真の勇者レベル10(13)
盗賊団を倒した翌朝、俺たちは四人揃って駐車場のドブにゲロを吐いていた。
「うえぇえ、気持ち悪ぃ。もう吐くものが胃に無いのに、は、吐きそう。あ、あ、頭もいてぇぇぇ。俺っち、もう酒は懲りごりっす」
「わ、わたくしもですぅ。あ、頭が、痛くて重くてぇ。これってヒーリングで治るんでしょうかぁ」
そこへ、どこかに消えていたミドリちゃんとシノブちゃんが、帰ってきた。
「ス、スポーツドリンクを、自販機で買ってきたよ。ほら、勇者くん。巫女くんのも」
「済まないっす、ミドリちゃん」
「あ、ありがとうございますぅ」
「うちは、忍者の秘薬『ウコンのパワー』を買ってきたでぇ。これで、少しは楽んなるんとちゃうかなぁ。……うぷっ」
それって、忍者の秘薬じゃ無いだろう……。と、突っ込みを入れる気力すら俺には残っていなかった。
「す、済まないっす、シノブちゃん」
俺たちは、シノブちゃんからウコンのパワーを受けとると、瓶の蓋を開けて、それぞれ飲んでいた。
「うぷ。こ、これ、何か変な味ですわぁ」
ウコンは、やっぱり巫女ちゃんの口には合わないみたいだ。まぁ、そうだろうな。俺だって、間違っても美味いなんて思わないもんな、この味。
俺たちは重度の宿酔いと戦いながらも、サンダーの様子を見に行くことにした。昨日の戦闘から戻って凱旋パレードの後に別れて以来、話すらしていなかったからだ。今日は、昨日のお礼に、たっぷり洗車とかしてあげないとなぁ。
「うちも行くでぇ」
と、何故かシノブちゃんも着いて来た。もう宿酔いから立ち直ったのか? 属性がくノ一だから? 忍者だと基礎体力が違うのかもしれない。
シノブちゃんの後を、巫女ちゃんとミドリちゃんが、よろよろと着いて来ていた。
駐車場をぐるりと回ってサンダーのところに来た時、噂の勇者ロボはメンテナンス中のようだった。ブレイブ・ローダーの側面に組み込まれているメンテナンスユニットの扉が開いていて、ケーブルやらマニピュレータやらが出たまんまだ。
「サンダー、お早う。未だメンテの途中っすか」
俺がサンダーに訊くと、
「あ、勇者殿でござるか。ええっと、もう終わったでござる。今から後片付けをするのでござるよ」
サンダーはそう言うと、マニピュレータがゴソゴソ動き始めた。
「あんたら、こないなとこで寝てると風邪引くで。どないしたんや」
そんな時、近くからシノブちゃんの声が聞こえた。どうやら自警団の仲間が、ここで寝てたらしい。
「あ、ああ、シノブさん。はようっす」
「あんたら、何やってんのや。もう、ホンマに。酔っ払うのは構わんが、こんなとこでひっくり返ってったら、車に潰されるやないか」
最強美女に叩き起こされて、自警団らしき男たちがふらふらと立ち上がっているところだ。
「あはは、ちょと、シノブさんのバイクのメンテを……」
「うちのバイクの? ああ、そうかい。ええーっと、うちのバイクは……、ああっ! 何やこれ。あんたら、うちのバイクに何したんや!」
シノブちゃんの愛車は、なんと無数のケーブルが接続され、所々に見たこともないようなパーツが追加されていた。
「シノブさん。えーっと、つまり、出来心で改造をちょっと……」
済まなさそうな顔の自警団員はこう応えた。
「どないな改造したんや。壊れたらどないすんねん、……もう、しゃーあいなぁ」
渋い顔をしながら、バイクの周りを巡って、シノブちゃんは壊れていないかを確かめようとしていた。
「ははは、壊れてはいないと思うっすが。ちょうどいいや。なぁ、勇者ロボ、こいつ起動できるか?」
言ってる意味がちょと分からないが、彼はサンダーに何かを頼んだようだった。
すると、
「大丈夫でござる。拙者が夜を徹して完成させておいたでござるよ。フフフ。では、起動シグナルを送る、でござる」
