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鱗の娘救出作戦! part2


 1


 同日。

 こちらも、ほぼ同時刻。

 場所は長崎市内。

 市内ラブホテル一階駐車場。

 こちらも、鱗の娘を“お勤め”先に派遣して時間がくるまで車内で待機していた、野木切鱶美のこぎり ふかみ。二三年前、同族の人魚である磯野フナこと鯉川鮒こいかわ ふなから制裁を受けて、雄人魚の乳母二郎うば じろう率いる数体の雄人魚と数人の教団信者の男たちから性的暴行と傷害の目に遭ってしまい、双子の姉妹の鱏美えいみともども瀕死状態だったところを現場に駆けつけた潮干リエから文字通りの『手当て』を受けて助けてもらい、リエから呼び出しを受けた海淵海馬うみふち みまから治療をしてもらった。そして、気になって同じ現場へ様子を見にきた梶木有美かじき ゆうみから身柄を保護されて、そのまま肉屋としても剣術の不知火一派としても弟子入りして、今に至る。当時そのとき、状況を電話で聞いて蒼白した顔で同じ現場に駆けつけてきてくれたのが、母親の野木切鱏子のこぎり えいこであった。被害を受けていたが、リエと海馬みまと有美たちにより気力を取り戻してあるていど回復していた我が双子の娘たちを見たとたんに、鱏子えいこは娘二人を抱きしめて涙を流した。妖怪として人魚としての特徴は、本来ならばヒトのように涙腺は持たないので「涙は流せないが泣ける」ことは可能であるが、その昔に螺鈿島らでんしまに流れ着いた人魚の最古株の鱏子を含めた鰐恵わに めぐみ橦木朱美しゅもく あけみフカ三姉妹に至っては、現地の人間を気に入り人間に溶け込もうとして生活を続けているうちに涙を流せるようになったという。ただし、これも、本当に“そういう”感情が現れた場合に限りであり、普段から流せるものではなかった。横に逸れたが、二三年前はそういったことがあって、母親の鱏子はリエたち三人に頭を下げて礼を言ったのちに、うちの娘たちをどうぞよろしくお願いしますと有美に託した。以上そうしたことがあって、今現在、非力だった野木切鱶美と鱏美は腕も“女”としても強くなっていた。

 二三年前の可愛い娘から、長身の美しい“女”へと変わった。

 実に母親とそっくりな美女で、背丈は姉妹ともに百七二センチの細身。クリッとして愛らしいアーモンド型だった眼は、切れ長な眼差しに変わり、黒い眼の中に銀色の瞳が輝いていた。魅惑的な“うなじ”の長い首筋に五つの鰓、肋骨あばらぼねのあたりに三つの鰓を持つ、人魚の特徴を備えていた。そして最近は、姉妹ともに国籍を得て、日本人として人間として生活を送っている。あと、双子の姉妹の特徴的な共通として、艶やかな長い黒髪は真ん中分けであること。そして、大人として成長した鱶美ふかみの今の服装は、上は黒いノンスリーブのタンクトップと、下は黒いデニム生地の脹脛までのパンツであり、上下ともに身体のラインを出したピタッとした衣服であった。真ん中分けの艶やかな黒髪をポニーテールにしていて、左側の前髪を出していた。薄く瑞々しい唇には、クリアーのリップを引いていた。


 ダッシュボードのタイマーが鳴っても鱗の娘たちが姿を見せないので、用心のためにノコギリサーベルを片手に持ってラブホテルに入っていく。部屋番号『334』の扉をノックしていく。

千歳ちとせさん。時間なので迎えにきましたーーー、よっと!」

 身を引いて間合いを取り、長い脚を横に伸ばして扉を蹴り開けた。鍵を破壊して、部屋の壁にノブを乱暴に叩きつけて窪みをつくった。長物を片手に踏み入れたとき、ちょうど今、千歳さんと呼ばれた可愛らしい女性が床に這いつくばって、口を大きく開けて黄ばんで白濁した吐瀉物をふちまけているところであった。後ろから鱗の娘を突いていたのであろうと思われる男学会員が、男性器を反らして硬直させたままその光景に顔を引き吊らせて、尻を床に突けたまま後ずさりしていた様子。そのイキり立っている男性自身が思わず目に入った鱶美は、頬を赤く染めた。目を閉じてひとつ深呼吸したあと、再び見開き、気持ちを切り替える。大きく咳き込んでいる千歳のもとに寄ってきて片膝を突いて、男衆を見渡していく。雄人魚が数名、男信者が数名、男学会員が数名の、合わせて約十六人ほどか。雄人魚の割合が多いようだ。

