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141話 決戦前夜②

 ダヴィド side


 ヴェインの町は今、魔物の暴走(スタンピード)が起きるという事実の影響で混沌に包まれている。

 絶望に満ちた嘆きの声……俺がたまらなく好きな音だ。

 だが……。

 

「……騒がしいな」


 怒りと屈辱に塗れた今の俺にはただ耳障りだ。

 エミールの屋敷でアーシャという女に殴られ逃げた俺は今、路地裏にある廃屋で一夜を明かしている。

 

「こんな気分を味わうのは五年ぶりだな……」


 ランプでわずかに照らされた廃屋の中、目を閉じた俺は過去を追想する。


 今から五年前、俺は暗殺ギルドに所属するプロの暗殺者として活動していた。

 特に俺が依頼を受けたのは王族貴族など身分が高い傲慢な奴らだ。

 そういう奴らが死を前に絶望し、嘆く姿は俺を歓喜に満たす。

 俺のユニークスキルを使えば誰にも気付かれず行動し、暗殺することができる。

 いつしか俺は「王族殺し」の異名がついていた。


 しかし、ある王族の暗殺に向かった時のことだ。

 仲間と思っていたギルドの連中に裏切られ、俺は捕まった。

 「お前は優秀すぎた」との事だ。

 まさか同僚の嫉妬で足元をすくわれるとはな。

 運よく脱獄には成功したが、プライドはズタズタだった。

 国は俺を逃がした失態を認める訳にも行かず、処刑したと公表したが、裏では血眼になって俺を探してるだろう。

 暗殺ギルドも同様の可能性が高い。

 しばらく身を隠さなければならなくなった俺は、辺境の町ヴェインへと流れ着いた。

 首都から遠く離れ、活気があるこの町ならいい隠れ蓑になると踏んだのだ。

 領主のエミールは金のことしか頭にないバカだったのもちょうどよかった。

 貴族にこき使われるのは癪だったが、まあ仕方あるまい。

 必要なくなったら無様に殺せばいいだけだ。


 それから影無として活動した俺は、少しずつプライドを取り戻して行った。

 そろそろエミールを裏切り町を出るか思っていたある時、招待した女冒険者達を必要に応じて暗殺しろと依頼を受けた。

 いつも通り、取るに足らない任務……の筈だった。

 

「誰!?」

(な……!?)


 スキルで隠れて観察していた俺に対し、エレンという奴が武器を向けたのだ。

 瞬時に逃げ出した俺は仕事を果たせず、エミールが裸土下座すると言う面白い結果になったが、まあそれはどうでもいい。

 まさか俺を感知できる奴が存在するとは。

 すぐにでも排除したかったが、万が一失敗し、俺の存在が露見したらと思うとうかつに手が出せない。

 幸いにも奴らはダンジョンを目的に来た、ただの冒険者。

 警戒は必要だが、エミールが余計な事をしなければ今後関わることはないだろう。

 だが、その考えは甘かった。


「させるかぁ!!」

「ぐぉ!?」


 奴がフードで正体を隠していることに気づかずその結果、俺はアーシャという女に殴られ、ドン・ガイという男に捕まった。

 まさか二度もこんな屈辱を味わうことになるとは。

 しかし、奴らの会話で俺を感知できた理由はモノクルにあるとわかった。

 地震に乗じて拘束から逃れた俺は、瞬時に奴のモノクルに向かってナイフを投げ破壊。

 その後、ドン・ガイの追走を振り切り逃げ延びた。

 これでもう俺を感知することはできない……だが。


「この怒りが収まるはずもない……か」


 追走を終え目を開けた俺は、ほほに手を添える。

 傷はポーションで治したが、完全ではない。

 痛みが走るたび、奴らへの憎しみが増していく。

 特に俺のユニークスキルへの自信を砕いたエレンという女は生かしておけん。


「奴らをどう殺してやろうか……」


 モノクルを破壊した以上、恐れるものは何もない。

 一つ問題があるとすれば、俺の存在が露見してしまったことだ。

 だが、それも解決策はある。

 要は町の住民全員殺してしまえばいい。

 