そうすると、シノブちゃんのバイクは、車体や追加パーツなどが明滅して、「フィーン」と微かな音が鳴り始めた。そして、ヘッドランプがチカチカと明滅すると、突然喋り出した。
「はようっす、姐御。おいら、話せるようになったんだぜ」
おお、バイクが喋った。改造ってこのことか。すごいな、異世界の自警団の技術力。
「うっ、うわ。うちのバイク、喋りよった。どないなってるねん」
さすがのシノブちゃんも、これには驚いたようだ。
「おいらのことは、いつものように『流星号』って呼んでくだせい。姐御がつけてくれた名前ですぜ」
「『流星号』、やて? うち、そんな名前つけとったかな? ……じゃなくって、何で喋ってんねん」
この状況にいち早く対応したのか、シノブちゃんは関西人よろしく、喋るバイクに突っ込みを入れていた。
「おうさ。サンダーの旦那が、予備の人工知能ユニットを、おいらに組み込んでくれたんでさぁ。姐御、さぁ、いつものようにおいらの背中に、そのデカいケツを乗っけて、かっとびましょーぜっ」
「うちのケツは、そんなデコうない!」
「謙遜しなくていいぜ、姐御。姐御のケツは、最高のケツだぜい」
「何度も、ケツケツゆうな、ボロバイク」
まるでマンザイのようなやり取りに、俺の方が呆気にとられていた。
そこへ、ミドリちゃんが欠伸をしながら近づいて来た。
「ふわぁー。いい相棒が出来たようだね、くノ一クン。サンダーの話し相手にも、ぴったりじゃないか」
第三者としては、冷静な判断だ。まぁ、何事もプラス思考で考えないとな。
だが、当人にとっては大問題。
「他人事やと思うて、勝手なこと言わんといてや」
悪人には容赦のない彼女も、涙目になって嘆いていた。
だが、深刻になるのはこれからだった。
「お、これは魔法師の姐御。昨日はご苦労さんでした。魔法師の姐御も、いいケツでしたぜ」
そう。ミドリちゃんは、昨日の戦いの時、シノブちゃんのバイクの後ろに乗っていたのである。
「なんだぁ。お前なんかにボクのお尻の何が分かるって言うんだい!」
突然に降り掛かってきた火の粉に、ミドリちゃんも憤慨し始めた。
「いやいや、魔法師殿の尻は、よい尻でござるぞ。拙者のシートに座った感触は、格別であったでごさるよ」
黙っていればいいのに、サンダーは、余計なところで余計な感想を、つい口にしていた。当然、彼女の怒りは、脇に駐車してあったサンダーに向かう。
「サンダー! 君は、いつもそんなこと考えて、ボクらを乗せてたのかぁ。このエロ自動車がぁ。ボクの爆裂魔法で粉々にしてやろうかっ」
宿酔いの朝ということもあって、ミドリちゃんの機嫌は一気に悪くなった。
「あ、ああ、あ。いや……、こ、これは……客観的な、感想で、ござって……」
急に狼狽え始めた自動車に、ミドリちゃんは魔法よりも悪辣な攻撃を浴びせた。
「何が客観的だよ。サンダー、お前、ボクを怒らせたら。……怒らせたら、……ボンネットにゲロをぶち撒けるぞ」
この言葉に、今度こそサンダーは恐怖に包まれた。
「ひえぇえぇぇ、それは勘弁でござる。拙者が悪かったでござる。だから、どうか『ゲロ』だけは、勘弁して欲しいでござる」
必死になってミドリちゃんに謝っているサンダーのところに、今度は巫女ちゃんがやって来た。彼女は、いつもの微笑みを崩さずに、にっこりと笑うと、サンダーにこう話しかけた。
「サンダー、わたくしのことも、そうやって感触を楽しんでいたのですか?」
「い、い、い、いや、別にそんなことは……」
サンダーは言葉に詰まった。その微笑みは、いつも通り全く変わってはいなかった。しかし、
「今度、邪念を持ったら、わたくし、……わたくし、車内にゲロを吐きますわよ」
彼女はそう言って、にっこりと微笑んだ。笑みを崩さないだけに、怖い。
「ひいいい、それは勘弁でござる」
