稲佐町決戦!突撃開始!
ミドリの突入するクダリは、映画『バットマン vs スーパーマン』のパロディです。
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機銃をブッ放して黒鉄色のバンパーで塀を突き破って、二階の窓からガトリングを撃っていた兵隊へと銃弾を“御見舞い”して撃退したのちに、ゆっくりとバックしていって垣根を踏み壊しながら隣接する工事側に回り込んだときに動きを停めて、ルーフをスライドオープンさせてライフル型兵器のベルトを袈裟に掛けて、瞳を金緑色に光らせながらシートから立ち上がっていく。
『屋上が増えて、四〇名くらい。降りるのは六階で良い?』
「うん。お願い」
『了解。ミドリちゃんが飛んだらルーフ閉めるよ』
「オーケー。あとは任せたわ」
こう言って通信を切ったミドリは「手加減無しで行くよ」と呟き、膝を曲げて力を溜めた数秒後、ジャンプした。と同時に魔改造トヨダのルーフは自動的に閉まり、バックしていって背後のブロック塀を突き破っていって、隣の工場の植込みへと姿を消した。コンマ数秒間の滞空時間を味わい、身体を丸めて、背中で窓ガラスの枠ごと突き破って六階に侵入した。デスクや目隠しなどといった事務用品を、床を転がって倒していきながらある程度止まったところで片膝になって起き上がっていくと、ミドリの目の前には、銃剣やらライフルやらAK改やらを構えた新世界十字軍の兵隊たちが総勢三〇名ほど彼女に銃口を向けていた。兵隊たちが引き金に指をかけたとき、ミドリは瞳を金緑色に光らせて黄金色の髪の毛を部屋中に走らせた。次の瞬間、兵隊たちの苦痛の悲鳴とともに、六階の窓ガラス全部に血糊が飛んで荒々しく階を赤く染めた。赤色に塗られた床に散らばる兵隊だった肉片にぶら下がっていた手榴弾に目がいったミドリは、なにかが閃いた。
B棟屋上。
屋上出入口の扉越しから聞こえてくる仲間たちの悲鳴に、約四〇名の兵隊たちは銃口をその一方に向けていた。“カンカンカンカンカン”と響いてくる近づく足音に、兵隊たちは緊張感を増して息づかいが荒くなっていく。“向こう”も扉を前に緊張しているのか?と、新世界十字軍の兵隊たちが、ライフルやら銃剣にAK改などのスコープで相手の様子を伺っていくこと数秒間。この沈黙が頂点に達したとき、B棟屋上の床中央が爆発とともに吹き飛んで、十名以上の兵隊を六階の床などに叩き落とした。突然、屋上に大きく空いた穴へと向けて残った三〇数名の兵隊が集中砲火をしていく。この光景の中で、ミドリがいつの間にか屋上出入口の屋根上で片膝を突いてライフル型兵器を構えていた。屋根上ので黄金色の髪の毛を風に靡かせているミドリの姿に気づいた、菊代とファ姉妹。そしてミドリが引き金を引いた瞬間に、縦長の銃口から発射された音波が、未だに穴に向かって射撃していた兵隊たちにへと降り注いでいった。すると、兵隊たちの各種銃器は放電していき、たちまち使用不可状態となっていった。そしてそれは銃器だけではなく、当の兵隊たちにも特殊な音波と静電気が頭の中と身体中を走り、各々は力が抜けて膝を突き銃を床に落とした。ミドリは、被害を県警部隊と町の仲間たちに及ばさないために音波の攻撃範囲を屋上に絞っていた。そのためか、音波攻撃の届いていなかった二名ほどの兵隊が、銃器を構え前後左右を警戒していた。ミドリはすぐさま背中に回して屋上出入口の屋根から飛び降りると、髪の毛を飛ばして銃剣を構えた一人目の兵隊の足首に巻き付けて倒したのちにダッシュして、AK改で撃ってきた二人目の兵隊に身を沈めてタックルして腕を取って肩に乗せたあと、そのまま回っていって、周囲で身を起こしていた兵隊たちにへと銃弾を浴びせていった。ミドリは一回りしたあとに、男の腕の下で身を翻して肘を突き上げて顎を砕き、肩で叩いて腕を折り、一本背負いで放り投げて、端で頭を振っていた角刈りのイギリス青年兵隊にぶつけて屋上から突き落とした。屋上出入口の扉を蹴り開けて現れた顎髭禿げ頭のポーランド中年男性兵隊が手榴弾のピンを親指で抜いたとき、ミドリは、先ほど髪の毛で足首を取って倒して悶えていた青年兵隊に気づいて“その”方向に彼を蹴飛ばした。