47.事情説明
「面倒くさくて分かりにくいと思うけど、聞いておいて欲しい話があるんだ」
「何?」
カイルがやけに神妙な顔つきでそう言うから、こちらも気持ちが改まる。
「まず、我が国アレタード王国の周りには、三つの国がある。
東のカヤッタエラは砂漠の国で、ツィリムの出身地だ。雨を求めてこちらへ来た住民と多少小競り合いになる程度で、大したことはない。国力もあまりないしな。
次に西のシャーラセルラ神国。セラルシオの出身地で、エルフの国だ。世界樹とかいう木を信仰しているらしくて、良くも悪くも内向的だからほぼ関わりがない。
問題は、北と南だ」
とりあえず、私と仲の良い人たちの国とは悪くない関係のようで安心するけれど……。
多少の小競り合いがあるのに、『悪くない』と言えるって、他とはどれだけ仲悪いんだろう。
「北には、魔境がある。その名の通り、魔物が棲む土地で、正直良く分からない。
魔物自体、生態が分かっていないし、奴らがどんな群れを作っているか、など更々不明だ。
唯一分かっていることは、見つけた人間を無差別に襲う、ということだ」
「そんな生き物がいるの!?」
初耳だった。
魔法があって割とファンタジーだとは思っていたけど、人類の敵が居るほどだとは……。
「今までの攻撃は散発的だったから何とか国境線を維持できていたが、最近難しくなっているらしい」
「魔物については、僕から話してもいいですか?」
それまで黙って聞いていたエルが口を開く。
「以前、月儀式というものがあると言いましたよね? 三日三晩かけてマナを還元するのですが、それを行うことで魔物を減らせるというものです。
しかし、最近では儀式の内容は変わっていないのに、魔物の様子が変わってきています」
「ちゃんとやってても、魔物が増えてるの?」
「そうなのです。なので、王国としても神殿としても非常に困っています」
本当に困っているんだな、と分かるくらいに灰色の眉をぎゅーっと寄せるエルに続いて、カイルが説明をしてくれる。
「最後は、南のタタルタンテ帝国だ。
最近勢力圏を広げることに躍起になっていて、周辺国に戦争を仕掛けているんだ。
以前は国境を接していなかったんだが、数年前にサラルアテニー王国が滅ぼされて、次はこの国が狙われてる、ってことだな」
「戦争に積極的な国のことって、私にはあんまりよく分からないんだけど……。
北と南に敵が居るって、挟まれてるってことじゃない? 大変だよね?」
「まあそうなんだが、魔物相手では手の組みようがないからな。挟み撃ちにされるという最悪のシチュエーションは起こりにくい。
魔物の動きを利用されると大変だろうとは思うが」
「戦いがそんなに身近にあるなんて知らなかったよ。それなら、私の魔力が欲しいって言うのも納得だし」
「そんな状況だから、国としては強い魔力が欲しいんだ」
強い口調でカイルが言い切り、エルもそれに同意するように深く頷く。
「神殿側も、恐らく動き出すでしょうね。
神託の数はそれなりに多いので、イズミルは今まであまり注目されてはいませんでした。
しかし、魔術師団内であれだけの騒ぎを起こせば調査するでしょうし、神託の乙女だと言うことはすぐに分かります。
神殿は魔力を使えないので今すぐ利用されることはないでしょうが、確保しようとしてくるかもしれません」
「これは俺の感覚でしかないんたが、神殿は王宮よりもさらに閉鎖的だ。最悪の場合、結婚すらさせずに幽閉する可能性がある」
「神殿に居る僕から見ても、有り得る事だと思います」
カイルとエルが真剣な目で私を見つめてくれるから、私に出来ることを精一杯したいと思う。
「そこで提案なんだが、せめて王子を一人、夫にすることは許せないか?」
……精一杯したいとは思うけど、やっぱり文化の違いって難しいよね、って思う。
譲歩するとこが結婚なんだもん。
「どんな人かによる、かなぁ……」
「それはそうですよね。
僕もそう思いますし、女性の気に入った人しか夫にしない、ということは受け入れられることですから、安心してくださいね」
「本当に申し訳ないんだが、『王家のうち誰か一人を夫にする』ということは、たぶん避けようがない。
その中でも、出来れば王子の方が、今後の発言力としても良いとは思う」
まあ、そうだよね。
政略結婚なら、権力が高い人の方が良いに決まってる。
「じゃあ、最初は権力的にもオススメな人を紹介して貰えるかな?
その人がどうしても嫌だ、ってなったら他の人にチェンジで」
「よし、分かった。王に対してでも、それくらいのことは呑ませられると思う。
急ぎで悪いんだが、納得出来たなら一緒に王宮へ行ってくれるか?
ツィリムが居てくれてはいるが、そう待たせられる相手でもないから」
「ん? 誰か待たせてるの?」
「ああ、王から会いに来いと」
当たり前のようにカイルがそう言うからびっくりしちゃった。
「王さまから呼ばれてるの!?
早く行かなきゃじゃない!」
「いいんですよ、イズミルは女の子なんですから、いくらでも待たせてれば」
そう言って頭を撫でてくれるエルの手はとっても優しいけど、私の精神はちっとも休まらない。
「とはいえ行かないと話は進まない。エル、イズミルの準備を任せていいか?
俺はツィリムに連絡入れてくる」
「ええ。イズミルは素敵なドレスに着替えましょうね」
すい、と危なげない動きで私を抱き上げるエルは心無しか嬉しそうで、行先には不安しかないけれど、お出かけをエルが楽しめるなら悪くはないかな、と思えた。




