134話 領主の闇と成り上がり
私はエミール=ヴェルモン、貴族でありヴェインの領主だ。
今は自室で書類仕事をしている。
大量の書類を一枚一枚捌きハンコを押していく。
「面倒だ、だがうれしい悲鳴というやつだな」
七年前、この町はただの田舎町だった。
辺境にあり目立った特産品もない。
そのせいで貴族である私も貧しい生活をしていた。
ぼろい屋敷で使用人も数人しかいない。
食事も平民とほぼ変わらない。
ほかの貴族と会うとその差は大いに思い知らされる。
豪華な屋敷に贅沢な食事、高価な服にアクセサリ。
おかしいだろう、私も同じ貴族だぞ。
なぜこんなにも差が出なければならないのだ。
だがいくら妬んでも金は生まれない。
そんな時だった、町にダンジョンが出来たのは。
自然と人が集まり、国からは町の整備と魔物の暴走対策で堅牢な壁を作れるよう援助金が大量に送られてきた。
天は私を見放してなかった。
私はそれを使い、ダンジョンを中心にヴェインの町を改めて作った。
本来は魔物の暴走発生時、住人に被害を出さないよう町はダンジョンから少し離れた場所に作り。壁で隔てるらしいががそんなのは知らん、中心にあったほうが取引などで都合がいい。
そして、たった二年でヴェインは立派な町へと生まれ変わった。
なんと素晴らしい、ダンジョンは金のなる木だ。
生活も豪華なものになった。
立派な屋敷に豪勢な食事、多くの使用人、高価なものに囲まれる生活。
まさに私の求めていた物そのものだった。
しかし、そんな私を妬んだ者や、もうけを横取りしようとする者もなど邪魔な存在も当然出てくる。
大抵は処分できるが中にはずる賢い者もいる。
頭を悩ませていた時、奴が現れた。
「相変わらず仕事だけはマメだな」
「……ダヴィドか」
目の前に突然現れたのは黒い装束にフェイスマスクをつけた貴族の屋敷には似つかわしくない男。
私が五年前から雇っている暗殺者のダヴィドだ。
「もう驚かなくなったな」
「いい加減慣れた」
仕組みはわからんが、こいつは完全に気配どころか姿も消し、どこからともなく現れる。
初めて私の前に現れた時もそうだった。
奴は突然現れ、自身を匿う代わりに暗殺の仕事をするという内容で取引を持ち掛けてきた。
王族殺しとして名をはせ、殺されたはずの男が何故貴族の私にそんな取引を持ち掛けてきたのかは知らんが、私にとっては渡りに船だった。
奴の存在を知られないよう部屋をいくつか防音性に変えたりなど手間はあったが、邪魔者を労することなく排除できるようになった。
ただ、二つ予想外の出来事が起きた。
裏で汚いことをやっているのに感づいたのか、息子のエリックがある日突然消えたのだ。
部下に探させたが結局見つからなかった。
あいつは私の息子とは思えないほど誠実なやつだった。
今頃どこで油を売っているのやら。
もう一つはダヴィドが関係ない町の者を暗殺し始めたことだ。
どうやら奴は抑えられない殺人衝動を持っているらしい。
だが奴は暗殺に一切の痕跡を残さない。
そのおかげで私はより怪しまれることなく邪魔なやつを排除できるようになった。
すべて影無と呼ばれる無差別殺人鬼の犯行として片づけられるからな。
たとえそんな奴が町にいたとしてもダンジョンの魅力のほうが強く、町から住人が離れることはない。
ダヴィドという武器を手に入れた私に逆らえる奴はいなかった。
……あいつらが現れるまでは。
「ちょうどいい所にきた。仕事だダヴィド」
「……まさかカタストロフがらみじゃないだろうな?」
「違う! 忌々しい奴らのことを思い出させるな!」
最近現れたカタストロフとかいう冒険者の女たち。
先日そいつらを手に入れようとしたところ、反抗したのでダヴィドに殺させようとした。
だが、奴らの一人エレンという女がダヴィドの存在に気付いたというのだ。
そのせいでダヴィドは奴らに近づけず、私は返り討ちに会い、公衆の面前で裸土下座させられる羽目になった。
到底許せるものではないが、手を出さないと誓った以上闇雲に奴らを排除しようとして、関与がばれれば私の信用が地に落ちる。
ダヴィドの正体がばれるリスクも考えると、うかつに手を出すことができなかった。
「……奴らの事は調べたのか?」
「当然だ。だが碌な情報が見つからん!」
奴らの弱みを握れないかと部下を使って調べさせ、二か月ほど前ルベライトに現れたということはわかった。
だがそれ以前の情報が一切見つからなかった。
まるで突然この世界に現れたかのようだ。
使えるのはギルドに登録されたスキル情報程度だ。
「そうか……なら仕方ない。違うなら何の仕事だ……?」
「明日の午後、冒険者ギルドのマスタードン・ガイが来るそうだ。ダンジョンのことで話があるらしい。隠れて私の警護をしろ」
私はよくこの依頼をする。
単純な兵士よりダヴィドのほうがずっと優秀だからだ。
「……ギルドマスターが領主に危害を加えるとは思えんが?」
「念のためだ。奴は私を怪しんでいるからな」
部下の話によると奴は私の周囲を時々調べているらしい。
ダヴィドに始末させてもいいが、さすがにギルドマスター相手では事が大きくなる。
慎重に行くべきだろう。
「頼んだぞ」
「……御意」
奴が煙のように消えた後、私も仕事を中断し、その日を終えた。
そして次の日、ドン・ガイが来たと執事のブレットから知らされた私は、屋敷の通路を通り応接室に向かう。
「ブレット、まさかあいつは海パン姿で来てないだろうな?」
「いえ、ちゃんと正装をしていらっしゃってます」
「そうか、安心した」
一度だけその格好で来たことがあるからな。
あの時は素直に驚いた。
「後、お連れの方が二人いらっしゃってます」
「連れだと?」
ギルド関係者か?
そう聞こうとしたがちょうど応接室に着いた。
直接確認したほうがいいだろう。
「む?」
ブレットが扉を開け中に入ると、ドン・ガイのほかに自警団の長……たしかアーシャと言ったか。
そして黒いフードを被った何者かがソファーに座っていた。
向かいに座り、ブレットが礼をして部屋を出ると、私は口を開く。
「ドン・ガイ、ダンジョン関係の話だと聞いていたが、なぜ関係ないやつがいる?」
「いや、関係なくはないよ。今回の話は町全体に関わることだからね」
「ほう?」
何を考えているかは知らんがまあいい。
仮に私に危害を加えようとしてもこの部屋にいるであろうダヴィドがいる限り私は無敵だ。
さて、話を聞かせてもらおうか。
まじめなシーンはそこそこ苦手です。