身長百八〇センチと体重九〇キロを誇る男が秒速で吹き飛んできて、顎髭禿げ頭の中年男性兵隊を目掛けて衝突すると、二人して廊下に落ちて転がった。仲間のぶつかった勢いで手元から落ちて転がった手榴弾を、顎髭禿げ頭中年男性兵隊が必死に匍匐前進して掴んだその直後に、彼は青年兵隊を巻き込んで爆死した。屋上出入口と屋根を破壊して扉を吹き飛ばしながら燃え盛る爆炎を背にして、ミドリは両側の兵隊二人を殴り飛ばしたあと、目の前の拳銃を足で叩き落とし、クルッと身を翻して坊主頭のイタリア青年兵隊の下腹部を踵で蹴り飛ばした。吹き飛んで屋上出入口の壁に叩きつけられたイタリア青年兵隊をしり目にして、ミドリはナイフを片手に向かってくる四名の兵隊に身構えていた。彼女が瞳を金緑色に光らせたとき、黄金色の髪が左右に分かれて伸びて、両方の肘から手にかけて巻き付いていった。切りつけてきた二つのナイフから腕を上げて防ぎ、身を沈めて地面に足を円弧に走らせて丸顔のイタリア中年兵隊を足払いして高く跳ね上げて後ろ頭から激しく落下させたその横で、ミドリは四角い顔の韓国青年兵隊を殴って地面に頭をめり込ませたすぐに、ユダヤ青年兵隊の頭に踵を落としてその顔を地面に埋めたあと、拳を大きく振りかぶってロシア青年の横顔を殴り飛ばして頸椎を破壊した。後ろから向かってきた三名の兵隊を確認したミドリは、黄金色の髪を前方に飛ばして二つの武器コンテナを刺して引っ掛けて、後方へと振り回し、その三名へと投げつけた。ひとつは一名の顔に当たって首を折って吹き飛び、二つ目は正面から二名の顔に当たってバク転宙返りをさせて地面にへと腹から強打させた。うちひとつは金網に当たって落下し、二つ目はこれを超えて菊代たち三人の目の前に激しく落下して砕けた。側近のファ姉妹と仲良く「おわあ!!」と驚きを上げたあとに、菊代はベルトのポーチからスマホ型の長距離無線機を取り出した。
「こちら第九団隊の片倉菊代。屋上A棟の班と、三階から上のAB棟の班。お前たち全員、屋上B棟で暴れている侵入者を始末に向かえ。以上!」
『サー! イェッサー!』
「よーし」
一旦通話を切って、再び繋げた。
「夢子小隊長」
『はい、団長』
「焼く準備は出来ているか?」
『準備完了です。……ですが……』
「どうした?」
『ついさっき目の前から現れた魔方陣が開いて、あなたの義妹、片倉日並が現場に到着しました。…………どう致します?』
「なんだって…………!」
一般兵隊たちから小隊長の金藤夢子へと繋いだとき、菊代の最推しの片倉日並が一階に出現したと聞いて、最強の団長は戸惑いを見せた。ほんの少し考えて、再び無線で夢子に指示を出していく。
「しばらく様子を見ておけ。ーーーただし、火炎放射器は構えたままにしていろ」
『了解!』
B棟一階の出来事。
時間的には、ミドリが突入したのと重なる。
四〇〇名以上の“鱗の娘”を包囲する火器を構えた新世界十字軍の兵隊たちと、上座のホワイトボードを背にして隊員から借りた火炎放射器をその娘たちにへと突きつけていた金藤夢子。そんな彼女の目の前に、赤く光る大きな円形魔方陣が回転を繰り返して現れて、中央の五芒星が逆さに止まったときそれは左右に観音開きをして、ひとりの美しい長身の女を部屋に降ろした。クールホワイトの床を力強く踏み出していく、ローヒールの黒い革靴。赤色のカッターシャツをインナーに、青紫色の三つ揃いスーツ。天然パーマのかかった赤黒く艶やかな長髪は、真ん中分けにしてミドルのポニーテールにしてある。そして、整った造形の中心を走る高い鼻柱から左右に広がる細く切れ長な目の中には、大きめな赤褐色の瞳が輝いていた。赤色のリップを引いた唇から、白い歯を日光に反射させながら笑みを浮かべてきた、その美しい女とは、片倉日並であった。
「やあ、夢子お嬢ちゃん。久しぶりだね」
「ひ、日並、さん……!」
気配すら感じさせることなく、突如と現れてきたこの日並に、夢子は声を引き吊らせ気味に驚いた。しかし、弱者女性救済NPO法人のホープこと金藤夢子は“ここ”で怯んではいけないと気を持ち直して、睨む目付きになり歯を食いしばった。
「堅気な“あんた”が、なにしに来たんだよ!? ここから先は、私が私の役目を果たしにきたんだよ! すっこんでろ!」
