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丸山町決戦!蝮の女


 1


 クラブの四階へと踏み込んだ、蛭池刑事の班と響子と虹子と桃香。そして、摩魚と恵と福子と蛇の入れ墨の美女は待機組であったが。

「あれ? 恵さん?」

「あら、本当。いつの間に……」

 摩魚と福子が背後を振り向いたら、鰐恵と蛇の入れ墨の美女の姿がなかった。三階にたった二人になってしまったが、警察から待機していてくださいと言われれば現場保存のためにこの場に居なければならないわけで。そんなとき、二階から階段を上がってくる複数の靴音を聞いた。


 一方その頃、先発の潮干ミドリは。

 こちらはこちらで別行動していたので、早めに目的地に着くかと思われていたが、復活した女神ハイドラによって再び行く手を阻まれていた。少し前に建物裏側の二階で、ハイドラと交戦したミドリは女神を床ごと串刺しして足止め成功していたはずだったが、当の女神は身体をブリッジしていきながら腹に突き刺さっていた銃剣から引き抜いて脱出していた。そして五階の備品資材管理置場の扉を背にして、ミドリはハイドラに立ち向かっていた。

 赤紫色のロングワンピース姿をしたハイドラの高い鼻柱を境に、両目を隠すように真ん中分けにして流れて落ちる暗い赤紫色の髪の毛の下にある、艶やかな黒色の口紅を引いた唇が動いていく。

「その部屋になにか隠しているのね?」

「隠してなんかいないし。あんたに関係ないし」

 少しムッとしたミドリは、口を尖らかせて返した。

 銀色の尖った歯を見せたハイドラが、会話を続けていく。

「私には分かるんだよ。その部屋の先には、虹色の強い光が二つあることが」

「ふん。当てずっぽうね」

「当てずっぽうなんかじゃない」

 こう返した女神の後ろを、後頭部と肩甲骨と脊髄の三箇所に銃弾が撃ち込まれた。あまりの痛さに、歯を食いしばって大きく仰け反るハイドラ。

「いっでえ! あっでえ! うっひょ!」

 爪先立ちになり、唇を縦に尖らかせた。

 撃たれた弾は馬鹿みたいに硬いゴム弾であった。

 四発目が脹ら脛に撃たれたとき、ハイドラは足を掬われて床に“ひび”の入るほど頭を横に叩きつけられて転倒した。不意の銃声に肩を竦ませていたミドリだったが、現れた人物を見たとたんに表情を明るくした。

「恵さん!」

「お待たせ」

 鰐恵わに めぐみ、到着。

「伏せて!」

 ミドリの声で頭を下げたとき、ビキニ水着のガウン姿のギリシャ美女がナイフを振り投げていた。恵という標的を失ったそのナイフは、ミドリの顔を狙って飛んできた。が、顔を横に流して突き刺さったナイフを掴んだミドリは、躊躇い無しに投げ返した。そして、返ってきたナイフを喉に受けた蛇の入れ墨の美女は、膝から力が抜けて仰向けに倒れた。用心深く頭を上げてきた恵が、再びミドリを見て笑顔になる。

「行こうか」

「はい」

 ミドリも愛らしい笑みを恵に見せて頷いた。

 二人は備品資材管理部屋の突き当たりの壁に立ち止まったとき、恵が壁に向かって人差し指を突き立てた。すると、縦に長四角い線を描いてドアノブが現れた。ノックしたあと「鰐恵です」と言ったあと、ドアノブが回って扉が内側に引かれた。

「わあ! すごい!」

 と感嘆していくミドリの目線の先には。

 二つの敷布団で熟睡中の真海と有子が目に入ってきた。

 二人の娘の傍らに座る、野木切鱏子と橦木朱美。

 その美女四人を取り囲む数々の生活用品や家具。

 そして各種の運動器具。

 私の個人的な頼み事のために、ここまでしてくれていた。

 ミドリはその思いがいろいろと込み上げてきて、目を潤ませた。

 まずは、深三姉妹にへと軽く頭を下げて。

「お邪魔します。潮干ミドリ、無事生還してきました」

「はい、どうぞ」と笑顔の朱美。

「よく帰ってきたね」と微笑む鱏子。

「私の独り善がりな頼みに、ここまでしてくれて感謝しています。ありがとうございます」

 そう言って、ミドリは深々と頭を下げていった。

 この娘の行為に対し、恵と朱美と鱏子の三姉妹は無言で首を横に振ったあと。

「私だって、こうした秘密に参加できて楽しかった。なにせ、ミドリちゃんたちのためになることだから」

「そうね。もう、これっきりだと思うけど、これで呪われた習慣が終わって“あなた”たちの世代から解放することができると考えたら、私も協力できて良かったと思っているわ」

