真の勇者レベル10(5)
俺は、ミドリちゃんや巫女ちゃんと別れて、新しい鎧を買うためにサンダーと町の中央道を走っていた。女子二人組は、服を見に行くんだって。
さて、肝心の俺の買い物だけれど、どこに行ったらいいのかな?
「ねぇ、サンダー。鎧って、何処に行ったら売ってるっすかねぇ?」
「この町の情報掲示板によると、ホームセンターが一番無難なようでござる」
「ほ、ホームセンター? 何でそんなところで売ってんすかねぇ」
「武器屋もあるようでござるが、駐車場もあって他に色々な物を買えるとなると、ホームセンターが一番無難でござる」
「そっかぁ、なるほどな。俺っち、鎧の他にも普段着や救急セットとかも欲しいと思ってたっす。なら、ホームセンターが一番手っ取り早いっすね。じゃぁ、サンダー、ホームセンターへ向かってくれないかな」
「心得た。ホームセンターに向かうでござる」
一方、巫女ちゃんとミドリちゃんは、新しい洋服を買うべく町のショッピングモールを歩いていた。
ミドリちゃんは、歩いている間も『異世界 魔法大全』を読み耽っていた。
「魔法師様、ちゃんと前を向いて歩かないと、危のうございますよ」
巫女ちゃんが気になって、話しかけた。
「大丈夫だよ。自動歩行の魔法を使っているから、目的地までなんにも考えなくても無事行き着くことができるんだ。人や障害物なんかも自動で避けるんだよ」
「すごいですぅ。それに魔法師様は、とても勉強熱心です。こんなときでも、お勉強を欠かさないなんて、すごいことですぅ」
ミドリちゃんは本に夢中になっているようで、彼女を称賛する巫女ちゃんの言葉にも、時々しか応えようとはしなかった。
「フム、思ったより良い本だな。……ふぅ~む、なるほど。シルド系の魔法も色々応用方があるのか……」
二人が通りをゆっくりと歩いていた時、けたたましいバイクの音がして、その後から女性が叫ぶ声が消えた。
「誰かつかまえてぇな。そいつら引ったくり。うちのリュック取ってった」
見ると、ミニバイクに乗った少年二人を、やや大柄な女性が追いかけているのが見えた。だが、その女性の走る早さが、尋常ではない。もうすぐバイクを捕まえそうなほどに迫ってきている。
「ま、魔法師様、あれ」
騒ぎに気がついた巫女ちゃんは、読書中の魔法少女に声をかけた。
「ふむ、ひったくりかなにかだな。勇者一行の魔法師として、ここは助け船をだすべきだろう。「シルドカーテン」 、シルド系の魔法は防御専用と思われているが。フフフ、こうした応用もできるんだよ」
ミドリちゃんが言い終わる前に、ミニバイクは魔法障壁に突っ込んで引っくり返った。同時にバイクに劣らない速度で走っていた女性も、魔法障壁に真正面から突っ込んで、空中に大の字になっていた。
「アチャー、ちょ、ちょっと失敗……したかな」
ミドリちゃんは一瞬目を覆うと、魔法を解いた。魔法障壁に張り付いた女性が自由になる。
「おい、君、大丈夫かい?」
おでこを赤くした女性は、
「いやいや、すまんなぁ。引ったくりを止めてくれて。さぁすがにうちの足でも、バイクは追い越せへんからな」
(いや、普通、バイクに走って追いつけるなんて、人間の脚力じゃ無理だろう)
ミドリちゃんがそう思っていると、
「魔法師様、引ったくりが逃げますわ」
咄嗟に叫んだ巫女ちゃんに反応したミドリちゃんは、
「おっと、逃さないよ。それ、シルド系魔法の応用例その二だ。「シルドサークル」」
彼女の呪文で、二人の引ったくりは透明な筒のようなもので囲われて、身動きがとれなくなっていた。
「あんた魔法使いかいな。お陰で助かったわ。恩にきるで」
そう言うと、女性は引ったくり犯をボコ殴りにしたあと、自分の荷物を持ってさっさと行ってしまった。