そう言うと、サンダーは直ちにロボに変形して、二人にペコペコと土下座をしていた。
「この通り、謝るでござる。だから……、だからゲロだけは勘弁してくだされ。拙者が悪かったでござる」
二人の美少女を前に、大きなロボットが土下座をしてる図は、傍で見ていてシュールだった。
そんなやり取りを他所に、シノブちゃんはバイクの変貌に相当ショックを受けたようだった。
「うちのバイクが……、うちのバイクが……、変態になってもうたぁぁぁぁぁ」
空を仰いで絶叫する美女に、
「いやぁ、シノブさん。人工知能は、起動前のバイクの記憶も受け継ぐらしいから。そんなに悲観するほどのことじゃありませんぜ」
と、自警団のメカニックが慰めていた。だが、改造したのは彼らである。
「元はと言えば、お前らのせいやんか。そんな事言われても、何の慰めにもならへんわ!」
「姐御、しっかりしてくれよ。姐御のケツは異世界一のケツなんですぜ」
「何でお前なんかに、そんなことが分かるねん。お前はケツ評論家か」
「お、分かってるねえ、姐御。おいらにかかっちゃ、どんなケツも一発でお見通しさ」
「せやからケツ、ケツ、ゆうな。お前に言えるんは、ケツのことだけか!」
尚も怒りと悲しみにくれるシノブちゃんに、流星号は、こう話しかけた。
「いやいや、おいら、一応忍術のことも分かるようになってるんだぜ。変化の術」
喋るバイクはそう言うと、カシャンカシャンと音をたてて人型に変形してしまった。
「おわ、ロボットになりよった。これはこれでスゴいなぁ」
これには、さすがのシノブちゃんも驚いていた。サンダーのようにスムーズな変形ではないところが、イマイチではあるのだが。
「驚きましたかい、姐御」
「これにはビックリしたわぁ。しっかし、ほっそい身体やなぁ。そんなんで、敵と戦えるんかいな」
「心配無用ですぜ、姐御。姐御の技は、一通りメモリに記憶されてるんでさぁ」
それを聞くとシノブちゃんは、ニヤリと笑った。
「その自信、確かめさせてもらおうか。『くの一 地獄突き』」
そう言うと、シノブちゃんは、流星号の喉元に突然の突きを放った。
ロボになった流星号は、それを紙一重でかわすと、シノブちゃんの後ろを取った。
「む、これは『コブラツイスト』の体勢。あんた、うちの後ろを取るなんて、なかなかやるなぁ。でも、最後のキメが甘いで」
シノブちゃんはそう言うと、するりと技から逃れた。そして、今度は流星号の足を絡め取った。
「うおお、さすがは姐御。これが『四の字固め』ですかい」
流星号はきめられた技を力ずくで返すと、今度はシノブちゃんを担ぎ上げた。
「こ、この体勢は……、『くの一 バスター』。こんな必殺の技まで」
「勝負あったな、姐御。これでフィニッシュさぁ」
流星号が技のフィニッシュに入ろうとした時、パシューと音がして接続されていたケーブルが数本抜けた。それと共に、流星号はシノブちゃんを担ぎ上げたまま、地面に正面から倒れ込んだ。
「うええぇぇぇ、ケーブルを外すのを忘れていやした。引っ掛かって絡まって動けねぇ」
「ててててて。おでこ、モロに打ってもうたやないか。痛いやんか、お前っ」
そう言って、シノブちゃんは、よろよろと地面から立ち上がると、流星号の頭を足で踏みつけていた。
「死ぬかと思うたわ、このクサレロボットめが」
「わあぁ、シノブさん、流星号、大丈夫っすかい」
そんな惨事の中、自警団のメカニックたちがやってきて、流星号に絡まっているケーブルをはずしていた。
「誰のせいやと思とるんや。ああああ、うちのバイクが……、うちのバイクが『ケツ評論家』になってもうた」
シノブちゃんはこ言うと、地面にがっくりと手をついていた。
そんな時、「ピルルルル」とシノブちゃんの携帯の呼び出し音が鳴った。
彼女は渋々携帯をとると、通話ボタンを押した。
