138話 作戦会議
いつも賑やかで活気があるヴェインの町。
この町は今、未曽有の危機にさらされていた。
「魔物の暴走が起きるって本当か!?」
「ああ、数時間前の地震は間違いなく魔物の暴走の前兆だ!」
「ウソでしょ……!? 早く逃げなきゃ! この町は終わりよ!」
冒険者ギルドが緊急クエストを発令してから数時間。
魔物の暴走の噂はすぐ町全体に広がった。
混乱が夕暮れの町を満たし、人々の悲痛な叫びがあちこちから響いてくる。
まるで終末を迎えた世界のようだ。
「やれやれ、みんな慌てすぎでしょ」
アルテナが町を見渡しながら呆れた声を出す。
「無理もないわ。大災害が起きるって言われて、冷静でいられるほうが少ないわよ」
地震という前兆のせいでギルドが発表せずとも魔物の暴走の話は広まってしまい、町は大混乱に陥っていた。
特にひどいのはヴェインの町から出る唯一の門、南門である。
「おい、早く門を開けろ!」
「どけよ! 俺はまだ死にたくねぇんだ!」
「皆さん! 落ち着いてください! 夜外に出るのは危険です!」
「この町にいるほうが危険だろう!? 俺たちを殺そうっていうのか!?」
「魔物の暴走は今日明日起こるものではありません! 落ち着いてください!」
そこはすでに、町から逃げようとしている馬車の行列が出来ていた。
しかし、現在の時刻は時刻は夕暮れ。
夜という危険な時間に門を開けるわけにもいかず、町の兵士や冒険者が必死に落ち着かせていた。
「み、みんな怖いよ……」
「ミラ、大丈夫?」
おびえたミラを抱きしめる。
これ以上混沌とした町の中に居るのはきつそうだ。
「アルテナ、ギルドに戻りましょう。アーシャさんも戻って来る頃だわ」
「そうね」
町の混乱を確かめた私たちが冒険者ギルドへ戻ると、そこもいつもと違い緊迫とした雰囲気が漂っていた。
「畜生……まさか魔物の暴走の発生に巻き込まれるとはな……」
「おいおい!? 数万の魔物を相手にしろって命がいくつあってもたりねぇぞ!?」
「話を聞いてたのかお前? 俺たちの役目はあくまで住民たちの護衛だ」
「何やってんですかそこのサボり魔共! あんたたちもさっさと仕事しろですよ!」
「「「うぎゃぁ!?」」」
端のほうで話していた冒険者の尻を、マルタが蹴り上げて仕事に向かわせる。
ギルドも鬼ではない。
冒険者に課せられた任務は魔物を倒すことではなく、住民が安全に避難できるようにすることだ。
そのため、今は町の兵士たちと協力し町の混乱を治めるよう言われている。
私達も本来そっちへ参加するべきなのだが……。
「おや、カタストロフの皆さん戻ったんですね! 上の会議室でギルマスたちがお待ちですよ!」
マルタにそう言われ会議室へ向かう。
そこには、ドン・ガイさん、自警団リーダーのアーシャさん、執事のブレットさん、その他ギルド職員や町の重要人物たちが集まり、長いテーブルに座っていた。
私達も並んで席に着く。
「やあ戻ったね君たち。町の様子はどうだった?」
ドン・ガイさんに町の様子を説明すると考え込む姿勢をとる。
「そうか……やはり混乱は避けられないね。では今から、魔物の暴走における作戦会議を始めよう。ちなみに領主エミール様は先ほど話した通り、現在失神中のため代理で執事のブレット君に来てもらっている」
「よろしくおねがいします」
紹介を受けたブレットさんが立ち上がり、皆に頭を下げる。
まあエミールが失神してなくてもこうなっていた気はするが。
「じゃあまずは……」
「あの……会議を始める前にちょっといいかしら?」
話の腰を折るようで申し訳なく思いながらも手を挙げる。
「なんだい?」
「どうして私達もこの場に呼ばれてるのかしら? 一介の冒険者の筈だけど……」
「それは君たちを優秀な冒険者として見込んでの事さ」
「いや……私たちはまだランクEの冒険者……」
「今はランクなんてどうでもいい。君たちの強さはこの場にいるみんながわかっているだろう?」
その言葉にブレットさんとアーシャさんを含めた皆が頷く。
