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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
42/72

5章 第18話 王の帰還 其の一

【王の帰還】其の一







オエングスとグゼフォンの戦闘が始まった頃、

シグトゥーナ村では大事件が起きていた


この平穏しか取り柄のない田舎に、

50名にもなる武装した者達が現れたのだ


シグトゥーナ村は農民しかいない村だ

商売をするにも客がいないため、自給自足の生活を送っている

必要なものがある場合は物々交換が主なのだ

領主であるヴァンレン家に収める税も麦や根野菜などの農作物である


ヴァンレン家当主ダン・ドンナー・ヴァンレンは、

それらの農作物を備蓄し、一部は大きな街に売りに行っている

売上金は村を魔物から守るための柵を設置したり、

井戸を直したりと、村のために使っていた

そのため、ヴァンレン家はお世辞にも裕福とは言えない


領主ですらそれなのだ

こんな貧しい村を襲うものなど魔物以外に存在しない

魔物にとっては人間は食料になるため稀に襲うこともあるが、

人間にとっては村を襲うリスクの方が遥かに上なのである


そんな平穏な村に、50名もの武装した男たちが現れた

シグトゥーナ村始まって以来の大事件と言えるだろう


・・・・・


・・・



村の入り口で農作業を終えて一息ついていた老夫婦がいた

夫の名はロドリエゴ、妻の名はアーシャノという

60歳を過ぎた夫婦だが、仲は良く、現役で働く元気な夫婦だ


ロドリエゴは妻が作ってくれた果実水を飲み干し、

まだ肌寒さが残る春先の風で火照った身体を冷ましていた


「さすがに歳だなぁ、そこら中ガタが来てやがる」


そう言いながら右肩を回して調子を確かめていると


「何言ってんだい、アンタにはもっと働いてもらわなくちゃね」


妻は彼の背中を勢いよく叩いて笑顔を向ける


「かっかっか! こんババァはオレを殺す気だな!」


独特な(なま)りがある喋り方で老夫婦は談笑していた

もうひと仕事やったら帰るかと老体に鞭を打って立ち上がると、

村の外からぞろぞろと陰気臭い連中が来るのが視界に入る


「バァさん、鐘鳴らしな」


夫から陽気な雰囲気は消え、数年ぶりに聞いた低い声だった

その声で妻は察し、小走りで自分の家の庭先へと向かう


この夫婦の家は村の入り口に一番近いところにあり、

その庭先には金槌と金属の板が設置されている

緊急時用の警鐘というわけだ


妻アーシャノは鐘を叩く、

握っている金槌を落としてしまいそうになるほど力強く

その音はシグトゥーナ村の隅々にまで響き渡った

村人、総勢60名が一斉に動き出し、

穏やかで静かだった村は一気に慌ただしくなってゆく……


各々が普段使っている農具を手に持ち、

村の中心にある三叉路へと集まり、隊列を組み始める

年寄りを後ろへ、若者を前へと並べ、

最後尾の老齢の女性達は拳ほどの石を布で包んでいた


ただの村人が何故こうも統率の取れた動きが出来るか、

それは過去にシグトゥーナ村は魔物に襲われたことがあるためだ

その魔物襲撃事件以降、彼らは定期的に訓練をしている

弱者は弱者なりに生きる術を学んだのだ


そこへエインの兄でありヴァンレン家当主であるダン、

妹のフノッサ、父であるヴォーダン、母メノッサ、

そして、少年王イーリアスも合流する


イーリアスは白いローブを着込んでおり、

顔の下半分を白いマスクで隠していた


村人にイーリアスの正体は教えていないが、

彼の放つ高貴な雰囲気と、開戦前に現れたというタイミングで、

大半の者は彼が重要人物なのだろうと察している


だから今回の鐘の音からの行動がスムーズにいったのだ

彼らはこの事態を予期していたのである


「イース君は家にいてくれて構わないよ」


ダンがそう言うが、イーリアスは首を横に振る

彼なりに責任を感じているのだろう


正直、王を守り切る自信が無いから言ったのだが、

彼は幼いながらも王だ、その意志は変えられない


「フノッサ、イース君を頼むぞ」


「はい……イース…さん、わたしの後ろへ」


華奢な少女が自分の盾になろうと身を挺している

これほど情けない事があるだろうか

仮にも自分は王であり、それ以前に男なのだ


「いえ、これでも少しは魔法の心得があります

 心配は無用、自分の身は自分で守れますので……」


そうは言うが、イーリアスの魔法は下級である

幼い日に王という立場になり、様々な役目を与えられ、

それらを必死にこなす日々で精一杯であり、

魔法の勉強など大して出来ていないのだ


王家で魔法の才を持つものが珍しいのもある

そのため、王の日常に魔法を学ぶ時間的余裕など無いのだ


彼の使える魔法は水の魔法下級6章まで

それは生活の中で使えたら便利程度のものばかりで、

戦闘に使えるか? と言われると難しいとしか答えられないものだ


唯一攻撃力がありそうと言えば下級5章の水の魔法、

ペーパーナイフ程度の切れ味の刃を作り出す魔法だ

一応だが、それを飛ばす事も可能である


「ワガママを言わないでください」


イーリアスがフノッサの横に並ぼうとした時、

彼女の手がそれを制し、振り向かずに彼女は言う


「ハッキリと申し上げます……邪魔です」


その一言は今のイーリアスにとって一番痛い言葉だった

母に命を狙われ、配下が命をかけて自分を逃し、

大勢に助けられながらここまで辿り着き、

更にこの穏やかな村にまで迷惑が……そう感じていたからだ


「しかし、私にも魔法が」


「無理です! わたしは貴方を守りながら戦えません!