その様子の一部始終を見ていた巫女ちゃんは、呆気にとられていた。
「魔法師様、町には魔物が住んでいるんですねぇ」
「え? あ、ああ。そ、そうかも知れないね」
巫女ちゃんに訊かれても、返答に窮するミドリちゃんだった。
さて、少しトラブルがあったもの、二人は目的の洋服屋に辿りつく事が出来た。
「うわぁ、かわいいお洋服がたくさん並んでいますぅ」
「そうだね。ボクはもう少し動きやすい服を選んでみようかな」
「あ、あれ。魔法師様、あの服、きっと魔法師様に良く似合いますよ」
何を発見したのか、巫女ちゃんは服を展示してある一角を指し示した。
「どれだい巫女くん?」
「あの、赤くてキラキラ光っている服ですよ」
彼女の示した方角は、パーティー用のドレスが陳列してあるところだった。
「ちょ、ちょっと、巫女くん。いくらボクでも、さすがに、あんなドレスは似合わないと思うよ。それに派手だし……」
「そんな事ありませんわ。絶対似合いますって。ちょっと店員さんに試着させてもらいましょうよ」
「いや、巫女クン。肩とか背中とかが大きく空いているじゃないか。ボクには、恥ずかしいよ」
「大丈夫です、わたくしが保証します。それに、ああゆうのって、……きっと勇者様も好みですよ」
巫女ちゃんのこの言葉で、ミドリちゃんは自分が着たところを想像してみた。
「…………」
途端に、本を小脇に抱えた魔法師の顔が赤くなる。
「やっぱり無理っ。勘弁してよ、巫女くん」
「大丈夫ですったらぁ」
「そ、そうかなぁ……」
何も知らないとうことが、一番強いのかも知れない。巫女ちゃんに急き立てられて、ミドリちゃんは洋服店の一角に歩みを進めていた。
一方、俺はサンダーを駐車場に残して、ホームセンターの中を彷徨いていた。
(思ったより何でも売ってるもんだなぁ。実弾や、榴弾砲も置いてあるぞ。こんなの市民生活に必要なのか?)
俺は、あまりにも何でも売っているホームセンターに疑念を抱いた。ただし、その疑念は後になって晴れることになるのだが……。
(さってと、鎧はどこで売ってるのかな?)
俺はあちこち歩き回って、やっとこさ鎧売り場を見つけることが出来た。
隣にはスポーツウェアが並んでいる。間違っていないような気はするが、実際に目にするとやっぱりシュールだ。これも異世界だから? きっとそうに違いない。
俺がその辺を歩き回って鎧を物色しているものだからだろう。売り場の係員は、俺を見つけて話しかけて来た。
「お客様、鎧をお探しのようですね。どのようなものをお求めでしょうか?」
「あ、ああ。俺っちの革の鎧が壊れてしまったもんだから、新しい鎧を探してるんすよ」
俺は、今着ている鎧の裂け目を見せながら、店員にこう言った。
すると、店員は驚いて、
「凄い壊れ方ですね。よほどの激しい戦闘ででもなければ、こんなにはなりません。そうでしょう、お客様」
「ま、まぁ、そんなとこです。俺っちは高速戦闘を得意としてるもんだから、軽くて、それなりに頑丈なものがいいと思っているんすが……」
俺がそう言うと、売り場の店員はちょっと思案するような顔をした。そして、売り場の奥の方に俺を連れて行った。
「お客様、これなんていかがでしょう。竜の鱗の鎧です。軽いし、それに竜の魔力でほとんどの攻撃に耐性があります。今ならお安くしておきますよ」
店員は如何にも自慢げに、キラキラした光る鱗で覆われた鎧を見せた。
だが、念の為に俺は、見せられた鎧を魔法の眼鏡で検分した。
スケールメール : +0
大魚の鱗でできた鎧
刀には耐久力があるが、銃弾には弱い
「なるほど。で、『本物』の竜の鱗の鎧はどこにあるんすか?」
