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勇者初心者レベル2(8)

 勇者ロボ『サンダー』を仲間に加えたことで、俺たちの戦闘力は飛躍的にアップした。


(サンダーさえいれば、俺が何もしなくても敵をやっつけられるぞ。何てラッキーなんだろう。エヘラエヘラ)


 と、俺はすっかり勝った気になっていた。


(さて、改めてサンダーのパラメータでも見てみるか)


 俺は魔法の眼鏡で、サンダーを見つめた。


勇者ロボ(ファイターモード) : Level 12

  HP : 250

  攻撃力 : 280

  防御力 : 220

  魔法力 : 0

 勇者を助け、共にアマテラスの祭壇を浄化する


 うおおお、勇者ロボすげぇ。なんてパラメータだ。まさに無敵。しかも、ビークルモードから変形するんだな。すげぇかっけぇ。


 俺がロボのステータスに我を忘れかけていると、

「お二人はこれからどうするのでござるか?」

 と、サンダーが訊いてきた。

「わたくしたちは、穢されてしまったアマテラス様の祭壇を巡って、それを浄化していくのです。ここから最も近い祭壇に向かう途上でしたのです」

 巫女ちゃんから説明を受けたサンダーは、

「では、拙者もご一緒してよろしいか? 是非とも勇者殿たちをお助けしたいでござる」

 と、助太刀を申し出てくれた。しかし、一緒に来てくれるのはありがたいのだが、このデカイ図体ではなぁ。ちょっと困った事になったな。俺は少し考えると、

「次の祭壇までは、多分、歩いて三日以上はかかると思ってるっす。サンダーみたいなデカイのと歩いていては、ちょっと目立ちすぎるんじゃないかと思うっす」

 と現状を話した。すると、これを聴いたサンダーは、

「心配ご無用。チェーンジ・サンダー、ビークルモード」

 と、あっという間に、原型だった自動車の姿に戻っていた。

「これなら、目立たぬでござろう。勇者殿達を乗せて走れば、あっという間に目的の祭壇に到着出来るでござる」

「おお、これはすげぇ。しかも、重い荷物を背負って歩かなくていいなんて、凄くラッキーっす」

 俺は棚から落っこちてきたボタ餅を拾った気分だった。至れり尽くせりじゃあないかぁ。

「勇者様、自動車というものは、そんなに速いのですか?」

 自動車の事を知らない異世界人の巫女ちゃんは、不思議そうに訊いた。

 すると、ビークルモードのサンダーは、自慢気にこう言った。

「当然でござる。拙者の走る速度は、最高時速三百五十キロ。人間が歩いて三日の距離なら、今日中に到着することなど朝飯前でござる」

 それを聴いて俺は、先日行商人のおっさんのバイクに乗せられた時のことを思い出した。

「サンダーが速いのは分かったっす。けれど、未舗装の道が多いっすから、是非とも安全運転でお願いしたいっす」

 さすがに異世界のデコボコ道を三百五十キロでかっ飛ばされたら、中に乗ってる俺たちは車酔いでゲロゲロになってしまう。

「心得た。では、さっそく出発しようではござらぬか」

 サンダーは気の早い性格のようだ。しかし、徒歩でこの異世界を巡ることを考えていた俺たちには、サンダーと仲間となった意義は大きい。何せ、自動車という高速移動手段が得られたのだから。