「あらら? 偶然だねえ。私も私の役目を果たしにきたんだよ」
そう切れ長な目を弓なりにさせて、微笑んだ。
このままではこの女に押されてしまう。
と、判断した夢子は超距離無線機にスイッチを入れようとした。
そのとき。
『夢子小隊長』
「はい、団長」
『焼く準備は出来ているか?』
「準備完了です。……ですが……」
『どうした?』
「ついさっき目の前から現れた魔方陣が開いて、あなたの義妹、片倉日並が現場に到着しました。…………どう致します?』
『なんだって…………!』
一般兵隊たちから小隊長の金藤夢子へと繋いだとき、菊代の最推しの片倉日並が一階に出現したと聞いて、最強の団長は戸惑いを見せた。ほんの少し考えて、再び無線で夢子に指示を出していく。
『しばらく様子を見ておけ。ーーーただし、火炎放射器は構えたままにしていろ』
「了解!」
そして、通信が切れた。
四〇〇名の女の子をチラ見して、日並に目を合わせた。
「団長殿の指示は、なんだって?」
その日並から先手を打たれた。
「“おたく”の尊敬する団長殿からの指示を受けたんだろ?」
「ええ。目の前の四〇〇人を焼き払えってね!」
「へえー、そりゃまた大したもんだ……」
ちょっと俯いて嘲り気味に呟いたのちに、夢子を見る。
「とするってぇと、そいつは“アレ”かい? お前さんの出世か手柄のためかい?」
「ええ、そうよ。私のためよ。なにか問題があるの?」
「まあ、私の見立てじゃぁ、さっきの無線は『しばらく様子を見ておけ』だったんだろ」
「驚いた。ーーーよく分かったわね? でも、今は建物の周りと屋上で“あの”糞女が私たちの邪魔をしているんだ。だから、場合によっては早いうちに手を打っておいた方が良いかなと私は思っているわ」
笑みを浮かべて言う夢子に、日並は小さく「ふふっ」と洩らし。
「野心があるのは良いことね。でも上に登りたいんなら、待つことを選ぶのも出世の道なのよ」
「ざけんな。私はね、今の“場所”を踏み台にして最終的には東京を物にしたいの。だから日本中にいる保守的な連中は邪魔よ。消さないとね」
「今の“場所”って、アレかい? 弱者女性の救済ってヤツかい?」
「そうさ。いっぱい集めて、糧にするの」
「糧に、だって…………? 救済は?」
「救済はしてるわよ。自発的に私のために“働いてくれている”じゃないか」
「へえー。“あの”肉の盾が、ねえ……。ーーーあとさ。十代の女の子たちを元ヤクザと半グレたちがシャブ漬けコカイン漬けにするのも、あんたの言う“救済”なのかよ?」
「そ、それは…………、その…………」
あの二人が逮捕されて、協力メンバーのリストから外した“だけ”。
という体面を保ったのみだった対応をした夢子。
オールドメディアも国営放送もアッサリ流して協力した。
それから、世界基督教会の圧力で速攻で釈放した男二人。
正直、御祓も償いも糞も終えていない。
cocola bonbonの長としての処罰も無し。
が、都庁の役所に毎年億単位の血税を引き出させていた。
しかし、これは組織としての立派な活動資金であった。
何者でもなかった美女、金藤夢子が何者かに成れたのがNPO。
だが哀しいかな。夢子も世界基督教会の御輿のひとりだった。
目を泳がせる夢子に、日並は口を出していく。
「あんたんとこのね、“輩たち”をキッチリ記事にしたのはね、私の会社の『月刊敷島』と『月刊 ZUBUKA』くらいさ。それに比べて、あのときの他の最大手たちはどうした? チンポでも萎えていたのか? 格好のエサなのに、どれもこれも“あんた”の名前と組織を出さない上に、庇うような論客たちのコメントを載せた“実に薄っぺらい”記事だったじゃないか。ーーーあの事件の背景には、救済をしてあげるということを餌に女の子たちを釣ったあげく、ヤク漬けにした上に肉体を奴隷化してきたんだろ? それが救済だって? 舐めてんのか? 笑わせるなよ」
「うううう五月蝿い! お前こそ、暁彦さんの下だったから“あんな下らない記事”でも載せることができたんだろ!? あの人に一番近いからって調子に乗ってのはお前じゃねえか! ざけんな! 糞ババア!」
と、青筋が“はち”切れんほどに反論した夢子。
これに対して、何処吹く風な顔の日並。
日並さんはババアじゃないわよ!