俺が店員にそう尋ねると、彼は蒼くなって謝罪した。
「も、も、申し訳ありません。う、売り場に出しておくと……、そ、そう、万引きなんかにあうものですから。本物は倉庫にしまってあるんですよ」
「本当でしょうね。俺っちに嘘はつかない方がいいっすよ。客商売は、信用が大事っすからね」
「お、お、仰る通りで。では、只今お持ちしますので、しばらくお待ちください」
店員はそう言うと、そそくさと店の奥に消えた。
まぁ、辺境の町だからな。ぼったくりやニセモノも多いんだろうが、俺にはこの魔法の眼鏡があるからな。嘘なんかは見抜いちゃうぞ。
しばらくすると、さっきの店員が別の鎧を抱えて戻ってきた。
「今度こそ、正真正銘の『竜の鱗の鎧』です。ほら、さっきの鎧とは光り方が違うでしょう」
今度も店員はそう言ったが、信じきれないかった俺は、再び魔法の眼鏡で鎧を見つめた。
小竜の鱗の鎧 : +1
小型の竜の鱗で出来ている
刀槍の攻撃を防ぐほか多少の魔法攻撃も防御できる
「ふ~む。小竜の鎧かぁ」
「さ、左様でございます。青龍や赤龍のような大型竜の鎧は……、な、なかなか市場には出てきません……ので」
「まあ、しょうがないっか……。おっさん、これいくら?」
俺に脈アリと見た店員は、ここぞと言う感じで電卓を取り出すと、ぱちぱちと値段を打ち込んで俺に見せた。
「このくらいで、いかがでしょうか?」
しかし、俺は鎧の価値も分かっているため、
「高い。それじゃぁぼったくりだろ。このクラスの鎧なら、こんなもんだ」
と、眼鏡で調べた値段を、目の前で電卓に打ち込んでやった。すると、店員は驚いて、
「な、何故、メーカーの小売価格をご存じで!」
「だから何度も言ってるっすが、俺っちにゴマカシは効かないっすから。いい加減な値段じゃ、買わないっすからね」
「は、は、は、はい。しかし、これではうちの利益が無いことに……。ここはもう少し、色を付けていただいて」
店員は、もう一度電卓に数字を打ち込んで俺に見せた。
「まだ、高い。おっさんとこの利益も含めて、これぐらいが妥当だ」
俺がまた数字を入れなおす。
「そ、それでは、ちょっと厳しいのですが。……そうだ、このオプションの隠しナイフをお付けしますので、このお値段ではいかがでしょう……か?」
俺は、チラリと隠しナイフを見た。それほど素性の悪いものではない。俺は「ふ~む」と腕を組んで、思案するような素振りを見せた。
鎧の隣では、店員が冷汗を流しながら、俺の決断を待っていた。
「まぁいいか。これで手を打とう」
「あ、あ、あ、ありがとうございます。鎧の細かい丈の合わせをしますので、こちらの試着室へどうぞ」
「分かったっす。もちろん、丈の調整はサービスっすね」
「そ、そ、その通りでございます。ではこちらで」
俺はさも威厳ありそうに応えて、店員の後を着いて行った。
その頃、巫女ちゃんとミドリちゃんは、紳士服売り場に来ていた。
「勇者くんは鎧を着っぱなしだからなぁ。普段着とかを買っといてやろうと思うんだ」
「それは良いお考えですわ、魔法師様」
「どうだい、巫女くん。こんなの似合うと思わないかい?」
ミドリちゃんは長袖のトレーナーを広げると、巫女ちゃんに意見を訊いた。
「ちょっと大きいんじゃないでしょうかぁ」
「そうかなぁ。昨夜抱いてもらった感じでは、結構大きく感じたんだがなぁ」
彼女は、少し頬を染めてトレーナーを見つめた。
「ちょ、ちょっとゆったり過ぎかな。ハハ」
「二人で入っちゃえますよ。もう、魔法師様ったらぁ」
(二人で入る! それもいいかも)
と、ついついイケナイことを考えてしまうミドリちゃんだった。
「魔法師様? 何をぼおっとしているのですか?」
巫女ちゃんに言われて、彼女は我に返った。