 でも、貴方がピンチになれば守らねばなりません

 それは命に変えてもです、絶対です」


フノッサの意志は硬く、その言葉は正しいものだった

イーリアスはフノッサの評価を数段上げることにする

だが、イーリアスは少しだけ勘違いしていた


「子供のワガママごときで、

 愛しのエイン兄さまとの約束を邪魔されてなるものですか

 もしこの大役を見事こなしてみせれば……ふふふ、うふふ」


小声でそう付け足されていたのを兄であるダンは聞き逃さなかった

妹の特殊な恋心をどうこう言うつもりはないが、

陛下に聞こえないよう気をつけろよと心の中で願うのだった


少女の内に秘める想いなど知らぬ少年王は、

彼女の言うことを聞くことにし、最後尾でフードを深くかぶり直す


「母上、期待しても?」


ダンはチラリと母を見ながら言うと、

母は以前までとは全く別人のような笑顔で答えた


「えぇ、あの子が家族を頼ってくれたのです

 母として、家族として、全力で応えねばなりません」


現状、シグトゥーナ村で最強と言えるのは母メノッサだ

死の巫女の究極魔法でメノッサが救われて以降、

彼女の体調は驚異的なスピードで回復し、

今では畑仕事すら手伝うほどである


そんな母の横で、父が心配そうな顔をして言う


「あまり無理はするなよ」


「ありがとう、大丈夫よ、あなた

 私は嬉しいの、エインの役に立てるのだもの、少しは頑張らなくちゃ」


そう言って、無い力こぶを見せ、メノッサは微笑む

彼女の笑顔は出会った頃のそれで、

ヴォーダンは神に、死の巫女に再び感謝する


最後にロドリエゴとアーシャノの老夫婦が合流し、

シグトゥーナ村の全員がこの場に集結した


しばらくすると、武装した男たちの姿が見え、

奴等の鎧からドラスリア兵ということが分かった

おそらく戦場から逃げた脱走兵の類だろう


それはすなわち、ラシュフォード軍が優勢ということである


イーリアスはその僅かな希望を胸に、

眼前に迫る驚異をどう切り抜けるかを考えていた


領主であるダンが片足を引きずりながら前へと出て、

奴等に聞こえるように大声で言う


『そこで止まれ!』



その一言でドラスリア兵の足は止まり、

奴等はひそひそと話し始める……そして、1人の兵が前へと出た


「我らはドラスリア軍である、貴殿は何者だ」


予想していたものと違う返答に少し戸惑うが、

ダンは警戒を緩めずに続ける


「俺はヴァンレン家が当主、ダン・ドンナー・ヴァンレンだ

 ここは我が領土、シグトゥーナ村

 ドラスリア軍がこんな辺鄙(へんぴ)な村に何用か」


ダンがそう言うと、兵士は彼の義足を見てニヤける


「何、少々税を取り立てにな

 今は戦時中のため、この村からも徴税する」


ニヤニヤと笑う兵士に、

後ろにいる50の兵士たちも笑い始める


「知ってのことかは分からぬが、

 我がヴァンレン家はラシュフォード家の傘下、

 その意味が分からぬお前らでもなかろう……?」


ヴァンレン家は直接的にはラシュフォード家と関係はない

エインとミラが個人的に仲が良いというだけなのだ

今回イーリアスを預ける先をヴァンレン家に選んだのも、

傘下の家ではない、辺境の地にあるこの家が都合が良かったのである


ダンのこのハッタリに兵士達から僅かに動揺の色が伺える


「待て待て、領主殿

 貴殿こそ勘違いしてはいないか?」


「む?」


「今、我らドラスリア軍が戦争している相手は、

 ラシュフォード三姉妹であり、ラシュフォード家ではない」


そう、この戦争にラシュフォード家は介入していない

ただの名目上のものなのだが、

家とは関係なく三姉妹が国に戦争を仕掛けたという事になっているのだ


「よって、税を収める義務があるのだよ」


そうだそうだ!と後ろの兵士たちから野次が飛び、

ダンが一瞬睨むとその声は止む


挿絵(By みてみん)


