108話 アルテナ、初めて活躍する
体調不良でしばらく休んでました。
久々の更新です
砂漠にはゴブリンアサシンと呼ばれる魔物がいる。
音もなく近づき、素早く両手に持ったナイフで獲物の首を掻き切る、砂漠のハンターと呼んでもいい魔物だ。
とある三匹のゴブリンアサシンは岩陰に隠れ、近づいた獲物を狩っていた。
そして、そこにドラゴンスケーターを操縦する私達が通りかかる……。
『『『ギィィィ!!』』』
獲物が来たことに小さく甲高い声を上げ、両手に鋭いナイフを持ち、獲物に向かって飛びかかる。
そして……。
ガン!!!
『『『ギィィィ!?!?』』』
「え?」
ゴブリンアサシンの一匹はドラゴンスケーターの首部分に激突、残り二匹は両翼の部分に激突し、上に吹っ飛んで行った。
「あー……」
人身(魔物)事故を引き起こしてしまった。
どうしよう……。
「ん? エレン、今なんか変な音しなかった?」
「エレン様、今のガン! って音なに?」
「えっと……な、なんでも無いわ」
二人はその瞬間を見ていなかったようなので、適当にはぐらかしそのままその場を去る。
まあ黙祷くらい捧げておこう。
「ところでエレン、次の階段の場所はまだ見つからないの?」
ウンザリした感じでアルテナが聞いてくる。
「姿形も見当たらないわね……」
まあアルテナがウンザリするのも無理はない。ロック鳥を倒し、再びドラゴンスケーターで砂漠を移動し始めてからすでに数時間。
時々火迅で空中に飛び上がり周囲を確認するものの、平坦な砂の大地しか見えず、階段を見つけられずにいた。
「そんなに見つからないもんなの? ダンジョンの広さって歩いて一日かければ回れる程度なんでしょ?」
「それは最初の階層の話よ。この砂漠エリアの広さはよく分かってないらしいわ」
「げ、それはかなり厄介ね……」
「階段は探知魔法でも見つからないしね。だから私任せにしないであなたもしっかり探して……」
「あ、エレン様! あっちに何かあるよ!」
後部座席にいたミラが何かを発見したらしい。
ミラが身を乗り出して指差す方向を見ると、高温により空気が揺らめく中その先に、石造りの地面とその中央に下り階段らしき物があるのを発見した。
「ミラ、でかしたわ! エレン! まっすぐ行ってぶっ飛ばすのよ!」
「はいはい、階段に向かって全速前進すればいいんでしょう」
適当に言葉を訳した後、ミラが指差した方向に曲がりスケーターを走らせる。
だが、その途中ふっ……とまるで煙のように階段が消えてしまった。
「あれ、どうして? さっきまで階段があったのに……」
目を丸くしてキョロキョロと階段を探すミラ。
しかし、一向に階段は見つからない。
「……エレン、まさかこれって……」
「……やられたわね。多分蜃気楼だわ」
砂漠のような高温地帯で発生する、幻を見せる自然現象。
話には聞いていたが、まさかここまですっかり騙されるとは……。
「困ったわね……」
三人で話し合うため、一旦スケーターを止める。
「エレン、あんたの探知魔法でどうにかならないの?」
「……さっきも言ったけど無理よ」
探知魔法はあくまで魔力を探知するだけだ。
相手が自然現象ではどうにもならない。
「一応マルタのマニュアルに解決策は載ってるんだけど……」
「なによ、それなら考えるまでもないじゃない。で、どんな解決方法なの?」
「……『夜まで待ちましょう!』との事よ」
「待ってられるかーー!!」
アルテナの怒声が響き渡る。
確かに砂漠の夜は冷えるため、蜃気楼は起こらない。
解決策としては正しいのだが、太陽の高さを見る限りではまだ昼過ぎ。
暑さ対策をしているとはいえ、危険なダンジョンの砂漠で立ち往生する訳にはいかない。
どうしようか考えていると、ミラが何かを思いついたのか、元気よく手が上がる。
「エレン様! しんきろー? は暑いと起こるんだよね? だったら魔法で涼しくできないかな?」
「……いい案だと思うわ。でも……」
灼熱の太陽が照りつけるこの砂漠を冷やすのはそう簡単ではない。
氷魔法を使ったところで蜃気楼を消す事はできないだろう。
「そうなんだ……役に立てなくてごめんねエレン様」
「良いのよ。案を出してくれてありがとうミラ」
ガックリと落ち込むミラの頭を撫でて慰める。
