50.ツィリムの家族
「イズミは、どんな結婚式がいい?」
まだ馬車から家までの間、お姫様抱っこで連れて行ってもらっている間にそう訊ねられた。
ラスキス君の事を言われるかと思ったのに、全然違う話だ。
「んー、何となくだけど、白のイメージかな。カイルやエルの結婚式も、私のイメージに結構近かったよ」
「2人と同じにしたい?」
「うーん……正直いうと、私は故郷の結婚式のことをほとんど知らないんだよね。
だから、どんなものでも綺麗なパーティーだったら楽しいと思う」
「……イズミの思う結婚式は、どんなの?」
下から見上げるツィリムの横顔はなんだか暗くて、結婚式なんて明るいことを話しているとは思えないくらい。
「みんなに集まってもらって、私たちは結婚しましたよ、って報告する感じかな」
なんとなーくのイメージを喋ったら、ますますツィリムの顔が暗くなった。
ツィリムがソファに座ってもまだ、わたしは膝の上でだっこされたままだし。
「……おれには、家族がいない。
カイルの時みたいにしようと思っても、呼ぶ人がいないんだ。だから、結婚式のこと考えたくなくて、先延ばしにしてた。イズミはすぐに夫を増やさないと思って。
でも、ラスキス殿下とも結婚するなら、婚約前におれの結婚式をしないと」
ぎゅうと強く抱きしめられるというよりかは、私にしがみつくようにしたままその言葉を絞り出した。
それが見ていて痛々しくて可哀想で、何とかしてあげたいと思うけどどうしたらいいのか分からない。
「なんで結婚式をそんなに急ぐの?」
私としては、嫌ならやらなくてもいいんじゃないかとも思う。
「だって、結婚式をしてない状態でラスキス殿下が来たら、またおれの順位がひとつ下がるかもしれないし」
「絶対そんなことしないよ! それは安心して。私はツィリムのこと大好きだし、大事にしたいと思ってるからね」
はっきりとそう断言すると、ツィリムの強ばった顔が少しだけマシになった。
「でも、結婚式はやらないと」
それは譲れないようなので、他のことをちゃんと聞いてみよう。
「ツィリムの家族は、どんな人なの?」
この世界に来てからそれなりに長い時間を過ごして来たけれど、実はみんなの家族のことをほとんど知らない。
カイルの家族はちらっと見たことがあるけど、その程度。
エルの家族も結婚式に来ていたはずだけれど、紹介されることもなかったからどんな人なのかは分からない。
「おれの家族は、もういない。
まだおれが小さかったころに、魔物に襲われて村ごと無くなった」
……私が予想してたよりも辛い話が始まったから、そっとツィリムを抱き寄せる。
「襲ってきたのは多分火の魔物だった。村は全部焼けてしまったけど、おれは、水の魔法を少しだけ使えたから、生き延びれた。
……今の強さがあれば、みんなを守れたのに」
ぽそぽそと呟くように話すツィリムは本当に辛そうだから、思わず話を遮った。
「分かった。ごめんね、辛い話をさせて」
「イズミ、ありがとう。おれの気持ちを考えてくれて。知りたくなったら、また言って」
遮ったら、それ以上は話そうとしなかった。
ツィリムにとって、絶対に思い出したくない過去なんだろう。
歳に見合わない落ち着きやちょっとした暗さは、故郷を失った経験からのものかもしれないな。
「私の方こそ、教えてくれてありがとう。
辛いのにツィリムが教えてくれたから、家族が居なくて帰る場所がないのは、私だけじゃないって分かったよ」
「えっ?」
思いもしない言葉だったのか、暗い思い出に囚われて沈んでいたツィリムが私の方へ戻ってきてくれる。
「だって、私もこの世界に家族が居ないし、もう国にはきっと帰れないし。おそろいだね」
少し笑ってそう言うと、ツィリムはぱあっと笑顔になってくれた。
「イズミと、同じ?」
「うん。ツィリムは結婚式に呼ぶ家族が居ないから困ってたんでしょ?
私もそうだよ。一緒じゃない」
「……そう言われてみたら、そうか」
「ちなみに、私の国では結婚式のやり方は色々あって、2人だけでやる結婚式っていうのもあったよ」
「それがいい。
ずっと悩んでたけど、早くイズミに相談すればよかった。
イズミはきっとすぐに夫を増やさないと思って先延ばしにしてたから」
結婚式が決まって、ツィリムの顔つきが一気に晴れやかになった。
憂い顔の天使もかっこいいとは思うけど、やっぱり旦那さんには笑っててほしいよね。
「2人だけなら、カヤッタエラの衣装を着てもらえる?」
カヤッタエラはツィリムの故郷だったはず。
方法が決まったら、あれこれしたいことが出てきたみたいで、とってもいいことだよね。
「どんなドレスなの?」
「赤くてまっすぐなドレスに、紺色のベールを被る。金と宝石のアクセサリーもついてる」
「いいねぇ、とっても綺麗そう!」
「こういうのなんだけど……分かるかな」
そう言いながら、机の上に散らかっていた紙に軽く絵を描いてくれたんだけど。
「うーん、ちょっと分からないかも」
ギリギリ人間だということだけは分かる、というレベルの絵では、ドレスの魅力までは分からないかな。
「やっぱり? カイルなら絵が上手いんだけど、ストロヴェーラを知らないかも」
「ドレスの名前、ストロヴェーラって言うの?」
「そう。このアレタード王国は豊かだから結婚式の度にドレスを作れる。でも、カヤッタエラは貧しいから、村に一つだけストロヴェーラがある。
それを、全員が着るんだ」
魔物に襲われた話といい、ツィリムは過酷な環境で生きてきたんだな。
「みんなが同じウエディングドレスを着るって、素敵ね。みーんな家族、って感じがしない?」
「うん。村の皆が、家族だった。懐かしいな」
思い出を振り返るように遠い目をするツィリムは、さっきまでのように辛そうではなかった。
きっと、誰かの結婚式の素敵な思い出なんだろうな。
そんなツィリムを見ていてふと気づいた。
私は、全然日本に帰りたいと思ってないな、ってことに。
普通なら、誰かに会いたいとか色々思うだろうけど、なんだか気にならない風になってる。
……これも、神様の力なのかな。
「じゃあ、結婚式は2人だけでやる。
カイルとエルは居るから、4人だけか」
「ツィリムがそうして欲しいなら、2人だけでもいいよ?」
「2人だけの時間も欲しいけど、みんなで家族になるから、カイルとエルにも来て欲しい」
悩みが解決したツィリムはとっても嬉しそうで、ぎゅーっと優しく抱きしめてくれる。
結婚式を楽しみにしてるのがつたわってきて、その暖かい体温を感じていると、こうして家族になっていけることは本当に素敵だな、って思えた。