「もう、いい加減早くあの教団を無くして陰洲鱒を元に戻して、さらに新しくしたかった。だから私はやるしかないと協力したの。そしてこれから先は、私たちの子供たちとミドリちゃんたちが作っていくのよ」

 恵、朱美、鱏子。の順で返していった。

 すると、ミドリの目付きが強い決意に変わり。

「本当にありがとうございます。そして、ここからは私たちの出番です」

 そのような意志を述べていったミドリの瞳は虹色に光り輝き出して、首筋から脹ら脛にかけての身体の両側にも虹色の鱗が出現して輝いた。次は、彼女の頭付近の両側に虹色の光の玉が姿を現したと思ったら、それらは段々と人の形を成していき、癖のある長い黒髪と長い稲穂色の髪を持つ女へと完成した。

「真海と有子さん。あなたたちの約束は守ったわ。だから、私たちのもとに還ってきて!」

 両側に浮く美女が頷いて飛び込む体勢を取ろうとした。

 そのとき。

 飛んできた銀色の刃が朱美と鱏子の口に刺さり、二人を床に倒した。怒りと驚きが混じった顔で、その後ろを振り向いた恵の口にも同じ銀色の刃が突き立てられて床に転倒した。不意を突かれた出来事に、ミドリと、精神体の真海と有子は思わず行動を止めて背後を向いた。瞳の虹色の光と鱗を収めていくミドリ。

 全裸姿の美女が、両太股にナイフベルトを巻いていた。

 その不法侵入者の顔を見たとたんに、ミドリは声を上げた。

「あ! あんたは、さっき私にられた女!」

「残念。“あれ”は私の蛹。あなたが私のナイフを掴んだ時点で脱皮していたんだよ。そして、まんまと秘め事を教えてくれた。私たち十字軍の勝ちだ!」

「脱皮? 脱皮できんの? あんた本当に人間?」

「私は魔女だ。“あれ”は術のひとつ。できて当たり前だ」

「死ぬ前に、ひとつ聞いていい?」

「なに? 言ってごらん」

「あなた、名前は?」

Echidnaエキドナ Sappheirosサピロス Persakisペルサキス

「へえ。こんな日本でギリシャ美女に会えると思っていなかったわ」

「ありがとう。お上手ね、ミドリさん」

「なになに。こちとら高校入学のときから芸能活動してんのよ。ひと様を褒めることには慣れっこだからね」

「ふん。その減らないお口も私が減らしてあげる。そして、あなたたち三人を虹色の娘を検体として貰っていくわ。覚悟しなさい」



 2


 エキドナの身体の前面に、逆さ五芒星の円形魔方陣が緑色の光を放って現れた。これとともに、背中の入れ墨の九匹のまむしたちが“うねり”を持って動き出していく。LED白熱灯で照らされていた部屋中の空気が赤色へと変化して、三人娘の視界の前には、入れ墨のままの九匹の蝮たちが床やエキドナの四肢を這って迫ってきた。それらは動く毎に、九匹から十二匹、十二匹から十八匹、十八匹から二七匹、二七匹から三九匹と延々に分裂増殖していく。

 これは、幻覚か現実か?

