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Return of the Jessica:ジェシカの帰還

 題名はもちろん『スター・ウォーズ:ジェダイの帰還(※旧題は復讐)』のパロディです。


 1


「はーい! ジェシカ! お久しぶりっ子!」

「はーい! ニーナ! お久し鰤照ぶりてりー!」

 尾澤菜・ヤーデ・ニーナ、ジェシカ・ルビー・ボンド、再会。

 両者ともに大きく手を振り、笑顔を交わした。


 同日。

 摩周ヒメの先発組と潮干リエの後発組を合わせた、自発的な意志による鱗の娘たちの救出活動をしていたときに長崎県警と福岡県警の強行課の合同捜査と合流して、昼間を過ぎる頃には総勢六〇〇名以上もの娘たちを助け出して保護していた。女性のような美男子こと川端康成かわばた やすなる刑事班が担当した市内のラブホテルが第一段階では最後の救出現場となり、全班合流して、ここの駐車場を“借りて”臨時の打ち合わせ会場を設営して皆が集合していた。両県警の刑事と機動隊隊長と“民間人協力者”のリエたち陰洲鱒町の住民らを中央に集めて、建物を含めた駐車場を全体を囲う形で複数のパトカーと護送車両が二重に円陣を組んで護衛して徹底していた。さらに、その護送車両の窓の隙間からは銃口を覗かせて、外部からの襲撃に備えている。この打ち合わせを終えたら、救出した六〇名近くの鱗の娘たちに護衛の刑事と機動隊を付けて保護車両にへと乗せて避難場所に向かわせる予定であった。

 その移動する避難場所とは。

「はーい、皆さんお疲れ様です」

 おおとり麗華れいか、登場。

 毒島ぶすじま財閥の令嬢。

 長崎市私立紫陽花女子高等学校の卒業生。

 ミス紫陽花女子を二連覇達成。

 生徒会役員会長を三年生のときに務めた。

 オオトリ自動車産業株式会社の社長夫人。

 そして、護衛人の元締もとじめ。

 相変わらず家猫のような可愛さと美しさのある女である。

 腰まである艶やかな黒髪をハーフアップにして、その後ろを揚羽蝶あげはちょうを象った髪留めをしていた。線の細い長身の彼女に合わせたかと思えるような、深い紫色の三つ揃いの膝丈スカートに薄い黄金色こがねいろのカッターシャツをインナーに着ていた。これはいちおう、鳳自動車産業の制服。繋ぎの作業着も同じく、深い紫色。

 麗華れいかは、鴇色ときいろの口紅を引いた唇を上げて。

「陰洲鱒町の女の子たちを六〇〇人全員無事に助け出すことができて、本当に嬉しい。警察の人たちも怪我人が出なくて良かった良かった」

 胸元でパンパンと軽く手を叩いて、実に嬉しそうだった。

「残るは、思案橋のクラブ二軒と稲佐町の院里学会の四〇〇人以上ね。頑張りましょう」

 と、一回目の締めをして刑事と機動隊たちが頷いたあと。

 色白で長めな腕が突き上げられた。

「はーい。質問いいですか?」

「はい、紅子さん。なんでしょう?」

 龍宮紅子りゅうぐう べにこの挙手に麗華は快く受けた。

「輝一郎君はどこですか?」

 紅子の超個人的な物に、リエたちを含めた陰洲鱒町の民間人協力者たちがブフォと吹き出した。半笑いの麗華が、紅子の質問に答えるように後方を指さした。と、そこには手を挙げている輝一郎刑事の姿が。そして、紅子は手を挙げたまま後ろに振り向き、愛しの彼氏にへと手を振っていく。

「はい。微笑ましい再会が見られて良かったですね」

 この麗華は、表面上の笑顔で声は棒読みだった。

 ここから本題に入る。

「後から改めて話しますが。『鱗の娘』たちは私の母校の私立わたくしりつ紫陽花あじさい女子高等学校に避難してもらいます。大きい上に、カトリック系なので賢明な信者の方々から“お布施”が入り続けているので、だだっ広い体育館には千人以上は余裕で入ります。ちなみに、私は父母含めてその宗教の家系ではないのですが、お金は“少しくらい”は持っているので寄付をしています。なので権限はあります。“学校をお借りしたいんですけど?” “はい。どうぞ。”と快く受けてくれましたので、皆さん避難場所では遠慮なくくつろいでくださいね。ーーー分かりましたか?」