「はい、うちです。……なんや、保安官さんか。……ああ、一緒にいまっせ。で、どないな用件で。……はい、はい。分かりました。保安官事務所でんな。すぐ連れて行きますさかい。ほな」
そう言って携帯を切ると、シノブちゃんは俺たちを見てこう言った。
「勇者さんたち。なんや、保安官が話あるとかで、来て欲しいそうや。一緒に着いて来てくれへんか?」
俺たちは、サンダーの洗車を除いては、特にやることも考えていなかったので、同意した。
「よし、サンダー、ビークルモードになってくれ。これから保安官事務所へ行くことになったんだ」
「了解、でござる。ござるが……、車内で吐いたりはしないでござるか?」
さっきの件もあって、サンダーは疑いの目を俺たちに向けていた。
「大丈夫だよ。安全運転さえしてくれれば。なぁ」
最後の「なぁ」は、巫女ちゃんとミドリちゃんに向けられたものだ。
『たぶん……』
二人ともそうは応えたものの、目が笑っていない。
「念のために、特性の酔い止めと、ポリ袋を渡しておくでござる」
サンダーは、どこに内蔵してのか、半透明なレジ袋と小さな紙箱を乗せた手を、俺たちの目に前に降ろした。よっぽど車内を汚されるのが嫌なようだ。
超合金の手の平の上から、巫女ちゃんとミドリちゃんは、ポリ袋と薬の箱を取っていた。
一方のシノブちゃんの方はというと、
「チェーンジ、ビークルモード。さぁ、姐御。おいらのシートに姐御のケツを乗っけておくれよ。保安官事務所にゴーですぜい」
バイクになった流星号を見て、シノブちゃんは、
「うち、何か……あんたには乗りとうない気分やわ。今日は、勇者さんと一緒にサンダーさんに乗せてもらおうかと思うてるねん」
この言葉には流星号もショックを受けたらしい。
「姐御。おいらのシートには姐御のケツしか乗せねぇって決めてんだぜぃ。それなのに。ああ、それなのに。この仕打ちはヒデェぜ。姐御ぉ、どうかおいらにケツを乗っけてくだせぇ」
と、流星号は必死になってシノブちゃんに頼み込む。
「せやから、ケツケツ言うんやない」
相変わらずのやり取りに、ミドリちゃんはうんざりしたように声をかけた。
「可哀想だから乗ってやったらどうだい、くの一くん」
だが、シノブちゃんの気持ちは未だおさまってはいない。
「魔法師さんには他人事やからそう言えるんや」
それに対しは、ミドリちゃんから反対意見が出た。
「ボクたちだって、『あの』サンダーに乗るんだよ。……ああ、人工知能って、みんなこうなのかなぁ」
ミドリちゃんも、そう言って、がっくりと肩を落としていた。
「せやなぁ。まぁ、こんなんなってもうたんは、もうしゃーない。ほんまは嫌やけど、こいつに乗ってくかぁ」
そう言って、シノブちゃんも深い溜息を吐いた。
「ありやとごぜぇます、姐御。誠心誠意走らせてもらいますんで!」
大喜びの流星号とは対象的に、シノブちゃんは如何にも嫌そうにバイクにまたがった。
「ほな、勇者さんたち。行きまっせ」
と言う言葉も、どこか投げやりで元気がなかった。
ま、こうなってしまっては、どうしようもない。俺たち、シノブちゃんを追いかけるように、駐車場を出た。
通りを走って保安官事務所に着くと、カトー保安官が俺たちを出迎えてくれた。彼は、何枚かの紙束を握っていた。
「こんちは、保安官さん。俺っちに何か用事でもあるっすか?」
俺は、事務所に入ると、そう訊いた。
保安官は、
「済まないね、わざわざ呼びつけて。実は今回の盗賊団についてなんだが、賞金首が何人もいてな。これをどうしようかって、悩んでるところなんだ」
そう言って、保安官は手に持っていた紙束を机の上に放り投げるた。
「何でそんなに悩む必要があるんすか?」
盗賊団については、もう始末がついたと思っていた。それを今更、何を悩む必要があるんだろう?