 千歳の肩から抱き上げて立たせた。

「ちーちゃん。歩ける?」

「ええ、はい……」

 鱶美は、そう千歳に話しかけて彼女の答えを聞いたあと、ノコギリサーベルを片手に持ったまま腕を前方に伸ばして曇りガラスの扉を指差した。

「見える? あそこでシャワーを浴びて着替えてきて」

「はい」

 頷いて歩き出した千歳を見送りながらも、鱶美は男衆に目配せしていく。続く静寂と沈黙の中で、千歳が入って浴室の扉を閉じたとき、火口を切ったのは背丈の高い男信者であった。横から振られた拳から頭を下げて身を引き、鱶美はノコギリサーベルを振りかぶって、剣の腹を背丈の高い男信者のあばらに思い切って叩きつけた。打撃の勢いで、その男信者は床を側転しながら転がっていき、眼鏡をかけた男学会員に衝突して壁と床に激突して落ちた。両方の手刀にした肘から小指の指先にかけてひれを出して、先へと伸ばしてそれを刃のように形成して『ヒレブレード』を作っていった雄人魚たちが、鱶美を目掛けて飛びかかってきた。振り下ろしてきたヒレブレードをノコギリサーベルで防いだところの後ろから、肥満の雄人魚がヒレブレードを構えて走ってきた。これを鍔迫り合いをしつつ見ていた鱶美は、子手返しで雄人魚の頭を床に叩きつけてすぐに身をひるがえして、瞳を銀色に光らせて長い脚を横に突き出して、手加減無しの妖気を肥満体型の雄人魚の胸元へと蹴り込んだ。胸骨は破壊されて、心臓も潰されて弾け、肥満体型の雄人魚は絶命したまま吹き飛んでいき、逃げ損ねた男信者ごと一緒に壁にめり込んだ。鱶美の軸足を狙って斬りかかってきた細長い雄人魚の振ってきた腕を、床を蹴って跳ね上がって側転宙返りをして着地。横からヒレブレードを振り上げてきたウツボ顔の雄人魚の鳩尾にノコギリサーベルを突き刺して、身をひねって振り回し、男学会員を二人とヒレブレードを構えていたヒョロい雄人魚へ目がけて振り投げた。向こうの壁に当たって四つが断末魔を上げるのを聞きながら、鱶美は次の相手に構えていた。突き刺さんとしてきたヒレブレードを弾いて、雄人魚の脳天にノコギリサーベルを叩きつけて、斬撃の勢いそのままで床に頭ごと落とした。割れた頭からサーベルを引き抜き、一番最初に退けた雄人魚がいまだに床で悶えていたので、鱶美はその頭の横を床ごと突き刺した。これでこの部屋の雄人魚は全滅したが、数名の男学会員と男信者たちを残すのみであるが、正直、相手にするのは面倒臭いと思ったとき、鱶美は瞳の光をさらに強くして、妖気を四方八方へと飛ばした。瞬間、衝撃波が大きな“うねり”を生んで、強風とともに残りの男衆を殴り飛ばしていき、ある者たちは後ろ頭を強打して壁に窪みを作り、またある者たちは部屋の角やら柱や家具などにぶち当たって破壊して、など以上のことを起こして全部片付けた。

 瞳の光をおさめてベッドに腰を下ろして、千歳を待つ鱶美。

 だいたい五分が経過して。

 曇りガラスの扉が開けられたとき、カーキイエローの裾にレースのフリルで飾り付けされたワンピース姿の千歳が現れた。膝上は十センチという短い丈。素足にカーキイエローのサンダルを履いている。左肩から真珠色のショルダーバッグを下げていた。そんな彼女の姿に一瞬だけ魅入ってしまった鱶美。

