Ⅱ
「お前は始めから反対していたなベルナデット」
「ええ」
か弱き淑女の仮面を剥がし、臆すること無く王を見返し、肯定すると皆が動揺しざわめく。
白々しいことだ。
私が反対していたなど知っている癖に。
公爵位をもつ権力者にして婚約者の立場上、声高に反対を唱えはしなかったが、降って湧いた余りに都合のいい話に警鐘を鳴らした。
当初、安易な召還に反対する私と強行に推し進める王のどちらに着くべきか計りかね静観していた者達は、手軽な夢に飛び付く支持者達の声が膨れ上がるのを察すると素速く王に従った。
そして万策を尽くして妨害する私の手をかい潜り、この目の前にいる少女を召還してしまった。
黒髪に黒い瞳。
年齢に似合わぬ幼い仕草。
保護欲を煽る頼りなさが、権力を持ちながらもそれに相応しい成熟した自我を保てない者達の支持を集めてしまった。
“脆弱な自分が守った少女が世界を救う。”
ラウドは眉間の皺を増やしながら己にしがみつく少女を庇うよう抱き寄せた。
歪んだ虚栄心を満足させる甘美な存在に、愚か者共こそがすがりついている。
王の器では無いとは思ってはいたが、まさかこれほどとは…諸国の大使までもが居合わせるこの王の間で色恋とは。
庭園の東屋でも行けばよいものを。
それ程までに守れると見せ付けねばならぬのか。 私は溜め息を飲み込み、殊更に上品な所作を心掛ける。
この場にいる全ての者共が私の反応に耳をそばだてている。
一瞬たりとも隙を見せる訳にはいかない。
婚約破棄を告げられた程度で取り乱すなど、どこぞの箱入り娘でもあるまいに。
女公爵が泣き喚くと下世話な期待をしていたのなら残念ながら応えられぬ。
自分は寵愛を失った愛妾では無い。
広大なフィルタの地を治める公爵家の当主なのだから。




