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中級勇者レベル3(3)

「ゆるい、ゆるすぎるぞ、お前たち」


 このお言葉を頂いたのは、昨日仲間になってくれた魔法師のミドリちゃんだ。俺たちのこれまでの経緯(いきさつ)を聞いて仲間になってくれたのだが……。


「話の経緯はわかった。ボクも元勇者の端くれ。是非とも、協力させてもらおう。しかし、仮にも『邪の者』という強大な敵を相手に戦うのに、こぉぉぉぉーんなにゆるい気持ちで良いのか! 特にそこのお前。ほら、お前だよ、お前。ちゃんと返事しろよ、カス勇者。のほほんとし過ぎてるんだよ」

「そお~すかぁ」

 返事をしろと言われて、俺はやる気無し満点の声を出してしまった。

「それだよ、それっ。そのやる気の無さは何だ! 現勇者であるお前がリーダーなんだろう。それが、のほほぉ〜んって、釣りなんてやってていいのかよ!」

「だぁーってぇ、何か食わなきゃ、お腹減って死んじゃうしぃ。保存食なんかも、なるべくとっときたいしぃ。ここいらは、狩りが出来るような森もないしー。町だって遠ーいしぃ。町に行ったとしても、もう、お金残ってないし……。俺っち、まだ駆け出しで、レベルだって低くて戦闘力も小さいんすよ。やっぱぁ初めは、手ごろなとこから雑魚モンスターを倒していって、地道にレベルを上げて強くなんなきゃね。じゃなきゃ、すぐにゲームオーバーしちゃうっすから。あはははは」


 皆さんにはもうお分かりだろう。現在、俺たちはミドリちゃんに、いわゆる『喝』を入れられてるところである。


「そこまで分かっているのなら、何故修行をしない。誰よりも、お前が一番パラメータ低いんだぞ。巫女くんでさえ、治療魔法や探知魔法が使えるのに。お前は何だよ。攻撃はアイテム頼りだし、作戦は行き当たりばっかだし。……ほんっとうに『ラッキー』だっただけじゃないか」

「いやぁ、その『ラッキー』てのが買われて召喚されたらしいっすから。ね、巫女ちゃん」

「そうなんです。勇者様はわたくしの服まで買ってくれて、もうお金も残り少ないのです」


(あ、巫女ちゃん、今日は巫女装束だぁ。これもコスプレみたいでかわいいなぁ、エヘエヘ。あ、胸元開いて、谷間が見えてる。セクシーだなぁ)


 俺がそんなアホなことをのほほんと考えていた間も、ミドリちゃんのお説教は続いていた。

「巫女くん、そう言って甘やかしちゃいかんのだ。世の男どもはなあ……、こらぁ、どこ見てんだよ、このエロ勇者!」

「あ、すいません。わたくし、やっぱりブラというものは慣れないので、今は外してるんですが。やはり、はしたないのでしょうか、魔法師様?」


(えっ、巫女ちゃんノーブラだったのか。どーりで、今日はセクシーなはずだよ)


「巫女くん、君も自分のコト分かってないね。男というものはなぁ、皆、野獣なのだよ。このエロ勇者も、君の大きな胸に気を取られているだけなのだ。大きな胸に……」

 ミドリちゃんの演説の間、俺は二人の胸を見比べていた。


(やっぱり巫女ちゃんのは、おっきくて柔らかそうだな。でもミドリちゃんも形よさげだなぁ。ヘラヘラ)


「何を見比べているんだ、このエロ勇者! ボクの胸が小っさいからって、馬鹿にするなよ。実は、脱いだら凄いんだぞっ」

「え? 本当。脱ぐの?」

 俺が脊髄反射で応えると、ミドリちゃんは急に真っ赤になった。

「言葉のあやだっ。お前なんかに見せるわけないだろう、エロ勇者」

「あのぉ、その『エロ勇者』ってのだけは止めてもらえます。俺っち、本当にエロになっちゃいそうだから」

「それぐらいで、洗脳されるのか。お前の脳みそはカエルと同じか?」

 俺の発言は、火に油を注いだだけだったようだ。

「まぁまぁ、魔法師殿。勇者殿は、この世界に来て一週間ほどしか経ってないのでござるから。まぁ、そのあたりを勘案して、もっと穏便に済ますのがよろしいのではござらぬか?」