などの反論が四〇〇人の娘たちから飛んできた。
これに日並は「ありがとう」と後ろを向いて、再び夢子を見た。
「一番近い? アイツは私の旦那だよ」と、片眉を上げる。
「そんなことくらい、知っているさ!」
「“お喋り”はこのくらいにして。ーーーお嬢ちゃん。私が施設に来たのは、なんでだと思う?」
「お! お前、急に話し変えんな!」口を縦にしてキレる夢子。
「まあまあ、いいからいいから。なんでだと思う? ちなみに、ノーヒントだから」
「ヒント、無し……だと……? んなもん、分かるわけ…………」
その間にも。
ティ、コ ティ、コ ティ、コ ティ、コ ティ、コ
日並は口を横に広げたり縦にしたりして、舌を鳴らしていく。
「はい、時間切れー」
と、日並が指を二本立てたとき。
一階の床一面に。四〇〇人以上の“鱗の娘”の足下に。
赤く光る逆さ五芒星の円形魔方陣が現れた。
立てた指二本を「キュルン」と言ってウィンクして回した。
次の瞬間。四〇〇人以上の娘たち“のみ”を飲み込んだ。
または、標的を絞った大人数を床に沈めた。
「正解は、町の女の子たちを助けること。でした」
そう言って、白い歯を照明に輝かせた。
直後。
施設隣の大駐車場にて。
潮干リエたち先発組と榊雷蔵たち後発組の集まるその後ろの空白に、大きな赤い逆さ五芒星の円形魔方陣が光り輝いて現れたと思ったら、四〇〇人以上の“鱗の娘”たちが地面から生えるように頭から足までと上へと生えるように出現した。この予想外の光景に、皆は驚愕するあまりに声を上げられなかった。そして、その空気が騒然と変化をしたことに気づいた稲葉輝一郎刑事と椿桂一郎警部補が振り向いて、呆気に目を見開いた。大の男が二人して口をパクパクしたのちに、今回の大救出劇を担った捜査班班長の横溝正則警部にへと呼びかけていった。先ほどまで銃撃戦をしていたが、新世界十字軍の兵隊たちの大半は団長の菊代の指示を受けて上を目指して流れていったために、銃弾の攻防も落ち着きを見せていた。刑事と警察官と機動隊を合わせて約三〇名の負傷者を出したが、死者は“ひとり”も出さなかった。正則警部は、十名に見張りと救護班に負傷者を頼んだのちに、手招きをしている潮干リエのもとへと残りの部下を全て連れて隣の駐車場に移動していく。そしてこのとき、臼田幹恵と潮干タヱは、先ほどまで傍にいた片倉昇子がいないことに気づいた。
院里学会長崎市稲佐町施設の駐車場。
施設B棟一階から大きな赤い光りの点滅ののちに、隣の大きな駐車場の後方の空きスペースに赤色の点滅とともに下からせり上がってきた四〇〇人以上の若い娘たちを目撃していた、第九団隊団長の片倉菊代と団長側近の花陽と花陰の姉妹は、目を丸くして呆気と驚愕をしていた。
言葉を絞り出していく菊代。
「あ、あんな数を転送することができるなんて、ヒナミンすげぇな。私はできないぞ」
「え? それは本当ですか?」驚く花陽。
「ああ。本当さ。ーーー四〇〇人以上できたなら、一千人超えててもできるだろ」
「凄い。私たちは五人一組までです」
「だろ?ーーー私でさえ、せいぜい百人だ。だから彼女を尊敬できる」
そう言って、菊代は微笑んだ。
B棟一階に戻る。
あ!という間に大人数を目の前から消されて、夢子含めた十字軍の兵隊たちは呆気にとられていた。日並を除く皆が皆、言葉を失っていた。パチン!と、日並から強く指を鳴らされて我に帰ってゆく面々。
「どうした? “敵”を目の前にして、なにをボサッとしてんだよ。お前ら天下の新世界十字軍“様々”なんだろ? やるんならさっさと次の行動に移れよ」
白い歯を剥きながら、日並は口角を片方上げた。
この直後に、兵隊たちの目の前に赤色の逆さ五芒星の円形魔方陣が多数出現したと思ったら、これの中央から日並の物と思われる腕が現れて、男たちの顔に“突っ張り”を食らわせた。それはまさに、腰の入った上半身の回転から打ち出された掌の突きであった。超至近距離の掌打を受けた兵隊たちは、防御する隙を与えられることなく“されるがまま”情けなく足下は浮いて吹き飛び、各々が鉄格子の窓や鉄骨内蔵の壁にへと後ろ頭と背中を激しく叩きつけられた。瞬間的に部下を全て失ってしまった金藤夢子。