「はい」と、その他大勢が返事をそろえた。

「うふふ。良かった」

 麗華は、愛らしい笑みを浮かべた。

 お金は“少しくらい”は持っている。

 それを鳳麗華は寄付し続けている。

 宗教施設だが“自営業の学校”なので、お金はあった方が良い。財閥の令嬢の指示とあらば、快諾するしかない。

「そうと分かれば。じゃあ、残りのこの子たちも早く学校に避難させてください。お願いします」

 そう言った麗華が、鬼束ひかり刑事班と機動隊たちに頭を下げた。

 二台の護送車両に乗った鱗の娘たちを見送ったのちに、麗華は再び刑事たちとヒメたちを向いた。

「で」

「で?」復唱するリエ。

「あなたたち陰洲鱒の綺麗どころは、私の実家で避難していてください」

「え? 良いの? 麗華ちゃん?」驚く浜辺銀はまべ しろがね

「良いんですよ」

 麗華が眩しい笑顔でしろがねに返したとき。

「そういえば麗華。クラブ二軒で“お勤め”中の十人を助けに、雷蔵が向かったと報告があったぞ」

 と、ロングのソバージュをポニーテールにしていた八爪目那智やつめ なちから挟まれた。後出しの情報を聞いた麗華は、那智なちにゆっくりと顔を向けた。

っちゃん」

「ん?」

「それ本当?」

「本当本当。相棒の響子ちゃんと女の子二人を引き連れて張り切って思案橋に行ったんだと」

「なにその二軒目に行くみたいな“乗り”は?」

 後輩の行動力に呆気にとられながらも突っ込んだ麗華に、長崎県警強行課の横溝正則よこみぞ まさのり警部が声をかけてきた。彼は常にブラウンカラーの三つ揃いスーツを愛用している、二枚目の男性刑事だった。

「それは我々にも都合が良い。こちらからも“加勢”を向かわせます」

「あらー。ありがとうございます」微笑む麗華。

瀬峨せが刑事と倉田刑事。今から機動隊と一緒に二班ふたはん合同で丸山町のクラブに行って、鱗の娘たちを救出してこい」

 横溝警部の指示を受けて。

「了解!」

 と、長身ポニテ大男と通称クラリスの二人が敬礼して、各々のパトカーと警察車両に乗り込んで現場を目指した。指示はこれで終わりかと思いきや。

「蛭池刑事と川端刑事。君たちも機動隊を連れて合同で丸山町に行ってきてくれ」

「了解!」

 赤毛の長身美女と署内一番の美男が組んだ。

「魔法使いは現場に残ってくれ」

 隙無く民間人に指示を出した横溝警部。

「あらーん。ジェシカちゃん、ごめんね。ニーナも」

 と、眉を寄せて愛美刑事は手刀を顔の前に立てて申し訳ないをアピールした。次の現場には呼ばれることがなかったので、若い二人の魔女は笑顔で手を振り、愛美刑事を見送った。

「愛美さーん! いってらっしゃーい!」

 ニーナとジェシカの声が重なっていく。

 送り出しを確認した横溝正則警部は、駐車場の片隅に停めていた“とある一台”の護送車両へと出るよう指示を送っていく。その護送車両を先頭にして、機動隊の乗り込んだ警察車両三台とパトカー四台が護衛に付いて駐車場を出ていった。

 これを見ていた麗華。

 横溝警部へと顔を向けて。

「“今の”は、なんなんです?」

「“おとり”ですよ。優先順位からしたら、鱗の娘たちが上になる。親御さんたちに無事に届けなければならない。なので、先ほどの“アレ”はわざと目を引かせるためです」

「だからあんな“たいそうに”護衛を付けたのですか」

「そうです」

「では、もう一度聞きます。ーーー“アレ”はなんですか?」

「現行犯逮捕した犯罪者ですよ。キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の教祖たちです。世界基督教会の首を押さえました」

「ああ。だからちょっと前に“紫さん”から連絡がきたのね」

「そうです。尾澤菜さん“たち”に教祖たちの護衛を頼みました。奴ら、自我を奪われた娘に手を出すというクズですが、最重要人物には変わりません。よって、彼女たちには大村空港までの護衛を要請しました」

