136話 エレン、暗殺者を見つける
「な、なぜ貴様がここにいる!?」
「私だって、来たくて来たわけじゃないわ」
人の顔を見てそんなに驚くなんて失礼なやつだ。
まあ忌々しい相手がいきなり現れたらそうもなるか。
「エレン、お前とそのモノクルのおかげで助かったぜ」
アーシャさんがこぶしを突き出してきたのでグータッチする。
なぜ私がここにいるのか、それは数時間前に遡る。
私達三人はアーシャさんの依頼を受け、共にギルドにある会議室へやってきていた。
「来たね、アーシャ君、そしてカタストロフの諸君」
その部屋にはすでに、ドン・ガイさんのほかにこの町出身の自警団や兵士、冒険者の面々が十数人集まっていた。
「さて、みんな集まってくれたね。これから秘密の作戦を開始する」
ドン・ガイさんの話によると、領主のエミールが影無を雇っていて、その正体が「王族殺し」と呼ばれる伝説の暗殺者ダヴィドの可能性があるという事だった。
ただ証拠がないため、まずアーシャさんとドン・ガイさんがエミールに直接会い、会話の途中で罠をかけ炙り出す。
そして黒だと判明した場合その場で捕縛。
もし逃げられたら、あらかじめ屋敷の外で待機させていた他の人員でカバーするという作戦だ。
私達も外での待機組に加わる。
「本当はもっと人員を増やしたかったんだけど、この作戦はバレるわけにはいかないからね」
確かに事前にバレたら元も子もないし、白だった場合、貴族にあらぬ疑いをかけたと問題になる。
だからこそ周りに漏れないよう、信頼できる人たちだけで構成したため、人員を多く用意出来なかったそうだ。
「わりぃな、結局お前たちも巻き込んじまって。でも相手が本当に伝説の暗殺者ならこの町だけの問題じゃねぇし、少しでも戦力が欲しかったんだ」
アーシャさんが申し訳なさそうな顔をして私達に言う。
「ふ、気にする必要ないわよ。伝説の暗殺者……どんな奴か楽しみだわ」
「悪い人なんだよね。怖いけど……ミラも頑張るよ」
アルテナとミラはすっかりやる気だ。
「へ、サンキューな。野郎ども! 今日で影無事件を終わらせるぞ!」
「「「「「おー!!!!」」」」」
参加しているメンバーもみんなやる気と期待に満ち溢れている。
それはそうだろう、五年間も町を苦しめてきた連続殺人事件に終止符が打たれるかもしれないのだから。
そして、その光景を見て私は……。
(い、胃が痛い……)
めちゃくちゃ胃痛に襲われていた。
(ど、どうしてこんなことに……)
心の中で頭を抱える。
そりゃそうでしょう?
今こんな状況になっているのは私のせいといっても過言じゃないのだから。
アーシャさんから相談を受けた時、ダヴィドという名前を出しただけなのにこんな大ごとになるなんて。
事件が解決する分には全然かまわない、むしろ嬉しいまである。
しかし、もし私が名前を聞き間違えていたら……、そもそもエミールが白だったら……。
もともとアーシャさん達も疑ってたとはいえ完全に無駄足だった場合、みんながどんなに落胆するだろうと思うと罪悪感がやばい。
(しょうがない、こうなったら……)
私はアーシャさんとドン・ガイさんにある提案をすることに決める。
「私も二人に同行しちゃダメかしら? 多分役に立てると思うわ」
「ふむ、それはどういうことだい?」
ドン・ガイさんの疑問に対し、私は目に取り付けていた鑑定モノクルを指さし答える。
「これは隠れている相手の場所がわかる魔道具なの。暗殺者が近くに潜んでいた場合、きっと見つけられると思うわ」
以前、探知魔法の事をごまかすために考えた設定だ。
モノクルの事はアルテナとミラ、マルタしか知らないから通じるはず。
「ほう、そんな魔道具を持っていたのか。それなら是非お願いしたいところだが……」
「暗殺者がいるかもしれないんだぞ、わかってんのか?」
「だからこそよ」
無論罪悪感だけでこんな提案はしていない。
以前領主の屋敷で見かけた人物が暗殺者だったら、今回も見つけられる可能性が高い。
居場所さえわかってしまえば、二人ならたぶん何とかしてくれるだろう。
話し合いの結果、私は正体がばれないようフードを被って二人に同行、アルテナとミラは当初の予定通り屋敷の外で待機となった。
そして数時間後、作戦通り応接室でエミールと対面する時がやって来る。
(さて、暗殺者は……え?)
思わず目を疑った。
エミールの後ろから人型の赤い魔力がついてきたのだ。
それは、ソファーに座ったエミールの背後で立ち止まった。
(まさかこんな大胆にいるなんて……)
おそらくこれが暗殺者だろう。
魔力が赤いということは、こちらに敵意を向けているからだ。
見つけた、というか探す必要がなかった。
てっきり床下や天井裏、隠し部屋に潜んでいるのかと思った私は拍子抜けする。
(でも、誰も気づいていないようね……)
ちらっと隣の二人を見るも、気づいている様子はない。
魔法で姿や気配を消しているのだろうか?