圧倒的な力の差を見せつけられて、焦るなは無理である。
大人数の移動と同時に多方向の攻撃をしても、余裕な日並。
対称的に夢子は、手足が出なかった己の失態に息が上がる。
そして沸き上がる緊張感と怒り。
耳は熱くなり、頭は冷めていく。
火炎放射器を持つ手に震えが出てきた。
すると。
『こちら片倉菊代。夢子小隊長、無線は取れるか?』
と、タイミング良く団長から通信が入った。
銃火器を構えたまま、顔の左側の通信機器をオンにする。
「はい、こちら金藤夢子。どどど、どうされました?」
『現場から撤収するぞ。今の四〇〇人、私の判断ミスが招いた結果だ。倒れている部下たちも回収させるから、日並は無視して良い。お前も早く引き上げるんだ』
「いいい嫌、です」
『は?』
「いい義妹さんの登場で、団長と言えども判断を鈍らせた“あなた”が悪いんです」
『そうだな。お前は間違っていない』
「そして、わたわた私は目の前の機会をみすみす見逃すわけにはいかない!」
『…………夢子。お前、なにをする気だ?』
「すみません、団長殿」
と、一方的に通信を切った夢子は、日並を強く睨んだ。
「私は! 手柄を! 上げる!」
「…………。ガキが…………」
そう呟いた日並は、口の隙間から白い歯を剥いた。
B棟一階の勝手口から、蜂蜜色の人影が侵入してきた。
目の前の相手しか見えていなかった夢子。
震える手で、引き金に指を掛けていく。
「あんたは防御は得意じゃなさそうだな。できても長持ちしねえから、このまま燃やされちまうかもな?」
「へえー。よく分かっているじゃねえか」
薄笑いを浮かべた日並。
そして夢子は、引き金を引いた。
「汚物を消毒してやる! くたば」
火炎放射器の銃口から炎を噴き出した瞬間、横から来た蜂蜜色の人影が夢子の身体を突き飛ばした。それは、B棟一階出入口の扉を破壊して夢子は吐き出されて、地面に当たりながら転がっていった末に敷地の門に衝突した瞬間に爆発した。ぶち当たったせいでタンクのガスが急速に圧迫されて、一個の大きな爆弾と化した火炎放射器は衝撃とともに黄橙色と赤黒い爆炎を吹き上げて金藤夢子の身体を四散させた。これら目の前で起こった惨劇に、菊代とファ姉妹は「おわあ!」と一緒に驚きの声をあげた。
B棟一階の屋内に戻り。
出入口で“ぶちかまし”の姿勢で残心を取っていた蜂蜜色の人影が、爆死の様を確認したのか、膝を伸ばして背筋を正して日並の方へと振り向いた。蜂蜜色のセミロングの髪を持つ美しい顔の両耳から下がる、極細チェーンからの厚さ一ミリ以下で幅一ミリ長さ七〇ミリのゴールドのスティックピアスが太陽の光をキラキラと反射して、彼女の美貌を引き立てていた。
「母さん」その人影の第一声。
片倉昇子であった。
日並もこれには思わず顔を綻ばせた。
「昇子、お前…………」
「母さん!」
そう駆け寄ってきて、昇子は母親に抱きついた。
抱きついた。
と言っても、彼女も長身なので母の肩から腕を巻く感じだった。
三秒ほど母親の温もりを堪能したのちに、昇子は彼女の両肩に手を乗せて離れた。そして、口を強く結んで泣きを堪えた笑みを浮かべた。
「危なかった……。良かった……」
「ああ、危なかったよ……。ありがとうな」
「どういたしまして。うふふ」
昇子は、母に向けて可愛らしく微笑んだ。
と、ここへ。
「昇子ちゃん! ここにいたの!」
「昇子さん! 今の爆発なんなんですか!?」
赤いキャミソールワンピース(ドレス)の女、臼田幹恵と。
黒い服の女、潮干タヱの登場。
この美しい二人の娘にへと、笑顔を見せる日並。
「幹恵さんにタヱちゃん。来てたのね」
「来てた、っていうか、姉さんが十字軍を引き付けてくれたから動きやすかったんです」