「いやぁね。生きていたり、死んでも顔が分かるのはいいんだ。でも、真っ黒焦げになったり、ミンチ肉になったりして、生死不明なのが幾人もいてね。ソイツらの人物特定がね……」
保安官はそう言うと、肩をすくめて見せた。
「あ、えーと、……そうすか。ちょ、ちょっと派手に、やり過ぎちゃったっすかね」
俺も、その件については反省していた。照れ隠しで浮かべた笑顔は、引きつっていただろう。
「まぁ、DNA鑑定をすれば、分かるには分かるんだがね。何せ数が多いものだから。判定できなければ、折角の賞金がフイになっちまう。それは勿体ないだろう。だから、相談しようと思って、君たちを呼んだんだ」
これで、保安官の悩みが分かった。
「俺っち、別に賞金なんて、もらえなくても構わないっすよ。それに、最後の最後で、ボスを捕まえたのは、シノブちゃんだし」
お金ならアマテラスにもらった軍資金がたんまりある。今更、賞金なんて別にどうでもよかった。そんな俺の態度に驚いた保安官は、確認するように、重ねて尋ねてきた。
「いいのかい、勇者さん。ボスだけでも四百五十万円の賞金がついてるよ。盗賊団そのものにも、八百万。雑魚でも五十万クラスがざらにいるから、あわせると、ボス抜きでも一千万円を軽く超すんだが」
「そうなんですか。すごいっすね。じゃぁ、ボスの賞金はシノブちゃんにあげるっす。他のは、分かるのだけでいいっすよ」
結構な金額だと思うけど、お金だけ持っていても使い道が思いつかない。ご馳走を食べても、一千万を使い切るのは一苦労するだろう。そんな俺のことを、保安官は聖人君子とでも思ったのか、感心したような顔をしていた。
「そうかい。それだけで面倒が大分減る。助かったよ。それじゃあ、分からないやつは所在不明・生死不明で報告するけど、いいかい?」
「それでいいっす」
彼の問いに、俺はあっさりとそう応えた。だが、一旦返事をしてから、俺は大事なことに気がついた。
「あっと。それから盗賊団の分の八百万円は、できれば捕まってた人たちにもらって欲しいっす。故郷に帰るにも旅費とかいるっすから」
これには、さすがの保安官も目を丸くした。
「え! 本当にいいのかい。八百万は大きいよ。あとで後悔しても、知らないよ」
「後悔するかも知れないっすが、別に賞金が欲しくて盗賊団と戦った訳じゃないっすから」
「結構太っ腹なんだな。と言うよりも世間知らずなのかな。勇者さん、異世界に来てあんまり時間経っていないんだろう」
「いやあ、その通りっす」
俺は、頭を掻きながら正直にそう言った。
「ふむ、まぁいいか。それと……、魔法師さん。あんたの倒した盗賊にも、三人ほど賞金首がいたよ。あわせて、百五十万円だな」
それを聞いたミドリちゃんは、こう応えた。
「じゃあ、ボクの分は銀行口座に振り込んでおいてください。口座番号はこれで」
もう慣れっこなのか、ミドリちゃんは、さらさらと口座番号をメモると保安官に渡した。
「魔法師さんは手慣れてるね」
「ボクは結構長い間、この異世界にいるからね」
ふぅーん。賞金をもらう時って、そうするんだ。銀行振込でもらえるなんて、異世界の金融システム、進みすぎだろう。
あっと、なら俺もそうしよう。
「じゃあ、俺っちも銀行振込でお願いします。えーと、口座番号は、……これっす」
俺も、口座番号をメモると、保安官に渡した。メモに目を通しながら、彼は机に寄りかかっているくノ一に声をかけた。
「シノブさんは、いつも通り現金でいいよな。都で確認ができて、もらえるまで十日はかかるけど」
だが、ライダースーツの美女は、いつもとは違うことを応えた。
「いんや。うちの分、今回は振込にしてえな。うち、勇者さんたちと行くことに決めたから」
「え? そうなの?」
俺は驚いて、シノブちゃんに訊き返した。
「なんや、覚えてへんのかい。昨夜、言うといたやないか。『仲間にしてぇな』って」
そう言えば、そんなことを言われたような……。
「それに、『いやや』ゆうても、勝手に着いて行くさかい。うち、バイクあんなにされて、メンテでけるんは、勇者さんとこだけやさかいな」
あーっと、そういやそうだな。……まっ、いいか。
「巫女ちゃんやミドリちゃんには、不服はないっすか?」
俺は、念のために二人にも訊いてみた。
「ボクはいいよ。仲間が増えるのは結構なことだ」
「わたくしも、勇者様が良ければ、異存はありませんわぁ」
「おおきに、巫女さんに魔法師さん。これから仲ようしてぇな」
こうして俺たちは新しい仲間を得た。
そんな俺たちの行く先には、何が待っているのだろう。
俺達の冒険の旅はまだ始まったばかりだ。




