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 思わず口元に浮かんだ苦笑を扇で隠し神子を見詰ると、神子は先ほどの威勢は何処へやら、顔を青ざめさせ後退った。

 私の紫紺の瞳の冷たい光は、他者を怯えさせるらしい。


 「私が神子様の御命を狙った?」


 水を打ったように静まり返った王の間に、私の声だけが響く。

 これから私を糾するのかと思えば、神子はこれ以上私に立ち向かう勇気は無いらしく、ラウドの背後に逃げ込んだ。


 「随分と恐ろしい嫌疑がかけられているのですね。それはぜひ私の無実を晴らさねば。ぜひ私がその様な、神への反逆にも等しい大罪を犯した証拠をお見せ下さい。この命に代えましても身の潔白を示して見せます」


 ラウドの躰で隠れて神子の顔は見えないが、苦虫を噛み潰したがごときラウドの表情を見れば明らかな証拠など何も持ってはいないのが判る。

 残念ながら神子の暗殺は未だに成功してはいないが、むざむざと証拠を掴ませるほど間抜けな犬は飼ってはいない。


 誰もが息を殺して成り行きを見守っている。

 当たり前だ、この私女公爵ベルナデット・ネスタ・フィルタに証拠も無く、神子暗殺の嫌疑をかけたのだ。

 世間知らずの少女の失言では済まされない。


 「どうか私にかけらた疑いを晴らす機会をお与え下さい」


 努めて優しげに神子を追い詰める。

 余りに馬鹿馬鹿しい成り行きだが、神子の未熟さを露見させる一幕に利用させて貰おう。


 「フィルタ卿、どうか今日の所はそれぐらいで神子を許して差し上げて下さい」


 胡散臭さの漂う微笑みを浮かべて割って入ってきたのは、宰相を務めるオーギュスト・セネガルだった。

 

 「この所続く不幸な事故に、幼子のごとき純真無垢な神子様は、お心を痛め混乱しておられる。まるで神子様を狙ったかのごとく起こるそれから、神子様を護らんと身を投げ出し、哀れにも命を落とした下々の者達の為に、嘆き悲しむ日々を過ごされておられますゆえ」


 笑い出しそうになるのを耐える。

 私の耳に届いた報告とは随分と違う。

 取り乱し幼児のごとく泣き喚いた後はケロリと立ち直り、ラウドに終始絡みつき、政務の邪魔までも平気で続けているそうだが?

 この小娘を遣わした神に、犠牲者の魂の救いを祈ったのかさえ疑わしい。

 失われた命を惜しむより先に、その忠義に見合った金子を遺族達に渡してはどうだ?

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