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エピローグ

 俺たちは、町を襲ってきた盗賊団を撃退したあと、新たに『くの一(・・・)のシノブちゃん』と『勇者バイクの流星号』を仲間に加えた。


 シノブちゃんが旅支度をする間、俺たちは近くのガソリンスタンドで、サンダーを洗車してもらっていた。


 今、俺たちは、スタンドの休憩室で一服しているところだった。


 そこへ、車椅子に乗った男が入ってきた。自警団のムラカミさんだ。

「勇者の皆さん、この町を守ってくれて、本当にありがとう。特に、巫女さんには、俺は随分とお世話になりました。おかげで、未だ車椅子だが、もう病院を退院することが出来た。何度感謝しても足りないくらいだ」

 ムラカミさんは、盗賊団に仕掛けられた爆弾を回収しようとして、大怪我を負ってしまった。それを、巫女ちゃんが治癒魔法で初期治療をしたのだ。

「ムラカミ様、もう退院できたのですね。それは、よろしゅうございました」

 巫女ちゃんは、いつものようにニッコリと笑って、そう応えた。

「この度は主人がお世話になり、誠にありがとうございました」

 車椅子を押していた夫人も巫女ちゃんに頭を下げると、紙袋のようなものを差し出した。

「これは、我が家に伝わる毒消しの薬です。腹痛や頭痛にも効き目があります。つまらない物ですが、どうかもらってください」

 巫女ちゃんは、夫人が差し出した紙袋を受け取ると、

「これは良い物を頂きました。ありがたく受け取らせていただきますね」

 と言って、微笑んだ。

「あと、自宅で作りました、ジャムやマーマレードも入れておきました。皆さんでお召し上がりください」

「まぁ、それはありがとうございます。パンに塗って食べる物ですよね。わたくし、あの甘酸っぱい味の美味しいのが、気に入ってしまいました。ありがとうございます」

「巫女ちゃん、良かったっすね。ムラカミさんも元気そうで何よりっす。それに、皆の勇気が集まれば、盗賊団にも立ち向かえることが分かって、俺っちもこの町に来て本当に良かったと思うっす」

「いや、俺たちも、勇者さんたちに勇気の大切さを教えてもらった。本当にありがとう」

 ムラカミさんと奥さんは、そう言うと、また深々とお辞儀をした。

「勇者さんたち、今日、この町を出発するんだってね。シノブさんも一緒に行くって、聞きましたが」

「そうっす。なんか、俺たち、あの女性(ひと)に気に入られちゃったみたいで」

 俺はそう言って頭を掻いた。

「シノブさんは、あんな人だけど、心根は真っ直ぐな人だから。どうか仲良くしてあげてください」

「分かってるっす。シノブちゃんはいい人っす。ねっ」

「その通りだね。ムラカミさんも、しっかり身体を治して、また自警団に復帰してください」

 ミドリちゃんもそう言って、ムラカミさんと握手をした。


 そうするうちに、サンダーの洗車が終わった。

 俺たちは、ムラカミさん夫婦に別れを告げると、一旦、サンダーで駐車場まで戻った。そこにブレイブ・ローダーを置きっぱなしにしていたからだ。


 駐車場に着くと、シノブちゃんがもう来ていて、ブレイブ・ローダーの側で待っていた。

「勇者さんたち、遅いで。うち、五分も待ってたんやで」

 五分かよ。それって、待ったうちに入るの?

「ああーっと、待たせて済まないっす。サンダーの洗車に行ってたんすよ。シノブちゃんのバイクは、ガソリンとか大丈夫なの?」

 俺にこう訊かれて、

「何か大丈夫みたいやで。正義の心があれば、ガソリンなんかいらんのやて」

 と、シノブちゃんは応えた。

「姐御、それ違うぜ。正義じゃなくて、勇気の心でさあ」

 こう言ったのは、シノブちゃんの愛車にして、一晩で勇者バイクに改造された流星号であった。

「そうか? 別にどっちでもかまへんがな。ガソリン代も浮いて、ええこっちゃ」

 彼女には、多少の違いは気にならないらしい。

「シノブちゃん、荷物少ないんすね」

 彼女の荷物は、背中のリュックとバイクにしばりつけたボストンバッグだけだった。

「ああ、うちは元々この町のもんじゃあらへんからな。それでも、長居した方かな。一年半くらいかなぁ。旅行者、とまではいかへんけど、結構、あちこちを転々としとるねん」

 そうシノブちゃんは、あっけらかんとして応えた。

「それより勇者さん。今度は、何処へ行くねん」

「そうだよ、勇者クン。次の行き先」

「そうですわねぇ。楽しい冒険の出来るところが、いいですわぁ。ねっ、勇者様」

「そうでぇ、勇者の旦那。さっさと、次の行き先を決めちまいましょうぜ」

「そうでござるな、勇者殿。さ、何処へでもお供しますぞ」

『ねぇー、勇者!』


「ひぇー、いっぺんに訊かないで欲しいっす」


 俺は勇者。未だ新米だけど、守護神アマテラスに認められ、この異世界の『邪の者』を倒す存在。

 それは、きっと大変なことだろう。

 でも、俺には『勇者の木刀』がある。仲間がいる。そしてなによりも『勇気』の心がある。


 明日は何処へ行くのだろう。

 何処でもいいさ、大丈夫。

 だって、俺は『勇者』だから。



     了


最後までお読みいただきありがとうございます。

この作品を読んで、少しでも皆様が楽しんでいただけたのなら幸いです。


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