 あまりの状況を見兼ねてか、サンダーが助け船を出してくれた。

「お前が言うな、ポンコツ!」

「え、ええっ。ポンコツって……」

「ぬるいことを言ってるんじゃない。ボクは三日でレベル5まで上げたぞっ。だいたいさぁ、お前も無鉄砲すぎるんだよ! ブレイブ・ローダーが出てこなかったら、今頃スクラップだぞ。分かってんだろうな!」

「うう……。いやぁ、面目ないでござる」

 ミドリちゃんの怒りは、サンダーにまで飛び火してしまった。

「そもそも、『ラッキー』なだけでやっていこうって言うのが気に入らない。男なら、こうドシっと腰を据えてだな……」

 ミドリちゃんが立ち上がって、身振りでお手本を示していた。すると、

「腰でござるか。なるほど、魔法師殿は良い言葉を知っている。やはり、格闘技も夜伽(よとぎ)も、腰が重要でござるからなぁ」

「何で、そんな言葉知ってだよ。このエロボット」

 その返答に、ミドリちゃんは真っ赤になった。そのまま勢いを落とさずに、サンダーに突っかかる。

「いやあ、前の持ち主が、『車の中が良いと言って相方と頻繁にナニをしてた』ものでござるからぁ……」

「そ、そうなんすかっ、サンダー。後で詳しく教えて欲しいっす。どうやったら女の子にモテるようになるか、是非とも知りたいっす」

「わたくしも興味ありますわ。何せ、この世界に生をうけてからずぅーっと殿方にはご縁が無かったものですからぁ」

 俺も巫女ちゃんも、思いもよらなかったサンダーの発言に、見事に喰い付いてしまっていた。しかし、それも、緑色のスカートを履いた魔法師殿には気に喰わなかったようだ。

「巫女くんは、そんなことを知らなくてもいい! こんなエロ魔人どもに巫女くんを任せておいたら、いつ間違いが起きるか分かったもんじゃない。ボク達は、昨日巫女くんが見つけた果物を取りに行くから、オマエラは火を起こして、なんか食えるモンを作っておけ! 分かったなっ」

 そう言い捨てると、ミドリちゃんは巫女ちゃんを連れてさっさと草原の方へ向かって行ってしまった……。



「……やっと解放されましたな、勇者殿」

「うん。ミドリちゃんもキツイよね。まぁ、大部分当たってるからしようがないっすが……」

「いやいや、魔法師殿のようなタイプの娘は、意外とウブで女性らしいところがあるでござる。そのポイントを見つけて、褒めたり持ち上げたりするのが、よろしいのでござるよ」