「素敵ね。可愛いわ」

「えへへ。ありがとうございます」

 嬉し恥ずかしで笑顔になって返していく千歳ちとせ

 針山千歳はりやま ちとせ。十八歳。

 身長は百六〇センチと、“お勤め”をさせられている鱗の娘たちの中で一番小柄な娘。愛らしくも大人びて整った顔立ちと、アーモンド型の眼をした茶色の瞳の中には縦長の瞳孔。パーマをかけた茶色い髪の毛をショートにした襟足から肩甲骨まで伸ばしているといった、いわゆるオオカミヘアーをしていた。

 鱶美はノコギリサーベルの血糊をベッドのシーツで拭い取ると、千歳にその美しい顔を向けた。

「さあ、下に行って次の女の子を助けようか」

「はい」

 と、笑顔で頷いた。



 2


 長崎市内。

 また場所を変えて。

 こちらも同じ日で同じ時間帯。

 黄色い外観のラブホテル。

 野木切鱏美のこぎり えいみは、すでにひとり目の鱗の娘を救出していて、下の階に向かっていた。

 人魚の鱏美えいみは双子の姉妹に鱶美ふかみがおり、母親には鱏子えいこがいる。鱶美と同じく梶木有美のもとに預けられて、肉屋として剣術としての弟子入りして成長していた。母親と鱶美によく似て美しい“女性”である。姉妹共通の真ん中分けの艶やかな長い黒髪をオールバックにして左側の前髪を垂らして、アッシュ系のグリーンに染めていた。そして薄く瑞々しい唇に、サーモンオレンジのリップを引いていた。衣装は、ディープグリーンのカッターシャツと、膝丈より短い同色のスカートという組み合わせ。

 そのような高身長美女の鱏美がノコギリサーベルを片手に、後ろにいる鱗の娘の鯵原重あじはら かさねに数歩横に離れてもらったあとに、長い脚を前に突き出して、踵で扉を蹴り開けた。次に鱏美えいみは、「お邪魔しますよっと!」そうひとつ断って、鱗の娘に馬乗りして拳を振り上げていたスポーツ刈りの男学会員の顔を踵で蹴り飛ばして、毬栗千子いがぐり せんこを救出して背中に隠すようにした。ノコギリサーベルを両手で構えながら、部屋を見渡していく。

「十人か。ーーー相変わらずまあーー。ひとりの女の子に大の男たちがってたかって……。じぶんたちが今なにをしているのか考えろ」

 と、銀色の歯を剥き出して男衆に吐きつけた。

 鱏美のこの態度に青筋を浮かべた、面長な雄人魚。

「“穢れ”であり我が種族の裏切り者のクセに、偉そうな口を叩くな」

「お前のような雌は黙って我らの言うことを聞いてりゃいいんだよ」

 将棋駒の輪郭の雄人魚が、面長な雄人魚に便乗してきた。

 鱏美は銀色の瞳で、その雄人魚二体を睨み付けた。

「状況が変わったのも理解できないんだ?」

 こう言い終えて、銀色の瞳を強く光らせていく。

 そして。

「喝!」

 との叫びとともに、鱏美は妖気を部屋の四方八方に発した。

 男信者や男学会員と雄人魚たちを八人ほど吹き飛ばして、壁やインテリアに叩きつけた。次に、その場からいなくなったかと思われたときには、鱏美は面長な雄人魚の間合いに入ってきていた。

「ご苦労さん」

 と、ノコギリサーベルを脳天に叩きつけて、面長な雄人魚の顔を縦に割って、振り下ろした勢いそのままで床に頭から落とした。振動と打撃音を響かせたのちに、割れた頭からノコギリサーベルを引き抜いて、ベッドのシーツで血糊を拭いた。そして、この様子を稲穂色の瞳をうるうるさせて見ていた裸の娘に笑顔を向ける。

せんちゃん。身体を流してきて。次のホテルで女の子たちを助けにいくよ」

「はい!」

 そう黄色い声をあげて、千子せんこは浴室に向かった。



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