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152話 ヴェインの戦い③

「ヴェルミナおばさんだって!?」


 ラディアドレイクの口を爆破し、アタシ達を守ってくれたのは昔からこの町に住むダークエルフのヴェルミナおばさんだった。

 

「ふふ、このぴちぴちのボディに驚いたか?」


 あたしの前でセクシーなポーズをとる。

 ヴェルミナおばさんの服はチェニックとスカートだから露出部分が多く、絶望的に胸がないこと以外完璧な美貌がより際立って見えた。


「いや、痩せた後に一回会ってるだろ。驚いたのは強さのほうさ」


 改めて見ても胸以外は絶世の美女だ。

 呪いのせいで少し前までとんでもなく太っていたが、エレンが呪いを解いたおかげで元に戻れたと聞いている。

 

「そういやそうだったね。でも驚くほどの事じゃない。火薬を仕込んだ矢を口に入れてやっただけさ。私も昔は冒険者だったからね。久々に弓をとったが……衰えてないようで安心したよ」


 おばさんも昔は冒険者だったのか?

 子供のころにそんな話聞いたような気が……。

 

『ギャォォォォ!!』

「ってそんな話してる場合じゃねぇな!」


 ラディアドレイクが怒りながら起き上がる。

 口を爆破されたんだ。

 そりゃキレて当然だろう。


「おうおう、怒ってるようだね」

「のんびり観察してる暇じゃねぇだろおばさん!」

「おばさん呼びは止めな! 心配いらないよ。さっき矢に仕込んでいたのは火薬だけじゃない。見な」


 ラディアドレイクが咆哮を上げながら突進してくる。

 アタシ達は迎え撃つため構えるが……。


「ん?」


 ラディアドレイクが何秒たってもこちらにたどり着かない。

 まるであいつがその場走りをしているような感覚に陥るが、違う。

 奴がどんどん小さくなっていってるんだ。


「やつには特別強力な『縮小化』の呪いをかけた。もう奴は何も出来やしないさ」

「なんだって!?」


 ヴェルミナおばさんの言った通り、アタシたちの目の前に来た時、ラディアドレイクは普通のトカゲサイズになっていた。


『ギャオォォ!?』


 異変に気付きラディアドレイクが混乱する。

 そしてヴェルミナおばさんに向けてブレスを放つが、少し熱い程度の結果で終わってしまい、ラディアドレイクはあっけなく踏みつぶされた。


「ふ、他愛もないね」

「す、すげぇ……おばさんってこんなに強かったのか!?」

「縮小化呪いを五十年間作りまくっていただけさ。元に戻るためにね。無駄になったと思ったけど役に立ってよかったよ」


 そう言ってヴェルミナおばさんは怪しげな力が宿った矢の束を見せる。

 その時後ろから、興奮したアルフとケイトの声がし始めた。


「ケイト! ヴェルミナってまさか、あの有名な冒険者『絶壁のヴェルミナ』じゃないか!?」

「間違いないわ! 卓越した弓と呪いの力、そして胸がない事で昔名を馳せた熟練の冒険者、『絶壁のヴェルミナ』よ!」

「お前たち! その二つ名で呼ぶんじゃないよ!!」


 ヴェルミナおばさんがアルフとケイトにげんこつを入れる。

 どうやら冒険者の間では有名だったらしい。

 いやでも……。

 アタシも心の中で言いはしたが、何で胸がない事に二つ名が集約されてるんだ?

 まあ、今はいいか。


「貴様ら! 何を遊んでおるのだ! 早く先へ進むぞ!」


 ポットデーノがイライラして叫ぶ。

 確かにこんなことしてる場合じゃねぇ。

 だが、歩を進める前にアタシ達を謎の殺気が襲った。


「な、なんだ!?」


 全員が臨戦態勢に入ると同時に、急激に周りの温度が下がっていく。

 そして、前方から屋根の上を移動し、高く飛びながらその存在は私達の前に降り立った。


「ゴオォォォォン!!!」


 空に向けて吠えるその存在は、青く輝く毛並みをし、吹き荒れる冷気をその身にまとう巨大なオオカミだった。


「な、なんだあのオオカミは……? ケイト、すごいかっけぇぞ……」

「アルフ、見とれてる場合じゃないわ! あれは雪山の死神……グリムフロストよ!」

「チッ! 戦いの音を聞きつけやがったのか!?」


 次から次へと厄介な奴が現れやがる。

 

「コ、コオリ……」

「モーブ! 退くな!」


 モーブがなぜかあいつを見て一歩退く。

 氷にトラウマでもあるのか?


