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130話 愚か者

 アルテナをてるてる坊主にした翌日(天気は快晴、効果あり)、「紅蓮の鉄槌」が最下層の攻略に失敗し、瀕死の重傷を負ったとアーシャさんの元へ知らせが来た。

 一緒にいた私達三人もそれを聞いて同行し、ギルドの医務室へ向かうとベットで眠っているカーシャさんたちがいた。

 ギルドの職員が言うには命に別状はないらしく、傷もポーションで治したのであとは目覚めるのを待つだけだと聞いた私達は、妹のそばにいると言って残ったアーシャさんを置いて医務室を出た。


「シャルルちゃん……大丈夫かな?」


 ミラが心配で泣きそうな顔をする。


「大丈夫、起きたらまた元気な姿が見られるわよ」

「うん、そうだよね」


 ミラを元気づけながらギルドの廊下を歩く。


「それにしてもカーシャさんたちがやられるなんて……」


 不利な状況だったとはいえ、私たちが手も足も出なかった魔物、ラディアドレイクを簡単に倒して見せたカーシャさん達。

 それがあっさりやられて帰ってくるなんて想像がつかない。

 最下層で何があったのだろう?

 そう考えながら廊下を抜けギルドのロビーへたどり着くと、いつもより暗い雰囲気が場を支配していた。


「おい聞いたか? 『紅蓮の鉄槌』が最下層の攻略に失敗したって話」

「ああ、瀕死の重傷だったって聞いたぜ」

「マジかよ……あいつら相当強かったはずだろ?」

「どんだけやべぇんだよ最下層……」

「だが初めてだろ? 最下層に挑んで生きて帰ってこれた奴?」

「いや、噂によるともう一人いたらしいが……それを抜いても幸運だったことには変わりないな」


 やはり冒険者たちはその話題でもちきりだった。

 これじゃあしばらく最下層へ挑もうとする者は現れないだろう。

 そのままギルドを出たところで、さっきからアルテナが何かを考えたまま口を開かないことに気づく。


「アルテナ、どうしたのよ? まだ首が痛むの?」

「違うわよ。ていうかそれはあんたのせいでしょうが!」

「騙されて金を使い込んだあなたが悪いわ」

「うぐぐ……あの露天商、見かけたら絶対許さないんだから……!」


 まあ今度からアルテナに買い出しを任せるのは絶対止めよう。

 いつか破産しそうだ。


「で、結局何を考えてたの? やっぱりカーシャさんたちの事?」

「それ以外に何があるっていうのよ」


 なるほど、アルテナもカーシャさん達を心配してたようだ。

 不謹慎だがこれが理由でしばらくダンジョン攻略を中止してくれたら嬉しい。

 いや、むしろ怖くなって攻略自体を諦めてくれたら最高……。


「エレン、次のエリアの攻略の準備ってもう出来てるの?」

「昨日あなたが買い出しに失敗しなければ出来てたわよ」

「てことは、今から買い出しに行けば明日攻略に出発できるって事ね!」

「は?」


 アルテナが目にやる気の炎をともし、拳を強く握り始めた。

 いやいやいやいやいや。


「カーシャさんたちがあんな目に会ったって言うのに、なんでむしろやる気を出してるのよ!?」

「だからこそよ! きっとあいつらは今回の失敗をバネにして、次こそ攻略を成功させようと意気込むに違いないわ!」

「そ、そうかしら……?」


 確かに無いとも言い切れないが。

 というかこの流れはまずい。


「アルテナ、せめてカーシャさんたちが目を覚ますまで待った方が……」

「そんな悠長な事してたら次こそ先を越されるかもしれないじゃない!」


 駄目だ、中止どころかむしろやる気を出してしまった。

 淡い期待を抱いてミラに助けを求める。

 

「でも一昨日戻ったばかりだし、ミラもまだ疲れてるんじゃない?」

「ミラはもう大丈夫だよ」


 うん、速攻で期待を打ち砕かれた。

 そこは嘘でも疲れてるって言ってほしかった。


「それに……ミラも攻略頑張りたい。シャルルちゃんたちに追いつきたいから」

「え?」


 どういう事だろう?

 まさか、ミラまで対抗意識を持ち始めた?


