125話 王族殺し
アーシャ視点で物語が動きます
アーシャside
今日も影無に住民を殺された。
相変わらず一切の痕跡が無く、追うことが出来ない。
拳を地面にたたきつける。
自慢の拳も振るう相手がいなきゃ何にもならない。
無力さを味わいながら夫のカルロと相談する。
その時、エレンたちがダンジョン攻略から帰ってきた。
慌てていつも通りのテンションで迎えるが、エレンが怪訝な顔をしていた。
鋭い奴だ。
こいつは魔道具で色々な魔法を使えるらしいが、体の強さは常人以下。
妹のカーシャが役立たずと判断するのも無理はない。
だが、こいつは仲間から信頼されている。
砂漠の冒険でもかなり活躍したと本人たちから聞いた。
カーシャが評価を変えるのもそう遠くないかもな。
そして夜、アタシは旧居住区にある酒場へ行こうとしていた。
そこでは時々領主と影無の繋がりを疑い、捜査している仲間と情報交換する秘密の会談をしていた。
正直今回もこれといった進展はないんだろう。
そう思いながら家を出ようとすると、エレンに見つかり慌てた挙句、カマをかけられ影無に関係することだとばれてしまった。
偶然らしいがやっぱこいつはすげえ。
町の住民じゃないやつを巻き込むのが嫌で黙ろうとしたが、アタシを本気で心配してくれることがうれしく、精神的に弱ってたアタシはつい甘えて知ってること、そして領主と影無の繋がりを疑ってることを話した。
そしたらエレンはアタシに新しい気付きと情報をくれた。
本当にこいつにはかなわないな。
それがこの捜査を進展させてくれるかはわからなかったが、会談の時間をとっくに過ぎていることに気づき、アタシは慌てて家を出て行った。
……十数分後、アタシは会談場所である酒場のドアを開けた。
店を見渡すと、隅のテーブルにフードとトレンチコートをそれぞれ着た二人の男が座っている。
アタシの仲間だ。
速足でその席に急ぐ。
「すまねぇ、待たせちまったな」
「君が遅刻とは珍しいね? 一体どうしたんだい?」
「ちと色々あってな」
ガラスのジョッキに入れられた度数の低い酒が半分ほど減っている。
どうやら結構待たせちまったらしい。
適当に謝って席に座る。
「今日はちとお前らに話さなきゃいけねぇことがある」
「……それは、君の居候である『カタストロフ』が影無に襲われていないことかい?」
「……なんだ、気づいてたのかよ」
エレンに指摘され気づいたおかしな点。
すでにトレンチコートの奴は気づいていたようだ。
一方、フードの男は黙っている。
「僕らはずっと領主と影無の繋がりを疑って捜査していたんだけどねぇ。彼女たちが無事ってことは、君の情報が間違ってたことになるけど……どうなんだい?」
フードの男が言及される。
こいつはいつもある方法で領主の館に潜入し、調査している。
そして、領主が怪しいという情報を持ってきて、アタシたちを集めたのはこいつだ。
「……すまない。だが領主に裏があることは事実だ」
「影無とは無関係だったって事かな?」
「……そうなる」
「はぁ……困るなぁ、僕も暇じゃないんだよ? 職場を騙して休んで捜査に協力してたっていうのに……ねぇ?」
トレンチコートの男からとんでもない圧が放たれる。
並の男なら恐怖で失禁しちまうだろうというくらいのプレッシャーだ。
「く……!?」
「おい、そこらへんにしておけ」
「……すまないね、大人げなかった」
まあ気持ちはわかる。
こいつは普段かなり忙しく、責任がある立場だ。
「でも、この前なんて”投獄された”日数をごまかしてまでズル休みしたのになぁ」
そう言いながらトレンチコートの男は帽子をとる。
金髪で長い耳が特徴の男。
こいつの名は”ドン・ガイ”。
冒険者ギルドのギルドマスターだ。
「おいおい、それはお前がアルテナに無理やりキスしたからだろ。ていうかどれくらいごまかしたんだ?」
「実際は一日だったんだけど、一週間ってギルドには伝えたよ。バレたらちょっとやばいかなぁ」
「よく一日で済んだな」
「ギルマスという権力のおかげさ」
「ぜってぇ悪用すんなよ」
こいつは普段トレンチコートには収まらねぇ筋肉をしているが、スキル『マッスル』のおかげですらっとしたスタイルの男にもなれる。
だからこそ姿は知られているが、筋肉をしぼめて顔を隠せばだれにも気が付かれないらしい。
「さて、話がそれたね。情報が間違ってたとはいえ、君が悪意を持っていたとは思わない。大事なのはこれからどうするかだよ」
「……そうだな。しかし……唯一の手掛かりが消えてしまった以上どうすれば……」
「その前に、アタシから話があるんだがいいか?」
アタシは手を挙げてそういうと、エレンから聞いた領主の館での起不可解な出来事を話す。
他人に相談したことにいい顔はされなかったが、話を聞いてるうちに二人は真剣な表情になっていく。
「ふむ、興味深いね。謎の敵に現れなかった部下……確かに不可解な話だ。君はどう思う?」
「応接室に隠し部屋があるとは聞いたことないが……くっ、もっと大胆に調査できればな」
「知られればそれで即終了だからな……本当にきつい相手だぜ……」
もし影無が館にいるなら妙な真似はできない。
怪しい行動を見られれば即殺されてしまう。
姿形も見えない、気配もしない、そしてどこにいるかもわからない。
そんなやつを警戒しながら調査しなければならない。
調査が進まない理由の大部分がそれだった。
「エレン君はほかに何か言ってなかったかい?」
「いや、アタシが聞いたのはそれくらい……ああ、そういや最後に何か言ってたな。確か領主の奴がその部下の事を”ダヴィド”って呼んでたらしい」
「……なんだと?」
「……なんだって?」
フードの男とドン・ガイの雰囲気が変わる。
「それは確かかい……!?」
「ああ。おい、おまえらまさか心当たりがあるのか?」
「……館で働いている者たちにそういう名前の者はいるかい?」
ドン・ガイがフードの奴に聞くが、首を横に振った。
それを聞いたドン・ガイは顔を下に向けると、体を震わせ、突如手に持ってたジョッキをバリンッ! っと握りつぶす。
「そうか……そういう事だったのか……!」
「しかしドン・ガイ、あり得るのか? 奴は五年前に……」
「……すぐ確認をとる必要がありそうだ。しかし、奴だとすると入念な準備が必要に……」
「お、おい! いったいどういう事なんだ!? そのダヴィドってやつは何者なんだ!? あたしにも説明しろ!」
急にすべての謎が解けたかのように話す二人についていけず、アタシは叫ぶ。
そして二人は顔を見合わせた後、そいつについてこういった。
王族貴族を数多く殺し、「王族殺し」の異名を持つ男。
五年前に捕縛され処刑されたはずの、”伝説の暗殺者”だと。




