149話 初めての別行動
魔物の暴走により魔物に囲まれてしまった私達。
アルテナの魔法で危機を脱した後、今後の行動を決める話し合いを始めていた。
「マルタ、魔物の暴走を止める方法はないの?」
「止める方法ですか? そんなものないですよ! 自然に収まるまで待つしかありません!」
マルタはそう断言する。
しかし、本当にそうだろうか?
「魔物の暴走はダンジョンコアの暴走によって引き起こされるのよね? だったら当初の目的通りダンジョンを攻略して、コアを手に入れれば止められるんじゃないの?」
そう私に言われ、マルタはハッとした顔になる。
「……確かに可能かもしれません。ですが、今のダンジョンは魔物で溢れかえっています。何百、何千の魔物が現れる中ダンジョンを攻略するなんて無理ですよ!」
マルタの言う通り普通なら無理だ。
だが、こっちには普通じゃないやつがいる。
「大丈夫、アルテナの魔法でゴリ押し攻略すれば行けるわ。そうでしょアルテナ?」
「ふ、あたしにかかれば何匹相手だろうと余裕よ。すぐにコアへたどり着いて魔物の暴走を止めてやろうじゃない!」
アルテナは気合が入った声でそう言う。
その目には、炎が灯っているようにも見えた。
「ずいぶんやる気ね」
「そりゃそうよ! 町が滅亡する危機を颯爽と解決する主人公……。クックック。めちゃくちゃ燃える展開じゃない! ……あれ? でもごり押し攻略って、ダンジョン攻略といえるの?」
こいつ……こんな時まで。
心底呆れた。
「あなたね……遊びじゃないのよ?」
「わ、わかってるわよ。町のみんなの命がかかってるんでしょ? 出し惜しみ無しで立ちはだかる奴、全部ぶっ飛ばしてやるわ!」
「全く……あなたの強さは信用してるんだから、しっかりやりなさいよ」
アルテナは「ふっ」と笑いながら頷くと、ミラとマルタに呼びかける。
「ミラ、マルタ! あんた達も行くわよ!」
「うん、わかったアルテナ様!」
ミラが賛同する一方。
「え、私もですか!?」
マルタは自分を指さしながら困惑する。
「何言ってんのよ? さっき一緒に攻略するって決めたじゃないの」
「確かに決めましたけど! こんな無茶な状況で攻略なんて聞いてませんって!」
「ふん、全部あたしがぶっ倒すから問題ないわ」
「いや……アルテナさんの強さはさっき分かりましたけど……」
「うっさいわね。一度決めたことをグダグダ言うんじゃないわよ」
「むー……。わかりました。ですけど……」
マルタは諦めた様子でアルテナの前に立ち、手を差し出す。
「……約束通り、ちゃんと私を守ってくださいよ?」
「ふ、任せなさい」
二人はそう言って握手を交わした。
うん、やっぱりこの二人は仲がいい。
だがその時。
「ちょっと待ちなさいよあんた達!」
いきなりカーシャさんが叫んで話に入って来る。
「あんた、空気読みなさいよ」
「それは申し訳ないけどさ、あんた達、アタイらの事忘れてない? アタイらも攻略に参加させてもらうよ! 元々そのためにここへ来たんだからね!」
「そうだぜ! 放置プレイというのも燃えるが、本当に忘れられちゃ困るぜ!」
「ていうかー? このままだとシャルルちゃん達完全かませ犬みたいだしー? 活躍の場が欲しいんですけどー!」
力になってくれると言うカーシャさん達。
それを見たマルタは、怒りと呆れの感情を込め叫ぶ。
「いい加減にして下さいこの愚か者ども! 病み上がりで本来の力が全然出せないくせに、よく力になるなんて言えますね!」
「そんなことはわかってる! だけどアタイらはヴェインのために……!」
「想いだけで何でもできたら苦労はしないんですよ! さっき私にあっさり負けたことを忘れましたか!? その程度の力でついてこられても困るんですよ!」
「それでも出来ることはある筈よ!」
マルタの説得に応じないカーシャさんを見た私は、無言でカーシャさんに近づき、足を蹴る。
「うわ!?」
するとアーシャさんは、前のめりにあっさり倒れてしまった。
「なにするのよエレン!」
「……何って少し足を蹴っただけよ。でもこれで分かったわ。 貧弱な私に蹴られた程度で倒れるんじゃ、アルテナ達についていくことは出来ないわ。足手纏いになるだけよ」
「……なっ!」
以前鉱山エリアにて、カーシャさんが私に向け言った言葉を返す。
さすがにこれは効いたらしく、カーシャさんはとうとう諦めの表情になる。
「……エレン、あなたに言われちゃ世話ないね。わかった。アタイ達はなんとかダンジョンの外へ逃げて、ここで起きたことを外のみんなに伝える。それで良い?」
「ええ、お願い。」
カーシャさんは静かに起き上がると、イサークさんとシャルルの方を向く。
「そういう事だ。二人とも、ここまで付き合ってもらったのに悪いね」
「……いや、俺たちも力になれなくてすまなかったぜ、リーダー」
「シャルルちゃんもちょっとムキになっちゃったかなー。ごめんねリーダー」
三人が微笑み合う。
冒険者パーティ『紅蓮の鉄槌』。