「じゃあ俺は運転席の方に乗せてもらうっす。サンダー、荷物は後部座席に置いておいていいっすか?」

「問題無いでござるよ」

「じゃぁ、巫女ちゃんは、助手席の方に座ってもらいたいっす」

 俺が傍らの美少女に座席を指示すると、彼女は、

「はい、分かりました。え~と、……でもどちらが助手席なのでしょうか」

 と、サンダーの前で戸惑ってしまっていた。

「運転に使うハンドルやレバーが付いてない方の席っす。サンダーは右ハンドルだから、左側のシートが助手席っすね」

「勇者殿のおっしゃる通りでござる」

 助手席の位置を教えると、サンダーは自ら左のドアを開いてくれた。

「まあ、中はこうなっているのですね。ふかふかして座り心地がよさそうですわ」

「巫女殿にそう言われると、拙者、なんだか照れるでござる。さぁ、遠慮なく中に入るでござる」

 そう言われて、巫女ちゃんはサンダーの助手席に乗り込んだ。

 続いて俺も、サンダーの運転席に着いた。

「巫女ちゃん、席に座ったらこのシートベルトをしっかりと締めるんす。急停車した時とか、前につんのめって危ないっすから」

「勇者殿のおっしゃる通り。ベルト着用は、自動車に乗る時の義務でござる」

 ふむ。このサンダーは、単純な飛ばし屋じゃなくて、交通ルールには厳しそうなヤツだな。俺はそんな事を考えながらシートベルトを装着した。

 ところが、巫女ちゃんの方はベルトをつかんで引っ張ってはいるが、上手くロックすることが出来ないようだ。

「あ~ん、勇者様、上手くできませんわ。どうしましょう……」

 とうとう巫女ちゃんは半べそをかいて、助けを求めてきた。

「巫女ちゃん、慌てなくっても大丈夫っす。ベルトのここに金具がついているから、これをちゃんと掴んで、ゆっくりと引っ張る。それから、座席の脇にあるこの部分にしっかりと差し込めばいいんす」

