2話 尋問とは言ってない
二階のこの部屋は倉庫みたいになっている。壊れかけの家具が散乱していて、少々かび臭い。時刻は四時頃。雨の日ではあるけど九月になったばかりであまり寒くはない。
古くなっている椅子を一つ引っ張ってきて少年の隣に座る。調度品としての価値はまるでないただの木の椅子である。
椅子には埃がたまっていて、座ったら汚れるのは確実だったけど、自分で洗うものだから迷惑なんて気にしなくてもいい。
少年は興味なさげな表情だけど、気にはなっているのかチラチラと見ていた。
労働者にしてはそんなに臭くないんだけど、風呂にでも入ったのかな。
「アイルランドから来たの?」
「そうじゃないのにこのアクセントで話すのはよほどの馬鹿だろう。」
まあ…、アイルランド人って融通が利かないお堅いカトリックで、植民地。イギリス人は合理的なプロテスタントと言うことで結構嫌われてるもんね。
私は何とも思ってない。イギリス人ではあってもちょっと可笑しな起源を持っているから、と言うところもあるけど。
アイルランドが不憫なのは別にアイルランド人が悪いせいではなく、色々あってそうなってしまっただけなことを知っているから。
詳しいことは後で考えることにして。
「何か悪いことでもあったの?」
別に興味本位で聞いているわけではない。
犯罪がらみの話だったらアランデールさんに知らせる必要がある。放置して後でどのような事態と繋がるかも今の時点ではわからないんだから。
アイリッシュだからと何か問題があると決めつけているのかと言うより、普通に不法侵入してて、事情があるそうな雰囲気で、ナイフまで持ってて、はい、そうですか、それではさよなら、なんて終わるものかと。
普通に巻き込まれているとか、単なる被害者と言う可能性も考えられる。加害者な場合は…、その時になって考えよう。まだそうと決まったわけじゃない。
「余計なお世話。」
少年はそう答えてから窓の方へと視線を戻した。
まだそんなに年も取ってないように見えるけど。
もう心の防壁がそんなに固いって、あまりいい思いをして生きてきたわけではないんだろうね…。
「お腹すいてない?」
「少しは。」
「そう、ならよかった。何か食べに行こう?」
訝しげに見る少年。
「何言ってるんだ?」
さすがに警戒されちゃったかな。
「何も食べないまま夜までここにいるつもりなの?」
「さぁ…。それを知ってどうする?」
「教えてくれない?」
「何がそんなに気になるんだ?大人と一緒に来てるんじゃないのか。」
その言葉には苛立ちなどは入っておらず疑問だけが浮かんでいた。
「私一人だよ。」
「外に大人はいないんだな?」
二回も聞いてくるのって、結構気にしているんだね。ただの不法侵入に対しての心配じゃない気がする。
「いない。」
「じゃあどうやってここまで来たんだ?結構距離あるぞ。スラムに住んでるわけでもないだろう。」
「知り合いがこの建物を所有している。」
「答えになってない。」
そう指摘されたことで彼が私との会話にそれなりに考えを巡らせているのが伝わってきた。全然気にしてない、関わってほしくない、なんて口では言ってるけど、意識をはっきりと向けていた。
「迂回してきたの。」
正直に答えてみたけど。
「わざわざこんな場所まで…?」
「廃墟が好きなの。」
「変な奴。」
「あなたもね。」
「アイリッシュだからだろう。初めて見るのか。」
そんなに気になるものなのかな。どこまで傷つきながら生きてきたのか気になるところである。
「初めてではあるけど、アイリッシュ以外の外国人も見てるし知ってるよ。」
「アイルランドは一応イギリスの一部だぞ…。支配されてるだけで…。」
「そうなんだよね…。名前、なんていうの?」
「ジェイ。」
ジェイってアルファベットのJ?
「ジェイ、私はルミ。初めまして。」
握手を求めると彼は応じてくれた。
「ルミ…。変な名前…。友達でも欲しいのか?なら他をあたってくれ。僕はあまり暇じゃないんだ。」
そろそろ会話を終えたいという意思表示かな。
「すごく暇そうに見えるけど?」
「考えているんだ。色々。」
そういう割には全部答えてくれているんだよね。何だろう、イギリス人とは雰囲気がまるで違う。裏表がない?
