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真の勇者レベル10(2)

 俺たちは、浄化した遺跡の森の近くで野営をしていた。

 まだ、あちこちにラプトル・タイプやワイバーン・タイプの魔獣(モンスター)の死骸が転がっている。


 さて、今夜の夕食は、ラプトルのステーキ、及び森で採れた山菜とキノコのスープだ。

 あっと、それから……、巫女ちゃんの定番、『精のつく珍味』のおまけ付き。これには、さすがの俺も参った。

 とは言うものの、珍味は別として、ラプトルの肉はけっこう美味かった。筋切りという作業は必要だったが、よく締まっている腿の部分を切り出して焼くと、鶏肉の様にさっぱりとして食べやすかった。

 そうやって俺たちが、肉、肉、肉の肉三昧の夕食を平らげている間、サンダーはブレイブ・ローダーでメンテナンスや銃弾の補給を行っていた。


「皆様、おかわりはいくらでもありますからね。どんどん食べてくださいな」

 例の珍味に閉口してしていた俺に、巫女ちゃんは容赦なく『睾丸の串焼き』を勧めてきた。

 周り中を見渡せば、ラプトルの死体は数限りなくある。アマテラスからもらった報奨金が一千万もあるが、干し肉や燻製にして町で売りたくなるくらいだ。これだけの数だから、きっとかなりの金額になるだろう。


 俺たちは滅多に無いごちそうに舌鼓を打っていたが、さすがの勇者様とて胃袋の大きさは無限大じゃない。

「ああ、もう腹いっぱいだ。とてもじゃないけれど、もう食えないっす」

「ボクもだよぉ。こんなに食べたのは、本当に久し振りだな。……ふ、太るかな?」

「皆さんに、たくさん食べていただけて、嬉しいですわぁ」

 巫女ちゃんは日が暮れなずんでからこっち、機械魔獣には及ばないものの人間を見下ろすくらいに大きな魔獣(ラプトル)を、せっせと調理しては、にわかづくりの食卓に絶え間なく運び続けていたのだ。

「巫女ちゃんのおかげで、豪勢な夕食だったっす。ごちそうさまっすよ。それよりも、巫女ちゃんはちゃんとお肉を食べたっすか?」

 調理で働き詰めだった彼女を、俺は心配していた。

「勿論、いただきましたわよぉ。わたくしも、お腹いっぱいですわ」

「倒した敵が夕食になるなんて、まさに一石二鳥っすね。まぁ、さすがに機械魔獣やゾンビは食えないっすが」

「ごめん、勇者クン。今、その話は無し。ボク、ぎりぎりまで食べて吐く手前だから……」

「そうだったっすね。ごめん、ごめん。……それじゃぁ、皆、両手を合わせて」

『ごちそうさまでした』


 精のつく珍味は別として、楽しい夕食終えた俺たちは、後片付けをして就寝の支度に入った。


「ミドリちゃん、俺、死ぬほど頑張ったんすから、……今日くらいブレイブ・ローダーの中で寝たいっすよぉ」

 立派で近代的な居住性能を備えたブレイブ・ローダーには、当然のように、ふかふかでゆったりしたベッドも完備されていた。しかし……、そう、俺はこれまで、「エロ」だ「変態」だと罵られ、ブレイブ・ローダーへの出禁を喰らっていたのだ。それで、夜露をしのいで泣く泣くサンダーの後部席で寝袋に包まる毎夜だったんだ。祭壇を浄化する大仕事を終わらせた今日くらい、いい目を見ても良いじゃないか。