 俺が説明してあげると、

「えーと……、こうでしょうか?」

 と、シートベルトに付いている金具を掴んで、固定用バックルに差し込もうとしていた。

「そうそう、それで、金具を差し込んで」

 何回か失敗したものの、カチッと音がして、彼女もベルトの装着に成功した。

「あ、出来ましたわ、勇者様。サンダーも待たせてしまって、ごめんなさいね」

 巫女ちゃんは、少し申し訳無さそうにしていた。でも、しようがないよね。初めてなんだから。

「ちゃんとシートベルトをしたでござるか。では、出発するでござる。おおーっと、勇者殿、方角はどっちになるでござるか?」

 俺は謎マップの地図を開くと、前向きにひっくり返した。

「これで見えるっすか、サンダー。地図のマルを付けたところが今度の目的地っすよ」

 フロントパネルのどこかに車載カメラがあるのだろう。今ので理解してしまったのか、

「了解。分かったでござる。カーナビに入力したので、一気に行くでござるよぉ」

 と、サンダーが言った。すると、突然にエンジン音が高くなり、自動車が急発進した。勢いで背中がシートに押し付けられる。

「キャン」

 巫女ちゃんがびっくりして、悲鳴を上げた。

「さ、さっき聞かされましたが、す、凄い速さです。じ、自動車って云う乗り物は、……すごいんですねぇ」

 窓の外はというと、ものすごい勢いで景色が後方に流れている。それに目をやりながら、巫女ちゃんがそんな感想を口にした。

 この分なら、本当に今日中に次のポイントにたどり着けるかも知れないなぁー。



「……着いちゃったよ、本当に」

 俺たちは、その日の夕暮時に、次のポイントである遺跡の存在するであろう森の入口にいた。

 なんてスピードだ。やはり近代科学文明の傑作とも言える自動車って……スゴイ。そんな感動に浸っていた俺は、あることに気がついた。

「そうだ、サンダー。お前、自動車だったっすね。と言うか、自動車そのものなんすが……。それで、ガソリンとか燃料とかの補給は、まだしなくていいんすか?」

 そう、コイツのエネルギー源の問題があったんだよ。

「拙者は勇者ロボ。勇気の心が(みなぎ)る限り、エネルギー切れとは無縁でござる」

「そうなんだ、やっぱりすげぇな、お前」

「それほどでもないでござるよぉ」

 さすが、アマテラスの神が助っ人によこしてくれただけあって、何もかもが至れり尽くせりじゃないかぁ。サンダーさえいれば、もう『邪の者』に勝ったも同然じゃないかぁ。

 さぁーて、これからどうするべ。このまま、一夜を明かしてから祭壇に行く手もあるが、前はゾンビどもが襲って来たよなぁ。やっぱり寝込みは襲われたくないよなぁ。

 俺は、前回の苦い経験も含めて、これからの事を相談しようと思った。

「前回の祭壇浄化では、ゾンビとかがいっぱい襲って来たっす。ここは、先に『邪の者』を退治してからの方が、安心してゆっくり眠れるに違いないっす」

 俺の意見に、巫女ちゃんも同意した。

「そうですわね。まだ夕方ですし……。今のうちに『邪の者』を倒す方がいいと思います」

「なるほど、そうでござるな」

 俺は森の中への道を見ながら、

「サンダー、ここからは自動車じゃ無理っすね。ここで待機してるっすか?」

 と、訊いてみた。すると、

「心配ご無用。チェーンジ」

 と言って、サンダーは一瞬に人型のファイターモードに変形していた。

「ほらこの通り。歩いてなら、勇者殿と共に森に入れるでござる」

 おお、その手があったのか。サンダーの身長は六メートルくらいかな。それくらいなら、森の道も歩いて行けるだろう。何よりも、戦闘力の高いサンダーが一緒について来てくれるのだから心強い。

