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 純真無垢とはなんとも便利な言葉を出してきた。

 無知も怠惰も無礼さも、全てをそれで片を付ける。

 何も持たぬまま、所属していた世界からこの世界に呼び寄せられたと恐れるなら、耳をそばだて聴き学べば良いものを、ただぬくぬくと甘受する者を私は尊き人と呼べない。


 「それはなんとお気の毒な。疑心暗鬼に捕らわれ苦しまれる余りの御言葉でしたか」


 閉じた扇を握り締め震えてみせる。

 三文芝居に付き合ってやろう。


 「もしや、王はそんな神子様を支えるのに専念しようと、私との婚約を…」


 ここが落としどころか、諸国に王宮内の確執を知れ渡るのは、まだ先延ばし出来る。

 己の負う使命の重さに押し潰されんと抗う神子に、支えようと寄り添う余り自らの婚姻さえも躊躇う誠実にして不器用な王。

 下町の劇場で、ドーランを塗りたくった役者が演じるべき安い話だが仕方がない。

 今は表面的に繕っておけばいい。

 ラウドは悔しげに顔を背けている。

 今は私に話を合わせるしかあるまい。

 小娘の口を縫い付けておかないお前が悪い。


 ほとぼりが冷めたと思ったのか神子がそろりとラウドの背後から顔をのぞかせた。


 「えっ……なに?」


 己の周りに漂う光の粒に戸惑いの声を上げる神子。


 「ヒナ様!」

 「ヒナ!」

 「キャー!」

 粒は溢れ渦巻き、神子を取り巻く。

 

 その渦を飛び散らしたのは小さな炎の玉だった。

 炎の玉が光の流れを乱すと、光は徐々に白い幾つもの固まりに変化していった。

 やがてそれは黒ずみボトリボトリと神子の足下に落ちた。


 「私の館で今が盛りと咲き誇るフィルタ公爵家の白薔薇、神子様の慰めになればと我が魔力で転移させたのですが……」


 剣を抜いたまま呆然と立つラウドと青ざめへたり込んだ神子。

 二人の側に立つ、先程まで居なかったローブ姿の男に微笑んでやる。


 「門外不出の花を焼き払うとは、東の塔・赤のシュアス殿も無粋な事を…」


 焼け焦げた花びらを踏みしめ、男は黙って頭の下げた。

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