 二次元の蝮たちが徐々にミドリの足下へと迫る。

 と、そんなとき。

 ミドリの腰に電撃が、太股に針の刺激が各々両側からきた。

「あっでっっ!」

 緑色の瞳と白い歯を剥いて、ミドリは尻と太股を押さえて飛び上がった。そして後ろの精神体の二人を睨み付けようとしたが、目の前で迫りくる状況が変わったことに気づいた。それは、今までミドリの目に見えていた二次元の蝮の群れが、たちまち立体化して実在する蝮の群れと化したのだ。標的の目付きが怯えから戦意に変化したのを見たエキドナは、舌打ちして蝮たちにへと合図を出した。するとこれらの群れは、勢いを付けてミドリへと向かって飛びかかってきたではないか。次の瞬間、ミドリが瞳を金緑色の光を発したとき、黄金色こがねいろの髪の毛が前方に伸びて蝮の群れを切り刻んだ。その黄金色の斬撃ざんげきが蝮たちだけだと思いきや、エキドナまで当たって通過した。ミンチと化した蝮たちが床と壁に広がってペイントした後を追うように、エキドナの身体も微塵切みじんぎりになって床に四散していった。瞳の光と髪の毛を“おさめた”ミドリは、後ろの二人を睨み付けていく。

「精神体には通じないんでしょう? 幻覚」

 と、赤い瞳の目を緩やかに弓なりにさせた真海。

「ケツ叩かれると目ぇ覚めるだろ?」

 こちらも、黄緑色の瞳の目を弓なりにさせた有子。

「はいはい、ありがとうございました」

 歯を剥いて語気を強くしたミドリは、二人に吐き捨てた。

 そののち、再び前を向き敵の状態を確認。

 ー刻んだとき、あんまり手応えがなかった。まさか、また。ーー

 その魔女の肉片の薄さに違和感を覚えたとき。

 ミドリの背後から揺めき立つ影の気配を感じた。

「また“脱皮”? もーーやめてよね」

「あなたが死ねば、やめてあげる」

 こう言いながら、エキドナはナイフを振り上げていた。

 直後、エキドナの手のひらにナイフを突き立てられた。

 まさに間一髪である。

 攻撃しようとした隙を突かれて、真っ直ぐと飛んできたナイフはミドリの顔を通過してエキドナの眉間を狙ってきた。とっさにかざした手で顔面の損傷を回避できた、が。間髪を入れずにさらにナイフが二つ飛んできて、エキドナは悔やみつつもミドリから飛び退けて二つのナイフを刃で叩き落とした。しかもよく見ると、この三つのナイフはエキドナの物ではないか。これらの飛んできた方向に顔を向けてみたら、恵と朱美と鱏子が身を起こしていたのだ。エキドナが舌打ちしながら手のひらのナイフを引き抜いて床に投げ捨てたとき、ミドリの姿は無かった。どこにいる!と再びナイフを構えた横に、気配を感じて背筋から脳天へと駆け抜ける悪寒をエキドナは覚えていった。その彼女の真横には、瞳を虹色に光輝かせて虹色の眩い刀を構えていたミドリの姿があった。その間合いは、回避が不可能な超至近距離。いちばちか!そう判断したエキドナが、再び身体の前面に逆さ五芒星の円形魔方陣を現した、その瞬間。身を沈めて踏み入れたミドリは、両手持ちの闘気の刀を横一線に凪いたとき、エキドナの腹を虹色の閃光が通過した。横に飛んで脱皮しかけていた途中で捕らえられて、皮と本体を背骨ごと切断された。ミドリが虹色の刀を凪いたと同時に、恵の結界の洞窟水域の壁を切り裂く傷が斬撃と同じ方向に走った。エキドナの胴体が切断されるのは、時間的にあっという間であった。物質化した闘気の刃が肉の隙間を通り抜ける刹那的な間にも、エキドナは自身の神経から金属独特の冷たさと摩擦に生じる熱とを感じ取っていった。斬りつけられた勢いで、上下二つに分離したエキドナの身体は脱皮しかけた皮を引っ張りながら吹き飛び、床に赤い飛沫を上げて落下した。

 残心を取ったあと虎口の音を静かに鳴らして鞘に刀を仕舞い込んだミドリは、瞳の光をおさめて手元の刀を消失させていった。直後、結界内の異常に気づいていく面々。小刻みな揺れを起こしていき、それはやがて震度3以上の震動を生じてきた。