今のところ初めて会うアイルランド人はかなり好印象である。
「何を考えてるの?」
「わからない…。」
体を椅子に深く沈ませるジェイ。
「お腹すいて考えがまとまらないんじゃない?だから何か食べに行こう?」
ちょっとしつこい気がするけど、こうでもしないと話なんて聞けそうにないから。
「お金あるのか。」
「あるよ?」
財布を取り出してコインを掌に落とす。子供が持つにはそれなりの大金である。
実はこれはテストみたいなもの。奪おうとしたら制圧してアランデールさんに報告する。そうじゃないなら…。
「親が金持ちなのか…。同情のつもりならやめとけ。後で親に怒られるぞ。」
うん、今ので気持ちは固まった。
「いいじゃん。」
私は起き上がってジェイの手を握って引っ張り、立たせる。
「お、おい…。」
「何か食べたいものある?」
「お前…、なんだその力は…。」
私の手と腕に視線を向けて言うジェイ。
「うん?まあ…、生まれつきかな。それより食べたいもの。ないの?」
「白いパン…。いや、何でもいい。」
「パンね。わかった。」
スラムを迂回して南ロンドンの中でももう開発が住んでいる庶民町を歩く。ここは新たに作られた町で、人口が集中している状況から家の幅が狭く縦に長い。なので階段の段差が少し危険な領域。
ジェイはズボンのポケットに手を入れたままずっと無言で私の半歩後ろを歩いていた。
雨はもうやんでいる。少し遅くなるかも。イザベラさんになんと言い訳しよう…。アンナさんがいるんだし私のことはあまり気にならないかもしれないけど。
パン屋の場所は知っている。自由に出歩けるようになってから暇なときに町中を散歩していた。モニュメントや覚えておけば役に立ちそうな建物なんかは全部記憶している。
たどり着いたところで扉を開けて中に入ろうとしたんだけど、ジェイは少し離れた場所に立ち止まってそこから動こうとしない。
「入らないの?」
首を横に振る。話すのもしないって、ちょっと雰囲気が変わっている?警戒しているのかな。私じゃなく、通り過ぎっていく周りの人たちを。
「じゃあ勝手に買ってくるからここで待ってて。」
ジェイは返事の代わりにため息をついた。
中に入るとパンが棚にたくさん詰まっている。種類はあまり多くないけど、百人分は超えてるんじゃないかな。
「おじさん、ここのパン、小麦以外に白い粉とか入れてない?」
「そんなのを買う余裕があるように見えるなら嬢ちゃんの目は節穴だな。」
パンを白くするために鉛とか水銀とか、とにかくその辺のものを入れている可能性を考えて聞いてみたらそう言われた。
まあ、労働者の中でも熟練工とかが多く住む町だし、そこまではしないのかな。
「そう、ならよかった。石炭を触った手で生地をこねてないパンはどこにあるの?」
「そっちの棚にあるものがそうだよ。」
パンの値段にしては真ん中くらいかな。
少し小さいスイカほどの大きさのするパンを一つ買って、トリークルの入った瓶も購入して店を出る。
「この辺で食べるのはちょっと気が引けるんだけど、また戻る?」
「好きにすれば。」
それでまた十分ほど歩いて廃屋に戻って、さっきと同じ椅子に隣り合って座る。
ジェイに大きな方のパンを渡す。
「大きすぎる…。一人では食べられないと思うが。」
「うん?成長期だし、これくらい食べれるんじゃない?」
「勝手に決めつけるな。まあ…、いいや。お前は食べないのか?」
トリークルの瓶まで渡したら彼はふたを開けて滴るほどにパンにかけた。そして大きく口を開けて頬張る。
飲み物でもあった方がいいのかな。
「私はこれでいい。」
子供の拳ほどのサイズの小さい白いパンを取り出す。
「僕にはそんなこと言ってたくせにそれで足りるのか…、どうせ家に戻って食べるとかだろうけど。」
「顔の傷跡、どうやってできたのか教えてくれない?」
人は食事をする間に警戒心が減るので尋問をする時もよく食事をさせるのである。
「警察。」
うん、答えちゃうんだよね。パンを飲み込むことを確認するたびに質問をする。