「う~ん、そうだなぁ……。今日くらいは構わない……かな。死にかけたのは本当だし、まだ怪我人でもあるしね。その代り、……イタズラしてきたらただじゃすまないぞ!」

 暴君的なミドリちゃんも、さすがに今夜は情けを見せてくれそうだ。こんな好機を逃してはならない。

「大丈夫っす。俺、絶対にそんなことしないっすから」

 ふかふかベッドを確保するために、俺は威丈高(いだけだか)な魔法少女にペコペコと頭を下げていた。

「あと、ボクらが着替えるまでは、ローダーに入ってこないこと。分かったか」

「分かってるっす」

「ようし。なら許してやる。念を押すが、くれぐれも……」

「エッチなことなんかしないっす!」

 俺は、未だ少し不信感を持っていそうな魔法師に、誓いの言葉を送った。ゆったりベッドで寝られるなら、プライドなんてどっかに飛んで行ってしまえ。

「ふむん。じゃぁ、ボクと巫女くんは中で寝巻に着替えるからな。準備が出来たら呼んでやるよ。それまで大人しくしてるんだぞ」

「あ、ありがたいっす、ミドリちゃん」

「ミドリ『さん』だ。しっかり覚えろよなぁ」

「すぐに着替えを済ませますからね。それでは勇者様、しばし、お待ちくださいませ」

 ああ、こんな時まで巫女ちゃんは優しいなぁ。

「分かったっす、巫女ちゃん」

 やったぁー。これで今夜はゆっくり寝られるぞ。

 俺は、巫女ちゃんとミドリちゃんがブレイブ・ローダーに乗り込むのを見届けると、呼ばれるまでサンダーと雑談をすることにした。

「ああ、今日はちゃんと足を伸ばして寝られそうっす」

「よかったでござるな、勇者殿。狭いところで寝ると、腰にくるでござるからな。腰は男の命でござる」

「腰と言えば、今夜も巫女ちゃんの『精のつく珍味』には閉口したっす。まあ、味にはもう慣れちまったから問題なかったっすが。モノがモノだけになぁ」

「精がついたところで、勇者殿、どちらかを襲わないでござるか?」

「まぁ、全く頭にない訳じゃないけれど……。二人いるからなぁ。見つかったら、速攻で袋叩きっすよ。それに今日は疲れたから、ゆっくり眠ることにするっす」

「勇者殿は淡白でござるな」

「いや、そういう問題でもないんだけどな……」

 サンダーは、こう見えてもムッツリスケベなのだ。自動車だった時の記憶が残っていて、前の持ち主がカー[ピー]クスを頻繁にしていた影響だ、と本人は言っている。

 この前も、ブレイブ・ローダーの車載カメラで隠し撮りをした写真を俺に見せて、悦に入っていたくらいだ。戦闘の時には力強い味方なんだがな。町に行った時に、妙な悪さをしなければいいのだが……。

 もしサンダーが何かしでかした時には、怒られるのは俺なんだよなぁ。これも、俺の抱えている難問の一つだった。


 そんなこんなを考えながら、俺とサンダーは雑談を続けていた。そしてしばらくすると、ローダーの扉が開いた。

「勇者様、準備が出来ましたよ。お部屋に入って下さいな」

 巫女ちゃんだ。俺は立ち上がると、サンダーに「おやすみ」と言って、ブレイブ・ローダーの入口に走って行った。

「よっこいせ」

 俺がローダーに乗り込んだ時、入り口のところで着替えを終わった二人に出くわした。巫女ちゃんは、この間の町で買ったパジャマ姿である。ミドリちゃんはというと、だぼだぼのTシャツ一枚だった。シャツの裾から覗く太ももが、途轍もなくせくしーだ。

「ミドリちゃん。襲うなと言った割には、寝巻が挑発的なんすが」

「いいじゃないか。ボクはこの方がゆったりしていて、よく眠れるんだよ」

「シャツの中とかが、見えそうっす」

「見えそうでも、見るんじゃない」

「そんな拷問みたいな……。で、俺っちはどこで寝るんすか。まさか「寝袋で床に寝ろ」とかは言わないっすよね?」

「あ、ああ。その手があったか。もっと早く気が付くべきだったよ」

「ううう、ひどいっす」

「大丈夫ですよ、勇者様。この居住施設には、左右合わせて八人が寝られる二段ベッドがありますし、補助ベッドも四人分用意できますのよ。わたくしたちはこちらの端っこのベッドを使いますから、勇者様はあちらの端っこのベッドを使ってくださいませ。もう、わたくしと魔法師様とで、お布団を敷いてありますから。勇者様、今夜はごゆっくりお休みくださいね」

