表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/90

25 お祈りされる人の気持ちを考えた事がありますか?





 ――――翌日。



 この日は元いた世界で言うところの祝日らしく、冒険者ギルドは昨日の倍くらいの人でごった返しになっていた。


 冒険者という職業は、この世界において『民間の調査隊』のような意味合いがあるらしい。街の外にはゲルニカと呼ばれる化物がいるらしいが、そいつ等の生息地や分類などの情報を集め、それをギルドに報告する事で報酬が発生する。


 戦って倒したらより大きな報酬が得られる――――と思っていたけど、なんでも『倒した倒した詐欺』が一時期流行ったらしく、倒した証拠を捏造(予め一体のゲルニカを倒してバラバラに解体し、何体も倒したように見せかける等)する連中が大勢現れた為、現在はゲルニカを倒しても報酬は出さず、討伐隊は別の組織が運営しているそうな。


 つまり、この世界における冒険者とは斥候であり偵察要員。探偵とちょっとだけ近い職種と言える。


「おお、トイではないか」


 あれは……昨日知り合ったギルドのヌシっぽい人か。幸いにもしっかり名前を覚えていてくれたらしい。つーかこっちはこの人の名前知らないな。


「早速レゾンの情報を仕入れにきたのだな。丁度良かった」


「ん?」


「どうした、違うのか?」


 ……あー!


 そういえばそんな話したな。その場を取り繕う為の適当な発言だったんだけど……


 でもここで『あれ実は嘘』なんて言ったら、国王の望む探偵のブランディングが台無しになってしまう。ここは多少強引にでも話を合わせておかないといけないだろう。


「いや、違わない。昨日の今日だったから驚いただけだ。何か有益な情報を仕入れたのか?」


「ああ。昨日、そっちの婆さんが一撃で伸したゴロツキを拷問にかけてみたんだが……レゾンの一味は今、エロイカ教と手を組んでジェネシスを潰しにかかっているらしい」


 ……は?


 この人何言ってんの?


「えっと、その発言の信憑性ってどれくらい? 言霊で嘘ついてないかチェックとかした?」


「いや、そんな高度そうな言霊、間抜けな俺にはとても使えないだろう。だが拷問に関してはそれなりだ。人様にはとてもお見せ出来ぬ方法であの男の膀胱を絞り尽くした。あれでまだ嘘をつく気力が残っているのなら、とっくに幹部に上り詰めているだろう」


 膀胱……って、どんな拷問だよ。この人常識人っぽかったけど、実はあのゴロツキより遥かにヤバイ奴なんじゃ……


 でもまあ、そこまで苛烈な拷問なら正直に言うしかないだろうな。とても精神力が強そうには見えなかったし。


 それに、あまり疑り深いと思われるのは名前を広める上で良くない。ここは取り敢えず信じる事にして、状況整理をしよう。

 


 レゾンって奴は、この街を裏で牛耳る大悪党だって話だ。そんな奴が『この世界の全ての女性は肉感的であるべき』と訴える宗教団体のエロイカ教と手を組んだ……


 ダメだ、この時点で全然しっくりこない。意味不明過ぎるだろ幾らなんでも。


 なんで街の支配者がそんなイロモノ教団と組む必要がある? メリットがまるで見えてこない。レゾンはふくよかな女性が好きなのか?


 しかも、そのエロイカ教と協力して潰そうとしているのが、言霊のデータを自分達のものにしたがっている反体制勢力のジェネシス……?


 ますます意味がわからない。ジェネシスの親玉がモデル体型の女子を好んでるとか……? それにしたっていちいち潰そうとする必要はないだろう。テロ集団相手に戦えば相応のコストがかかるしリスクも背負わないといけない。女の趣味だけでそんな面倒事を起こすとは思えない。


「トイ。この件は無視出来そうにないの。反体制勢力同士が対立しておるのじゃからな」


「ああ、そうか。そういう見方も出来るのか」


 ギルドのヌシの口振りから、てっきりレゾン一味とジェネシスが敵対していて、エロイカ教が何らかの形でレゾン一味を支援しているようなイメージを持っていたけど、それはあくまでもレゾン側のゴロツキの証言。『自分達がエロイカ教よりも格上』と思わせたい、若しくは思い込んでいるからそんな言い方になった可能性もある。


 でも、客観的に見ると逆だ。ジェネシスとエロイカ教が対立していて、レゾン一味がその争いに一枚噛んでいる……って構図の方がまだしっくり来る。反体制って立場は同じでも、その思想と信念が異なれば、寧ろ邪魔な存在にしかならない。仮にどちらかがクーデターを成し得たら、その瞬間に体制側と反体制側として敵対する事になるからな。


 とはいえ、どっちが正しいかなんてわからない。結局は当事者に話を聞くしかないだろう。今までどうにかスルーしてきたけど、結局首を突っ込まざるを得ない状況になってしまった。


