145話 交渉決裂
過去を語り、私達への想いも伝えてくれたマルタ。
しかしアルテナは空気を読まずそれを一蹴した。
「ふ、長々と何を言い出すかと思えば、そんな事であたし達の邪魔をするなんて……バカにも程があるわね」
「な……!?」
マルタは、不敵な笑みを浮かべを見下してくるアルテナを睨みつける。
「私の話聞いてなかったんですか!? もしかしてポンコツだから理解できなかったんですか!? 頭をぶつけて脳のしわを増やしたほうがいいんじゃないんですか!?」
「なんですって!? さっきの話ってただあんたらが弱くて負けたってだけの話でしょうが! 自分の価値観を押し付けて、あたし等の冒険を邪魔すんじゃないわよ!」
「……ふ、ふざけるんじゃねぇですよーー!!」
マルタは地面を蹴り、目にもとまらぬ速さでアルテナに斬りかかる。
「あんたこそふざけんじゃないわよ!」
上段から振り下ろされた刀を、アルテナは双剣を交差して受け止め、鍔迫り合い状態になる。
「仲間を失う辛さも知らないくせに……! よくそんな口叩けますね!」
「ふ、そんなの知るつもりもないし、知りたくもないわ! あたしの冒険に……そんなしみったれたものはいらないのよ!」
双剣を押し込み刀を弾くと、マルタは空中で一回転しながら後方へ下がり距離をとる。
「あなたが知りたくなくても、向こうからそれはやってきます! さっきだって、一瞬でも遅かったらエレンさんは私に斬られてたんですよ!」
「ふ、もしもの話なんて興味ないわね。あたしが守った、それが現実よ。そもそもどうせ殺す気はなかったんでしょ」
「……っ!」
図星を突かれたのだろう。
マルタは一瞬言葉を失う。
「……そりゃそうですよ。ポンコツさんがそうやってごねるのは目に見えてたので、エレンさんを軽く氷漬けにして、その無駄な自信を打ち砕こうとしただけです」
なるほど……最初の攻撃にはそういう意図があったのか。
どおりで敵意がなかったわけだ。
「ふっ、踏み込みが甘かったし、そんなこったろうと思ったわ」
「でも、ギリギリだったことには変わりない筈です。ポンコツさん、これからもあなたはそうやって仲間を必ず守れると思っているんですか? それとエレンさん、ミラちゃん」
マルタは私たち二人を順番に見る。
「あなた達はポンコツさんの言う冒険とやらに付き合わされて、危険な場所連れて来られてるんですよ。それでいいんですか? 自分の意見をはっきり伝えるべきじゃないんですか?」
「「……」」
真剣な表情で私達三人に問いかけるマルタ。
一瞬の沈黙の後、まずアルテナが喋りだす。
「クックック、ずいぶんと愚問を吐くじゃない。答えはYESよ。エレンもミラも大事なあたしの従者だもの。主人として必ず死なせはしないわ」
うん、なんか久々に聞いたわね、従者っていうその設定。
アルテナが答え終わると、次はミラが口を開く。
「ミラは……エレン様とアルテナ様に会えなかったら今も多分いじめられてたと思う。もしかしたら壊されてたかもしれない。だから……ミラはどこまでもついてくよ。そのせいでミラが壊れても……ミラは本望だもん!」
「ミラちゃん……」
決意を込めた目でそう答えるミラを見て、マルタは静かにため息をつく。
この決意は変えられない。
それが分かったのだろう。
そしてマルタは、まっすぐ私を見つめる。
「エレンさん、あなたはどうなんですか? 一番物事を冷静に判断できると私は思っていますが?」
「……そうね。はっきり言うと、アルテナの冒険に付き合わなきゃ行けないことに常日頃からうんざりしてるわ。とっとと故郷に帰らせてほしいわね」
「え」
アルテナが私の答えに口を開けポカーンとする。
「なに変な顔してるのよ。最初からわかりきってた事でしょう?」
「いやいや! あんただってノリノリでダンジョン攻略してたじゃないの!」
「そんなこと微塵も思ってないわ。死にたくないから必死で攻略に向き合ってただけよ」
「でもあんた、昨日ダンジョン攻略の日々悪くなかったって……」
「楽しかったとは一言も言ってないわよ」
「なんですって!?」
「言質とったとでも思ったの? 甘いわね」
「ぐぬぬ……!」
アルテナが唸って悔しがる一方、マルタは怪訝な顔をする。
「理解できないですね。じゃあなんでエレンさんはポンコツさんに付き合ってるんですか? 何か弱みでも握られてるんですか?」
「……まあ似たようなものね」
「それは……命を懸けるほどのものなのですか?」
「……いえ、そうでもないわね。」
元の世界に帰る。
それ自体は重要なことだが、命を天秤にかけられたらさすがに命を選ぶ。
「余計にわかりません! じゃあ何でこんな命がけの冒険に付き合ってるんですか!?」
「理由はたった一つ。アルテナが強いからよ」
「え?」
マルタが理解できないという顔をする。
「アルテナは確かにポンコツよ。頭は悪いし、変なことやらかすし、一緒にいていつも気が気じゃないわ」
「それはなんとなくわかります」
「ちょっと、あんた達!」
「でも……強さだけは信用してるの。やるときは必ずやってくれるし、ちゃんと私を守ってくれる。そうじゃなきゃ、こいつの冒険に付き合ったりしないわ」
「え、エレン……」
アルテナが照れる一方で、マルタはため息をつき、諦めの表情になる。
「なるほど……よくわかりました。つまり、あなたたちを止めるには……」
マルタはそう言いながら、目を瞑り、腰を深く折って抜刀の構えをとる。
そして素早く刀を横に振りぬくと、強い冷気の風が吹き荒れ、周りの霧をすべて吹き飛ばした。
「ポンコツさん、やはりあなたを倒さないといけないようですね……」
「クックック。くそウサギ、あたしもあんたとはいずれ決着付けなきゃと思ってたのよね。エレン、ミラ。カーシャ達を連れてさっさと離れなさい」
鋭い視線を向けるマルタに対し、アルテナは不敵な笑みを浮かべながら双剣を構える。
「アルテナ様……うん、わかった!」
ミラはアルテナの指示を聞き、カーシャさん達の元へ行く。
「はぁ……やっぱりこうなるのね。アルテナ……どうせなら勝ちなさいよ。信用してるって言った私がかっこ悪くなるからね」
「ふ、わかってるわよ。ていうか素直に応援しなさいよあんた」
「はいはい、頑張ってね」
私もアルテナに背を向け、ミラと共にカーシャさんたちを連れて離れる。
そして。
「ポンコツさん……そのおめでたい頭、永久に凍り付かせてあげます!」
「こっちこそ、二度となめ腐った顔できないようにしてやるわよくそウサギ!」
二人は同時に踏み込み、互いの刃が交差した。