「見ての通り貧しい村だ、税を払う余裕がない」


「穀物の類くらいはあるだろう?」


兵士は辺りの建物を見渡し、貯蔵庫を探す


「無理だ、それが無くてはこの村は生きていけない」


今度はシグトゥーナの村人達がそうだそうだ!と野次を飛ばす

だが、それをダンが手で制し、彼は続けた


「これ以上の話し合いは無駄だ

 村にこれ以上の税を払う余裕はない、お引取りいただこう」


ダンがそう言うと同時に、彼の義足は兵士によって蹴られる

義足がズレ、バランスを崩したダンはその場に倒れてしまった


「ぐっ……」


倒れるダンの顔を踏みつけ、兵士はこう言った


「バァ~~カッ、お前らの都合なんて関係ねぇんだよっ!」


兵士はペッと唾を吐きかけ、再び義足を蹴飛ばす

ダンの右足から義足が外れて転がっていった


顔を踏まれているため顔を上げる事が出来ず、

口の中に砂が入るが、ダンは叫ぶ


『頼みます! 母上ッ!』


ダンの叫びが村中に響き渡り、

彼の馬鹿のように大きな声に驚いた兵士たちは止まっていた


「水刃、風刃」


やつれ気味の40は過ぎている美しい女性が、

そう呟きながら左右の手を時間差で振る

すると、半月状の水の刃と、見えない風の刃が兵士3人を切り裂く


「がっ…ふっ」


突如、血を吹き出して倒れる仲間を見た兵士達はパニックになる

それもそうだ、今魔法を使った者……メノッサの詠唱は短すぎる

そして、2つの属性を同時に放ったのだ

威力こそ大したことはないが、十分に殺傷力はあった


「私はメノッサ・ソール・ヴァンレン

 ……おとなしく引いてくださるかしら?」


母は長い間心の病で床に伏せていたが、

それ以前は、魔法の申し子とまで言われた魔法使いである


これが以前メノッサが襲われた理由でもある

邪神エウアの信徒達は魔法の申し子であるメノッサを器に、

邪神復活を目論んだのである


「おい、あれって……まさか……」


「オレは小さい頃に見た、間違いねぇ、ハヴァの魔女だ」


倒れた3人の兵士は、鎖帷子(くさりかたびら)が裂け、

深手とまではいかないが傷を負っている

威力からして中級の魔法だろう


2つの中級魔法を同時に使う者ならば、

数こそ少ないがいなくはない

だが、2つの属性を使う者となると話は別だ


魔法とは本来1つの属性しか使えない

アーティファクトを使用するという例外はあるが、

複数の属性が使えるのは下級の初歩的なものに限るのだ


だが、メノッサは2属性の中級魔法を使った

それが可能な者は、アーティファクト所持者以外で、

彼女、魔法の申し子……別名ハヴァの魔女、その人しかいない


・・・・・


・・・



30年ほど前のことである

ドラスリア王国内にあるハヴァという地に1人の少女がいた


ハヴァは交易の中間地点にある町として栄えており、

各地から人々が訪れるため、旅の疲れを取る宿が多く存在している


そんなハヴァは外者が多いせいか治安はあまり良くなく、

毎日のように殺人や窃盗や強姦の話が流れていた

だが、カナランとの中間地点なのもあり、

訪れる人々は絶え間なくやってくる


この町の中心から少し外れた位置にある宿「巨人の添え木」

亭主である大男と、病弱だが美しい妻、

明るく元気な娘の3人家族で経営していた


しかし、この娘には少々問題があり、

周りや家族からは気味悪がられていた……


少女は声が聞こえると言うのだ

その声は何を言っているか分からないが、

六人の声がするのだという


誰も少女の言葉は信じず、子供の戯言だと流していた

だが、それは少女が成長しても変わらず、

この娘は頭がおかしいのだと皆が思っていた


そんなある日……


他所から来た見るからに荒っぽい連中が"巨人の添え木"を訪れる

それ自体は普通のことなので、すぐに部屋を用意し、

少女……メノッサ・プルトゥーノは6人の客を部屋まで案内する


10代半ばになるメノッサは母に似て美しく、

頭のおかしいところを抜かせば人気があった


細く美しい髪、透き通る青い瞳、整った顔立ち、白い肌、

スラッと伸びる手足、控え目だが確かな膨らみ……

