてくれない?

 僕はアンタを名前で呼ぶことにした、仮にも僕は勝者だぞ?」


ふむ、とアヴァロンは顎に手をあて考え込む

2~3秒の間を置いてから彼は口を開いた


「ならばシルトと呼ぶ事としよう」


「おっけー」


「シルト、貴様が腑抜けにならなければ従おう」


結局貴様って言うのかとも思ったが今はいい、

話が進まないことの方が面倒だ


「腑抜けってどういう基準で言ってるんだ?」


「そうだな、例えば貴様が生きることを諦めたりな」


「戦えってこと?」


「そうなるな、死に抗え、生にしがみつけ」


なるほど、基本的には今まで通りでいいという事になるのか

そこまで面倒な条件ではなさそうだな


「了解、それとこれは僕からの条件……

 二度と彼女たちに手を出すな、無抵抗の相手を勝手に殺すな」


「よかろう」


その答えはシルトにとっては少し意外だった

傍若無人とも言えるアヴァロンが何故ここまで従うのだろう?

その疑問が大きくなってゆく……

雰囲気で察したのかアヴァロンはその答えを口にする


「俺は貴様に敗北した、それは事実だ

 だが、俺は貴様に剣で負けた事以上に期待をしてしまったのだ」


「期待?」


「左様、貴様ならば……シルトならば勇者になれるのではないか、と」


憧れ、嫉妬、渇望、アヴァロンの表情からは複雑な感情が溢れている


「勇者ねぇ……よくわかんないな」


「今は分からなくともよい、だが忘れるな

 貴様の無謀とも言える勇気を、その答えを俺に見せてくれ」


「約束はできない、でも努力はするよ」


「それでいい」


アヴァロンは拳を突き出す、シルトはそれに自身の拳を合わせ、

2人の間に友情に近いものが芽吹き始めていた


シルトはアヴァロンの指示により常闇の外套を使い、

転移してヘヌの船の安置室……神の寝所バチカルを後にした


・・・・・


・・・



ラーズ首都へと戻ったシルトは、

ハーフブリードとどう合流したものかと考えていた


薄汚いローブを羽織っているためシルトという事に気づかれていないが、

ここは姿を晒して情報を手に入れるべきなのでは? とも考える

しかし、アヴァロンの一言でその考えは実行されなかった


・・いい事を教えてやろう


・・ん?


・・この街に貴様の仲間にとって重要な物が眠っている


仲間? ハーフブリードの誰かか?

アヴァロンほどの者が言う重要な物ってなんだ……

シルトは歩みを止め、路地に入って壁に背を預ける


・・どこにあるん


・・東だ


東……現在の位置が中央広場の南東辺りだから……スラム街か?

あんな場所に何があるっていうんだろう? と一瞬考えるが、

1つだけ思い当たる節があった


「キナイの店か」


思わず口から出てしまった

スラムで変わった物があるとしたらあの店くらいだろう

目的地がハッキリしたため、シルトは歩き出す


元々ここに住んでいた事もあり、スラムの迷路のような細道を難なく進み、

目的地であるキナイの店への最短ルートを進んでゆく


ゴロツキのような輩に睨まれたりもしたが、

奴らも馬鹿ではない、フードの中に見える1等級の顔を見紛うはずがない

即座に眼を逸らし、そそくさと逃げ出す……

これまでシルトがしてきた事を考えれば正しい反応だった


あっという間にキナイの店の前へと到着すると、

入り口を守っている大男が見覚えのある剣士を眼にし、

腰の鉈に手を伸ばしかけてから手を止める……正しい判断だ


・・ここでいいんだよね?