「喧嘩じゃないんだ?」
「喧嘩はしない。アイリッシュ相手ならするかもしれない。」
「アイリッシュ嫌いなの?」
「ああ、大嫌いだ。」
ジェイは視線を正面に向けたまま言う。
「なんで?」
「学校で学ばないのか。アイルランドは馬鹿の集まりだからイギリスの植民地にされてる。」
うーん…、イギリスが狡猾だからだと思うけど。
「本気でそう思ってるの?」
「別に間違ってないから。」
「そうなの?」
「ああ、だからアイリッシュの僕とは関わらない方がいい。」
食べものをあげたら懐かれるって、野生動物の餌付けをしているような気分。
「心配してくれてありがとう。けど大丈夫だよ。自分のことは自分で決めてるから。」
「いいところのお嬢さんなんだろう。それでいいのか。」
「お嬢さんじゃなかったらいいの?」
「どうだか…。」
あまり話したくない話題のようなので変えてみる。
「どこで働いてるの?」
「働いてない。」
「親に養ってもらってるとか?」
「僕は孤児なんだ。親はいない。」
それは厳しい。特にカトリック系の人たちは家族第一主義になったりするんだから家族がいると心細い生活でも耐えられるはずなのに。
「じゃあ寝泊まりとかどうしていたの?」
「娼館で…。」
「娼館?」
慣れ親しんだ単語である。
「ああ…、僕は…。いや、何でもない。」
「もしかして男娼?」
「いや…、と言うかなんで子供がそんな男娼なんて言葉を知ってる?何歳だ?」
「十歳だけど、あなたは?」
「十七。十歳って、本当に子供じゃないか…。」
思ったよりずっと年上だった。
「うん、子供だけど。そういうジェイは十七歳で男娼なんだね。」
「いや、男娼とは少し違うが…。似たようなものか…。」
似たような物って、何だろう。思いつくことが多すぎてわからない。
「娼館から逃げてきたの?」
ちょっと強い言葉だったかな、言ってから少しだけ後悔。
「違う。逃げてはない。」
すると反射的に否定するジェイ。
「でも嫌なんでしょう?」
「嫌だよ。地獄に落ちるかもしれないと思うと…。なのにまたしないといけなくなってしまった…。せっかく髪も切ったのに…。」
悔しそうな表情のジェイ。ちょっと格好いいかも。
「何か別のことをしてたの?」
「ああ…、それもいいことはなかったさ。結局こういう運命だったんだろう…。きっと罰が当たったんだ。」
「スリとか?」
「スリはしない。僕が盗んだわけでもない。」
自分が盗んだわけじゃないということは…。
「他に盗む人がいて、あなたは何か別のことをしたってこと?見張りとか?」
「大体そんな感じ。」
本物の犯罪者だった。警察に突き出すには証拠なんて今のところはないんだけど…。どうしよう。あまり嫌な感じがしないんだよね。裏表がない純粋さに惹かれるとか、普通はヒーローとヒロインの立場が逆じゃないの?いや別に付き合うとかじゃないんだけど。
「それが出来なくなってるってことは、盗むのが得意な人は捕まってるとか?」
「なぁ、お前、僕のことどっかで聞いたことあるだろう。それとも…、ダービー兄弟の差し金?」
ただの推理だけど…、考えてみれば勝手に当ててしまったら疑われるのも当然か。
「ダービー兄弟?」
初めて聞くので素直に聞き返す。
「いや…、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
それは出来ないかな。手がかりを一つ掴めた。
「ずっとここにいるつもり?」
「戻ったらどうなると思う?」
そんなことを聞いているジェイの手からあの大きかったパンが殆ど彼のお腹の中へと消えている。全然余裕だったみたい。
「娼館に?」
「それ以外にないだろう。僕が戻る場所なんて…。」
苦い表情のジェイ。甘いトリークルが指について、それを舐めとった。甘い物を食べながら苦い顔をするのって、結構器用なことをする。
「兄弟姉妹とかいないの?」
「いたけど、わからない。生きているのか死んでるのか。そういうお前はどうなんだ。」
つまり経済的に依存できる人は一人もいないってこと?