「分かりました。ありがとうございます」

 横溝警部に軽く頭を下げた麗華。

 護衛に付いた“紫さん”。

 尾澤菜・アメテュスト・プルート。

 生まれも育ちもドイツ。

 誕生石は紫水晶アメジスト。護衛人最強の魔女。

 そして、ニーナとキティの母親。

 株式会社招き猫広告の代表取締役。美人社長。

 副社長が摩周ヒメ。


 手招きした麗華が、現場にいる護衛人だけを呼び寄せていく。

「ねえ、那っちゃん」

「どうした?」と、八爪目那智。

「“紫さん”が動いたんだけど。あなたたち、私が知らないこと他にあるかしら?」

「悪い、麗華。さっきの護送車両の運転手はな、君の旦那さんが役目を買って出てくれたんだ」

「は? え? 嘘?」

「いや、本当」

 護送車両の運転手は鳳麗華の旦那さんこと、おおとり太陽たいよう

 鳳自動車産業株式会社の代表取締役。要するに、現役社長。

 襟足が少し長い黒髪の、野性味溢れる長身の色男。

 彼は護衛人ではなく、堅気の職の一般人。

 二人はお見合い結婚。麗華が高卒してから籍を入れた。

 秘書課には彼女も含めてハイレベルな美女が五人もいる。

 が。太陽の眼中にあるのは麗華のみであった。

「会社は誰に任せているの?」当然いろいろと心配になる。

「副社長」極めて短く速答した八爪目那智。

「まあ、あの人なら大丈夫かな」

「ね。心配はないはずだよ」

「他には?」

岩棲陽子いわすみ ようこさんと三日月結美みかづき ゆみ紫陽花あじさい麻魅まみ。あと、榊京四郎さかき きょうしろうさん」

麻魅まみ結美ゆみ以外は私の先輩方じゃない」

「まあ、そうだね」

「てか。“そっち”も社長が出てんの?」

「麻魅のこと?」那智は確認する。

「そうそう」相槌を打つ麗華。

 紫陽花麻魅。三〇歳。

 株式会社かぶしきがいしゃ紫陽花あじさい女子警備の代表取締役。

 大きめなパーマが癖毛の、長身美女。

 長弓を得意とする弓の名手。そして護衛人。

 “主に”身辺警護をしている警備会社の二代目社長。

 その会社の名の通り、美形の女性たちで固めた会社。

 民間人から成る、十二人の精鋭部隊を所有していた。

 麗華や那智やれんと同じ女子高校の卒業生。

「じゃあ、誰が代わりを務めているの?」麗華が質問していく。

八千代やちよが留守番だ」那智の速答。

「お姉様が?! 彼女に任せて大丈夫なの?」

「看護師で忙しいから、たまの“息抜き”も良いんじゃないかしら?」

 そう口を挟んできたのは、八爪目煉やつめ れん

 相変わらず赤茶けた髪の毛が映える美女だ。

「紫陽花女子の狂犬、神棚八千代ちゃんでしょ! 彼女なら有事を対処できるよ」

 と、明るい顔と嬉しげな声で梶木有美かじき ゆうみが乗ってきた。

 梶木有美、四三歳。

 長崎市私立ながさきしわたくしりつセントガブリエラ女学園高等部の卒業生。

 ミス聖ガブリエラを二連覇達成した経験者。

 この有美ゆうみも、肉屋を営みながら護衛人をしている。

 彼女の後ろにいる、野木切のこぎり姉妹は護衛人を見習い中。

 そんな先輩を楽しそうな笑顔で見ていた麗華が。

「なら、私は私で頼もうかしら」

「誰に?」と、聞いてきた那智に。

「国内限定で流通販売している護身用道具の社長によ」

 こう微笑みながら、麗華はスマホを取り出してかけていく。

「ま、まさか……。百合香ゆりかに、なのか……!」

 驚きを見せる那智に、麗華はニコニコしていた。

 中村百合香なかむら ゆりか。三〇歳。 

 株式会社かぶしきがいしゃ黒龍こくりゅう商会しょうかい。五代目社長。

 天然シャギーの長い黒髪をした、色白で長身細身の美女。

 長崎市ながさきし私立わたくしりつセントマリアンナ女学院高等部の卒業生。

 ミスセントマリアンナを三連覇達成。

 生徒会役員会長を三年生のときに務めた。

 中村財閥が代々に渡り経営している護身道具の製造販売会社。

 その数代目当主である彼女が代表取締役。

 そして、先祖から彼女の家系に仕える者が三人。

 田中香津美たなか かつみ天照舞子あまてらす まいこ櫛田美姫くした みき

 以上の美女三人が隠密となって“姫様”の百合香に従事していた。

 “護身道具”と見なせば、その“商品”も幅広い。

 警棒や警杖、防弾チョッキなどの防具。または銃火器。

