54.夫の順位
「みんなは、ラスキスのことどう思ってるの?」
私の意見を聞いて貰ったんだから次は皆よね、と思って聞いたらキョトンとされてしまった。
「俺らか? どうと言うことはないと思うが」
「些細なことでもいいの。ここが良いと思ったとか、逆にここが気になった、とか」
「そう言われても、困りますね。結婚するのは僕たちではなくイズミルなので」
カイルだけじゃなく、エルもあまりはっきりしない返事だ。
「結婚するのは私だけど、皆も家族になるんでしょう? 私ひとりの意見で決めるのは違うと思うの」
「なるほど。そういう風には考えたことが無かったが、イズミルが俺たちのことを大切にしてくれていることを、嬉しく思う」
カイルが穏やかにそう言ってくれるけれど、皆気にならないのかな?
家族になる相手を選べないなんて、私なら絶対に嫌だけど。
「イズミルの中でどう思っているのかは分かりませんが、この国では、新しい夫は妻が決めます。
僕が結婚する時も、カイルやツィリムではなく、イズミルが決めたでしょう?」
「うーん、最後に決めるのが誰かはともかく、カイルにもツィリムにも聞いたと思うよ。
それで、エルにしたらいいんじゃない、って言われたし、私も気に入ったから決めたの」
「イズミは、おれらの事をちゃんと考えてくれるから」
上機嫌なツィリムが頬ずりしてくるのが、子猫みたいでかわいい。
「僕の意見も聞いてくれるのであれば、ラスキス殿下はいいと思います。穏やかで真面目で、イズミルに気に入られようとしていましたから」
「エルは、ラスキスの顔が好き?」
ニヤニヤしながらエルをからかうツィリム。
「いえ! そういう訳ではありません!」
必死に否定するエルもかわいいな。
「カイルは?」
「俺としては、条件的にも人柄的にも最高に近いと思っている。
仕事上、日頃の殿下を見ることも多いが、人当たりも良くて真面目で、頭も切れる。
王族の中で、俺が一番来て欲しかった人が来ているから、ぜひおすすめしたいな」
「なるほど。大賛成、と。ツィリムは?」
「俺は……まあ、イズミが好きになれそうな人がいい」
「ツィリムは嫌い?」
さっきまでラスキスより顔が好みと言われて上機嫌だったのに、一気に急降下だ。
「嫌い、というか、外国人の俺より序列が下で納得できるのかなって」
ぽそりと呟くように言われた言葉は思いのほか深刻そうで、とっさに言葉が出なかった。
私はそもそも全員異世界人なので気にしてなかったけれど、ツィリムは外国人なのだと今更思い出した。
でも、カイルが気になったのは違うことのようで。
「序列が下とは、どういう事だ?」
「王族で王位継承権もあるのに、第4夫なのはどうなのかと思っただけ」
「いや、ラスキス殿下とイズミルが結婚するなら第1夫になるだろう。当たり前だ」
「「えっ??」」
ツィリムと私の疑問が綺麗に被った。
「「えっ??」」
その疑問に対して、カイルとエルの疑問が更に被ってなんだか面白い感じだけど、それどころじゃない。
「序列を変えるの?」
「そりゃあそうだろう。王子殿下が相手なんだから」
「それは嫌なんだけど」
「……なぜですか?」
お互いに常識が違っているのに、自分の考えが当たり前だと思い込んでいて、今気づいたお互いの違いが大きすぎて中々整理がつかない。
「だって、今の3人が優先だもの。ずっと言ってるでしょう?
カイルよりラスキスが上に来るのはイヤ」
「だが、それだとラスキス殿下は納得出来ないだろう」
「それなら断ろっか」
「ええっ!?」
カイルとエルは異常なくらいに驚くけれど、ツィリムは固まったままだ。
「ねぇ、ツィリム。この前、ツィリムはラスキスに3番目を渡したくないって言ってたよね?
そのために、結婚式を早くするって」
こくこくと頷くツィリム。
「イズミル、確認なんだが、俺よりもラスキス殿下の序列が上になるのは駄目か?
あくまでも形式上のことで、本当の中身は今のままにするから」
「中身を今のままにするなら、形式的にも四番目で良くない?
私は、今の暮らしが気に入ってるの。だから、なるべくこれを崩したくない。
それを受け入れられないなら、結婚は難しいかなって」
「それでは殿下は納得出来ませんよ?」
優しく諭そうとするエルと違って、カイルは深く考え込む。
「……新しく、夫に求める条件を追加しよう。『結婚時点の最下位夫になること』というものを」
「カイル、正気ですか!? 受け入れるはずがありません!
遠回しにラスキス殿下を断っているようにしか見えませんよ!」
「だが、それがイズミルの願いだ。
殿下には、俺が機会をみて直接交渉してみる。
この条件では、難しいかもしれんが……」
その後もカイルとエルが言い争うけれどお互いの主張が平行線で全く終わりが見えない。
「あの、聞いてくれる?」
言い合っていても、私が口を挟むと素直に聞いてくれる。
「それなら、私が直接ラスキスに言うよ。
理由も含めて、ね。それからラスキスとちゃんと話し合う。
皆で家族になるんだから、私が言ってもいいよね?」
「それはそうだが……。本当に大丈夫か?」
「心配しなくても大丈夫。みんなも居てくれるし、自分の言いたいことはちゃんと自分で言うよ」
強い気持ちを込めてカイルとエルを見ると、2人は折れてくれたようだった。
「なるべく早く、次に会える機会を作るようにする」
「カイル、ごめんね。ありがとう」
「大丈夫だ。俺たちは、イズミルが楽しく暮らせるために頑張っているのだから。
あまり無茶はしないでくれよ」
真紅の瞳は不安げに揺れていて、こんなカイルを初めて見たからどうしいいか分からない。
ただ、私の考えはきっとみんなのためになるから、頑張ろうと思ってる、それだけ。