・・あぁ


まぁここしかないよな、とシルトが店を眺めていると、

大男が脂汗を流しながら声をかけてくる


「い……1等級が何の用だ」


「ちょっと欲しい物があってね」


「紹介状が無いなら入れるわけにはいかない」


精一杯の虚勢を張るが形だけだ、

大男はいつでも逃げ出せるようにしている


「押し通ってもいいんだけど」


シルトがそう言うと、大男は黙って道を譲り、

頭を掻きながらどこかへと行ってしまった


「あれで護衛になんのかね」


大男の背中を一瞥しながら店内へと入り、

店主……キナイが目を丸くしてシルトを見た


「やぁ、久しぶり」


「ま、またアンタか……今度はなんだ」


明らかにキナイには歓迎はされていない

警報用のベルを握り締め、こちらを睨みつけている

前回の事があったので仕方ないとも言えるが、

仮にもこちらは客だ、こんな態度を取られるのは納得がいかない


「接客がなってないんじゃないの、キナイさん」


「っ……すまない、いや、申し訳ありません」


そんな会話をしながら店内を見渡すが、

どれがアヴァロンの言う重要な物なのかはさっぱりだった

どれも怪しく見えてしまい、どれも違う気がしてしまう


・・で、どれなのよ


・・左奥にある本だ、鎖が巻いてあろう


・・あれか


シルトが手に取ったのは鎖の巻かれた分厚い本、

鎖を動かそうと引っ張ってみるがぴくりともしなかった


「白竜の憂鬱がご所望で?」


「白竜の憂鬱? なにそれ」


シルトが本を手にしながら言う


「え、その本ですが……」


あ、これか……と手にした本に目を移した

表紙にはよく分からない文字で何か書かれている

鎖が邪魔でよく見えないが、いくつも走り書きのようなものがあった

そのどれもが読めない文字で書かれており、

鎖の材質も何で出来ているのかすら分からないものだった


・・これがそんな重要なの?


・・アスタロトにとってはな


・・ジーンさんのか


「これいくら?」


シルトが本を見せるようにキナイに聞くと、

キナイは算盤を持ち出しパチパチと弾く……

彼が提示した額は300金貨という大金だった

バジリスクの瞳ですら200金貨だったのだ、かなりの高額だ


「ちょっと高すぎない?」


シルトはこの怪しい本がそんなにするとは思えなかった

それと、手持ちが少ないのだ、そんなに払えるわけがない


「チッ……これだからアンタらは相手にしたくないんだ」


キナイが舌打ちをしながら算盤を弾く……

彼が提示したのは230金貨、この額は出血大サービスだろう

それは分かっている、分かっているが、シルトには手持ちがない

今彼の財布には21金貨と銀貨と銅貨が少々しかないのだ

それでも一般人からしたら大金を持っている事にはなるのだが……


シルトが金が足りずに困っていると、突然アヴァロンの声がする


・・面白い事になっているぞ


・・いや、なんも面白くないから、金足りんし


・・そんなどうでもいい事を言っているのではない、

・・貴様の仲間達がピンチだぞ? このままでは確実に死ぬな


『はぁ!?』


突如シルトが大声を出したため、キナイは驚きのあまり算盤を落とす


・・どういう事だよ!


・・いいから急げ、間に合わなくなるぞ


・・くっそ


「キナイさんこれとっといて、絶対買うから」


「あ、あぁ、わかった」


本を置いて大慌てて店外へと走り出すシルトを目で追いながら、

また来るのかぁ……と肩を落とすキナイだった


・・・・・


・・・



「ここまでが魔剣と僕がコムラーヴェに来るまでの話」


長話になってしまったが、一段落はできた

サラから水をもらい、一口飲んでから皆を見渡す


「聖剣についてはアヴァロンから聞いた話だから、

 ここは本人に話してもらった方がいいかな?」


・・断る


「って、断られたわ……話すね」


アヴァロン、ヘヌの船、魔剣カレドヴールッハ、

どれもこれも伝説の中に出てくるようなものばかりだ


シルトの話は現実味が無いものが多かったが、

マルロの輪を断ち切り、その後ろにある山々さえも両断したあの剣、

あれを見ていなければ信じられない話だっただろう


「その前に1ついいかしら」


ジーンが片手を上げて聞いてくる


「白竜の憂鬱? 私の本って何?」


・・って聞かれてるけど


・・アスタロト、奴が後生大事に持っていた物だ


「アスタロトの本だって言ってるけど」


そのままを伝えると、ジーンは目を瞑り、アスタロトと対話する

しばらく沈黙が流れ、目を開いたジーンの雰囲気は変わっていた


《おい、アヴァロン、それをどこで見た»


全員の脳内に響く声で彼女がアスタロトだと理解する

その声には怒りに近い焦りのようなものを感じられた


「キナイの店にあったけど」


シルトがそう言うと、アスタロトは歯軋りをして睨む


「いや、僕を睨まれても……そんな大事なものなの?」


《……後で回収しに行くぞ》


そう言い残してアスタロトは消える

元に戻ったジーンが呆れたように肩をすくめ、

話の続きをする流れへと戻っていった


「聖剣フラガラッハについてだったね」


シルトが首をコキコキと鳴らしながら語り始める




この世を照らすもの、魔を滅ぼすもの、

絶対なる勝利を齎すもの、破壊の象徴……聖剣フラガラッハ

世界中のありとあらゆる剣の中で最強と謳われし剣


それは、悲しき1本の剣の物語


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