「ミラ、何であなたまで……?」

「だって……ミラもその最下層って所に行けるようになって、シャルルちゃんの力になりたいもん」

「ミラ……」


 思わずミラを抱きしめ頭をなでる。

 なんていい子だろう。

 対抗意識じゃなくて、友達を思っての事だったなんて。


「はぁ……しょうがないわね。アルテナ、ダンジョン攻略頑張りましょう」


 ミラまでやる気になってしまったならもう何も言えない。

 それに首尾よくいけばカーシャさん達と協力して最下層攻略という流れに持って行けるかもしれないし、ここは諦めよう。

 

「クックック、あんたもやる気になったみたいね。よし、今日中に準備を整えて明日出発よ! おー!」

「おー!」

「おー」


 みんなで攻略を誓いガッツポーズをする。

 その後、町で買い出しをしてカルロさんの道具屋に戻り、明日からの攻略に向けて準備を進めた。

 そして次の日の朝、万全な準備を整えた私達はギルドの扉をくぐる。

 中はいつも通り冒険者たちが騒がしく、昨日の暗い雰囲気は完全に無くなっていた。

 まあダンジョンで冒険者がケガして帰ってくるなんて、おそらく日常茶飯事だから皆慣れているのだろう。

 その中を進み、相変わらず誰も並んでいないマルタの受付へ向かう。


「クソウサギ、今回も来てやったわよ!」

「おや『カタストロフ』の皆さんいらっしゃい! 今回は鉱山エリアで荒稼ぎですか!? ではポンコツさんには先端が無いつるはしと頭部分が欠けたヘルメットを用意しますので安心して作業してください!」

「安心できるか! どっちも大事な部分がないじゃないの!」

「今なら30%引きでご提供します!」

「誰が買うか!」

「へぇ……てっきり食いつくかと……。成長したわねアルテナ」

「あんた、私の事何だと思ってんのよ!?」


 ポンコツ女神だけど?

 まあそれは置いといて。


「マルタ、私たちは次のエリアの攻略に挑みにきたのよ」

「はぁ?」


 マルタが急に冷たい視線を送ってくる。


「昨日『紅蓮の鉄槌』があんなことになったって言うのによくやる気になれますね。バカですか? 自分たちなら大丈夫とか言っちゃう頭お花畑野郎ですか?」

「なんですって!?」


 アルテナが反論すると、マルタは真剣な表情になりこちらを見つめてくる。


「もういいじゃないですか、攻略なんか進めなくたって。鉱山エリアで十分稼げますし、無駄な危険を冒す必要はありませんよ。どうせ最下層は攻略出来ないんですから」


 心の中で同意するほど現実的な提案だ。

 でも、アルテナにそういうのは通用しない。


「ふ、金なんて二の次よ。あたしの目的はダンジョン攻略。『紅蓮の鉄槌』に先を越されるわけには行かないのよ」

「ミラも、シャルルちゃんに追いつきたい」


 アルテナに同意するように、ミラも私の後ろからちょこんと顔を出しそう言う。

 その時。


「いいじゃないですかあんな”愚か者”共は!!」


 マルタが机をバン! と叩き、ギルド中に木霊するほどの声で叫ぶ。

 一瞬皆が驚き、ギルドが静まり返った。


「ま、マルタ……?」

「……すいません。つい感情的になりました。攻略頑張ってください。私は仕事がありますので失礼します」


 そう言ってマルタは受付を離れギルドの裏へ行ってしまう。


「ど、どうしたってのよあのクソウサギ?」

「す、すごい怒ってた……」


 アルテナとミラはマルタの豹変に唖然としている。


「……愚か者」

 

 何故マルタがそんなことを言ったのかわからない。

 ただ、単純な感情ではないように感じた。

 

「ふん、さっさと行くわよエレン、ミラ」

「ええ……」

「う、うん」


 マルタが気になるが、恐らく今は何を聞いても無駄だろう。

 アルテナの後を追い転移の間へ入った私たちはダンジョンへと入り、階段を下りていく。

 そして、その先には。


「ここが次のエリアってわけね、って寒!?」

「白いのがいっぱい降ってるよ!」


 真っ白な雪が降り積もり、辺り一面銀世界が広がる極寒の大地。

 やれやれ、今回も一筋縄じゃ行かなそうだ。


「思ってたより寒いわね、さあ『雪山』エリアの攻略、始めましょうか」

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