服装こそ貧しい家のそれだが、気品すら感じる美しさがあった


一見客である男たちからは評判が良く、

何度か求婚を迫られた事すらあるほどだ


8人が泊まれるこの宿で唯一の大部屋へと案内し、

6人の客達はメノッサをジロジロと見ながらニタついている


「何か御用があればお呼びください、失礼します」


そう言って部屋を出ようとした時、

彼女の白く細く長い腕が掴まれる


「用事ならあるぜ、嬢ちゃん」


「は、はい、なんでしょうか」


男の口はドブのような強烈な悪臭で、

メノッサは思わず鼻で呼吸することをやめた


振り向いたメノッサはすぐに気づく

男が下半身を露出し、汚い笑みを浮かべていることを


「うちはそういうのやってないので、ごめんなさい」


何とか腕を振りほどき、逃げようとするが、

一人が入り口のドアを勢いよく閉める


「噂通りの上玉だな、売っ払う前に楽しもうぜ」


一人がそう言い、メノッサは全てを理解した

こいつらの目的は自分で、今から犯され、売られるのだと……


『いやぁぁぁぁっ! 父さん助けてっ!』


目一杯叫ぶが、父が来る様子は無かった

そこで彼女は気づいてしまった

最近は新しい宿が増え、経営が難しくなっていたこと、

今日の両親は妙に優しく、不自然だったことを……


そっか……わたしは売られたんだ……


全てを理解し、全てを諦めた

少女の力では男の力に抗えるわけもなく、

相手は6人もいて逃げる事は不可能に近い

そして、助けは……来ない


「お? 随分大人しいじゃねぇか、張り合いがねぇな」


「どうでもいい、ひん剥け」


男たちの手が彼女の柔肌に伸びてゆく

この時、メノッサは声が聞こえていた……


……まだ……


……使命を……


…………抗え…


…神々の……


……なさい……


いつもよりハッキリと聞こえたが、

まだ何を言いたいのか分からない

だが、その声で彼女は救われた気がした


「この声は…………神さまの声なんだ」


メノッサがそんな事を呟きながら微笑み、

男たちの手は止まり、一歩後ずさる


「なんだ? キレちまったか?」


「おい、キ(じるし)は売り物になるのか?」


メノッサの意味の分からぬ言動に、

男たちは気でも触れたのか? と話していた


「はい、神さま、わたしは生きます」


少女が完全に気が触れたと男たちが思った時、

彼女は掴まれていない方の手で、

腕を掴む口の臭い男の頬を撫でる


「霧散」


刹那、男の頬肉と顎骨がエグれ、

ごぼっごぼっと血を流して前のめりに倒れ込む


「な、何しやがったっ!!」


「こいつ、魔法使いかっ!?」


男たちは慌てて武器を手にして構えるが、

少女は膝をついて祈りを捧げていた


『殺っちまえ!』


その叫び声が響いて以降、

しばらく部屋からドタバタと音が響き、やがて静かになる


"巨人の添え木"の亭主、メノッサの父は恐る恐る部屋に近づき、

聞き耳を立てて様子を伺っていた……


すると、キィィというドアの鳴る音がし、

部屋の中央で血まみれの娘……メノッサが片膝をついて祈っていた


周りには無残な姿となった男たちがおり、

1人は火だるまになっており、1人は水浸しに、

1人はバラバラに、1人は押し潰されており、

1人は目や鼻や口から血が流れ、1人は顎が無かった


恐怖した父親はすぐにドラスリア軍に連絡し、

派遣された部隊を仕切っていたのが、

当時のヴァンレン家当主ヴォーダン・ドンナー・ヴァンレンである


兵達が到着するまで部屋には誰も入っておらず、

メノッサもまた部屋から出ようとはしなかった


ヴォーダンが扉を開けると、

そこには黒く変色した血まみれの少女が片膝をついて祈っていた


「君、立てるかい?」


ヴォーダンの優しい声が室内に響き、

メノッサは虚ろな目で彼を見た


「安心してくれ、私は君に危害を加えない」


そう言って手を差し伸べる彼を、

彼女はぼーっとした表情で眺めている


「もう大丈夫だよ……さぁ、ほら」


彼は更に手を伸ばす

そして、彼女は恐る恐る彼の手を取り、

自分の有り様と、周りにある腐りかけた死体に気づく


「いやっ……いやぁぁぁぁぁっ!!」