 これらの流通は日本国内のみに限定していた。

 この百合香たち四人も、麗華たちと同級生であった。



 2


「ねえ、あなた方、私にまだ隠していることないかしら?」

 電話を掛け終えた麗華が、ちょっとムッとした表情と口調でスマホで護衛人たちを指しながら確認を取っていく。よわい三〇歳と言えども、彼女は元締めを務めていた。よって、部下からの報連相ホウレンソウはあって当然であった。というか、職務をまっとうする以上は、報告・連絡・相談は基本中の基本であろう。

「はい」

「はい、有美さん。なんですか?」

 挙手した肉屋の美人店長へと、麗華がスマホで指した。

「今回の件を聞いた樹梨が、お金を動かすってさ」

「ブッッ!」

 有美の報告に、麗華は思わず吹き出した。

 そして、下を向いて大きく咳き込むこと三回。

 やがて上体を起こして、再び部下たちを見ていく。

「樹梨の奴め、現場にひとっっっっつも顔を見せないと思っていたら、元締めの推薦を辞退したクセに元締めみたいなことをするつもりなのね……」

 多少口が悪くなってしまった麗華が、ジロリと八爪目姉妹を睨み付けた。この視線に、ギクッとした那智と煉。とは言うものの、樹梨の件は、この美人双子には思い当たることはなかった。しかし、そんなことは構わずに、麗華はまるで独り言のように言葉を吐き出していった。

「彼女、一番の“お金持ち”だから、これを利用して私と百合香に恩を着せてくるに違いないわ。絶対そうよ。あの女ならやりかねないわ」

 元締め推薦を辞退した女こと。

 眞輝神まきがみ樹梨じゅり。三〇歳。

 先祖代々続く眞輝神家財閥の養子。

 天然の茶髪を肩で切り揃えた、色白の高身長の美人。

 特徴的な鋭い眼差しから、カッコイイ美女とも言われる。

 長崎市私立聖ガブリエラ女学園高等部の卒業生。

 ミス聖ガブリエラを三連覇達成した。

 生徒会役員会長を二年生から三年生に渡り務めた。

 護衛人を本職に、女性化粧品と下着の企画開発に携わる。

 その営業先は海外と日本国内の芸能界にも及ぶ。

 で、話を戻す。

「だいたい、なんで樹梨が動いたのよ?」

 この麗華の素朴な疑問を、有美は拾っていく。

「ミドリちゃんの復活劇を見たから、って言っていたよ」

「私たちも見たでしょ」

「あとね。“本物の”神憑りを見たからには、この町の女の子たちのために動くしかない。とも言っていたわ」

「私たちも“そう”思ったから、こうして行動しているんでしょ」

「なんだ、同じじゃん」と、有美は白い歯を見せた。

「そうね、同じね」と、麗華が微笑む。


 要件が一区切り着いたところで。

「私の母さんが護衛に出たってマジですか?」

「マジですよ」

 驚き気味な表情で聞いてきたニーナに、麗華が返した。

 ドイツ娘の質問は続いた。

「警察の捜査機密だと思うんで、簡単な概要だけでも知りたいです」

「自我を奪われた若い娘の肉体にうつつを抜かしていた三馬鹿を、本庁までの護衛です。あなたのお母さんは、警察からクズの盾を任されました」

 ちょっと怒り気味な声をしていた麗華。

 彼女の内心は、これは公安の仕事だろと思っていた。

 このような答えを聞いて。

「ヤバいですね。ーーー大丈夫かなぁ……」

 命懸けだと察して、ニーナは不安になった。

「“紫さん”は護衛人最強の魔法使いでしょう? 死なないわ」

 麗華のこの言葉を聞いたニーナが、微笑んで返した。


「そういや、あんたんとこの『リベロー』どうなったの?」

Ohー。CIAに吸収合併されて、今は跡形もナッシング」

 切り換えたニーナの話題を、受けたジェシカが答えた。

 ニーナの質問は続く。

「そのCIA、あんたに連絡くらい来たでしょ?」

「ノン、ノン。諜報員と言っても、ミーは下のヒラ社員よ。なにもかも“ぜーーんぶ”知っているのは上の上の上ぇぇーの人たち」

 上の上の~と説明をするときに、手のひらを下にして天高く片手を伸ばしてジェスチャーを交えた。これと一緒に、爪先立ちになる。

「しかも『リベロー』って、本部の副業。税金対策のために作った子会社。諜報活動の片手間で民間人を用心棒家業に顎の先で使いパシりしていたのね。今やそれも不用になったから、CIAだったミーも弟たちもリストラね。マジ最悪」

