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真の勇者レベル10(9)

 俺は、町の保安官や自警団員たちと、盗賊団のすぐ近くまで来ていた。


 しばらく待っていると、斥候のアラキが帰って来た。

「今のところ、やつらに目立った動きはないようです。戦力としては、銃や刃物で武装したのが二百人くらい。装甲車が三台。長距離砲の自走車が二台。瞬光弾発射機が三台。あと、集団の後方に、バスが二台停まっています。たぶん、そのバスに掴まっている人たちが乗っているんだと思います」

 俺は、この情報を知らせるために、レシーバーでミドリちゃんに連絡をとった。

「聞こえてるっすか? 集団後方のバスに人質がいるらしいっす」

<了解、バスだね>

「ああ、頼んだっすよ」

<任せてっ>


 俺がミドリちゃんと連絡をとったあと、保安官が報告してきた。

「町の爆弾は、バリア発生機を除いて、撤去されたそうだ」

「ありがとうっす。そろそろ、揺動作戦の開始っすね」

「ああ、そうだ。だが、俺たちも行く。この町は、俺たちの町なんだ」

 カトー保安官は、決意も固く、俺にそう言葉をかけた。でも、俺は、こう提案した。

「ちょっとだけ、待っててくれないっすか。俺っちとサンダーで、まず奴らの気を引いてみるっす。この戦いでは、なるべく味方に損害を出したくないっす」

 俺の提案に、保安官はかなり渋っているようだった。

「相手は二百人だぞ。君がいくら強くても、無茶じゃないかい」

「そうは言っても、こっちの戦力も、たかが二十人ちょっとっす。まずは俺っちが仕掛けてみて、敵の出方を探るのも、戦術的に有りっすよ」

「……そうかい。分かった。ここは君に任せよう。でも、危ないと思ったら、すぐ俺たちも出るからな」

「そん時は助けを呼ぶっすよ。取り敢えず背中は任したっす」

「うむ。気を付けてな」

「ありがとうっす。行くぞサンダー」

「心得た」

 サンダーは俺を運転席に乗せて、猛スピードで敵陣に突っ込んで行った。

「相棒って、自動車の事だったのか。だが、どうやって戦う、現勇者よ」

 保安官は心配げに走り去る自動車を見つめていた。



 その頃、巫女ちゃん達は、バリア発生施設で残りの爆弾の探索と処理をしていた。

「ふう、あと一つか。あいつら厄介なところにばかり隠しやがって」

「残りの一つは、あのパラボラアンテナの基部から反応があります。取りに行けますか?」

「おう、巫女さん。任しとけ。お前ら、探し出してきた爆弾の信管、しっかり抜いとけよ」

「オーケイ、任せろ」

 自警団の一人がそう言うと、巫女ちゃんの指し示したところに登り始めた。かなり、高い部分にある。しばらくゴソゴソと探していると、爆弾が見つかったようだ。

「おーい、あったぞう」

「そうか! それで最後だ。気を付けて降りて来い」

「了解、了解。任せとけって」

 と、その時、爆弾を発見した自警団員が足を踏み外して、地面に落下するのが見えた。

「おい、大丈夫か!」

 他の団員とともに、巫女ちゃんも駆け寄る。