突然取り乱した彼女は彼の手を振りほどく

しかし、ヴォーダンは彼女を強く抱き締めて離さなかった


「大丈夫、大丈夫だ、もう大丈夫だ」


彼のお日様のような匂いと、優しい声に癒やされ、

メノッサは気を失った……


これが"ハヴァの魔女事件"である


町中大騒ぎになり、その噂は他国まで広まるが、

次第にその話題も出なくなった頃、検死結果が発表された


普通であれば検死結果など発表はされない

だが、この事件は異例中の異例だったため、

カナランにある六神教の総本山、教会が発表を決めたのだ


その結果を聞いて、人々はざわついた


6人の男たちはそれぞれ別の属性の魔法で殺害されていたのだ

そして、人を殺害するには中級以上の魔法でないと難しい


これがメノッサが"ハヴァの魔女"と呼ばれた原因であり、

"魔法の申し子"と呼ばれる理由でもある


彼女は6属性全ての中級魔法を使えるのだ


一人の人間が複数の属性を使えることは異例であり、

ドラスリアも彼女の扱いに困っていた

そこへ手を差し伸べたのがカナラン……教会だ

教会は彼女を神に愛されし子として保護すると言い出したのだ


だが、ドラスリアも黙って渡す訳にはいかず、

6人殺害の罪を免除し、彼女をドラスリアにある六神修道院に入れた


6属性使えるとは言え、彼女は中級までしか使う事は出来ず、

戦力で言えば1属性の上級魔法を使う者には勝てない

そのため、利用価値が無いと判断し、ドラスリアは放置したのだ


彼女を保護したヴォーダンは、暇さえあれば彼女の元を訪れ、

次第に心を開いたメノッサはいつしか彼を愛していた

こうして二人は夫婦となったのである


・・・・・


・・・



「その名も懐かしいですね……

 ですが、知っているなら話は早いです

 どうか引いていただけないでしょうか?」


メノッサは火と水を両手に発生させながら優しい口調で言う

やつれているせいか若い頃ほどの美しさは無いが、

まだその美貌は衰えておらず、長く綺麗な金髪が風に揺れる


ドラスリア兵たちは怒鳴り声で言い争いを始めた


「聞いてねぇぞ、こんなのがいるなんてっ!」


「オレは降りる、割に合わん」


「は!? ふざけんな、逃げんじゃねーよ!」


混乱するドラスリア兵を、農具を構えて臨戦態勢で待つ

ここで一気に攻めた方がいいのだろうが、

無益な殺生はしたくはない……必ずこちらにも被害が出るからだ

引いてくれるならそれに越したことはないのである


なかなか話し合いが終わらず、

しびれを切らしたある男が前へと出る


『聞きなさい!』


男の名は……イーリアス・ベル・ドラスリア


『あなた達は王国兵なのでしょう?

 こんな盗賊まがいの事は即刻やめなさい!』


少年王は許せなかったのだ

自国の兵が法を、民を蔑ろにする姿が……

熱くなったイーリアスは思わずマスクに手をかけてしまう


『誇り高きドラスリア国民として恥ずかしくないのですか!』


義足を装着しなおしたダンが慌てて止めに入るが、

時すでに遅し……


「おい……あれって、陛下じゃね?」


その一言でドラスリア兵達の空気がガラッと変わる


「おいおい、マジかよ」


ダンが彼を隠すように前に立つが、もはや無意味だ


そして、運が悪かったと言えるだろう

彼等ドラスリア軍の中には王太后エレナ直属の部隊がいる

その部隊だけにはある命令が下されていた


イーリアスを発見し拘束すること

拘束が難しい場合は殺害でも構わない

拘束した場合は……


「オレたちツイてるな」


「これで大金持ちだ」


ドラスリア兵たちは抜剣し、一気に空気は重くなる

殺気が辺りを埋め尽くし、死の匂いが充満する

村人60名と、ドラスリア軍50名の戦が始まろうとしていた




これは、英雄などいない、弱者たちの戦い




体調不良が続いていますが、ゆっくり書いてます。

よかったら気長に待ってくれると助かります。


宣伝用に描いたものをペタリ。

「生命の樹とエイン、死の樹とシルト」

挿絵(By みてみん)

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