「ヴェルミナおばさん、さっきみたいに呪いでどうにかなるか?」

「難しいね……あいつに刺さる前に矢が凍っちまう」

「そうか、だがやるしかねぇな……!」


 覚悟を決めて戦おうとしたその時。

 

「ん?」


 グリムフロストの後方、ギルドの屋根のあたりから何かが光るのが一瞬見える。

 そして、その光が放たれたと思うと、目の前で強烈な爆発が起きる。


「ぐうぅ!?」

 

 爆発が収まり砂埃が晴れると、地面が大きく抉られ、グリムフロストが見るも無残に爆散していた。

 

「な、何が起こったんだ……?」

「見て、あのえぐれた地面の中心を」

「ありゃなんだ? まさか矢か?」


 アルフとケイトが爆発の中心地に一メートルを軽く超える巨大な漆黒の矢が刺さっていることに気づく。

 この矢は……間違いない。

 あいつだ。

 

「やれやれ、おせーんだよ」


 地面に深く突き刺さってるその矢を全力で引き抜き、何とか回収する。


「相変わらず精細に欠けた力任せの攻撃だね。だからエルフの面汚しなんて言われるんだよ……ドン・ガイのやつめ」


 ヴェルミナおばさんがそういって悪態をつく。


「ヴェルミナおばさんも知ってたのか?」

「当り前さ。なにせ、国に認められた数少ない元A()()()()()()()だからね」




                      ※



 ドン・ガイ side


「近くに大きな魔物はいない。これでアーシャ君たちは大丈夫だろう」


 今僕がいるのはギルドの屋上だ。

 ここはヴェインで一番高い場所であり、狙撃に最適な場所でもある。


「住民たちの非難状況は?」


 そばでサポートしてくれているギルド職員に問いかける。


「事前に周知していたおかげで既に多くの住人がギルドに避難しています。しかし、混乱して南門へ逃げる者も多いようです」

「そうか……。だが南門を開放することはできない。魔物たちを外に出すわけにはいかないからね。戦力をギルド周辺と南に集中させてくれ。住民たちをギルドへ避難させるんだ」

「わかりました。しかし、それ以外の場所に出現した魔物はどうしますか?」

「僕が片付ける」


 僕はそう言って、屋上の北側に立つ。

 町を見下ろすと、ブルーオーガを中心に魔物たちが暴れて町を破壊していた。


「精が出ることだ。しかし、これ以上好きにはさせない」


 僕は三メートル近くある漆黒の弓を構える。

 これはアダマンタイトというこの世で一番硬く、重い金属で作られた僕専用の弓だ。

 背中に付けた矢筒から同じオリハルコンで作られた一メートルを超える矢を引き抜き弓に(つが)え、ブルーオーガに狙いを定める。

 当然弓の弦もオリハルコン製だ。

 引くには僕のスキル『マッスル』で筋肉を全力で強化しなければならないほど力がいる。

 しかし、その威力は絶大だ。


「吹き飛ぶがいい」


 重低音の金属音を鳴らしながら矢を放つ。

 矢は猛スピードで飛んでいき、ブルーオーガの体に命中、貫通して周囲の魔物や建物ごと吹き飛ばし、一撃で殲滅する。


「やれやれ……ギルドの屋上から狙撃するなんて本当はしたくないんだけどね。だが緊急事態だ、仕方ない」


 僕の攻撃は町にも甚大な被害をもたらす。

 もし魔物をすべて倒し住民を救えたとしても、町は僕の矢で壊滅するだろう。

 だが、僕にはエルフが得意とする繊細な力のコントロールなどできない。

 だからこそ、僕は『エルフの面汚し』なんて二つ名がついているのだ。(八割は違う理由)


「さて、僕の弓を引く体力が無くなるのが先か、魔物の暴走(スタンピード)が終わるのが先か、勝負と行こうじゃないか」


 そうして次々と魔物がいる場所に弓を着弾させていく。

 その時。

 

「ギルドマスター! 大変です!」


 下にいた別のギルド職員が慌てて走ってくる。


「何かあったのかい?」

「最下層へ行った冒険者たちが戻ってきました!」

「何だって!?」


 それが本当なら不幸中の幸いだ。


「しかし、()()とも満身創痍のようで、戦いに参加は出来なそうです」

「いや、生きていただけでも……ちょっと待ってくれ。三人だって? どういう事だ?」


 問いただすと彼は下を向き、苦渋の表情を浮かべながら口を開いた。


「戻ってきたのは……冒険者パーティ『紅蓮の鉄槌』の三人だけです……」




                       ※


 

 エミール side


 同時刻、ヴェインの地下にある独房にて。


「くそ! ここから出せ! 貴族の俺にこんな真似していいと思っているのか!?」


 鉄格子を握りしめ、俺は力いっぱい叫ぶ。

 昨日アーシャにぶっ飛ばされ気を失った俺は、気付いたらこの暗くて薄暗い地下の牢屋に入れられていた。

 何故俺がこんな仕打ちを受けねばならん。

 俺はこの町で一番偉い存在なんだぞ。


「おのれ……よくもこんな屈辱を……全員殺してやる! アーシャも、ドン・ガイも、ダヴィドも、あのエレンという女も!」


 憎しみを込め俺は叫び続ける。

 しかし、それに応えるものはこの場に誰もいない。

 代わりに、上から騒がしい音が絶え間なく響いてくる。

 地下にいる俺でも、何か異変が起きていると気づいた。


「一体何が起こっているというのだ……?」


 思案していると、外へ続く扉が開き誰かが入ってくる。

 看守かと思ったが、そこに現れたのは見知った人物だった。


「エミール様、お元気そうで何よりです」

「ブレットか!」


 俺の執事であるブレット。

 そいつが冒険者と兵士を連れて現れた。


「貴様! 何をしに来た!?」


 俺を見限り笑いに来たのかと思ったが、ブレットは静かにカギを取り出すと、牢屋の扉を開け頭を下げた。


「お迎えに上がりました。エミール様」

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