 何故なら――――


「反体制勢力が真犯人という可能性は捨てきれんからの。真犯人を探す以上は避けて通れないのじゃ」


 リノさんの言葉通り、動機が十分にある連中だから、リノさんに協力すると誓った以上は最低でも話は聞いておかないといけない。というより、他に捜査のしようがない。


 例えば、特定の空間の時間を巻き戻す言霊が使えれば、容易に犯人を特定出来るだろう。でもそれは出来なかった。今朝、現場に行って試みてはみたけど、俺の思考力レベルじゃ無理。というか、テレポートが使えるレベルの人間でも無理だろう。時間を操るってのは神様クラスじゃないと不可能だ。



 でも、その代わりにわかった事がある。昨夜、俺とリノさんが行き着いた仮説だ。 


 元国王の部屋にあった水筒が、現国王の所有物と見なされていた理由……というかカラクリ。



 それは――――所有時間。



 身体に触れていた時間、或いは触れ続けていた時間の長さが所有者を決定する基準となる。俺達はそう予想した。


 だから今朝、早々に馬車を走らせ、三度現場に足を踏み入れ、あの水筒をリノさんに三〇分ほど持たせてから解析を試みたところ――――仮説は無事立証された。


 その後、今度は持ち続けた連続時間なのか累計の時間なのかを調査してみた結果、後者と判明。あの水筒は以前の調査の際に俺が結構触っていたから、所有者がリノさんから俺に切り替わるのが大分早かった。


 要は、持ち続けた時間の累積が最も長い人間が所有者と認められる訳だ。


 つまり、元国王があの水筒を殆ど手に持っていなかったか、現国王が水筒を長い時間持ち続けていたかのどちらだ。まあ、後者は普通にあり得ないだろう。父親へのプレゼントを長い間持ち続ける理由はない。



 水筒は殆ど使われていなかった。そう解釈した方が無難だ。


 

 そうなってくると、俺の『元国王が認知症のため自覚なく水筒の中身を毒にして飲んでしまった』という推理はかなり怪しくなってくる。日頃手にする習慣のない水筒を手にして、中身を毒化させる何らかの言霊を"意図せず"呟き、そしてその中身を飲む……これらはあくまで元国王が水筒を日常的に触っていたと仮定していたからこそあり得る話。滅多に触れないのならパーセンテージは一気に下がる。


 真犯人は別にいる。だとしたらその重要参考人に話を聞かない訳にはいかない。



「レゾン一味、ジェネシス、エロイカ教……まずは何処から話を聞くべきだろう」


「全勢力と接触を図るというのか。ならばエロイカ教を最初にした方がよかろう。あの連中は精神が摩耗した状態で対峙すると、男は取り込まれかねぬぞ」


 いや、それはない。正直そこまで女の趣味に拘りはないし。肉感的だろうと細身だろうとどっちもでいいよ。


「あ、あの……!」


 ん?


 聞き慣れない女性の声が会話に介入してきた。鼓膜に全身で抱きついてくるような声だ。


「エロイカ教に殴り込みに行くのですか!? でしたら私を……! 私を一緒に連れて行ってくれないでしょうか……!」

 

 遠巻きに俺達とヌシの会話を聞いていた周囲のギルド員を押しのけようとする女性がいる。でも非力なのか全然押しのけられず、何度も弾かれ全然こっちに来られない。


「うーっ! うーっ……!」


「いや、どいてあげてよ」


 見るに見かねて両手で道を開けるようジェスチャーでお願いすると、ようやく野次馬連中は左右に散り出した。


 その中央から、ポニーテールの女の子が現れる。かなり小柄で、もし元いた世界で見かけたら小学生高学年くらいと判断しただろう。

 

 格好は布製の質素な衣服で、下はスカートじゃなくスパッツみたくタイトなボトムスを履いている。動きやすさを重視している辺り、冒険者で間違いなさそうだ。


 顔は声や身長とマッチしていて、かなり幼いように見える。でもそれは顔立ちというより表情の印象が大きい。もう既に涙目で、今にも号泣しそうなくらいヘロヘロだ。


「エロイカ教に殴り込みに行くのですね!?」


 さっきの声が聞こえていないと思ったのか、最初から言い直してきた。


「あ、うん。そうだけど」


「なら是非私を連れて行って下さい! このポメラ・シャムリンを同行させればきっと良い事がありますから!」


 ポメラと名乗った女の子は、涙目のまま胸を張って訴えてきた。


 それに対する答えは一つしかない。


「いえ、間に合ってるんで」


「ほわーーーーーーーーっ!?」


 え……いや、そんな銃で撃たれて絶命したみたいなリアクションされても……


 あ、立ち上がった。


「うっ……ううっ……」


 完全に泣いている。これは困った。まるで虐めてるみたいじゃないか。何も悪い事してないのに。


「エロイカ教……倒さなければいけないのです……私が……だから……私を……!」


 推理するまでもなく、彼女はエロイカ教に恨みを持っていて、でも一人で連中の本拠地に乗り込むのは困難だから、俺達との同行を希望しているらしい。かなり訳ありな雰囲気だ。


 それに対する答えは一つしかない。


「大変心苦しいのですがご要望には添いかねます。シャムリン様の今後のご活躍とご健勝をお祈り致しております」


「ほわーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」



 さて、エロイカ教の本拠地とやらは一体何処にあるのやら。近ければいいんだけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