「ありがとうっす。巫女ちゃんは、やっぱり優しいっすね」

 彼女の行き届いた気配りに、俺は涙がこぼれそうになった。ああ、今日こそ本当にゆっくりと眠れそうだ。

「ボクだって寝床の用意を手伝ったんだぞ」

 巫女ちゃんに負けず、ミドリちゃんも俺の寝床の準備をしたことを主張した。

「ミドリちゃんもありがとうっす。これで、久々に足を伸ばして寝れるっすよぉ」

 何にしても、チームの女性陣が親切なのは良いことだ。やっぱり、俺ってラッキーな幸せ者?

「じゃぁ、照明を落とすよ。何度も言うけれど、くれぐれも夜這いなんかするんじゃないぞ、新米勇者」

「分かってるっすよ、ミドリちゃん。じゃ、二人ともおやすみっす」

「ああ、おやすみ、勇者クン」

「おやすみなさいませ、勇者様、魔法師様」

 こうして、俺たち三人は、めいめいのベッドに横たわると眠りについた。


 ところが、……ね、寝られない。


 二人の女の子を意識してる所為なのかなぁ。もう自分のムスコがビンビンだよ。

 まさか、巫女ちゃんの『精のつく珍味』の所為なのか?

 ティッシュぺーパーとかないから、一人で抜くこともできない。パンツの替えは買ってなかったから、これ一枚しか無いんだよ。

 明日の朝、一人でパンツ洗ってるところなんか、見られたくないなぁ。

 ううう、どうしよう……。


 俺がそうやって悩んでいると、誰かが布団の中に入ってくる気配があった。誰だ? ミドリちゃん? あの様子じゃ、ありそうに無いな。

 それとも巫女ちゃん? 「殿方とは縁がない」って言ってたから、こっちもありそうにないけれど。でも、異世界に何か変な習慣とかがあったとしたら厄介だぞ。

 実際どうするよ、俺。


 そのうちに、誰かの手が俺の胸元を擦ってきた。おおお、気持ちいい。……いや、ダメだろ。ここで俺が羽目を外してどうする。俺は、心の中の性欲魔人と懸命に戦っていた。

 二人の女の子の内、どちらかであることは確かなのだが、かと言って声を立てたり、変な動きをするのも躊躇(ためら)わられる。どうにもできなくて、俺は眠ったふりをして息を殺していた。

 しばらくすると、誰かが布団から頭を出して、俺の耳に息を吹きかけてきた。

 ややや、やめろよぉぉぉぉ。耳は敏感なんだよぉ〜。

 何とかして我慢していたが、遂に謎の人物の正体が分かる時がきた。誰かが俺の耳元で、囁いたのだ。


{勇者く~ん、起きてる? 起きてるよね}

{そ、そ、そそ、その声はミドリちゃん? ど、どどど、どうしたんすか}

 こんな状態で大きな声を出すことは出来ない。巫女ちゃんに感づかれては困るからだ。俺たちは誰にも聞こえないように、小声でヒソヒソと言葉を交わしていた。

{ボク、なんだか、身体が熱くってぇ……。どうしても、一人じゃ眠れないんだよ。どうして……、どうしてなのかなぁ。勇者くんの汗の臭いが、たまらなく良い匂いに感じるんだ……}

 ミドリちゃんはそう言って、両足を俺の身体に絡み付けて来た。この体勢だと、どうしても俺の肘がミドリちゃんの胸のあたりに当たってしまう。柔らかな感触が、全身の感覚を鋭敏にしていた。