もしダヴィドの妨害が無い状態で最下層攻略を進めていたら……、万全の状態でマルタと戦っていたら……。
それぞれの結果はまるで違ったものになっていただろう。
そう思わせるほどの確かな絆と力がそこにはあった。
「ふ、これで作戦は決まったわね。カーシャ達紅蓮の鉄槌はダンジョンを脱出して外に状況を伝える。あたし達カタストロフとマルタの四人がダンジョンを攻略して魔物の暴走を止める。これで決定よ!」
アルテナが力強く宣言する。
しかし、そこでカーシャさんから手が上がる。
「待ちなさい。エレンがダンジョン攻略組なの……アタイは賛成出来ないね」
「は? なんでよ? まさかあんた、まだエレンが足手纏いとか言うんじゃないでしょうね?」
「無能じゃないってことはアタイも理解してる。けれど、彼女の体が貧弱だってのは違わないでしょう? ダンジョンを力づくで攻略するっていうのに、彼女がいたら邪魔になるとアタイは思うね」
「なんですって!? エレン! なんとか言ってやんなさい!」
カーシャさんの意見にアルテナが怒る。
しかし……。
「アルテナ、カーシャさんの意見は正しいわ。私も攻略パーティに加わるのは無理だと思う」
「は!?」
「え……?」
賛同した私にアルテナとミラが驚く。
「元々自分から言い出すつもりだったわ。私はカーシャさん達と一緒にダンジョンを脱出するって」
「なんでよ!? 以前問題だった体力不足は解決したじゃないの!」
確かに火迅の魔法を使えば空を飛べるし、地上もホバリングすれば体力を使わず移動できる。
だが、今回はそう言う問題じゃない。
「……この先、魔物の群れを薙ぎ倒して進まなきゃいけないのよ。私が一緒にいても役に立たないって事はアルテナ、あなただってよくわかっているはずよ」
「う……。それはそうだけど……」
反論の材料が見つからず、アルテナが口籠る。
当たり前だ、私には魔物の群れを倒す力なんてない。
それどころか、体は普通の女子高生レベルなのだ。
この状況では、私は力になるどころか足手纏いにしかならないだろう。
「それに、ダヴィドをこのまま逃すわけにはいかないわ。あいつの口振りからして、きっとヴェインの何処かにいるはずよ。ダヴィドを探知できるのは私だけだし、あいつは出来るなら自分の手で私を殺したがっている。私が行けば姿を表すはずだわ」
「だからって、あいつに勝てるの? カーシャ達はたぶん役に立たないわよ?」
アルテナの言う通り、無事魔物を突破しダンジョンを脱出した時、カーシャさん達はきっと力を使い果たしているだろう。
外のみんなは魔物の暴走の対処できっと手一杯。
戦えるのは私しかいない。
しかし。
「策はあるわ」
確かにアルテナの言う通り私が正面から戦って勝てる見込みは無いだろう。
けれど、ダヴィドは致命的なミスを犯した。そこを突けば勝てる可能性はある。
「だから攻略は任せたわよ」
「エレン様……やだ! ミラ、エレン様と一緒がいい!」
ミラが泣きながら抱き着いてくる。
「ミラが守るから! だから一緒に行こうよエレン様!」
「ミラ……」
涙目になり、上目遣いで私を下から見上げるミラ。
こんな愛らしい姿でそんなこと言うなんてずるい。
いつもの私ならダメだなんて言えない。
……だけど。
「ごめんねミラ。今回ばかりはダメよ」
「……じゃあ私もエレン様についていく!」
「それもダメよ。ミラ、あなたはアルテナをサポートしてあげて頂戴。正直アルテナだけじゃ心配だからね」
私はそう言ってミラを見つめ、手を強く握る。
「エレン様……」
ミラは涙をぬぐい、そして。
「うん、わかった。ミラ、頑張ってアルテナ様をサポートする!」
そう答えてくれた。
「うん、お願いねミラ」
その様子を見ていたアルテナは、ため息をつき、私に背を向けながら口を開く。
「ふん、従者のくせに勝手なんだから。さっさと行けば?」
「珍しく物分かりがいいじゃない」
「ミラでダメだったのにどうしろっていうのよ。言っとくけど、あたしのいない所で勝手に死んだら許さないからね」
「そっちこそ、ドジを踏むんじゃないわよ。こっちがうまくいっても、あなたが魔物の暴走を止められなかったら死ぬんだから」
私もアルテナに背を向ける。
そして。
「私の命、預けたわよ」
「ふ、任せなさい」
そのやり取りを最後に、私はカーシャさん達のもとへ行く。
考えてみれば、危険な場所でアルテナと別行動するのは初めてだ。
なんだかんだ私を守ってくれた存在と別れることに不安が走る。
けれど、私はやらなきゃならない。
「ミラ! マルタ! ダンジョンを攻略して魔物の暴走を止めるわよ! あたしの後ろについてきなさい!」
「うん!」
「やってやりますよ!」
アルテナが号令をかける。
そして私もカーシャさん達に声をかける。
「カーシャさん、イサークさん、シャルル。外までよろしくね」
「ええ」
「外までなら何とか守ってやるぜ!」
「しょうがないなー。やるだけやってあげるよー」
そして新たに表れた魔物たちが近づく中、私達はそれぞれの目的を果たすため二手に分かれ、互いに走り出した。