「私も一人かな。」
「やっぱ友達欲しいだけだろう。無理だって。」
「気になってるだけ。それとここにはもう入らない方がいいよ。」
友達が欲しいというのを否定したらしょんぼりとした表情をされる。
「なぜだ?」
「言ったでしょう、私有地だって。大人に見つかったらどうなると思う?」
「どうでもいい…。」
ジェイは最後のパンの欠片を飲み込んだ。結局全部食べてる。余程お腹がすいていたのかな…。私のパンはまだ残ってるんだけど。物欲しそうに見てたので上げると笑顔になってから無表情を取り繕う。ちょろそうに見えてはいけないと誰かに教わったのかな…。
「なんでそんなに投げ遣りなの?」
「関係ないだろう。」
「私もそう思いたいの。だから聞いてるんだけど。」
「それはどういう…、いや、わかった。あそこには行かないようにする。ごちそうさま…。」
私のパンまで平らげて、トリークルの瓶も持ったままである。
「待って。」
立ち上がるジェイを慌てて止める。
「なんだ。」
「これくらいあったら一晩くらいは泊まれるでしょう。」
お財布からコインを数枚取り出して渡す。棺桶みたいな寝床で一泊出来る。いいところだと朝ごはんにお茶とパイがもらえる。
「物好きな奴だな。いいのか?」
「いらないの?」
「いる。」
コインを握った手をジェイの掌に載せて、手を離さないままいる私をじっと見つめるジェイ。
「まだ何か。」
「明日また会いましょう。」
「時間なんてわからないぞ。」
時計持ってないんだからそれが当たり前…。いやはや、感覚がわからなくなってた。
時計塔は…、ビッグベンが建てられたのは1859年なんだよね…。
「時計のお店とかで確認できない?ガラス越しに見れるでしょう?」
「ああ…、まあ。それで、また会って一体何がしたいんだ?」
「話くらいは出来るでしょう?対価としてお金を支払うって、どう?」
「はは…、お前まで僕を買いたいと…。」
何か含みがある言い方だね。
「嫌ならお金は払わない。ただあって話すだけでいい。」
「いいのか?」
うん、友達が欲しかったのはジェイの方でしょう、絶対。
「子供は嫌い?」
「いや、お前は…、子供に見えるけど、子供みたいな感じが全然しない。金持ちの娘はみんなお前みたいなのか?」
「そんなわけないでしょう。あんたと似て変人なの。似た者同士、これからよろしくね。」
なんか泣きそうな顔で見てる。
「お、おう…、よろしく…。と言っても僕は何も出来ないんだが。」
情報提供できるじゃん。言わないけど。ここら一帯のギャング事情に通じてる可能性は高いと見てる。
アランデールさんがすでに把握しているかも知れないけど、私は知らない。アランデールさんに聞けるような話じゃないし。一応女の子だからとそういった話題はしないのである。
それを知ってどするかって、決まってる。資本主義世界の都会はジャングルのようなものである。組織犯罪は野獣の群れ。その実態を把握しておかないと、突然遭遇して大変な目に合うかもしれない。私じゃなくても知り合いにも忠告出来るし。
彼は幸い私に危害を加えるつもりは全然なさそうだし、万が一そうなってしまってもどうにかできる自信はある。これでも三年も下層民暮らしをしているのである。
私だって娼館に住んでいたのだ。
この南ロンドンはまだよくわからないけど、東ロンドンの事情だってそれなりに把握している。把握していたから自分が動ける範囲とか事前に考えて行動することも出来たわけで。
港町は密売とかもあるから割とやばい話が多くて、今の社会雰囲気的に大規模ギャングとかは無理だけど、半ばグレイなことをしているギャングみたいな連中は結構多かった。
なぜ大規模なギャング組織とかが結成されないのかって、そんなことをしてたら徴兵されて戦列歩兵に組まされるから。この時代の兵士は学がそんなになくとも銃を握り列を組んで進むだけでよかったんだから、血の気の多い連中ならむしろ軍からしたら大歓迎である。
