42.スパイごっこ
ツィリムはずっとハグしていたいようだったけど、現実はそうもいかない。
「イズミ、馬車返しに行ってくる」
「うん。いってらっしゃい〜」
私はいつもの様に気軽に送り出そうとしたけどツィリムの顔はかなり真剣だ。
「やっぱりイフレートを呼ぶかカイルが帰って来るまで待っていた方がいいかな」
「何で?行ってきていいよ?」
「うーん、大丈夫か。いい、イズミ?
絶対誰か来ても出たらダメだよ?」
「うん、分かってる。いつも誰も来ないし全然大丈夫だよ?」
「今日はいつもと違うから。
衛兵とか、騎士とか、もしかしたら近衛兵が来たりとかするかもしれない。
でも、絶対出たらダメだよ!」
「分かってるよ〜」
とても心配症な私の旦那様たちは私が他の誰かと話すことをとても嫌がるのだ。
だから今日に限らずいつだって、誰が来ても出ちゃダメって言われてる。
「誰か来ても居ないふりしてね。
じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい〜」
ふぅ、ツィリムの不安も少しは解消出来たみたいだし、トラブルが起こった割には大変なことにならなかったかな。
というか、今日の一件でツィリムともっと仲良くなれたから結果オーライかも。
……なんて、思ってた私がバカでした……
カンカンカンカン
ドカノッカーの音が響く。
さっきからずっと。
私は絶対出ちゃダメ!って言ってたツィリムの考えが良く分かった。
私のいる部屋は道路から見えるから、居留守を使うためにカーテンをしっかり閉めてある。
それに、かなり長い時間が経っているから誰も居ないと諦めそうなものなのに、いつまでもいつまでもノックし続けているのだ。
正直、ここまで来るとちょっと気持ち悪いから、様子を見に行った方がいいかもしれないな。
声だけでもどんな人が来てるのか分かるかもだし。
そうと決まれば即実行!ってことで、私は今、庭に続く裏口の扉を、音をたてないようにそうっと開いたところ。
ここから回り込めば表通りから近い塀の裏に出られるからそこなら声は聞こえるかなって。
絶対に物音がしないように意識して、門の前にいる人々のことを窺う。
意外と人数多いね。
5人くらいいそうな声がする。
「我々は国王陛下直々の使者である!速やかに出てくるように!」
いきなり怒鳴りつけるようにそう言われて、一瞬バレたかと思ってめちゃくちゃ焦った。
というか、国王陛下って?大丈夫なのかな?
それに、塀の隙間から、剣を持っているのが見えてしまった。ひとの家に誰かを呼びに来る時剣持ってるとか絶対ヤバい人たちじゃん!
ずーっと家の前に居て怒鳴ってるし、ストーカーみたい。
……ここで見つかったら絶対マズいってことだけは分かるから、大人しく部屋に戻ろう。
怖い人が来ている、ということしか分からないまま部屋に戻ってきても、まだ少し声は聞こえている。
何を言ってるかは分からないけど……
あの人たち、無理やり家に入ってきたりしないよね?
警察みたいに捜査権とかあって、出てこないなら家に押し入っても仕方ない、とかいわれたりしない?
こんなことならツィリムに居て貰えば良かった……!
電話みたいな連絡機もあるんだけど、魔法が使えない私では扱えない。
ほんと、どうしよ……