「ふ~ん、そうなんすか。それで……」

 俺とサンダーはミドリちゃんたちが行ってしまったものだから、朝食の支度をしながら、エロ談義に花を咲かせていた。


 一方の巫女ちゃんとミドリちゃん達は、果物のある場所へと向かっていた。

「魔法師様は女性ですのに、勇敢なのですね」

「ボクが勇敢なんじゃない。アイツラが、ゆるすぎるんだ。こんなんじゃ、この先勝ってゆけない。……生きてゆけないよ」

 そうしてミドリちゃんは、少し俯いて哀しい顔をしたそうだ。

「何か……あったのですか?」

「ううん、何でもない。ありがとう巫女くん。ところで、昨日見つけた果物はどの辺にあるんだい」

 巫女ちゃんは、少し木々が塊って茂っているところを指差して、

「あそこですわ、魔法師様。でも、高いところにあって、わたくしでは取れなかったんです」

「大丈夫。ボクは色んな魔法が使えるからね。任せてよ」

「はい」

 ミドリちゃんの言葉に、巫女ちゃんは笑顔でそう応えていた。


「ここがそうです」

 巫女ちゃんは(くだん)の果物の生っている木の下に来ると、ミドリちゃんを招いた。

「確かに高いところにあるなぁ。でも大丈夫。ボクが魔法をかけるからね。驚いて、慌てたりしないでね」

「はい、分かりました」

「フロール」

 ミドリちゃんが右手を振ってそう唱えると、不思議なことに、二人ともゆっくりと宙に浮き始めた。

「うわぁ、すごいです。わたくし、宙に浮いてます」

「浮遊の魔法だよ。空気砲の魔法で、撃ち落とすこともできるけれど、手で取った方が実が傷つかないだろう」

 二人は実の生っている高さまで到達すると、熟している実を選んで摘んでいった。

「たくさん取れましたね」

「そうだな、そろそろ降りるか」

 ミドリちゃんはそう言って、左手の人差し指で何か記号のようなものを空中に書いたように見えた。すると、二人は空から地上へゆっくりと降りて行った。


 二人がそうやって果物を取っていた間、俺はカセットコンロでお湯を沸かして、レトルトのチキンライスを温めていた。ついでに、ブレイブ・ローダーの貯水タンクに、川の水をポンプで汲んで補給する。

「これから先、いつ飲める水が見つかるか分かんないっすからね」

「拙者やブレイブ・ローダーのラジエータにも必要でござる」

「でも、ブレイブ・ローダーの冷凍冷蔵庫に、冷凍食品やレトルト食品がたくさん保存してあって助かったっすよ。これで、しばらくは食いつないでいけるっす」

「それで……、勇者殿はどちらが好みでござるか?」

「どちらって?」

「みなまで言わせないでござるよ、勇者殿。ほれほれ、巫女殿と魔法師殿でござる」

「まぁ、そうだなぁ……。巫女ちゃんはかわいくて胸も大きいけど、ミドリちゃんもスレンダーで背の高い美人だからなぁ。俺の本来のタイプとしてはミドリちゃんなんだけど……。巫女ちゃんは常識はずれで危なっかしいから、目が離せないところがなぁ。う~ん、どっちかにするなんて、むずかしいよなぁ」

「勇者殿、その優柔不断なところが、よくないでござる。やはり男は、決めるときにはビシっと決めなくてはならぬでござる」

「何が『ビシっと』だい、このエロ魔人ども」

 急に声をかけられて後ろを向くと、巫女ちゃんとミドリちゃんが並んで立っていた。

「あ、もう帰って来たんだ。果物、いっぱいとれたっすか?」

 俺が収穫の成果を訊いてみると、

「ああ、たくさん取れたよ。ほら食って見ろ、美味いぞ」

 と言って、ミドリちゃんは、俺に果物を一個投げてよこした。

 俺は飛んできた果実を受け止めると、ローブの端っこで磨いた。そして、実の全体を眺めてから、大きく口を開けて一口かぶりついた。

「あ、ちょっと酸っぱいけど、……美味いよ、これ」

「そうか。何ともない……な」

 と、ミドリちゃんは、俺の様子を注意深く観察しているようだった。

「よかったな、食べられる木の実で。じゃぁ、ボク達も試食してみようか」

 え? それって何。俺、毒見役?

「まさか、確かめもせずに食わせたのか!」

「だから、今確かめたんだよ。美味かったんだろう、ヘボ勇者」

 嗚呼、もういいよ……。俺ってリーダーのはずなのに、扱いがひどいよ。

 俺は肩を落としたものの、やれやれと立ち上がった。そして、ローダーに乗り込むと、キッチンの食器棚から皿とスプーンを取り出した。人数分の更には、お湯で温まったレトルトのチキンライスを盛る。用意が出来ると、お盆にチキンライスの皿とスプーンを乗せて、皆のところに戻った。

「ほれ、朝飯っすよ」

「うわぁ、何ですかこれ? 見たこともない食べ物ですぅ」

「チキンライスだよ、巫女くん。レトルトだけどな。なぁ、ヘボ勇者」

「レトルトで悪かったすね。俺が手を動かして一から作るよりも、よっぽど美味いっすよ。あと、ゆで卵やコーンスープがあるっす。持って来るからそこで待ってるっす」

「勇者様、わたくしお手伝いしますぅ」

「巫女ちゃん、ありがとうっす。巫女ちゃんは、どっかの魔女っ娘と違って気が利くっすねぇ」

「何だよそれ。悪かったな、気が利かなくって」


 こうして、ぎくしゃくとした中で今日の朝食は始まった。

 こんなんで、この先やっていけるのだろうか? 俺は思いっきり不安を感じていた。



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