だから大規模ギャングにはならず、大人の男性が何十人も集まったギャングは存在しない。そんなことをしたらやはり目立って仕方ないから、連れていかれて強制的にジョブチェンジ。
じゃあどんな人たちがギャングをしているのかって…。まあ…。厳密にいうと、私がいた娼館のジョナサンさんと彼が雇った数人の男性従業員、普通にギャングである。町を徘徊する数人ほどのギャングが利害を一致して共に行動するとか、仕切る立場の人間が一人や二人いるとか、そういう感じで、ヤクザやマフィアみたいに親分がいるとかじゃない。
そういった形で男性なら一人や二人がトップに立って、数人がそれに雇うような形などで小規模ながらこそこそ活動をするのである。これが戦列歩兵に徴兵されなくなる時期まで続いてからは一気に麻薬などを取り入れる犯罪組織に発展するわけだけど、それは20世紀に入ってから。
帝国主義を忘れた現代の平和な先進国ではあまりしっくり来ない事柄なのかもしれない。帝国主義国家では慢性的に多くの兵を求めるシステムを維持しないといけないということが。
募兵制と建前では言ってても莫大な大学ローンを若者に強いることによって軍の規模を維持している21世紀のアメリカと同じく、常に戦場で消耗品となるのは持たざる者の行きつく先の一つである。
だから成人してない主にスリをする少年ギャングの場合はそこそこ規模が大きく、十代後半にまで続けては荒くれ物の集まりみたいになって治安を悪化させることもあったようだけど。
リヴァプールなどで。ロンドンでそんなことをやったら…、戦列歩兵に組まされる…。
そして、女性だけのギャング。
うん、嘘でも冗談でもない。女性のギャング団、割と有名なところだと、フォーティ・エレファント。四十の象団?
19世紀後半から20世紀初頭まで活躍(?)した女性だけで組織された犯罪組織である。コートを着て店に入り店主の視線をくぐりながらコートの中に店の商品を詰め込むという…。スカートとかマフラー、帽子にも詰め込んで何事もなかったかのように店を出る。食料品とか雑貨ではなく、宝石類や高い香水なども含まれていた。
なぜこんなことをしていたのかって、そりゃね。
ヴィクトリア時代を生きる女性は男性に経済的に依存しないとガヴァネスなどの特殊な例を除いては娼婦くらいしか稼げる手段がないから…。世知辛い現実から現れ、イギリス中を騒がせた女性ギャング。
まあ、その前から成人女性の空き巣などの盗人はそれなりに多かったんだけど。
だって、結婚しなかったり夫が亡くなったりするとね。
女性の賃金はたとえ同じ仕事、生産性でも男性の半分以下だったりと散々だったのである。参政権もない、結婚しても夫が地雷だったら家から逃げていきつく先は娼館なんてシャレにならない。
そんなことをつらつらと考えながら屋敷に戻るとテイラー夫人に二階のリビングまで連行された。
「こんな時間までどこに行っていたのかしら。」
イザベラさんに怒られる。もう夕方で、アランデールさんとの約束時間からかなり時間が経ってる…。
「遊び回りたい年頃なんじゃないかしら。けどあまり遅くなると心配するでしょう?」
隣に座ったアンナさんに言われる。
何だろう、良い警官・悪い警官…?
「またろくでもないことを考えているわね。」
イザベラさんの指摘にハッとなる。ちょっと口元がにやけてしまっていたのかな…。
「歌でも歌ってもらいましょう?私がいない間に前の旦那から随分と学ばされたようで。」
いや、全然良い警官じゃない。アンナさん、少しサディスティックになってる…。
「それはいい考えだわ。」
この後散々歌わされた。
アンナさんのピアノ伴奏も何気にうまかったので楽しかった…。罰になってないのでは…。




