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真の勇者レベル10(12)

 俺たちが町の人たちと呑んだくれている間、サンダーはブレイブ・ローダーで整備と銃弾の補給をしていた。


「今日は随分と戦ったでござる。お主も頑張ったでござるな」

 ビークルモードのサンダーは、隣に駐車してあるシノブちゃんのバイクに話しかけていた。


「そうか。お主には会話をする機能が無いでござったな」


「明日になったら、勇者殿に洗車を頼まないとならないでござるな」


「…………」


「むないしいでござる」


 そこへ、少し酔った自警団員が二人やって来た。

「よう、最強勇者ロボ、今日は自動車の格好かい」

「お主らは自警団の。拙者は、今メンテナンスの途中でござる」

「そうかい。俺らは、自警団のメカニックさ。ジープとか、シノブさんのバイクとか、俺らがメンテしてるんだぜぃ」

「そうでござったか」

「俺のマシンも、お前さんみたいなロボットになったら、かっけぇのにな」

「なぁに言ってんだよ。お前の自慢のあれ、自転車だぞ。すんげぇほっそいロボになるぞ」

「そういやそうだな」

「ハハハハハ」

 自警団のメカニックたちは、ブレイブ・ローダーを見上げると、

「これが、ブレイブ・ローダーか。すんげぇデカイなぁ。こんなん、どうやってメンテしてるんだぁ」

 と、感心していた。それに対して、サンダーはこう応えた。

「ブレイブ・ローダーは、魔法力を添えているでござる。そのため、自己再生機能などを魔法力で実行できるのでござるよ」

 サンダーは話し相手ができて、少し饒舌になったようだった。

「やっぱ、すげぇわ。で、さっきは何を一人でブツブツやってたんだい」

「いやぁ、拙者、くの一殿のバイクもメンテしようと思って連れてきたのでござるが。生憎とバイクは拙者のように喋れないものだから、こっちから勝手に話してたのでござる」

「そっかぁ、あんた、酒とか飯とか喰えないモンな。いくらロボットでも、ここで一人ぼっちは寂しいよな。よっしゃ、俺たちが話し相手になってやるよ」

「かたじけないでごさる」


 サンダーと自警団のメカニックは、俺たちが宴会をやっているのをよそに、雑談に身が入っていた。

「……つまり、ガスの混合比を一パーセント上げ、弁の開閉タイミングを0.1秒ほどずらせば、エンジン効率が十九パーセント向上するのでござる」

「なるほどな。すごい勉強になるぜ」

「勇者ロボ、物知りだな」

「ハハハ、拙者、勇者ロボになる前の自動車の記憶も受け継いでいるのでござるよ」

 話が弾んできて、サンダーは諸々の事情をうっかり話すのを止められないようだった。

「そうなのかぁ。……あ、なぁ、勇者ロボ。人工知能ユニットの予備なんかはあるのかい?」

「もちろんでござる。不測の事態を考えて、持ってはいるでござるが。それが何か?」

 彼らの問いにそう応えたものの、サンダーにはその真意が未だ分からなかった。

「ヘッヘッヘ、良いこと考えたんだよ。もしさぁ、その人工知能を、……シノブさんのバイクに移植したら、どうなるかってね」

「きっと、バイクの記憶を受け継いでいるに違い無いぜぇ」

「シノブさんのこと、色々訊けるかもなぁ」

 半分酔っているとはいえ、自警団の連中もろくな事を考えない。

「そんなことを。そんなことを勝手にするとは……」

 さすがのサンダーも、それには一言あるように最初は思えた。しかし、

「それは、……それは、なかなかいい考えでござるな」

 と、不用意に興味を惹かれてしまったのだ。

 サンダーはインターフェイスを通じてブレイブ・ローダーに司令を送った。すると、メンテナンス用のマニピュレータで、ローダーのパーツボックスから小さな箱のようなものを引きだした。そして、それを自警団のメカニックに渡した。