「大丈夫か、ムラカミ。お、お前! 爆弾をかばって、変な格好で落ちたな! 背骨が折れてるかもしれんぞ。おい、早く救急車を呼べ。ムラカミ、しっかりするんだぞ」

 パラボラアンテナから落下した団員は、相当の重症のように見えた。彼の周りが騒がしくなる。その時、

「わたくしに怪我を見せてくださいませんか」

 巫女ちゃんが進み出たのだ。

「巫女さん……」

「わたくし、治癒魔法も使えますのよ。最初はちょっと痛みますが、すぐに楽になりますよ。大丈夫です、頑張ってください」

 彼女はそう言うと、怪我をした団員に近付いて背中に両手をかざした。巫女ちゃんの両手が淡い光を放ち始める。

「大丈夫か、ムラカミ」

「ああ、なんか、……痛みが引いていく。こ、この、お嬢さんの力か?」

「そうらしい。救急車も呼んである。しっかりしろ。頑張れ」

「ああ。それより、爆弾は?」

「無事だ、今、向こうで信管を抜いている。お前が、ここを守ったんだぞ」

「そうか、良かった」

「まだ、そんなに喋ってはいけません。脊椎にひびが入っています。それを繋ぐまで、一時的に痛みを麻痺させました。もうすぐですから、頑張ってください」

 巫女ちゃんは、自分の魔法力をギリギリまで使って、魔法治療を続けていた。


(勇者様が、この町を守るために外で戦っているのに。こんなところで被害者を出させたくない。わたくしがここで頑張らないと)


 しばらくすると、救急車が到着し、救急隊員が団員を連れて行った。彼の怪我はかなり回復しており、身体障害者にはならないという。それを聞いて安心した巫女ちゃんは、全ての力を使い切り、その場に昏倒してしまった。

「おい、巫女さん。大丈夫か? 巫女さ……」

 団員の呼ぶ声が段々遠くなっていく。


(勇者様。わたくし、頑張りました、よ……)


 力尽きた巫女ちゃんは、どうなるのだろう。



 一方、盗賊団の方はと言うと、

「お頭、密偵からの定時連絡がきません。あいつら、しくじったのかも知れませんぜ」

「そうかぁ。元々あんな腰抜け達を信頼していた訳じゃないからな。んじゃぁ、そろそろ攻め込むか」

 盗賊団の首領は、装甲車の中でデカイ態度をとっていた。

「お頭ぁ、変な自動車が、物凄いスピードで突っ込んできますぜ」

「何だぁ。自動車ぁ。んなもの、踏みつぶせよ」

「あ、何か言ってますよ、お頭」

「なぁにぃ」


 俺とサンダーは、敵の真っ正面に突っ込むと、車を停めてスピーカーで話しかけた。

<あー、あー、ただいまマイクのテスト中……。あー……。おい、盗賊団ども。お前たちの密偵は全員捕まえたぞ。爆弾も処理した。バリアを張ったら、お前たちの攻撃なんかじゃ町は落ちないぞ。今のうちに降参するか、とっとと帰るんだな!>


「なんだぁ、あのチビは。おい、マイクを貸せ。この俺様が直々に話してやる」

 盗賊団の首領は、装甲車の屋根に身を乗り出すと、負けずにスピーカーで言い返してきた。

<チェッ、チェッ、チェック、マイクチェック……。あー、俺様がこの盗賊団のボスだ。そこのチッコイの。ふざけたこと言ってんじゃねぇ。お前こそ、死にたくなかったらとっとと逃げな。もうすぐここは戦場になる。お前みたいなチビッ子は、お家に帰ってネンネの時間だぜぃ>

