147話 絶望の始まり
明けましておめでとうございます。
正月は過ぎましたが新年最初の投稿です
アルテナとマルタの戦いが始まった時、私とミラはカーシャさんたちを連れ、二人から少し離れたところへ移動していた。
ミラがイサークさんとカーシャさんをそれぞれ片手で持って引きずり、私が軽いシャルルを背負って運ぶ。
うん、こういう時もミラのパワーは便利だ。
「エレン様、シャルルちゃんたちは大丈夫?」
「大丈夫、マルタの言う通り傷は浅いみたい」
凍って動けなくなってるだけだ。
軽くヒールをかけ、炎魔法で体を温める。
これで少し経てば動けるようになるだろう。
「さて、戦いのほうは……?」
二人はまだ激しく戦っていた。
アルテナはどうやら、デスサイズや邪眼を使わずに戦っているみたいだ。
やれやれ……どうもアルテナは、正々堂々の戦いを好む傾向がある。
単にそういう性格なのか、戦いを楽しむためなのかはわからないけど。
そして二人が渾身の一撃を繰り出し、空中でぶつかり合った結果、マルタが地面に吹き飛ばされた。
どうやら勝負あったようだ。
「エレン様! アルテナ様が勝ったよ!」
「ええ。やれやれ……ちゃんと勝つんだから文句言えないわね」
二人の勝負を見届けると、「うう……」と後ろから声が聞こえ始める。
振り向くと、カーシャさん達の体が徐々に動き始めていた。
どうやらちゃんと解凍できたようだ。
「シャルルちゃん!」
「三人とも、大丈夫?」
そばによって声をかけると、三人はゆっくりと起き上がる。
「ええ……世話かけたわね、あんた達」
「うえー……まだ寒いんですけどー」
「ちょっとまだ体が軋むぜ……」
この様子なら大丈夫だろう。
振り向いて二人のほうを見ると、アルテナが倒れたマルタに手を差し伸べていた。
どうやら仲直りできたらしい。
起き上がったマルタに回復をかけようと思い、近づこうとしたその時。
「……え?」
二人の後方、後ろの朽ちた建物の上に人型の赤い魔力がある事に気付く。
それは建物から飛び降りると、一気に2人へ向かって駆け出した。
「エレン、マルタの回復を……」
アルテナがこっちに向かって声をかける。
どうやら2人とも気付いていないようだ。
赤く見えるということは敵という事。
だがそれよりも……。
(この感じ既視感が……。まさか!?)
人型をした赤い魔力の何かは、腕のような部分をマルタに向けて振り上げる。
「マルタ! 後ろ!」
「え?」
叫びながら咄嗟に魔導銃を抜き、振り上げた腕に向かって弾丸を放つ。
そして、赤い人型の魔力が実体化し、黒い装束を着た人間に変わった瞬間、腕に弾丸が命中した。
「ぐあ!?」
「「え?」」
実体化した事で、ようやくその存在に気付いた二人。
「ちっ!」
謎の敵は、撃たれた腕からナイフを落としながら後ろへ跳ぶ。
「アルテナ! マルタ!」
困惑している二人に急いで駆け寄る。
マルタは命を狙われた事に驚いたのか、地面に尻餅をついていた。
「マルタ、今回復するわね」
マルタにヒールをかけ、戦いで受けた傷を治す。
「エレン! 何よこいつは!? 今マルタを殺そうとしてたわよね!?」
「ど、どこから現れたんですか……?」
「……こいつは、姿を隠して二人に近づいていたのよ、でも……」
魔導銃を謎の敵に向けながら、二人の前に立つ。
姿を隠すことができ、黒い装束とフェイスマスクをつけた人物。
そんな奴……一人しか知らない。
「どうして貴方がここに……。影無……いや、ダヴィドと言ったかしら」
「はぁ!?」
「か、影無……!?」
二人が驚き戸惑う一方、ダヴィドは腕から血を流しながらこっちを見る。
「貴様……何故俺の場所を!? モノクルは破壊したはずだ!」
そう言いながら、憎しみを込めた目で私を睨みつける。
やはり、あの時のナイフは私ではなく、モノクルを狙っていたようだ。
「残念だったわね。モノクルで貴方を探知したというのは嘘よ」
「なんだと……!? 貴様、騙したな!」
ダヴィドは怒りを露わにし、さらに鋭く私を睨みつける。
恐らく、フェイスマスクの下は苦虫を噛み潰したような顔になっているだろう。
「エレン! まさかそいつって、昨日領主の館で捕まえ損ねた暗殺者!?」
「ええ、そうよ」
「ど、どういうことですか……? 影無って、ヴェインで噂の連続殺人鬼ですよね……?」
そういえばマルタは事情を知らなかった。
アルテナに説明を任せ、私はダヴィドと対峙する。
こいつには聞きたいことがある。
何故ダンジョンにいるのか、どうしてマルタを狙ったのか?
