48.王城へ
王さまと会うだけあって綺麗だけど複雑なドレスをエルが着せてくれる。
こんな服も用意してたんだ、ってちょっとびっくりしたけど、旦那さん達はきっと、こういう日が来るって分かってたんだろうな。
「イズミルに僕から1つお願いがあるのですが」
「うん、どうしたの?」
「出来るだけでいいので、あまり喋らないでいて欲しいのです。
特に、今回の話は非常に繊細なので、イズミルの発言でことが思わぬ方向へ進んでしまうかもしれません」
「そうなんだね。分かった。
でも、ちょっと嫌だな、って思ったらどうしたらいい?」
事情をちゃんと理解してない人間が下手なことを言うとマズイってことはわかる。
だけど、自分の意見を言いたい時だってあると思うんだよね。
「その時はもちろん、僕たちの誰かに言ってくれたらいいですよ」
「でも、王さまの前なんだよね?
聞こえちゃわない?」
「聞こえない程度に小さな声で話して欲しいですね」
「えっ、目の前でこそこそ話するの?
失礼すぎない?」
「えーとですね、イズミルの中での認識がどうなっているのかはよく分かりませんが、この国では女性が自分の意見を言うこと自体がほぼありません。
親しい人や夫が相手であれば言いますが、公の場では」
「んー、そういうものなんだね」
確かに、カイルの結婚式の時に少し喋っただけでとても驚かれたよね。
文化が違うから慣れないこともあるけど、今回はちゃんとこっちのやり方でやろっと。
エルとカイルに連れられて王城へ向かう。
魔術師団の方へは行ったことがあるけど、真正面の超でっかい門から入るのは初めて。
そんな場合じゃないのは分かってるけどちょっとワクワクしちゃうよね。
「わっ、すごいね、この部屋」
通されたのはもうほんとにTheっていう玉座の間だった。
絶対あのおっきいキンキラな椅子に王さまが座るんだろうなーってかんじ。
「イズミルは物怖じしませんし、本当に可愛いですね」
きょろきょろしてたらエルが微笑ましそうに頭を撫でてくれた。子ども扱いな気がしないでも無いけど、素直に嬉しい。
しばらくして、ツィリムが合流してきたからお話しようと思ったのに、そんな間もなく声がかかる。
「国王陛下の御成〜!」
装飾の多いスーツみたいなのを着たお兄さんの掛け声と共に、赤いマントとキラキラしたアクセサリーを付けた金髪のイケおじが登場した。
みんなが頭を下げるから、私も一緒に下げておく。
カイルの膝の上だから大して下げれなくてなんだか甘えてるだけみたいになっちゃってるけど。
「神の求めし命運に従い、この場を取り仕切る」
おー、声も渋めボイスでいいねぇ!
この国はイケメンしかいないのかな!天国だね!
イケおじ国王は50歳くらいで、その後ろに控えたロマンスグレーのオジサマもイケメンなんだよね。
「陛下と宰相閣下が揃っているとは、やっぱり気合い入ってるな」
ぽそりとカイルが教えてくれたので、ロマンスグレーオジサマは宰相さんらしい。
そう言われても、『偉い人なんだなー』ってことしか分からないけどね。
話が始まってしばらくすると、流れるようにエルにパスされた。
言い回しが難しいし回りくどいけど、冒頭の挨拶が終わって本題に入ったっぽい。
「イズミル、心配しなくて大丈夫ですからね」
私が興味津々で聞いているのを不安だからだと思ったのか、エルが穏やかに頭を撫でてくれる。
抱っこされてるから直に体温を感じるから、そんな場合じゃないのにスリスリして甘えちゃう。
「救国の乙女は穏やかな人物であるようだな。そのような宝の卵が脅かされることはあってはならぬ。
そうは思わぬか?」
それまでは余裕を持って話していたカイルが身体を固くした。
気をつけて見ていないと気づかないくらいだけど、なんだか良くない話なのかな?
私がおっとりした人だね、って言われただけな気がするけど。
「はい、仰る通りでございます」
「我がアレタードの地へと御主神が遣わしてくださったこと、誠にめでたく尊ぶべきことよな」
「……はっ」
「尊きものはより高く、世の摂理はそうあるべきだ」
「仰せの通り、ですが……」
同意したようにみせかけて、少し間を置いてカイルが抵抗する。
「なんぞ。神の御意思に反すると言うのか」
なんだか王さまが怒ってるから私の方がハラハラしちゃう。カイルは平気そうなのに。
カイルが気になってガン見していたら、エルがこっそり話しかけてきた。
「イズミル、最後の確認ですが、本当に王家に嫁がなくて良いですか。向こうの方が、贅沢な暮らしが出来るかもしれませんよ」
心配そうにしてくれるエルの優しさがとても嬉しいし、私の気持ちは変わらない。
「うん、私は、みんなと一緒にいたい。今でも充分幸せに暮らせてるよ」
「では、そのようにしますね」
にこりと微笑みかけてくれて、王さまとカイルは喧嘩してるっぽいのに私は落ち着けた。
「お話の途中ながら、失礼致します」
エルがよく通る声で王さまとカイルの話を遮る。
「我らが妻は、今の暮らしに大変満足しており、今までと同様に夫と共に生きてゆくことを望んでくれています。
相応しくあることも大切かと存じますが、まず第一に求められるべきは、救いの乙女本人の望むようにすることかと愚考いたします」
にこやかに語るエルはとても頼もしく見えたし、王さまもそれに納得してくれたようだった。
「その通りよな。では、この話は次に星の巡りし時としよう」
「はっ!」
満足気に頷く王さまと、それに同意して深く礼をするカイルとエルとツィリム。
なんだか上手く行ったんだとは思うけど分からないこともある。
「……エル、次に巡りし時って何?」
「今回は王家から『王子の妻となって王家に入らないか』と言ってきたけれど、それをイズミルは嫌だと言いましたね。ですが、王は一度出した提案を辞めるとは言い難い立場なのです。
ですから、次に星の巡りし時、ということで先延ばしにした風を装ってこの話を無かったことにするわけです」
「なるほどぉ」
偉い人は話をするのも大変そうだけど、とにかくみんなと一緒に居られるなら私から不満はないかな。