「え? ミドリちゃん、単身で突入したの?」
「はい」
「マジか…………」
2
中間棟屋上。
A棟屋上から突進してくる新世界十字軍の第九団隊兵隊たちに向けて、潮干ミドリは音波兵器のダイヤルを最大値に回して引き金を引いた。
「食らえ! 玲子ちゃんスペシャル!」
それは、黄肌玲子が歌う螺鈿島の音頭が長丸な銃口から発射されていき、たちまち兵隊たちの銃器と身体に異常を起こしていった。最大値で音波を放っているために、その反動も当然のように凄く、ミドリは瞳を金緑色に光らせて屋上の地面に少しめり込むほどに足を踏ん張って耐えていく。
「セイレーンの歌声、出血大サービスしてあげる!」
音頭の一番の終わるころには、軍の銃火器は半壊または消失して、兵隊たちは両目両耳と鼻孔と口から出血多量をして地面に倒れたりうつ伏せになっていたりして再起不能の全滅していた。このさまを確認したミドリは引き金から指を離して、軽く垂直にジャンプして地面に力強く着地した。着地した瞬間に屋上の地面は崩壊して大きな歪な丸い穴を開けて、豪快に六階資材管理室にへと着地した。手加減無しを決意した陰洲鱒の鱗を持つ者たちの“通常”の筋力は、常人の数倍。鉄骨内蔵はさすがに“骨が折れる”が、鉄筋コンクリートなどは問題は無かった。A棟六階で待機していたまたはA棟五階から移動してきた兵隊たちを、ミドリは資材の管理棚や積み上げていた折り畳み式テーブルなどを天井で一気に押し潰した。約十名以上の仲間が減らされて、驚愕しながらも銃器を構えていく兵隊たち。ミドリが玲子ちゃんスペシャルこと音波兵器を構えたとき、銃口の横を撃たれて、とっさに手から離した。これは、銃撃の衝撃で飛ばされた肩を痛めないためである。ギッと睨み付けたその方向には、マゼンダ色の髪の毛をした美貌の女性兵隊がいた。ミドリは壊された音波兵器を、八つ当たりで後ろの男性兵隊に投げつけて気絶させたのちに、右腕から青白い炎とともに鞘に収まった日本刀を出現させて掴んだ。そのマゼンダの髪の長身美女を視界におさめつつ、銃剣やAK改を構えた兵隊たちにへと駆け込んだミドリは、より深く身を沈めて銃弾を避けると同時に抜刀した。瞳を金緑色に光らせて放たれた銀色の閃光は低空を横に走り、兵隊たちの足を通過した。第一陣を抜けて受け身を取って床を転がったミドリが、片膝を突くと同時に闘気の刀を下から大きく斜め上へと走らせて鞘に納刀したそのとき、第一陣の兵隊たちの膝から下と第二陣の兵隊たちの足から肩にかけて分解して赤色の飛沫を噴き散らしながら床に落下した。次にミドリは、身を低くしたまま兵隊たちの群れに突入していった。
数多くの銃弾が床や壁や天井、そして各種の資材と棚を撃ち抜いて破壊していくも、金緑色の瞳の光と鱗を出現させたミドリには“ひとつ”も掠りもせずに、虚しく標的を外すばかりであった。隙間を縫うように銀色の光が兵隊たちの身体を円弧を描いて駆け抜けていき、再びマゼンダ色の髪の長身美女の前に戻って残心を取った。すると、男女問わずに兵隊たちの首やら身体が上下二つに割けて、血を噴き出していきながら床に落ちたり倒れたりしていった。
稲荷一門。雪中狐走。
群れの隙間を縫うように通り抜けて斬る技。
稲荷一門。
広島県に拠点を置く、抜刀術を専門とする一門。
これの派生の不知火一派がある。
ミドリは東京のとき、次期当主の稲荷こがねから習っていた。
これらの人体破壊の“博覧会”に、マゼンダ色の髪の長身美女はギョッ!として目を見開き、素早く左右を確認して再びミドリを向いた。そして愛用していたAK改25式を横に放り投げてから、腰に帯刀していたサーベルの柄に手を掛けて半身になった。
ミドリと同じ緑色の瞳で睨み付けていく。
「銃弾も駄目なら、これしか無いでしょ」流暢な日本語だった。
「そうね。雑魚は全滅しちゃったし」
こう言いながら、ミドリは鞘に収めて虎口を静かに閉じた。
「私は、潮干ミドリ。あなたは?」
「ハニー・コーラル・フェブラリー。第八団隊の中隊長」