「ま、まさか、まさかそれって、都市伝説と言われていた……」

USAIDユーエスエイドね。実在しちゃった」

 驚愕していくニーナに、ジェシカは即答した。

 ジェシカが話しを続ける。

「奴ら軍産複合体よ。あくどいことばかりやってきたみたい。共和党のジイサンが大統領に返り咲きしてから、公約通りに書類が公開されてね。今ごろ恥かいているんじゃないかな?」

「連中のことだから、痛くも痒くもないんじゃないの?」

「多分、意外と“そう”かも」

 ニーナに同意したあとも、ジェシカは語りを続ける。

「あと。公開された書面にね、アメリカ合衆国と国連本部と常任理事国(※)が新世界十字軍ニューワールド・クルセイダーと世界基督教会に多額の資金援助を継続していることが記されていたわ」(※現在でも、日本国は常任理事国に加入できず)

「アメリカってキリスト教国家だよね? 基督教会への“寄付”は普通じゃないの」

「そっちへは分かるけどさ、問題は新世界十字軍にだよ。表向きは傭兵部隊と名乗っているけれど、空母からなにから兵器一式揃えている一大軍隊なんだからね? 傭兵部隊が空母や爆撃機だよ? マジで狂ってるって」

「不味いね。狂ってるわね」

「おかげで、アメリカのインスマウスが占領されちゃった。でも、外面そとづらは十字軍の物だけど結局はアメリカ政府の所有物に変わりないの。ゴールドの独占は強化しちゃったけれど」

「なにそれ? はじめから教会と政府は契約済みだったってこと?」

「Yes! 奴ら、ひとつの町を潰して占領して、ゴールドを政府と教会とで独占したかったのよ。しかもそれ、アメリカだけじゃなくてさ、各国各地にあったインスマウス町が同じ運命を辿っているわけよ」

「世界は思っていた以上に深刻ね……」

 その言葉通りに深刻な顔をして呟いたニーナが、一変して明るくなった。

「そういや、あんたの弟たちは? リストラされて無職なんでしょ? 今どうしてんのさ?」

「Ohー。ジミーとジョニーはミーに着いてきたよ。愛美さんから加勢の依頼の指名が入ったのはミーだけだったけれど、弟たちも生活を手伝うって言って一緒に来ちゃった」

「あの二人、今は留守番してんだ」

「Yes。仲良くお留守番ね」

 ニコニコ笑うジェシカを見ていたニーナも微笑みが浮かんだ。

 こうして、友の近況の話しに花を咲かせていた。

 のと同じ時間帯。


 川沿いのラブホテルを中心に見て、囲うように建つアパートやマンションやビルの屋上では、完全装備姿の新世界十字軍の兵隊たちによる狙撃準備が着々と進行していった。観光ホテルの屋上で、ライフル本体を組立終了して脚を取り付けていく辛子からしニコフ隊長の姿があった。ヘッドフォン式の無線通信機を金髪頭に取りつけて、小型マイクを下ろして口元に位置合わせして、彼の準備は完了した。それから腹這いになり、照準を合わせながら目標のラブホテル駐車場を覗いていく。護送車両と警察車両らが二重丸状に囲って、長崎県警と福岡県警の刑事たちと機動隊たちと民間人の陰洲鱒の住民たち、そして、鳳麗華を中心とした護衛人たちの姿を確認して照準の視界におさめた。

「こちらカラシニコフ。ピロシキにフレンチにピッツァ、準備は良いか? どーぞ」

『こちらピロシキ、こちらピロシキ。準備完了』

『こちらフレンチも準備完了』

『こちらピッツァも準備完了』

「了解。それでは、射撃準備ヨーイ」

 新世界十字軍狙撃部隊長、辛子ニコフ。

 各小隊長からの確認を取った彼は、標的の人物、鳳麗華を照準に入れていく。そして、引き金に指を掛けた。



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