「これが人工知能ユニット?」

「案外、コンパクトなんすね」

「あと、駆動用動力として、この『ブレイブ・パワード・ドライブ』を組み込むのでござる」

 サンダーはそう言うと、もう一つのユニットを取り出して手渡した。

 メカニックたちとサンダーは、顔を見合わせてニヤリと笑うと、シノブちゃんのバイクに近づいていった。

「こいつをシノブさんのバイクに取り付けりゃぁ、勇者メカの出来上がりさぁ」

「ニヒヒヒ、なかなか、妙案でござるな」

「俺らのテクを舐めんなよ。ヒヒヒヒ」

 自警団員たちは、酔っているせいもあってか、羽目をはずしかけていた。

「ついでに、変形機構も付け加えてはどうでござるか。パーツなら、ほれ、ここに」

 サンダーはそう言うと、アクチュエーターや駆動ユニットをガラガラと、駐車場に並べた。

「お、それはいいねぇ。さぁ、バイクちゃん。今からおじさんたちが、新しい身体にしてあげまちゅからねぇ」

「フヒヒヒヒ、やってやるぜ」

「グフフフ、拙者も手伝うでござるよ」

 酔った勢いというのは怖い。彼らは、度が過ぎたことをし始めた。果たして何ができるのだろう。



 ブレイブ・ローダーの裏でこんなことが起こっているとは露とも知らず、俺は命からがら、酔っぱらい達を振り切ると、ローダーの居住区に転がり込んだ。

「うえぇ。気持ち悪ぃ。ううう、動けん。あああ、意識が遠のく」

 俺は、居住区の床に臥せったまま、不覚にも意識を失ってしまった……。



 どのくらい経ったのだろう。たぶん、次の日の朝だろうな。俺は、目を覚ましたものの、意識は未だボンヤリとしていた。

「ててて、頭痛ぇ。うっぷ、気持ち悪い」

 気がつくと、ブレイブ・ローダー居住区のベッドの一つに、三人の女の子がシーツを纏って寝ていた。巫女ちゃん、ミドリちゃん、シノブちゃんである。

「う~ん、勇者様ぁ」

「勇者くんって、胸、柔らかいんだね」

「勇者さん、うちのことが好きやからって、そんなにオッパイ揉んだらあきまへん」

 一体なんて夢を見ているんだ! 俺は、真っ赤になって、

「何やってんだよ、お前たち。俺はそんなにエッチじゃないぞ」

 と、怒鳴ってしまった。すると、女の子たちはやっと目を覚まして、こちらを眺めた。寝起きとあって、未だボンヤリとしているようだ。

「あ、勇者くんおは……、うえぇ、頭痛い」

「勇者様、わたくしも何か気持ち悪いのですが……うっぷ」

 あ、ああ。昨夜は随分呑んでたようだったからな。仕方ないよ。

「ああ、勇者さんやないかい。うち、どないしたんやろ。……うぷっ。ぎもぢわるぅ」

「昨夜、呑みすぎたんだよ、皆。それよりさぁ、向こうむいてるから、早く服を着るっす」

 そう、彼女たちは、いずれもハダカだったのだ。

「ボクはもう別にいいよ。何度も見られちゃったし」

「わたくしは勇者様の物ですから、いくらでも見ていただいて構いませんのに」

 わぁ、二人共なんてことえを言うんだ。俺の立場ってものを、もっと考えてから発言してくれよ。

「あんたら、もう、そんなとこまで進んでるんかい。ほんなら、うちも見てもろうて構いまへん。うちの鍛え抜かれたこの肉体に、恥じるとこなんてあらへん。って、頭痛いなぁ。何でやろ」

 シノブちゃんは、一旦はボディビルダーのように、全裸でポーズをきめたものの、宿酔いには勝てなかったらしい。

「くの一くん、そんな仁王立ちになったって、品がないぞ。って言うより、ボクも頭痛い」

「もう、何でもいいから、服着てよ。今日はサンダーを洗車してあげないと。いっぱい頑張ったんだからさぁ。でも……うぷっっ。俺も頭痛ぇ。つうか気持ち悪い」


 俺は三人を焚き付けて、ようよう服を着せると、ローダーの扉を開けた。

 外はもう日が高くなっていたが、そこはかとなく酒とゲロとオイルの混じった臭いが風に乗って漂ってきた。

 俺は、喉の奥から込み上げてくる感覚に、もう我慢できなくなっていた。

「俺、もう限界。は、吐きそう」

「ボ、ボクも、気持ち悪い。吐く。吐いちゃう」

「うちもや。もうあかん。我慢できへん」

「勇者様、はしたなくて申し訳ありません。わたくしも、もう吐きそうです」

 そうして、俺たちは、駐車場の隅の溝に走って行くと、四人揃ってゲロを吐いたのだった。


 うえぇぇぇ、気持ち悪い。


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