ミドリの名前を聞いたとき、ハニーは姿勢を戻していく。
「あなたが潮干ミドリね」
「そうだけど」
「あなたのことは団長から私たち魔女に話が行っているわ。ーーーエキドナを真っ二つにしたんですってね?」
「ええ。あのギリシャ美女でしょ? 手強い魔法だったわ」
「そうでしょう? 彼女、強いもの」
防護防弾服の襟に手を掛けてファスナーを下ろしていく。
襟を真ん中に、右胸を迂回して腹部中央。
胸元を左に開いて、今度は鎖骨から真っ直ぐ下に。
両肩の装甲ごと脱ぎ捨てて、腰回りの“垂れ”に行き。
腰部左側のホックを外して横に放り投げると。
詰襟から腰にかけて赤色の、下はロイヤルブルーのインナースーツが現れて、防護は手足の部分だけとなった。そして、ハニーは再びサーベルに手をかけて構えた。
「あなたはエキドナの仇。第八団隊の魔女が総力を上げてその首を狙いに来る。そして、私がその“ひとり”目となる」
「あらあら。私もビッグになったものね」
「そうね。団長直々の指令だもの。光栄に思うが良いわ」
こう言ったハニーは、ゆっくりと鞘から引き抜いたサーベルを顔の中央に立てた。
院里学会施設の隣の駐車場。
ミドリが屋上に突撃していた間。
四〇〇人以上の美しい娘たちを前にして、警察手帳を掲げて状況を説明していく横溝正則警部。
「えー、皆さん聞いてください。先ほど護送車両を手配しました。ので、避難先に移動する際には、こちらの椿圭一郎警部補の誘導と指示に従ってください。お願いします」
はーい!と黄色い声が返ってきた。
これらは、同年代の有子と真海の再会に町の娘たちは喜んだ。
屋上から六階へと突入したミドリを見た摩魚が。
「あと私のやることは、ミドリちゃんを手伝うことと日並さんとのリターンマッチだけだね」
そう言って、雷蔵たちに顔を向けた。
六階から聞こえてくる銃声を耳にしながら、雷蔵は口を開いた。
「そうだな。少しでもヤツらを減らすか」
「あはは。さすが雷蔵くん。ーーーそうと決まれば、あとは行くのみね」
胸の前で軽く手を叩いて、摩魚は喜んだ。
四〇〇名の娘らに説明していく横溝警部たちを背にして、黄肌有子が雷蔵の肩に手を乗せてきた。
「よう、兄さん。あんた、ウチらの“姫さん”と“ずいぶん”打ち解けているようだけど。この娘のなんなのさ?」
「え?」
突然後ろからきたハスキーな美女の顔に、ちょっと驚いた。
黄緑色の瞳で、黒い瞳の青年を見つめていく。
雷蔵にとっては、有子は写真と資料のみで初対面であった。
「有子さん。私は妹弟子だよ」
すかさず摩魚からのフォローが入った。
有子は摩魚と雷蔵の顔を二回往復させたのちに。
「へえー。なら、適任じゃんか。ーーーで。“姫”の貞操は貰ったのか?」
「ええ? なんでそうなるんだ? なわけないだろ」
雷蔵は、有子から顔を引いて焦る。
そして、残りの肩に真海から手を乗せられた。
「この人にはね、目の前にいる瀬川響子っていう可愛い相棒がいるんですよ。駄目に決まっているじゃない」
「ああ、あなたか。ーーーよく分かっているじゃないか。あり得ないに決まっている」
目線を真海に向けて、同意を得た雷蔵は嬉しそうだ。
彼女とは、三年以上前の仕事で摩魚と一緒に会っていた。
なので当然、お互いに初対面ではない。
舌打ちした有子が彼の肩から手を離すと、真海も離した。
両側の長身美女から解放されて、雷蔵は露骨に安堵する。
「でもよ、兄さん。あたしと君は同い歳かと見たんだけど。違わない?」
そう言いながら歩いて、有子は響子の隣に並んだ。
「確か、あたし、七月生まれだから今ごろは二六か七なんだよね」
そう彼女の手は、響子の頭を撫で撫でしていく。
摩魚の隣に立った真海。
「そうですか? じゃあ、今度一緒に飲みましょう」
「おーし、決まったな。おたくの可愛い相棒と仲良く楽しもう」
白い歯を見せてニンマリした有子は、響子の肩に手を回した。
