143話 霧に潜む凶刃
アルテナとミラに引きずられダンジョンへ入った私。
最後の下り階段を降り、遂に最下層古城エリアにたどり着いた。
「ここが最下層ね、ずいぶん雰囲気があるじゃない」
「ちょっと怖いね……」
目の前にはゴーストタウンとなり果てた古の町が広がり、空はまるで夜のように闇が広がっている。
死霊系モンスターがいるからか、不気味な冷気が漂い、体に纏わりつくように私達を冷やす。
そしてその最奥には大きな古城が存在していて、頂上からは町を照らす強い光が漏れていた。
「ここが最下層なのね……」
思わずそう呟く。
ここまで、長かったような短かったような……。
迷宮、平原、鉱山、砂漠、雪山、いろんなエリアを攻略してきた。
(改めて思うと感慨深いわね……)
普通の女子高生である私がよくここまで来られたものだ。
だけど、これが最後の階層。
深呼吸をし、改めて気を引き締める。
「さて、最下層の構造はマニュアルの情報通りね。二人とも、昨日も話したけど、今回の目的はただ一つ。ダンジョンを攻略して魔物の暴走を止めることよ。そのために、古城の頂上に存在するダンジョンコアと思われるあの光源……。あそこへ一直線に向かうわ。何か質問はある?」
二人に最終確認をすると、アルテナがまず手を挙げる。
「思ったより広い町だし、ちょっと探索をするのは……」
「あ?」
「じょ、冗談よ」
威圧をかけた目で脅したらすぐ思い直したようだ。
全く、今回はそんな暇ないって何度も言ってるのに。
「エレン様、シャルルちゃんたちはどうするの?」
今度はミラが手を挙げる。
やっぱりカーシャさんたちが心配らしい。
「その事についてなんだけど、カーシャさんたちと私達の目的は一緒よ。なら途中で合流できると思うわ」
ただ、カーシャさんたちは病み上がりであまり余裕がないはずだ。
合流するまでにやられてなければいいのだが……。
「合流したら帰るよう説得。ダメだったら力を合わせて攻略を目指すよう提案しましょう」
「でもエレン、あいつらダンジョンコアが狙いなんでしょう? 素直にあたし達の言う事聞くの?」
確かにアルテナの言うことはもっともだ。
だが……。
「そんなの、ダンジョンコアの所有権をカーシャさんたちに渡せばいいだけよ」
「え?」
「だって私たちがそんなお宝持ってたって意味ないでしょ?」
以前、ミラが進化するきっかけになった魔石でさえ持て余したのだ。
それよりもずっと高価なダンジョンコアを持ってたところで面倒ごとしか起きないだろう。
しかし。
「はぁ? 何言ってんのよ? ダンジョンコアはあたし達に必要じゃない。カーシャ達に渡すなんてありえないわ」
「え?」
ダンジョンコアが必要な理由なんてあったっけ?
「はぁ? あんた忘れたの? 冒険者としてなってないんじゃないの?」
「ちょっと、それはどういう……」
「あの……エレン様、アルテナ様。早くシャルルちゃん達を追いかけないと」
そうだ、モタモタしてる場合じゃない。
まずはカーシャさん達に追いつく事を最優先にしよう。
話はその後だ。
古城への道は前方にある大通りをひたすら真っ直ぐ進めばいい。
武器を構え、警戒しながらミラを先頭に大通りを進む。
「エレン、どうせまっすぐ行くならドラゴンスケーターで一気に進んだほうがいいんじゃない?」
「私もそうしたいところだけど、敵がどこから出てくるかわからない以上、止めたほうがいいわ。その証拠に……来るわよ……!」
朽ちた家のドアが静かに開かれ、中から上等な剣や斧を持った黒スケルトンが現れる。
その数、十体くらいだろうか?