そして何よりも……。
「あなた、どうやって最下層へ来たの……?」
さっきアルテナがマルタに対して問いかけたのと同じだ。
マルタは元冒険者でここへ来たことがあった。
だから最下層へ続く転移陣を使えた。
だが、ダヴィドが使えるはずはない。
「どうやってだと……? くくく……貴様、まだあのバカ貴族から何も聞き出せてないようだな」
「何ですって……?」
ダヴィドが私を嘲笑する。
どういう事だろう?
まだ領主とダヴィドの関係について知らないことがある?
それを聞こうとしたとき。
「……待って下さい、エレンさん」
「マルタ?」
立ち上がったマルタが私を制止し、前に立つ。
「影無さん……あなたが領主とつながっていたことは今聞きました。ですが、それとは別であなたに聞きたいことがあります」
「ほう? なんだ?」
「……あなた、以前私と会ったことがありませんか?」
「……なに?」
「……先ほど、私を襲った時の殺気。五年前……仲間を失った時感じたものと同じでした。私の勘違いですか?」
マルタは、ダヴィドをまっすぐ見つめ問いかける。
「五年前……。そうか貴様、あの時殺した冒険者たちの生き残りか」
「……あなたが……みんなを殺したんですか!?」
「ああ。姿を隠し、やつらを後ろから刺してやった。あとは魔物に殺させ、気絶させたお前を運び出すだけの簡単な仕事だった」
「なっ……!」
マルタがショックで膝から崩れ落ちる。
まさか、マルタの仲間が死んだ原因はこいつだったなんて……。
「どうして……。どうして私の仲間を殺したんですか!?」
マルタは涙を流しながらダヴィドに向かって叫ぶ。
確かに動機が分からない。
それに、マルタの仲間を殺したのは最下層だ。
こいつは姿を隠すスキルを持っている。
それを使い、最下層に到達することができるとしよう。
だが、辿り着くまでにかなりの労力を強いられるのは間違いない。
そこまでして、わざわざダンジョン内で暗殺する理由は?