「魔物の暴走か……。せいぜい利用させてもらうとしよう……クックック」


 奴らの絶望に満ちた表情を想像しながら、俺は夜明けを待った。



                     

                  ※ 



 カーシャ side


 もうすぐ夜が明ける時間、ギルドの医務室で寝ていたアタイは静かに起き上がる。

 ダンジョン用の装備に着替え、姉さんや仲間に宛てた手紙をそっとベットの上に置く。


「さて、行くとするか」


 アタイは今、最下層へ一人で挑もうとしている。

 故郷であるこのヴェインを救うために。


「姉さんがいたら間違いなくぶん殴られるだろうね……」


 自殺行為だってのはわかっている。

 でも、魔物の暴走が起きれば町は滅びる。

 町を救うには、最下層をクリアしダンジョンコアを手に入れるしかない。

 けれど、それは余所者である『カタストロフ』の連中じゃだめだ。

 たとえ魔物の暴走を止められたとしても、ダンジョンを失ったヴェインは廃れた田舎町に逆戻りするだけ。

 ダンジョンコアは貴重な宝でもある。

 それをアタイが手に入れれば大金を基にヴェインで新たな事業を展開することだってできる。

 それは、アタイにとって命を懸けるに十分な理由だった。


「イサーク、シャルル……最後まで勝手なリーダーですまないね……」


 昨日の夕方、三人で集まり現在の状況を話したのが最後だ。

 もうその時から一人で挑むことは決めていた。

 何故なら、これはアタイの個人的な事情だからだ。

 二人を巻き込むわけには行かない。

 

 

「よし……行くよ!」


 意を決して医務室のドアを開けたその時。


「内緒でどこ行く気リーダー?」「どこに行くんだリーダー?」

「うわ!?」


 驚いて後ろに倒れる。

 扉の外にはシャルルとイサークが不敵な笑みを浮かべて立っていた。


「きゃはは♪ ドッキリ大成功~♪」

「俺はするよりされる側がいいんだけどな、はっはっは!」


 くそ、まんまとしてやられた……。

 いやそうじゃなくて。


「な、なんで二人がいるのよ!?」

「いや~だってリーダーちょ~わかりやすいし~」

「どうせ町を救うため、最下層に一人で挑もうとしてたんだろ? 全部顔に出てたぜ!」

「う……」


 図星を突かれた。

 確かに昨日話した段階で一人で挑むことは決めてたけど、まさか全部バレてるなんて……。

 あまりの恥ずかしさに顔を手で少しの間覆う。

 

「……だからってなんでここで待ち構えてたのさ? 悪いけどアタイはもう決めたんだ。止まる気は……」

「いや、止める気なんてないし~。ただ~、水臭いんじゃないかな~?」

「え……」

「察しが悪いぜリーダー。俺たちも行くって言ってるんだ」

「な……!?」


 アタイが驚く顔を見て、二人は暖かい笑顔をこっちに向ける。

 

「ダンジョン攻略の栄光を独り占めにしようだなんて許せないしね~」

「負けっぱなしで終わるのはさすがの俺も趣味じゃないからな」

「イサーク……シャルル……ありがとう」


 あふれ出る涙を腕で拭いながら礼を言う。

 まったく命知らずな連中だよ……。

 いや、それはアタイも一緒か。

 何を言っても無駄だろう。

 きっと二人は勝手についてくる。

 だったら。


「イサーク、シャルル、行くよ! 『紅蓮の鉄槌』結成以来の大勝負に!」

「了解~♪」

「おう!」


 二人を連れ、アタイはダンジョンへと足を進めた。

キャラの気持ちなどを書くシーンは苦手です。

雑になったりもっとここのシーンを詳しくとかあったら教えてくれると嬉しいです

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