でも魔力は隠せないみたいで、私にはばっちりと目に映っている。
(これが頭隠して尻隠さずってことなのかしら……?)
「そのフードを脱げ。顔を見せろ」
「……!」
エミールが私に声をかけてたので、とっさに下を向いて顔を隠す。
「貴様……!」
「すまないね、この子はちょっとシャイなんだ。許してあげてほしい」
そのタイミングで私は二人に耳打ちしてその存在を伝えた。
(彼の後ろだって……?)
(マジか……?)
顔に出さず驚く二人。
「ふむふむ、ごめんなさいだってさ」
「ふん、無礼なやつだ」
「それよりも本題に入ろうじゃないか」
ドン・ガイさんが私からエミールの気を反らし、話を続ける。
しかし、暗殺者はどんな方法で隠れているのだろう?
正体を見極めるため、密かに鑑定を使う。
しかし。
(……あれ?)
どういうことだろう、鑑定ができない。
姿が見えないだけなら鑑定が発動するはず。
試しにエミールを鑑定したところ、鑑定は発動した。
どうやら故障ではないらしい。
(どういう事……?)
まるでそこにいないようだ。
実は、本体は遠隔で魔力を操作しているとか?
考察を続けていたその時。
「そうか、ならダヴィド君にとっとと始末させたらどうなんだい?」
「それは出来ん! 万が一奴が暗殺に失敗した……ら……」
ドン・ガイさんの罠にエミールがはまった。
事前に私たちの事を話題に出して平静さを失わせたようだ。
(変態だけどさすがギルドマスターね)
これでエミールが黒だという事も、私の情報が正しいことも証明された。
だが、安堵する暇はなかった。
エミールの後ろにいた人型の魔力が一瞬で暗殺者ダヴィドの姿へと変わったのだ。
「エミール……貴様……!」
そのままダヴィドはエミールの首をめがけてナイフを振り下ろす。
なるほど、こういう手口だったのか。
気配も姿もない状態から一瞬で現れることができるなんて。
こんなの普通は対応できない。
だけど、今回は違う。
「させるかぁ!!」
事前に具体的な場所を聞いてたアーシャさんは即座に反応して突っ込み、エミールを横に突き飛ばしながらナイフを振りかぶった腕をつかむ。
そしてもう片方の腕でダヴィドの顔を殴り飛ばした。
「ぐぉ!?」
吹き飛んだダヴィドはひびが入るほどの勢いで壁に激突する。
「やっと一発入れられたぜ……影無さんよぉ!」
「ぐ……!?」
すごいスカッとした顔をするアーシャさん。
そしてその隙を逃さず、ドン・ガイさんがダヴィドの腕をひねり上げながら床にたたきつける。
「やっと捕まえられたよ、ダヴィド君」
二人とも流石だ。
こんなあっさり捕まえるなんて。
……そして現在に至る。
「これで事件解決ってところかしら?」
「く、くそ……!」
エミールが慌てて起き上がりながらドアのほうに逃げる。
しかし、無駄な抵抗だ。
「逃がすと思ってんのか!?」
アーシャさんにあっさり先回りされ、エミールは胸ぐらを掴まれる。
「てめぇは絶対許さねぇ!」
「き、貴様! 貴族である俺様にこんなことをしていいと思って……」
「うるせぇ!!」
ブチ切れたアーシャさんの顔面ストレートがエミールに炸裂し、歯が何本も折れながら床に沈む。
そのままエミールは気を失った。
「ふう、スカッとしたぜ」
「アーシャさん……いろいろ話を聞かないといけないのに、これじゃあしばらく起きないわよ」
「あ、すまねぇ」
まあやっちゃうきもちはよーーーーーくわかるけど。
「後は……っ!?」
ダヴィドがまるで敵を見るような目で私を見つめていることに気付く。
「そうか……貴様……。その魔道具で俺の位置を……!!」
「妙な真似はしないことだ。何かしようならすぐその首をへし折るよ」
ドン・ガイさんがダヴィドの首を掴みながら言う。
あれは本気だ、ただの脅しじゃない。
「アーシャ君、ダヴィドを縛ってくれ。エレン君は外のみんなに連絡を……」
「ふ……俺を捕まえたと本気で思っているのか?」
フェイスマスクのせいで見えないが、ダヴィドが不敵な笑みを浮かべているように見える。
「その甘さが命取りだ……」
「一体どういう……む!?」
突如、屋敷が大きく揺れ始める。
「な、なんだ!?」
「じ、地震!?」
立ってられないほどの巨大な揺れが私たちを襲い、部屋の家具がガシャーンッ! と次々に落ちていく。
そして三十秒くらいたっただろうか?
ようやく揺れが収まり、ソファーを掴みながら立ち上がる。
「今のは一体……」
「エレン君! 避けろ!」
「え?」
顔を上にあげたその瞬間、私の目にナイフが突き刺さった。




