52.王子様とのお話
いつもツィリムが魔法で水やりしてくれている庭から差し込む光を浴びながら、キラキラ王子様とのお話が始まった。
「姫は、夫となる人物に特に条件を設けてはいないと聞いたが、誰でもよいというわけではなかろう?
どのようなことを望むか、教えてもらえぬか」
「そもそもあんまり考えたことないかな。強いて言うなら、優しくて一緒に仲良く生活していける人。
今の環境がとっても居心地いいから、これを崩したくないの」
「ふむ。明確な基準がないゆえに確実なことは言えぬが、可能だろう」
可能かどうか、というよりも、この子は無理にでも気に入られるような振る舞いをしそうだね。
「別に無理して合わせて貰わなくても大丈夫よ。
私が選ぶみたいになっちゃってるけど、あなたが私と一緒にはやっていけないと思ったら、すぐに断ってね」
「求婚しておいて断ることなどあるはずが無かろう」
多少目を見開いたものの、浮かべた笑顔は変わらないまま。
「でも、私のことが好きだから求婚してるんじゃないよね?
王様に言われたから来てるんでしょ?」
私がそう言うと、なぜだか分からないけれどくすりと笑われた。
ずっと笑顔を浮かべているのに、その妙にシニカルな唇の端をきゅっと上げるような笑い方が気になった。
「まあ、そうとも言えるか。他に何か条件は?」
「これはよく旦那さんたちにお願いすることなんだけど、私のことを私の知らないところで決めないでほしい、ってことかな」
「ふむ。たとえば?」
「今回王様に呼び出されたのも、何で呼ばれたのか、これからどうなりそうなのか、ちゃんと教えて貰ったの」
「なるほど」
見た目で私より年下っぽいと思っていたのに、顎に手をやって考え込む姿は結構大人に見える。
ツィリムもそうだけど、就職年齢が早い分、幼く見えにくいのかもね。
「私に関わることは、自分で知って自分で決めたいから。誤魔化されたくないの」
「だから陛下の御前に自ら現れたのか。正直に言って、驚いたぞ。
御前に参上する女など聞いた事もない。普通ならば夫が揃ってそれで終わりで、自ら来ることなどないからな」
当たり前のようにカイル達が連れて行ってくれたから普通なんだと思ってたけど、この国では普通じゃなかったってことか。
私が行きたがると思って連れて行ってくれたんだろうな。
「夫になる人を紹介されるかも、って言ってたからね。行ったからアセスリートさんにも会えたわけだし」
「ふふふ。しかし、姫はあまりによく話すので忘れそうになるが、確かに異国の女性なのだな」
「急にどうしたの?」
笑われた上に話題が急転換して、ついていけない。
「夫を介さず積極的に話すところはまるで男のようだと思っていた。
正直に話してほしい、自分のことはきちんと知りたいと考えることにも共感できるし、一緒に暮らして行けそうだとも。
しかし、私のことを『アセスリートさん』などと呼ぶことは、聞いた事もない。
やはり異国の民なのだなと、そう感じたのだ」
「あっ、ごめんね。嫌だった?」
「嫌ではない。ただ、そう呼ばれたことなど無かっただけだ」
「イズミル、少しよろしいでしょうか」
嫌じゃないといいつつただ微笑むだけのアセスリートさんに、どう対応していいか分からず困っていると、横からエルが助けてくれた。
「アセスリート、とはこの国で王家そのものを指す言葉です。もっと言えば、王の権力であるとか、強いものの象徴としても使われますね。
それを気軽にさん付けで呼ぶのが面白かったのでしょう」
ここでも文化の違いかぁ。
確かに、天皇家も『苗字が無いくらい偉い』みたいなのだったよね?
「じゃあ何て呼べばいい? ラスキスさん?」
「夫となるのだから、さんなどと他人行儀に呼ばれたくはないな。単にラスキスと、そう呼んでくれればよい」
「うん、ラスキスね。わかったよ」
単にそう言っただけなのに、ずっと浮かべている微笑みが少し深くなったことが嬉しかった。
それからしばらく雑談をしていて。
「ラスキスは王子様なんだよね? ってことは、お父さんが王さま?」
「なぜそうなった? 王位継承権があるのだから、王の子ではなく姫の子だ」
「ん? 王位継承権ってどうなってるの?」
当然、王さまの子供が次の王さまだと思ってたけど、やっぱり世界が違うと常識がちがうみたい。
「異国から来たのだから当然わからないだろうな。
端的に言うと、国王陛下は私から見て叔父にあたる。
陛下の妹が私の母上だな」
「なんでそんな複雑なことになってるの?」
「姫の国では夫婦は男女二人組だと聞いたが、この国ではそうでない。
国王陛下には妻が居るが、陛下以外の夫もいる」
「えっ、王さまでも夫のうちのひとりなの!?」
「そうだ。女は少ないがゆえ、例え国王陛下でも独占することは許されない。
もしも陛下だけの特例として認めてしまえば、我もわれもと独占しようとする輩が現れて、この国は女を巡る争いで荒廃してしまう」
「付け加えておくと、神殿が祀っている創造神も、女を取り合わないように、という神託を何度も出しています」
エルが補足してくれたけど、やっぱり争いになっちゃうよねぇ、と思う。
神さまが神託を何回も出す羽目になるなんて、争ってた時代には色々あったんだろうな。
「それゆえ、王の子は継承権を持たず、姫の子だけが王になれるのだ。
王の子は王以外の男の種かもしれぬからな」
「じゃあ、女の子が産まれなかったらどうなるの?」
「その時は、『外王女』と言って、王と王家の血筋の男だけを夫とする女性をもうける。
王家の男だけが夫であれば、その子は確実に王家の血をひくゆえに」
「なるほど。夫が多いと、確実に血をひくってなると難しいんだ。でも、女の子が生まれるかどうかなんて分からないんだから、毎回やればよくない?」
純粋な疑問として言ってみたんだけど、かなりびっくりされたようで、少しだけ瞳を瞬かせた。
「夫を選べない立場になるゆえ、外王女になりたがる女は少ないからな。
それに、歳周りが会わなかったりと意外と難しいのだ」
「そっか。女の子が選べないのは絶対良くないよね」
この国、女の子が少ないからめちゃくちゃ大事にされてる感があるよね。
平等とは言いづらいから嫌だと思う人も居るかもひれないけど、私は大切にして貰えてよかったな、と思ってる。