しかし。
「簡単な理由だ。あのバカの依頼だった。ただ……それだけの事だ」
ダヴィドがそう言った時、ピースが繋がったように私は理解した。
「……そういう事だったのね。ずいぶん胸糞悪い事してくれるじゃない」
「ちょっとエレン、どういう事よ?」
アルテナが理解できないという顔で私に問いかける。
「……ダヴィドは影無として、エミールの邪魔になるものを排除する依頼を受けていたのは知ってるわよね?」
「それは聞いたわ。でも、なんでそれがマルタの仲間を殺すことに繋がんのよ?」
「……エミールにとって一番邪魔な存在って何だと思う?」
「一番邪魔な存在? それって……?」
「……ダンジョンを攻略する可能性がある者。つまり、最下層にたどり着いた冒険者よ」
「な!?」
「え!?」
二人が驚愕する。
だが、これ以外考えられない。
ダンジョンが攻略され、消えてしまえばヴェインは廃れてしまう。
それを阻止するため、エミールはダヴィドにマルタ達を暗殺するよう依頼したのだ。
事前にダヴィドを最下層にたどり着かせたうえで。
「ちょっと待ちなさい! じゃあなんでマルタだけ生かしたのよ!?」
「……これも推測だけど、最下層へ挑戦しようとする冒険者を減らすため恐怖を植え付けようとしたんじゃないかしら? 生き証人がいれば伝わりやすいでしょう? そして……きっと最下層で殺されたのはマルタの仲間だけじゃない。そうでしょ、ダヴィド?」
そう問いかけると、ダヴィドはニヤッと笑みを浮かべる。
「くくっ……お前は勘が鋭いな。そうだ、これまで最下層に来た冒険者はすべて……俺が殺した。ダンジョンを攻略されないようにな」
やっぱり……。
おかしいとは思っていた。
最下層に挑んだ冒険者は皆全滅するなんて。
「ダンジョン内で暗殺した理由は証拠が残らないようにするためかしら?」
「そうだ。ダンジョン内で殺してしまえばすべて魔物のせいにできるからな。暗殺したという事実さえ残らない。もう少しで攻略の栄光を掴めるというところで死んでいった、奴らの絶望の顔はとても俺を楽しませてくれたよ……。ククク……ハハハハハハハ!」
ダヴィドの高笑いが響き渡る中、アルテナとマルタは怒りを抑えられず、武器をダヴィドに向ける。
「ふざけんじゃないわよあんた……!」
「よくも仲間を……冒険者たちを……。絶対に許さないですよ!」
「二人とも、ちょっとまって」
二人の前に手を出して制止する。
怒りはもっともだし、私もこいつを許す気はない。
だが、相手は暗殺者。
どんな手を仕込んでいるかわからない。
それに、まだわからないことがある。
「あなたとエミールの関係はもう切れたはず。なのに、どうして私たちを狙うの?」
もうダヴィドにはダンジョンに来る理由はないはずだ。
エミールは捕まったのだから。
「ふ、貴様らを狙ったのはついでだ。俺がここに来た理由はただ一つ。俺の存在を知ったこの町の住民を皆殺しにすることだ。当然貴様らも含めてな」
「何ですって?」
いくら暗殺者とはいえ、そんなこと不可能だ。
「エレン……貴様がまだ俺を探知できるとは思わなかったが……想定外なのはそれだけだ。すでに俺の目的は達成された。何故俺が貴様らのおしゃべりに付き合ってやってると思う……? 時間稼ぎだ」
「時間稼ぎ……?」
「そうだ、魔物の暴走が起きるまでのな」
「……どういうこと?」
魔物の暴走が起きるまでまだ約二日はある。
こんな数分時間を稼いだところで何の意味もないはずだ。
「ククク……。貴様は知らないようだな。魔物の暴走を引き起こす……。もしくは……早める方法があるということを」
「魔物の暴走を引き起こす……?」
「ま……まさか!?」
マルタが急に声を上げる。
「心当たりがあるの、マルタ?」
「……魔物の暴走はダンジョンコアの暴走により引き起こされます。つまり、意図的にダンジョンコアへ害を与えれば可能です……」
「何ですって……!?」
さっきダヴィドは目的を達したといっていた。
つまり……。
「そうだ。すでに俺は最深部へたどり着き、ダンジョンコアを傷つけてきた。すでに時間切れだ……」
「な……!?」
「ぎゃあ!?」
「うわ!?」
ダヴィドがそう言った直後、地面が大きく揺れ始める。
「ちょっと!? この揺れってもしかして!?」
「ダンジョン内で起きる地震……! 魔物の暴走の前兆と同じです!」
「それじゃあ……!」
地震の揺れが襲う中、ダヴィドは笑いながら口を開く。
「さあ……。魔物の暴走の……始まりだ」




