148話 暗黒空間
「さあ……。魔物の暴走の……始まりだ」
大きく地面が揺れる中、ダヴィドがそう宣言する。
まずい、まだヴェインの人々は避難を始めたばかりだ。
今魔物の暴走が起きたら大惨事になる。
「あんたの好きにはさせないわよ!」
揺れが治まったと同時に、アルテナはデスサイズを出現させ、ダヴィドに向け斬りかかる。
だが、ダヴィドはこちらを向いたまま背後へ跳躍して回避し、背後の朽ちた建物の上に着地した。
「俺を倒したところで無駄だ。魔物の暴走はもう止められん。しかしエレン、辛酸を二度も俺に舐めさせた貴様はだけは……この手で絶望を与え殺したいところだが……」
ダヴィドがそう言った直後、後ろから声が聞こえてくる。
「エレン様! アルテナ様!」
「あんた達! 大丈夫!?」
振り向くと、カーシャさん達とミラの四人がこっちに向かってきていた。
どうやら、凍結から完全に回復したようだ。
「……さすがに分が悪いか。仕方あるまい。貴様らの始末は魔物に任せるとしよう」
「このクソ暗殺者! まさか逃げる気!?」
「貴様らと殺り合うメリットはないからな。俺はヴェインが滅びゆく様をじっくりと楽しませてもらうとしよう……クックック」
ダヴィドはそう言うとスキルを発動し、私にしか見えない魔力だけの姿へと再び変わる。
そして、廃墟の上を飛びながら姿を消した。
「エレン! あいつはどこ行ったの!?」
「あいつの言葉から察するに、きっと外へ向かったのよ。早く追わないと……」
「ちょっと待って。さっきの会話少し聞こえてたけど、あの黒装束のやつが影無って本当なの!? それにさっきの地震ってまさか……」
カーシャさんが混乱した表情で私たちに問いかけてきたので、事情を軽く説明する。
「影無が魔物の暴走を引き起こしただって……!?」
「しかもここに来た冒険者を殺してたってマジ!? もしかしてシャルルちゃんに剣を刺したのもそいつ!?」
「そういやデュラハンと戦った時、なんかチクって痛みが走ったと思ったら力が抜けたんだよな……。まさかあの時毒でも仕込まれたのか? いくら俺でも毒は燃えねぇぜちくしょう!」
そうか、カーシャさん達も被害にあったのか……。
それならあっさり負けてしまったのも納得が行く。
「とにかく、急いで影無を追わないと……」
「いや、そんな暇ないですよ! 周りを警戒してください!」
「え? な……!?」
マルタにそう言われた直後、古城の頂上から漏れる光が激しく点滅し始め、それに呼応するように周りから大量の魔力反応が現れる。
周囲を見渡すと、地面に大量の魔法陣が出現しており、その中から黒スケルトンやレイスなどの魔物が出現し、広場の中央にいる私たちを包囲した。
多すぎて数はわからないが、おそらく百匹以上はいる。
「エレン様、アルテナ様、囲まれちゃったよ……!?」
「マルタ、どうなってんのよこれ!?」
ミラがハンマーを構えながら怯え、アルテナがマルタに問いかける。
「これが魔物の暴走です……! まだまだこれから溢れ出てきますよ……!」
「マルタ、外も今同じ状況なの?」
「おそらくは……」
「それはまずいわね……」
町には戦えない人が大勢いる。
このままでは大量の犠牲者が出る。
「あんたたち! こうなったらみんなで敵を蹴散らして、外まで逃げるよ!」
カーシャさんがそう提案する。
確かに、魔物たちは私たちを包囲して地上から、空中からじわじわと近寄って来ている。
一点突破してダンジョンの外へ逃げるのが妥当な判断だろう。
「こうなっちゃったらどうしようもないもんねー。シャルルちゃんも賛成ー」
「しょうがないな! 前衛は任せろ!」
「無理しないで下さいよあなたたち!」
シャルルにイサークさん、マルタもそれに賛成する。
しかし。
「待ってみんな。その必要はないわ」
私はその作戦にあえて反対する。
「ちょっと、何言ってるんですかエレンさん! 一刻を争うんですよ! こんな時に冗談言ってる場合じゃないですよ!」
「マルタ、私は別に冗談を言ってるつもりじゃないわ」
「どういう事ですか!? このままだと私達、魔物の群れに殺されるんですよ!?」
「大丈夫よ。まだ慌てる時間じゃないわ」
確かに、この状況は一見すると大ピンチだ。
だが、実際は何の問題もない。
そう……私のバカな相棒が言っている。
「アルテナ、さっさと何とかしなさい」
「ふ、もう準備完了したわ。全員、あたしのそばから離れんじゃないわよ!」
アルテナが叫びデスサイズを天高く上げると、強大な闇の魔力がアルテナから放出される。
「深淵なる闇の門よ。我の呼び声に応え、此処へ顕現せよ。すべてを飲み込み、無へと帰すがいい……! 『暗黒空間』!」
アルテナが魔法を発動すると、空中に紫色の稲妻が走り、小さな漆黒の球体が現れる。
それは徐々に大きくなり、巨大な球体へと姿を変えると、周囲の魔物や廃墟の瓦礫を引き寄せ飲み込み始めた。
「わー! アルテナ様すごーい!」
レイスはなすすべもなく飲み込まれ、黒スケルトンは地面に武器を突き刺し、必死に飲み込まれないとしがみつくが結局手を放してしまい、暗黒空間に消えていく。
その威力に、ミラが目を輝かせてアルテナを絶賛する一方。
「な、なんなんですかこれは……!?」
百匹を超える魔物が暗黒空間に飲み込まれていく様子を見て、マルタは驚愕する。
カーシャさん達も口をあんぐりと開けてポカーンとしている。
まあ驚くのも無理はない。
四人はアルテナのチート能力を見るのは初めてなのだから。
「ふ、驚いた? これがあたしの実力よ。クックック」
アルテナが勝ち誇った顔で笑う。
「いや、どんだけですか!? 本気出してないとは思ってましたけど、アルテナさんここまで強かったんですか!? 決死の覚悟で止めようとしていた私が馬鹿みたいじゃないですか! ミラちゃんとエレンさんはこの事を知ってたんですか!?」
何かマルタが混乱し始めた。
「えっと……この魔法は初めて見るけど、今までもお天気変えたりはしてたよ」
「これくらい出来なきゃ、ダンジョンに付き合ったりしないわ」
ミラとそう答えると、マルタが崩れ落ちる。
「……エレンさんがアルテナさんの強さを信用してた理由がよーくわかりました……」
うん、まあそれはさておき。
周囲の魔物をすべて飲み込んだことを確認すると、アルテナは魔法を解除する。
「ふ、あっけないわね」
「油断しないでアルテナ。一時時間を稼いだに過ぎないわ」
魔物の暴走の魔物はまだまだ大量に表れる。
「一応聞いておくけど残りの魔力は?」
「ふ、まだまだ余裕があるわ」
「さすがのチートっぷりね」
よし、アルテナの強さがあれば、まだこの状況を挽回できる可能性がある。
これ以上あいつの好きにさせるわけには行かない。
「みんな、今すぐ作戦を立てるわよ。ダヴィドを倒し、魔物の暴走を止める作戦をね」
過去の投稿で、魔物の暴走で出る魔物の数を数千にしていましたが数万に修正しました。
すいません。




