157話 守護魔物
「おらおら! どきなさい雑魚ども!」
立ちはだかる魔物をデスサイズで斬り裂き、魔法で殲滅しながら古城内部を突き進む。
頂上にたどり着き、ダンジョンコアを手に入れ魔物の暴走を止めるために。
「ふう……だいぶ上まで登ってきたかしらね?」
ふと立ち止まり、古城の大きな窓から外を見てみる。
空には夜のような闇夜が広がり、数多くのレイスが空を漂っている。
地上を見下ろすと、通ってきた廃墟の町並みが大きく広がり、黒スケルトンとかの魔物が豆粒のように小さく見えた。
やっぱり相当高く登ってきたようだ。
ダンジョンコアも近いかもしれない。
「もう少しってところかしらね……それにしても……」
あたしはダンジョン攻略を楽しんでただけだったのに、いつの間にか町の命運をかけて戦うことになった。
こういう展開は主人公っぽくてワクワクするし、実際ノリノリだったけど……もう、そんな気分はなくなっていた。
「……」
静かに後ろを振り返る。
エレン、ミラ、マルタ。
ここに来るまでに分かれたあたしの仲間たち。
三人の運命も今、あたしにかかっている。
そう思うと体に緊張が走り、胸がドキドキし始める。
「ふ、あたしったら何を不安に思ってるのかしら? らしくないわね」
思わず可笑しくなり、自分で自分を笑う。
なにを不安に思うことがある。
あたしは最強だ、だれにも負けない。
このまま立ちはだかるやつを全員なぎ倒し、ダンジョンコアをゲットするだけ。
「クックック、あたしがドヤ顔でダンジョンコアを持ち帰ったらどんな反応をするか、今から楽しみだわ」
ヴェインの住人からはきっと英雄として崇められるに違いない。
ミラとマルタも感動して泣くだろう。
あの生意気なエレンだってきっと……。
「アルテナ、あなたの事を誤解していたわ。こんなにすごくてかっこいい女神だったのね。」
「ふ、ようやくわかったのね。ま、あたしは寛大だから特別に許してあげるわ」
「許してくれてありがとう。アルテナ……いえ、アルテナ様。これからは従者としてあなたに尽くすことを誓います」
「よし、手始めにあたしの靴を舐めなさい」
「はい、アルテナ様」
って感じであたしにひざまずくに決まってるわ。
「クックック……あーっはっはっは! みんな待ってなさい! あたしの凱旋をね!」
不安が完全にワクワクへと変わったあたしはこみ上げる笑いを抑えきれず、高笑いしながら再び走り出す。
魔物を蹴散らし、古城を進むと、ものものしい階段がある部屋にたどり着く。
階段の先にはブルーオーガやラディアドレイクですら楽に通れるほどの巨大な門があって、この先に何かがあることを物語っていた。
「ダンジョンコアはきっとこの門の先ね」
遂にダンジョンの終点へとたどり着いた。
けれど、感傷に浸る暇はない。
早く魔物の暴走を止めないといけないし、ついでに後ろから倒し損ねた魔物も近づいている。
さっさと終わらせようと階段に足をかけた瞬間だった。
『グォォォォォォ……!!!!』
「っ!?」
思わず背筋が凍るようなとても低く、それでいて重厚な声とプレッシャーが門の奥から押し寄せてくる。
それと同時に、門の隙間から青白い霧が、まるで生き物のように不気味にうねりながら、あたしの足元を這うように通り過ぎる。
「……そう簡単にはいかなそうね」
あたしを追ってきた魔物は、その声とプレッシャーに怯え、逃げ出してしまう。
間違いない、この先にいるのはきっとマルタが言っていた、ダンジョンコアを守る守護魔物ね。
「ふ、これくらいでビビるもんですか」
むしろ望むところ。
ゴクリと喉を鳴らし、一歩ずつゆっくり、着実に階段を上る。
そして階段を登り切ったあたしは門の前に立ち、足を上げ……。
「ふんっ!」
正面から力強く門を蹴り、バン! 門を強引に開け放ち、部屋の中に入る。
「ここは……」
大きな部屋のあちこちは崩れ、壁には空が見えるほどの亀裂が存在した。
天井は高く、床にはあちこち破れた赤い絨毯が敷かれ、その左右には青い炎が付いた蝋燭台がある。
そして、数段の段差の上に立派な玉座があった。
間違いない、ここは玉座の間を模した部屋だろう。
けれど、それよりも目を引くものが玉座の上に存在した。
「これが……ダンジョンコア?」
玉座から十メートルほどの高い位置。
そこには淡い光を放つ大きなクリスタルが浮いていた。
球体でも箱でもない、平たい面を多く持つ、人工物めいた形をしている。
「間違いないわね……でも……」
ちょっとおかしい。
魔物の暴走が起きた時、壁の亀裂から見えるほど強烈な光を発していたのに、今は薄暗く部屋を照らすほどにしか光っていない。
それによく見ると、クリスタルの一部分にまるで傷をつけられたかのようなヒビが入っている。
「いったいなにが……」
『グォォォォォォ……!!!!』
門の外で感じた強烈なプレッシャーと声が再びあたしを襲う。
同時に部屋の門が自動的に閉まり、青白い鎖のようなものが門を封鎖する。
「現れたわね……!」
デスサイズを構えた直後、玉座の前から部屋全体を覆いつくすほどの巨大な黒い霧が噴き出す。
エロ骸骨の時と同じ。
だけど……スケールが全然違う。
『我が領域に……踏み込む貴様は……ナニモノダ……』
耳よりも頭に直接語り掛けるような異質な声が響き渡る。
この程度で怯むわけにはいかない。
不敵な笑みを浮かべ、名乗りを上げる。
「クックック。よく聞きなさい! 我が名はアルテナ! あんたを倒し、このダンジョンを制覇するものよ! さっさとその姿を現しなさい!」
『……イイダロウ』
守護魔物がそう答えると霧が渦を巻き、その中心で何か巨大なものが軋む音が響く。
「あ、あんたは……まさか……!?」
霧が晴れ、そこにあったのは……山のように巨大な骨の塊。
そいつはゆっくりと四足の足で起き上がると、骨の翼に青白い炎を纏わせながら大きく広げる。
そして大きな眼孔にも炎が宿ると、骨の口を動かしこう言った。
『我は不死のドラゴン……ネクロザルム。ダンジョンコアを守る守護者なり……』
「ネクロ……ザルム……!」
ドラゴン……生態系の頂点に立つ最強の魔物……!
想像もしなかった強敵出現に、あたしの胸は高鳴った。