「あかん! 結界が傷つけられて消える手前よ!」

 そう恵の呼びかけに、朱美も声を上げた。

「早く逃げて! 私たちごと消えてしまうわ!」

「ほら! 早く早く! 運び出して!」

 鱏子の催促に、ミドリは有子の身体を精神体の有子と一緒に担いで部屋から引っ張り出した。恵も精神体の真海と一緒に、真海の身体を担いで自身の張った結界から脱出。と、すれ違いざまにミドリが再び崩壊寸前の結界内に入るところを目撃した恵と朱美と鱏子の三姉妹。

「ちょっと! ミドリちゃん!」

 悲鳴混じりに呼びかける鱏子へ。

「仏さんだよ。雑に扱えない!」

 こう返していきながら、エキドナの身体を二つ引っ張り出してきて、資材管理置場部屋へと避難させた。恵が結界の扉を閉めたとき、洞窟水域は扉ごと透けて完全に消失していった。そして、ミドリを含めたこの場の女全員が、大きく肩を落として息を吐いて、これまでの重い肩の荷を下ろしていく。扉のあった部屋の角にエキドナの身体を二つ上下に繋ぐ感じで並べて寝かせたミドリは、合掌していった。この様子を微笑ましく見ていた深三姉妹と精神体の二人。それから、皆のところに戻ってきたミドリが、真海と有子に笑顔を向けて。

「さあ、お二人さん。あとは身体に戻るだけだよ」

「ありがとうよ」微笑む有子。

「ありがとうね」愛らしく微笑む真海。

 そして、自身の身体を目掛けて、精神体の二人は両手を刃のように突き出して跳ねた。胸元へとダイビングしていき、各々の顔と身体が綺麗に重なり一体化して、この世への帰還が完了した。やがて、目蓋を開けていき、瞳をそれぞれ金色と朱色に光らせて身を起こしていった。片方は欠伸あくびして片腕を上に伸ばして背筋を反らせて、もう片方は両腕を天井高く突き上げて背筋を伸ばしていき、有子と真海はゆっくりと立ち上がって皆を見渡したのちに笑顔を浮かべた。


「ただいま」と、鈴の鳴るような声で微笑む真海。

「ただいま」と、白い歯をニッと見せてハスキーな有子。

「おかえり!」と、満面の笑みを見せたミドリ。

 無事に帰還を果たした虹色の鱗の娘二人。

 海淵真海うみふち まみ黄肌有子きはだ ゆうこ

 友達二人へと飛びついて抱きしめていくミドリ。

 真海と有子の胸元に頭をうずめて、ゴロゴロとしていく。

 その愛おしさに、ミドリの頭を撫でていく二人。

 


 3


「よし! あとは二人の家族に会わせるだけね」

 胸の前で軽くピシャリと手を合わせたミドリが、こう言った。

 次に、感動に浸っている深三姉妹へと顔を向けた。

「今まで、ありがとうございます」

 とそう会釈して感謝を述べて。

「そういえば、恵さんたちナイフ投げられたのに、無事でしたね。どうやったんですか?」

「いいえ。こちらこそ。若いのためだもの。私たちもやり甲斐があったわ。楽しかった。ーーーナイフのことでしょう? あれね。この歯でカチッと噛んで力を抜いて死んだフリをしていただけよ。なるべく勢いに逆らわないようにしたわ」

 こう、なんだか嬉しそうに語る恵を見ていたミドリは。

「おばさんたち凄いこと何気にするんだ……」

 そう感心していく。

「んじゃ、あとは」

 と、気持ちを切り替えたミドリは。

「悪者のアジトに乗り込んで、四〇〇人近くの“鱗の娘”たちを助けに行くよ!」

 こう宣言して天井高く拳を振り上げたのちに、お世話になって知人と有子と真海を引き連れて資材管理置場部屋の扉を開けた瞬間であった。

「げえっ! ハイドラ!」

 ミドリは、驚愕に目と歯を剥いた。

「意外と早かったじゃん」

 そう。

 部屋の出入口に、女神ハイドラが仁王立ちをして腕組みしていたのだ。銀色の尖った歯を見せていきながら、女神は言葉を続ける。

「まったく。次々とギャラリーをゾロッゾロと増やしてきやがってからに。一対一サシるとき、どうすんの?」

「あんたストーカーかよ。ーーー今からまだやることがあるからさ。あとで、あとでね」

 口を尖らかせて突っ込んだのちに、ミドリは手刀を顔の真ん中に立てて「今は無理。ごめん」のジェスチャーを示した。これを見て、数秒間ほど口を閉ざしていたハイドラだったが。