こうなったら土魔法で岩壁を作り、魔物や太陽から夜まで隠れようかと考えていたその時、アルテナが額に手を当てながら不敵に笑い始める。
「クックック、あたしとしたことが、天才的な素晴らしい方法を思いついたわ」
「ありがとう。じゃあ岩壁を作るからそこで太陽を遮って夜まで……」
「ちょっと!? あたしの話を聞きなさいよ!!」
「はぁ……」
反射的にため息を吐く。
アルテナの閃きは100%碌でもないものに決まっているのだが……。
まあ、こうなったらしょうがない。
「で、何をする気なの?」
「クックック、聞いて驚きなさい! 夜が待てないのなら夜を作っちゃえばいいのよ!」
「はぁ?」
「え?」
アルテナのとんでもない発言に私は疑いの視線を向け、ミラは意味がわからず首を傾げる。
「アルテナ様、夜って作れるの?」
「ふ、あたしにかかればなんてことないわ」
「随分自信満々ね。いったい何をする気なの?」
「まあ見てなさい」
そう言うと、スケーターからヒョイっと降り、少し離れた位置まで移動して立ち止まる。
そして両手を天高く上げると魔法の詠唱を始める。
「深淵の闇よ、我が呼びかけに応じ降臨せよ……!」
「な!?」
「きゃ!?」
アルテナのフードが浮かび上がったと思うと、とてつもない魔力の昂りとプレッシャーが放たれ、大地の砂が大きく巻き起こり始める。
そして、アルテナの頭上に巨大な紫の魔法陣が浮かび上がり、それに魔力が集中する。
「太陽よ、我が力に前に跪き飲まれるがいい! 『夜の帳!!』」
詠唱が終わると同時に、魔法陣から強力な闇がまるで煙のように吹き出し、雲のように空中を覆っていく。
それが少しの間続いた後、空を見上げると、さっきまで強烈な光と熱線を浴びせて来ていた太陽は姿形もなくなり、辺り一体が全て闇夜に覆われていた。
「ふ、流石あたし、完璧だわ。どうよエレン、ミラ?」
「……いや……正直驚いたわ」
「すごい! 本当に夜になっちゃった!」
黒いフードのマントを靡かせ、ドヤ顔しながら戻ってくるアルテナに、ミラは目を輝かせ尊敬の顔で、私は困惑した表情で返す。
アルテナが作り出した夜は太陽による熱も完全に遮断しており、あたりの空気がどんどん冷えていくのを感じる。
これなら……と思い、火迅で飛び上がり辺りを見渡す。
闇に覆ったと言っても、月明かりに照らされたくらいの視界は確保されており、遠くの方に階段があるのを発見。
再びドラゴンスケーターで進むと、ちゃんと実態のある階段に辿り着くことができたのだった。
「よし、階段に着いたわ! この調子で先に進むわよ!」
「待ってアルテナ」
そう言って助手席から降りようとするアルテナの肩を掴む。
「え? 一体どうし……って!?」
「アルテナ!!」
気がつくと、私は涙を流しながら感情の赴くがままにアルテナを抱きしめていた。
何故そうしたのか自分でも最初はわからなかったが、直ぐに理解する。
私は……“感動”していたのだ。
「アルテナ! ありがとう! 本当に凄い……凄いわ!」
強く抱きしめながらアルテナを褒め称える私に、顔を赤くしながらアルテナは応える。
「ちょ!? いきなり何よ!? ま、まあ悪い気はしないけど? もしかして……とうとうあたしを主人として認め……」
「成長したわねアルテナ! “戦闘以外”で役に立ったのは初めてよ!」
「……へ?」
私の言葉にキョトンとするアルテナ。
そんなのは気にせず私は言葉を続ける。
「今までずっと間抜けな姿しか晒して無かったのに……とうとうあなたも普通に役立てるような存在になってくれて……私……凄く感動しているわ!」
「いや、あんたどこに感動してるのよ!? て言うかいつも間抜けってどう言う意味よ!」
「だってそうじゃない! いつも戦い以外では余計なことや、むしろ邪魔になることばっかして!! それなのにとうとう役に立つところを見せてくれて本当に嬉しいわ!」
「あんた! 遠回しに馬鹿にしてるでしょ!? いいから離れ……」
「ミラもアルテナ様に抱きつくー♪」
羨ましく思ったのか、ミラも背後からアルテナに“思いっきり”抱きつく。
「え、ちょっとま……ぐえぇぇぇぇぇ!?」
数分後……心が落ち着きアルテナから離れると……。
「あれ、アルテナ? どうしたの?」
「アルテナ様ー?」
何故か、アルテナは泡を吹きながら気絶していたのであった。