 どうにかして耐えていたものの、今度は身体の上に誰かが乗っかかってきたよ。

 残りは一人しかいない。これはどう考えても、巫女ちゃんでしかない。

「勇者様ぁ、わたくしも、身体が火照って一人では眠れませんのぉ。お願いですから、一緒に寝かせてくださいませんかぁ」

 嗚呼、やっぱり。

 しちゃいけないって決め事をすると、どうして片っ端から守れなくなるんだろうか。

 ほんと、今日はマジで疲れてるんだよ。何と言っても死にかけたんだから。彼女たちの期待に応えてあげたいのは山々だけれど。今夜は勘弁してくれよ、マジで。

 しかし、そんな俺の事情は女性陣には通じないようだ。

「巫女くん、それはダメだよ。勇者くんはボクの物なんだからね」

 え? あ、いや。俺はいつからミドリちゃんの私物になったの?

「魔法師様ぁ、言わせていただきますが、わたくしには勇者様と長い間に培った信頼関係があるのですのよぉ。このわたくしの全ては、勇者様の物なのですから」

 巫女ちゃんも甘い声でそう主張したが、それって、いつ決まったの? 俺、全然知らなかったんだけど。

「言うなぁ、巫女くんも。でも、今夜はどうしてこんなに身体が熱いんだ? 今までは、こんなことは無かったのに」

「お夕飯のキノコ汁ですよ。あのキノコには、精力を盛り上げる効能があるんですのよ。この世界では、普通によく使われている媚薬(びやく)なのですよぉ」

 のおぉぉぉぉぉっぉぉ、なんてことをするんだよ、巫女ちゃん。「キノコの所為」だと弁解を求めても、もし間違いがあったとしたら、明日の朝に確実に殺される。ど、ど、どど、どおすればいいんだぁぁぁぁぁぁ。

「ズルいぞ、巫女くん。おかげで、ボクは欲求不満のままで、勇者くんが来てくれるのを長い間ベッドで待ってたんだぞ。ボク、もう待てないよぉ。勇者くん……、いいよね♡」

「な、な、な、なな、何がいいんすか?」

 俺は興奮しながらも、理性のタガが外れそうになるのを、最後の一線で守り切ろうとしていた。

「ボクと一緒に寝てよ、勇者クン。ダッコしてくんなきゃヤダ」

「魔法師様ぁ、独り占めはいけませんわ。勇者様ぁ、わたくしもダッコしてください♡」

 二人のトロ~ンとした甘い声が、耳から侵入して俺の脳みそをドロドロに融かそうといていた。その上、美少女二人に両脇から抱きつかれて、女性の肢体(からだ)のあっちやこっちのいけない部分が、俺を絶え間なく刺激していた。


(やや、やわらけぇ。女の子って、こんな感触なんだ。何だかいい香りも漂ってくるし。こ、これは……気持ちい~い)


 だ、だめだ。理性が吹っ飛びそうだ。ラッキーはラッキーでも、ラッキースケベのフラグが立っちゃってるよ。ついでに俺の股間も勃ちっぱなし。

 悩んでいる頭と心とは裏腹に、俺の両腕は勝手に動いて巫女ちゃんとミドリちゃんを両脇に抱きしめていた。

「勇者様、嬉しいぃ」

「勇者くんの腕って、結構逞しいんだねぇ」


(こ、ここ、これから、どうすればいいんだ……。手も足もがんじがらめで、逃げるどころか、動くこともどうすることもできないよ。誰か助けてくれぇ〜)


 俺が心の悲鳴を発していると、いつの間にか左右から「スースー」と静かな寝息が聞こえてきた。


(二人とも眠ってしまったのかぁ。ああ、良かった……。って、これ全然ダメだろう。この体勢じゃ身動きできん。その上、二人が気になって全く眠れないじゃないか)


 精のつく媚薬キノコのおかげで、俺のムスコはビンビンだ。しかし、二人に押さえ込まれて身じろぎ一つできないのに、一体どうしろと言うのだ。


 俺は、緊張して一睡もできないまま、翌朝を迎えようとしていた。



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