「そうですね、なにせエミール様を裸土下座させたほどですし」
「それにダンジョン最下層までたどり着いてる冒険者なんだからよ、謙遜する必要ねぇってエレン!」
アーシャさんが背中をバシバシたたく。
いや、謙遜してるつもりはないんだけど。
「クックック、みんなわかってるじゃない」
「あなたはいつもお気楽でいいわね……」
アルテナの性格がなんかうらやましくなってきた。
まあここまで来たら仕方ない。
いったん流れに身を任せることにして、ドン・ガイさんの話を聞く体制に入る。
「まずはみんな知っての通り、この町で魔物の暴走が起きようとしている。魔物の暴走というのは、ダンジョンコアの暴走によりダンジョン内から数万の魔物が溢れ出す現象の事だ。本来その時、町を守る対策や住民を避難させる準備を領主が行っているはずなんだが……」
そこで執事のブレットさんとアーシャさんが口を開く。
「残念ながら私の知る限り、そのような準備をエミール様はしていませんでした」
「代わりにあいつの屋敷をひっくり返したり、ぶっ壊したりしたら不正の証拠がバンバン出てきたぜ。影無に仕事を依頼していた証拠書類もな。あいつはとりあえず牢屋の中にぶち込んどいたぜ」
会議室にどよめきが走り、領主に対する怒りや悲しみの言葉があちこちから聞こえ始める。
というか今ぶっ壊したって聞こえたけど屋敷は大丈夫なのだろうか?
「皆静粛に。起きてしまったことは変えられない。今は魔物の暴走を乗り切ることだけ考えよう」
ドン・ガイさんの言葉に皆が静まり返る。
「いくつか聞いておきたいことがあるんだけどいいかしら?」
「なんだいエレン君?」
「ダンジョンの入り口はギルドにある転移陣なのよね? それを壊したりはできないのかしら?」
「いや、破壊したとしてもすぐ修復されてしまうんだ。だから入り口を無くすことはできない。
なるほど、そううまくはいかないか。
「ギルドを封鎖して中に閉じ込めるとかはできないの?」
「いや、転移陣で中に入るダンジョンは魔物の暴走の時、周囲に転移陣を生み出すんだ。だからギルドだけに閉じ込めることはできない」
「……それってつまり、魔物の暴走が起きたら町中から魔物が湧き出すって事?」
ドン・ガイさんが無言で頷く。
最悪な事実だ。
これじゃあ町が滅びるのは避けられそうにない。
「ところで、魔物の暴走は具体的にいつ起きるの?」
「誤差はあるが、過去の記録を見る限りではおよそ三日後だ」
「三日……意外に猶予はあるわね」
不幸中の幸いというべきだろうか。
それくらいあれば、皆が避難する時間はありそうだ。
「だが、魔物の暴走が起きるという事実による混乱で暴動などが起きる可能性も高い。そこは我々がしっかり対処しなければならないね。あとは……」
その後はドン・ガイさんが避難先や物資、魔物の暴走で現れた魔物の対処など、問題を一つずつ取り上げて話を進める。
さすがギルドマスターだ。
変態じゃなければ完璧なのに。
そしてしばらくして、私たちに話が振られる。
「さて、カタストロフの君たちには食料や水など重要な物資の運搬を頼みたい」
「物資の運搬? それってもしかして……」
「ああ、ミラ君の力を借りたいんだ」
なるほど、ミラの収納能力なら相当な量の物資を運ぶことができる。
「君たちなら信頼できるしね、頼めるかい?」
「ミラ、出来そう?」
「うん。ミラ頑張るよ」
ミラは両手をグーにしてやる気をアピールする。
これなら大丈夫だろう。
重要な役回りだが、魔物を迎え撃つとかそういう危険な立ち位置じゃなくてよかった。
「じゃあドン・ガイさん、その任務引き受け……」
「気に入らないわね」
「え?」
隣に座っていたアルテナが不機嫌な顔で立ち上がる。
なんだろう。
(ものすごく嫌な予感がする……)
そしてその予感はこの後、当たり前のように的中するのだった。
特にオチもないですが次回に続きます。
そろそろ書き溜め分がなくなって来た。