「あ、い、いや、何でもない。何でもないよぉ」
「それより魔法師様。こちらのセーターとパンツの組合せではいかがでしょう?」
と、巫女ちゃんがグレーの上下を選んでいた。
「うん、いいんじゃないかな」
「では、勇者様にはこれにしましょうよ」
二人が俺の分も選んでくれていることなど露ほども知らず、俺はまだホームセンターの中を彷徨いていた。
(まぁ、だいたい買いたいものも買っちゃったからなぁ。そろそろ帰るかな)
そう思っていたところへ、俺に声をかける人物がいた。
「なぁなぁ、お兄さん。このピトンのバッグ、どっちがええと思う?」
露店の前で、やや長身の女性がバッグを選んでいるところだった。
(そう言うこと、普通、通りがかりの見ず知らずの人間に訊くかぁ)
と俺は思ったが、つい親切心で魔法の眼鏡で確かめてみた。
偽物のピトンのバッグ : -1
縫製も革も悪く、すぐ壊れる
偽物のピトンのバッグ : +1
偽物だが作りがしっかりしている
「お姐さん、それどっちも偽物っすよ。でも選ぶんならこっちの方が出来がいいっす」
そんな俺の鑑定を聞いて、その女性はいきなり声を荒げた。
「ええ! それホンマか。なぁ、おっちゃん。どっちもホンモノってゆうとったよな。こぉの詐欺師が」
彼女はそう言うと、露天商のおっちゃんに因縁をつけだした。
「粗悪な偽物つかませようとしようなんて、おっちゃんには商売人の心意気は無いんかい! ええやん、出るとこ出たろうか」
と、彼女は露天商の胸ぐらをつかむと、殴りかからん勢いで店主を罵倒し始めたのだ。周りの通行人も、思わず足を止めて眺めたりしたので、あっと言う間に野次馬の人垣が出来てしまった。
(これはまずいだろう。この人やり過ぎ)
「お姐さん、お姐さん。ちょっとやり過ぎですよ。警備員が来ちゃいますよ」
「警備員? ええやないかい。このおっちゃんが偽物で商売やってるって、言うてやろうやんか」
これにはさすがに露天商も困り果てて、
「わ、分かりました。こちらのバッグはタダでお分けしますので、これ以上を騒ぎを大きくするのは、勘弁してください」
「え、ホンマ。なんや、最初っからそうゆうっとたらええやんか。間違いなくタダやろな」
最後はドスの効いた声で、露天商を恫喝する。
「え、ええ、確かにタダです。だから、お願いですから、勘弁してくださいよ」
おっちゃんは、最後には泣き出しそうになっていた。
(なんて恐ろしい人だ。女って怖いなぁ)
俺はそう思いつつ、戦線を離脱しようとした。ところが、そんな俺の腕をグイッと引っ張った者がいた。
「兄ちゃん、ええヤツやな。今晩、うちと一杯やろうか」
そうきさくに話しかけてくるお姐さんに、
「い、いや。俺っち、未成年なんで」
と応えて逃げ出そうちした。今は厄介事に巻き込まれるのは、まっぴらゴメンだ。
「そんなん心配要らへんて。なんせ、ここ異世界なんやから。酒なんか呑み放題やで」
「いや、さすがにそれは……。いかんでしょう」
するとお姐さんは、俺の腕を人差し指で撫でながらこういってきたのだ。
「実はなぁ……、うち、今日泊まるとこあらへんねん。兄ちゃん、うちと一緒に一晩過ごせへんかぁ」
媚のこもったねちっこい声で、お姐さんは誘いをかけてくる。
「俺っち、車で来てるし……。きょ、今日のホテルも決まってるから、ダメっすよ」
俺は、必死になってこのお姐さんの手を振りほどこうとしていた。何故なら、俺の魔法の眼鏡には、このお姐さんのパラメータがこう映っていたからだ。
くの一 (元勇者) : Level 4
HP : 30
攻撃力 : 25
防御力 : 20
魔法力 : 18
こ、これからどうなる? 俺。




