プロローグ①
新作です。
よろしくお願いします。
ぶかぶかな制服に袖を通し、遠くに見えるピンクに色付く山を眺めながら急勾配を歩く。
期待と緊張と高揚を胸に抱き、制服に着られているような似たような奴らと紛れて都立総合高校の正門を目の前にする。
正門の隣には『都立総合高校 入学式』の文字がデカデカと書かれた立て札があった。
隣を歩くのは下田みなと。
俺の家の斜め前……徒歩十秒のところに住んでいて、幼稚園、小学校、中学校、そしてこれから始まる高校とともに通っている生粋の幼馴染だ。
高校デビューで染めた茶色の髪の毛が太陽に照らされ、一際目立つ。
「大和、やべー。やべーよ!
めっちゃ興奮してきたっ!」
俺の名前を呼んでそんなことを口にする。
同級生だと思われる周りの生徒たちは緊張と不安で表情を強ばらせ、誰も喋らない。
足音と木々が擦れる自然の音だけが流れる中だったのもあって、みなとの発言はやけに響く。
こんなやつと友達だと思われるのは心外なので、わざとらしく距離を置く。
それを見てみなとはケラケラ笑い、取った分の距離を埋めてくる。
コイツのメンタルはどうかしてる。してやがるぜ。
イケメンって自分に自信があるからなんだろうが、こんなヤツばっかりだ。
もう少し俺みたいな地味メンみたいなお淑やかさを持っていて欲しい。
それよりも、
「はあ、お前が女だったら良かったのになあ……」
これだけのもりもりな属性で女であれば、きっと俺の人生は薔薇色だった。
距離感の近い美人な幼馴染系ヒロインってことになるわけで。
そんなのもう好きになっちゃうよ。猛アピールすること間違いなし。
「…………?」
なに言ってんだ、みたいな顔をされた。
ああ、うん、住む世界が違うんだね。
正門からしばらく歩くと、声が響く。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます!
生徒の方はこのまま真っ直ぐ歩いて、校舎へと向かってくださ〜い。
保護者の方はこちらを右に曲がっていただいて、体育館の方へ向かってください!
ご協力お願いします!」
誰よりも黒くて艶やかなストレートヘアがそよ風に乗って靡く。
俺よりほんの少しだけ低い身長でめいいっぱい誘導をしている。
『生徒会』
という腕章をつけて、笑顔を振りまく。
言わば天使、
言わばアイドル、
言わば神。
彼女のことをぼーっと見つめる。
俺の胸の中にある灯ることのなかった心のランプはカタカタと音を鳴らしながら、光り輝く。
熱を帯び、感情を昂らせる。
視線を感じたのか、目が合った。
嫌な顔をひとつもせずにひらひらと手を振ってくれる。
こんな俺に向かって。
「おい、大和。なに見惚れてんだ、行くぞ」
可愛い……なんて思っていると、みなとに耳たぶをぐいっと引っ張られた。
「見惚れるよ!
だって可愛いんだもん!
ねえ、可愛くない?」
引っ張られながら俺は僅かに抵抗を見せる。
「そうだよな、大和に限ってそんなわけないよな……って、はあ!?
見惚れた?
大和が!?
あの、大和が、か!?
そんな馬鹿な……ありえん」
「いやだって、可愛いし」
「まあ可愛いな。って、大和もしかして一目惚れした?」
「かもしれん」
「お〜、凄いね。そういうこともあるのか。いや、春だな」
「なに洒落たこと言ってんだ」
「でも、大和には無理だろ。ああいうのには大体彼氏がいるもんだ。とびっきりのイケメンの彼氏がな」
「は?
俺には太刀打ちできないって?」
「無理だろ」
キッパリ断言された。
これだからイケメンは。困っちまうぜ。
「でもまあ、大和が一目惚れか。恋は成熟しなくとも、大きな一歩であることは間違いねえーな」
「どういうことだよ」
「だって初めてだろ?
人を好きになるの」
「そうだけど」
人を好きになるということを経験したことがなかった。
「てっきり男が好きなのかと思ってたけど、そういうわけじゃなかったなあって」
もしかしてずっと俺は同性が好きだと思われていたのだろうか。
「初恋なんだから、まあ後悔のないように消化しとけよ。初恋は変に終わらせるとずっと拗らせるからな」
「なんだそれ」
「先人からの教えだ」
そんな会話をしながら、昇降口に向かう。
ちなみにみなととは同じクラスだった。
これで何年連続になるのだろうか。腐れ縁とか、そういうレベルじゃねえーよな、これ。
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