「じゃぁ、皆、森へ入るっす。巫女ちゃん、足元を気を付けてくださいっす」

「わかりました、勇者様」

 俺が先に立ち、次が巫女ちゃん。最後にサンダーが、木の枝をかき分けながらついてきた。

「巫女ちゃん、『邪の者』の気配は感じられるっすか?」

 俺は、続いて歩く巫女ちゃんに、森の中の気配を探ってもらった。

「はい。……かすかですが、真っ直ぐ前の方から気配がします。きっと、この道の先に違いありません」

「分かったっす」

 俺たち三人は、薄暗い森の中の道を、奥に向かって進んでいた。

 どのくらい進んだのだろうか? 前のように、真ん中が少し盛り上がった広場に出た。

「勇者様、この広場の中央から『邪』の気が強く漏れ出しています」

「やはりそうっすか。じゃ、行くっすよ」

 俺たちは周囲に気を配りながらも、広場へと足を踏み入れた。

 そのとたん、広場の地面のあちこちから、湿った土を押しのけて例のゾンビたちが現れた。多い、百人は下るまい。

 これを倒して中央の祭壇まで行かないと、俺たちの目的は達成できない。

「くっそう、またゾンビたちっすね。こいつらを何とかしないと、遺跡のところまで進めないっす」

 すると、後ろからついてきていたサンダーが、前に出て来た。

「ここは拙者にお任せあれ。サンダー・バルカン!」

 サンダーの左腕の飾りのようなパーツから銃身が伸びると、ガガガガガガと、銃弾が無数に発射された。

 ゾンビどもは、為す術もなく銃弾に手足や頭を撃ち抜かれ、またあるものは銃弾を腹に受けって吹っ飛んでいった。

「どうでござるか。こんな妖怪どもなど、サンダー・バルカンで一掃でござる」

 だが、サンダー自慢の機関銃攻撃も、生ける死者──ゾンビには通じなかった。手や足を失っても、頭を打ち砕かれても、執拗に立ち上がりノロノロと向かって来る。

「くそう。これがゾンビの恐ろしいところっす。手足や頭を砕いたくらいじゃ、全然致命傷にならないんすよ」

 相変わらず面倒くさいやつらだ。さて、どうしたものか。

 俺が迷っていると、

「むうぅぅ、ならばこれならどうだ。サンダー・フレイム」

 サンダーの右腕のパーツから銃身が顔をのぞかせると、今度は紅蓮の炎を噴出した。

 銃弾の雨も効かなかったゾンビだったが、火炎放射で体を炭にまで焼かれてはどうしようもないようだ。ゾンビ軍団は、あっという間に燃え尽きて灰になっていく。

「やったぞ、サンダー。すごいっす」

「さぁ、勇者殿。今でござる。邪鬼の退治を」

 サンダーに言われて、俺は祭壇の前に陣取っていた邪鬼へと真っ向から突っ込んだ。邪鬼は、ゾンビ軍団がこれほどにいとも容易く敗れるとは思ってもみなかったろう。明らかに動揺していて、スキだらけだった。その上、俺には高速のサンダルがある。

 機動力を活かして間髪を入れずに邪鬼の懐に飛び込むと、俺は勇者の木刀を振るった。

「いっけぇ、『一刀両断切り』!」

 邪鬼は、勇者の木刀に切り裂かれ、霞のようになって消えていった。同時に、未だ燃え尽きずにファイヤーダンスを踊っていたゾンビ達の残党どもも、一斉にその場に倒れて消し炭のようになっていった。

「やったっす」

「やりましたわ、勇者様。さ、今度もまた勇者の木刀で、アマテラス様の祭壇をお浄めになって下さいませ」

「分かったっす」

 俺は、勇者の木刀に念じて大上段に構えると、苔むした遺跡──アマテラスの祭壇の前で大きく振りおろした。

 すると、何か言葉にならないような悲鳴のようなものが聞こえ、辺りが清浄な空気で満ちた。

「ああ、祭壇が浄化されましたわ」

「うむ、さすがは勇者殿でござる」

 浄化された祭壇からは、暖かな薄光がもれ、広場を明るく照らした。

 今回もまた、突然頭の中にいつか聞いた声が響いた。


<我アマテラス、汝らを庇護するものなり。我が祭壇を清めた汝らの勲功に報い、汝らを祝福する>


 サンダーを含む俺たち三人を清浄な光が包んだ。

 俺は何だか身体の中から力が湧き上がっているような気がした。

 それで、また前回のように魔法の眼鏡で自分のレベルを確認してみた。


中級勇者 : Level 3


 やったぞ。またもやレベルアップ成功!

 そういや巫女ちゃんたちはどうなったんだろう?

 俺は、魔法の眼鏡で巫女ちゃんを見てみた。

「巫女ちゃん、凄いっす。魔法力がものすごく上がっているっすよ。それに新たにヒーリングが出来るようになっているっす。探査能力も上がってるみたいっす」

 そう言われて巫女ちゃんは、

「わたくしも、何か身体の奥深くから力が(みなぎ)るのが分かります。ところで勇者様、『ヒーリング』ってどんな能力なんですか?」

「あ、えと、『ヒーリング』って言うのは、他人や自分の病気や怪我を治療する能力っす」

「そうなのですか。では、今後勇者様がお怪我をなすっても、わたくしが治療してさしあげることができるのですね」

「その通りっす。まぁ、できるだけ怪我はしたくはないけれど」

 その時サンダーが口をはさんだ。

「勇者殿。拙者も何か新しい力に目覚めたようでござるが、……何かまではよく分からんのでござる。勇者殿の力で、分かるでござるか?」

 俺は、魔法の眼鏡でサンダーをよく見てみた。しかし、うすぼんやりとして、よくは分からなかった。

「う~ん、俺にもよく分からないっす。『ブレイブ・ローダー』がどうの……、までは見えるんすが。サンダー、済まんです」

「いえ。拙者にも新しい力が芽生えたのでござるな。それだけ分かれば充分でござる。勇者殿をお助けする力が増えたのでござるからな」

 サンダーの無表情な金属の顔からは、俺は何も読み取れることが出来なかった……。

「サンダー、済まないっす」

「何のことはないでござるよ」


 こうして俺たちは、また一つアマテラスの祭壇を浄化し、新たな力を授かったのだった。



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