カタカタカタっと骨の音を響かせながら前方に展開し、私たちを迎え撃つ形で立ちはだかった。
「ただのスケルトンじゃなさそうね、アルテナ、ミラ、行くわよ」
「うん!」
「ふ、この程度の雑魚、ぱっぱと片付けてやるわ!」
それぞれ武器を構えると、近接武器を持った黒スケルトンたちが一斉に襲い掛かってくる。
炎や土の魔法を武器にまとわせた強力な一撃で一気に決着をつけるつもりだろう。
でも、こっちには優秀なタンクであるミラがいる。
「来て、ミラの盾! クリスタルシールド!」
青く輝く巨大なシールドで黒スケルトンたちの攻撃を防ぐ。
「えーい!」
そして、そのままシールドを強く押し出し、黒スケルトンたちを弾き飛ばす。
「ふ、カルシウムが足りてないんじゃないの?」
その瞬間、アルテナがミラを飛び越し、デスサイズで体勢を崩したスケルトンたちに襲い掛かる。
「派手に逝きなさい!『死の円舞曲!」
アルテナがまるでダンスを踊るかのようにデスサイズを振り、前衛にいた黒スケルトンたちを次々と切り刻んでいく。
そんなアルテナを後ろから弓で射抜こうとしている黒スケルトンたちもいたが……。
「私を忘れてもらっちゃ困るわ」
魔導銃で正確に頭蓋骨を打ち抜き、後衛の弓部隊を全滅させる。
「ミラ、黒スケルトンたちが持ってた武器や魔石を回収して」
「はーい」
「ふ、確かに上のほうにいたスケルトンよりかは強かったけど、あたしたちの敵じゃなかったわね」
アルテナがデスサイズを地面に突き刺し勝ち誇る。
だが……。
「アルテナ、油断しないで! まだいるわ!」
「え? でも敵はどこにも……ぎゃあ!?」
アルテナがいたすぐ近くの建物から壁をすり抜け、ぼろ布をまとった青白い半透明の幽霊が現れ、両腕を大きく広げアルテナに襲い掛かる。
アルテナはとっさに双剣を振るうが、幽霊をすり抜けてしまい、そのまま抱き着かれてしまった。
「ぎゃあぁぁぁ!? 何よこいつ!? 力が抜けるー……」
『光弾!』
即座に光属性の魔弾を幽霊に向かって撃つと、『アアアア……』という苦しい声をあげながら幽霊は消滅していった。
「アルテナ様! 大丈夫!?」
ミラが心配そうに駆け寄ると、アルテナは少し顔を青ざめながらも起き上がる。
「だ、大丈夫だけど……うげぇ……なんか気持ち悪いわ。なんだったのあいつ」
「あれはレイスね。実態を持たない幽霊みたいな魔物で、生者から生命力を吸い取ったり、闇の魔法で攻撃してくるわ。さっきみたいに壁をすり抜けての奇襲もしてくるからそれが厄介ね」
「うぐぐ……油断したわ」
「はぁ……相変わらずあんたは、普通に戦えば強いのに搦め手には弱いわね」
「なんですって!? いきなり壁を突き抜けてくるなんて思わないでしょ!?」
「そんな言い訳通用しないわよ。もっと気をつけなさい」
「ぐぬぬ……」
私の呆れた目に何も言い返せず、アルテナが歯を強く噛みながら悔しがる。
まあここら辺にしておこう。
こういうところをサポートするのが私の役目だしね。
その後、レイスが上空に何匹か出現して遠距離から闇の魔法球を飛ばしてきたり、生命吸収で襲い掛かってきたが問題はない。
なにせレイスは物理には強いが、魔法や聖なる道具には弱いのだ。
つまり。
「えーい!」
ミラがこのために持ってきた聖水を収納から出し、レイス達向かって投げてぶちまけると、苦しい声を出していきながら消滅する。
私もさっき使った光弾で撃ち抜けば一撃だ。
奇襲されなければ問題はなかった。
その後も襲撃を何度も突破して大通りを進んでいくと、目の前に黒スケルトンの残骸や、戦闘の後と思われる痕跡が見つかる。
「これは……ついさっき誰かがここを通ったみたいね」
ダンジョンの傷や放置された物は、ダンジョンが勝手に修復したり吸収する。
まだそれが起きてないってことは、ついさっきの出来事というわけだ。
「ふ、『紅蓮の鉄槌』のやつらに追い付いてきたってことね」
「シャルルちゃんたちがすぐ近くにいるってこと?」
「ええ、急ぎましょう」
さっき倒したばかりなら魔物の再出現もないはずだ。
探知魔法を展開しながらカーシャさんたちに追い付くため走り出す。
そして数分後。
「これは……なに?」
前方から冷気をまとった霧が漂い始め、思わず足を止める。
「なんだろう……この霧?」
「レイスのボスでもいんのかしら?」
「わからないけど……油断しないで」
凍えるような冷気が体を撫でる中、警戒しながら進むと、大通りを抜け、深い霧に包まれた広い場所へ出る。
霧の発生源はここのようだ。
「アルテナ、ミラ、気を付けて。霧の中に反応が4つあるわ」
「どんな魔物がいるの?」
「いや、この反応は魔物じゃないわ……人間?」
その時、霧が徐々に薄くなっていき、三人の人影が浮かび上がってきた。
それは……。
「え……?」
「な……!?」
「しゃ、シャルルちゃん!?」
霧の中から浮かび上がったのは倒れた『紅蓮の鉄槌』の三人だった。
何かにやられた……!?
すぐに回復しなければと思い、駆け寄ろうとしたその時。
「エレン! 危ない!」
「え?」
その瞬間、目に見えない速さで謎の人物が私の目の前まで迫り、私に向け凶刃を振るう。
その直後、カキーン! と音がし、気づくと、アルテナが双剣で凶刃を防いでいた。
「な……!?」
「エレン様!」
突然の出来事で後ろに倒れた私にミラが駆け寄ってくる。
一方、霧の中から現れた謎の人物は、攻撃を防がれたとわかると素早く後ろに跳んで距離を離した。
「何者よあんた……!?」
その人物はまるで地球の侍のように白い着物、青い袴、頭には丸い笠、そして、腰に刀を付けている長身の人物だった。
「何とか言いなさいよ!」
アルテナが剣を向け誰かと呼びかける。
しかし、一瞬で間合いまで近づいたあの速さ……そしてあの武器。
私にはある程度見当がついていた。
「……」
その人物は、頭に付けた笠を無言で放り投げる。
その下には……私たちのよく知る顔が存在した。
「はぁ!?」
「え?」
「やっぱりあなただったのね……マルタ」
良いところですが書き溜め分がなくなったので週2、3回の投稿に戻ります