“まんざら”でもなさそうな“相棒”の顔を見た雷蔵は、腕を組んで有子と真海とその先にいるニーナとジェシカや亜沙里へと目配せしていったのちに、摩魚と虹子の並びに目線を向けた。
「あの中に、因縁の相手はいるか?」
「ええ。いるわ」
鈴の鳴ような声で、真海が答えていく。
「さっきからね、嫌な気配が三つしているのよ」
と、親指で背後の施設を指して。
「私の勘が当たっていれば、多分相手は教団幹部の三馬鹿兄弟の“誰か”と、幹部の“なり損ない”が二つ」
「ああ、そうだ。間違いねえ。ーーー生贄に“された”あたしと真海の身体を好き放題に“遊びまくった”三体だ」
そう腕を組んで有子は白い歯を見せた。
これに対し、雷蔵は“ゆっくり”と腕を下ろしていく。
「これで理由ができたな。そうと決まれば、出発だ。ーーーお願いします。ニーナさん」
「オーケー。まっかせっなっさい!」
と、親指を立てて白い歯を見せて、さらにウィンクまでした。
はい!はーい!とニーナの後ろから、人妻たちが挙手した。
「有子と約束したんだ。一緒に仕返しをするって」
「私も私も。真海のために、親として女としてかたをつけたい」
潮と海馬、保護者同伴を希望。
二秒ばかし二人の美人妻を見ていたのちに、雷蔵が口を開く。
「まあ、良いんじゃないですか」
やーりぃー!と手を合わせて喜ぶ潮と海馬。
「ただし。建物の倒壊は避けてくださいよ。警部たちの希望では、片倉日並を捕まえたいそうですから」
釘を刺してきた好青年に、二人の美人妻は動揺していく。
「わわ、私はゴジラじゃないよ」
「あたあた、あたしがキングギドラなわけないだろ」
あたふたしていく友達をしり目に。
「亜沙里、ひとりで大丈夫?」
このように心配してきた母親に。
「大丈夫だニャン」
両手の手刀を頭の両側に付けて、猫耳ポーズを銀に見せた。
静寂が流れること数秒。
我に還った銀は、声を上げた。
「ねえ、誰? ウチの娘に変なこと教えたのは!?」
「はーい! ミーでーす!」元気よく手を挙げたジェシカ。
これに銀が歩み寄ってきて、彼女とニーナの肩に腕を掛けた。
以下、“こそこそ”話しを始める。
「なになに? 移動中にいったいなにがあったの?」
「いやあ、その……。あなたの娘さんが、あまりにも猫みたいに可愛かったから、つい…………」
銀の問いに、ニーナは答えていった。
これにジェシカが続けてきた。
「教えたのはミーね。亜沙里ちゃん、ニャンコが似合うと思ったんです。というか、そういう“お母様”も猫っぽくてお綺麗ですよ」
「あ、あら、ありがとう……」頬を赤らめた銀。
「そういうことで、ここは銀さんも“どう”ですか?」
「ちょっとニーナ。そういうことでって、どういうことよ?」
鈍色の尖った歯を剥いて威嚇していく。
“まあまあ”とニーナが彼女の背中を擦っていき。
「ひとつ試してみてくださよ」
「ミーからも、お願いします。あなたのも見てみたいんです」
魔女二人の頼みに、銀は巻いていた腕を解いて離れた。
「ニャン」
そして、我が愛娘と同じポーズを取って見せた。
「ああ、やだ、可愛い」
「熟女と思えないほどキュートね」
キュンキュンしていくニーナとジェシカ。
意外と気持ちは冷めていた銀。
一瞬でも乗ってしまった自身に悔しさを覚えた。
先に猫耳ポーズをした亜沙里も同じだった。かもしれない。
ポーズを解いて二人の後ろに回り、銀は背中を押した。
「はい、サービスは終わり終わり。さあさあ、ニーナもジェシカちゃんも行くんでしょう? みんなを“しっかり”サポートしてきてちょうだい」
抑揚のある声で、銀がニコニコしながら軽く二人の背中を叩いた。これに、ニーナとジェシカも微笑んで返した。
それぞれの用事が終わったのを見た雷蔵は。
「よし。では行くか」
響子を見てこう言うと、彼女と一緒に地面を蹴って駆け出した。
これを合図に、摩魚も虹子も、亜沙里と有子と真海。
そしてニーナとジェシカと、潮と海馬。
院里学会施設の新世界十字軍にへと突撃していった。