「いいよ。やること終わったら来てやる。いってらっしゃい」

 親指を立てて、ミドリへとOKサインを出した。

 女神のサムズアップの手を両手で取って握りしめ。

「ありがとー! マジありがとー! さっすが女神様々! 私、頑張る!」

「どういたしまして」

 ハイドラ、片方の頬を痙攣させて艶やかな黒い唇の端を上げた。


「あら?」

「え?」

 潮干ミドリ、鯉川鮒こいかわ ふなとパッタリ出会う。

 “人魚姫”は鯛原銭樺たいはら せんかを引き連れて、建物の裏口から上ってきたところだった。資材管理置場部屋の前に立つ顔を見て、ふな銭樺せんかが驚きに口を開いていく。

「ミドリちゃんに恵さんと朱美さんに鱏子えいこさん」

 なぜかこの場にいる面々の名を言っていく鮒。

「え? 真海ちゃん? 有子ちゃん?」

 帰還した娘二人を確かめたのちに、銀色の瞳を横に流して。

「ええと、まさか……。ハイドラ?」

「ピンポーン! せえーかあーい!」

 両手の拳を天井高く突き上げて、女神はヒャッホー!と喜んだ。

「ミドリちゃん。これ、どういうことなの?」

 このように顔を向けて、鮒が質問を投げてきた。

「どういうことって……。今から説明すると長くなりそうですけど」

 問いに答えていくも、ミドリは消極的な感じだった。

 そんな娘の態度に、鮒はミドリと恵を交互に見たのち。

「ならいいわ。私は私で恵さんたちに用があって来たの」

「用って?」恵の疑問に。

「銭樺ちゃんが自首したいって言うから、あなたたちに警察まで案内してほしいなと思って連れてきたの。お願いできる?」

「え? 自首?」

 驚く恵たちを後目に、鮒は銭樺へと前に出るよう招いた。

 四五しじゅうごとは言え、狐のような美貌は相変わらず溜め息ものであった。彼女の髪型は、大村市のうどん屋からそのままのポニーテールだったから、なんだか若い印象を与えた。

「鮒さんと話し合った結果、私は自首します」

「銭樺さん。それは、政治家として? 人として?」

 ミドリからの問いかけを受けた銭樺は、唇を強く結び。

「両方よ」

「両方?」

「ええ。政治家として。ひとりの女として。ーーー私たちね、移動する間にもいろいろな今日のニュースを見てきたし、鮒さんと日並さんに入ってくる報告も聞いていたし。そして私にも来る連絡もあったし。その上、ミドリちゃんたちも“当事者”だから説明する必要は無いと判断した上で聞いてくれるといいわ。ーーー今まで私がやってきたことが終わると思ったの。教団も学会も大きな傷を負った以上、変化が起こるわ。そして、私たちの町、陰洲鱒も変わる……」

「そうね。これから畳み掛けてやります」

「ふふ。頼もしい」

 まるで我が娘を見るごとく微笑みを見せて。

「悪い事をしてきたという自覚はあった。そして、その限界がきたんだなとも思ったわ」

 次に、真海と有子の顔を確かめたあと。

「二人とも、生きていたのね。びっくりしちゃった……」

 最後は再び皆を視界に入れて。

「今、警察の人たちが来ているから、同行をお願いします。ーーーただし、黙秘はするわ」

 そう鰐恵に頭を軽く下げたのちに、堅い意志を最後に付けた。

「そう。じゃあ、いらっしゃい。私たちが連れてってあげる」

 銭樺へと手招きした恵たち三姉妹が、手を差し伸べた。

「ありがとうございます」深めに頭を下げていく銭樺。

 鮒たちに手を振ると、恵たち三姉妹に付いて行った。


 陰洲鱒町町議会議員議長。鯛原銭樺。自首。



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