 さすがに、こっちの言う事を素直に聞くはずはないかぁ。

<あんたが、盗賊団のボスっすね。そっちこそ、痛い目に遭いたくなかったら、引き上げる事っすよ>

 俺からの返事は、盗賊団を怒らせるのには十分過ぎた。

「何だぁ、ふざけやがって」

 盗賊団のボスは、またマイクを握った。

<それはこっちのセリフだ。何者か知らんが、こっちは二百人からいるんだぜぃ。踏みつぶすぞ、クズ>

 ああ、やっぱ、忠告は聞いてもらえないようだ。

<じゃぁ、仕方ないっす。ちゃんと警告はしたっすからね。お前たちは、この勇者様が、たたんでノシイカにしてやるっす>

「なんだぁ、今時、勇者だぁ。お頭、あいつ頭おかしいんじゃないんすか」

 まぁ、見かけだけしかなら当然の反応だが、これが盗賊団の命運を分けた。

<ぺっ。野郎ども、踏みつぶせぇ>

 ボスの一声で、盗賊どもが声を上げて俺たちに襲いかかってきた。

「しょうがないなぁ。サンダー、行くっすよ」

「心得た」

 俺はサンダーを降りて勇者の木刀を構えると、盗賊団に突っ込んで行った。

 続いてサンダーが、唸りを上げて発進する。

 さて、なるべく殺さないように手加減して……、

「飛び散れ、烈風斬」

 無数のカマイタチの刃が、盗賊団の先方を一薙ぎにした。うわぁ、この技ってこんなにすごかったのか。死人が出たかな……。

「拙者も参る。チェェェェンジ、ファイター・モード。サンダーバルカン」

 タタタタタッと心地よい音がして、サンダーの機銃弾に盗賊団が、なす術もなく倒れていく。

 サンダーにもちょっと手加減させなきゃ、死人がいっぱい出ちゃうぞ。

「なな、何だぁ、ありゃぁ。ロボットだとぉ。んなの、聞いてないぞぉ」

 今更、遅い。俺は高速移動をしては、バイクやジープに乗った盗賊どもを切り倒していった。サンダーも、機関砲や火炎放射で次々に敵を薙ぎ払ってゆく。


「保安官、あの勇者さん、……凄いですよ」

「あ、ああ。まさか自動車がロボットになるとはな。俺が勇者の時にあんな相棒がいたら、今頃こんなところで燻ってなどいないんだがな……」

「そぉっすね」

 保安官と自警団員たちは、俺たちの戦いを見て、あっけにとられていた。


「おらぁ、砕け散れ、必殺『破砕渦動流』!」

 俺が勇者の木刀を振り下ろすと、細かい亜空間の刃が渦を巻きつつ放たれた。その軸線上のものは、人だろうが、バイクだろうが、ズタズタになっていった。その最後に行きついた先の自走砲も渦に巻き込まれて大爆発を起こした。必殺技も凄い威力だ。もともとは『邪の者』に対抗するための力だもんな。人間相手じゃ、威力が大きすぎるんだ。だ、だいぶん死人を出しちゃったな。バケて出ませんように。


「お、お頭ぁ。あいつら、むちゃくちゃ強ぇですぜ」

「怯むな野郎ども。こっちには、大砲もあるんだ。ロボットだか勇者だか知らんが、ぶっ放せ。踏みつぶしちまえ」


 手下が頼りにならない盗賊団は、野戦砲や瞬光弾を放ってきた。

「そんなものが通用するものか。サンダーマグナム」

 サンダーは右足から拳銃を抜くと、自走砲や砲台を次々と破壊していった。

 俺も負けてはいない。手近な装甲車に近づくと、技を放った。

「食らえ、一刀両断斬り」

 装甲車が難なく真っ二つになる。そして、漏れた出た燃料が引火すると、爆発を起こして燃え上がった。


 盗賊団のボスは再びマイクを握ると、

<おめぇら、ビビってんじゃねぇ。相手は、ガキ一人とポンコツロボットだけだぁ。取り囲んでボコっちまえぇ>

 ボスの一声で、戦意を喪失しかけた盗賊たちが、士気を取り戻した。

「うらぁ、やっちまえ」

「死ねや、こらぁ」

 下品な言葉を吐きながら、ヤツラは突撃銃や山刀で襲いかかってきた。


(うまい具合に、揺動に乗ってくれたっすね)


 俺とサンダーは、派手に動き回って、盗賊たちの気を引き付けるのに成功していいた。



 一方、ミドリちゃん達は、盗賊たちが後方に隠してあったバスに近づいていた。

「向こうは派手にやってるようだね」

「ホンマにロボットになっとるわ。おまけに勇者さんも装甲車ぶった切ったり、めちゃめちゃ強いやんか」

 驚くシノブちゃんに、ニンマリとした顔で、ミトリちゃんは応えた。

「あれ、言ってなかったかい。『ボクらの勇者くんは強いんだぞ』って。それより、ボク達の仕事は人質の救出だよ。皆に隠蔽魔法をかけたからね。周りからは見えないと思うけど、注意して近づいて、見張り達をやっつけるんだ」

「オッケイ。うちらも負けへんで」

「了解、シノブさん。俺たちも負けてられねぇ。やってやるぜ」



 果たして、彼女たちの人質救出作戦は成功するのか。そして巫女ちゃんは。



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