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勇者初心者レベル2(6)

 俺と巫女ちゃんは、町はずれの水車小屋で一晩泊ることにした。


(巫女ちゃんにちゃんとしたベッドで寝てもらいたかったけど、今回はしょうがないか。また、狩りか何かでお金を稼がなけりゃな。まぁ、巫女ちゃんが言うには、俺はラッキーな勇者だから、何とかなるだろう)

 と、俺は相変わらずいい加減なことを考えていた。

「どうですか勇者様、この寝巻」

 水車小屋の隅っこで着替えた巫女ちゃんが立っていた。水色に白の水玉模様のパジャマを着ていた。

「うん、凄くかわいいっす。冷えないうちに、寝袋に入った方がいいっすよ」

「はい、分かりました」

「それじゃ、おやすみっす」

「おやすみなさい、勇者様」

 巫女ちゃんと俺は、それぞれの寝袋に潜り込んだ。

(あっ、今更だが替えのパンツ買うの忘れてた。これもしょうがないな。そもそも、俺のズボンもパジャマのだしな。でも、レベルアップの薬で防御力が向上しているからな。恥ずかしいが、このままいくしかないかぁ)

 などと、情けないことを考えているうちに、俺は眠りに入った。


 次の日の朝、俺たちは水車小屋の窓からさす朝日と鳥の声で目を覚ました。

「ふぅわ~あ。巫女ちゃん、よく眠れたっすかぁ」

 俺が声をかけると、巫女ちゃんも寝袋から這い出して、

「おはようございますぅ、勇者様」

 と応えた。寝起きのパジャマの半分はだけた胸元がセクシーだ。

 て、何をまた考えてるんだ。それより、これからのことだ。

「巫女ちゃん、俺はこっちで着替えるっすから、巫女ちゃんは向こうで着替えてください」

「分かりましたわ」

 俺は水車小屋の隅っこに行くと、革の鎧を着け始めた。ちょっと匂うかな? 着たきりだからな。汗臭くなるのは仕方がないかぁ。

 俺がノロノロと鎧をつけていると突然、

「勇者様、助けて下さい!」

 と、巫女ちゃんの声がした。

「どうしたんすか?」

 俺は彼女のの着替えている方へ行った。すると半裸の巫女ちゃんが、胸を押さえて半べそをかいている。俺は、真っ赤になって目を背けると、

「み、巫女ちゃん。ど、ど、どど、どうしたんすか?」

 と訊いた。吃ってしまうのは仕方がない。だって、童貞なんだから。

「このブラジャーという着物が、上手く着けられないのです。昨日、教えて貰ったのですが、背中に上手く手が回らなくって。ホックと言う物が引っかからないのです」

 うお、そんなの俺でもよく分からないよ。どーしろと言うのだ。

「勇者様……、申し訳ありませんが、背中のホックを引っかけていただけませんか?」

 ええっ、そんなの俺がしていいの。これも、俺がラッキーだから?

 俺はもう一度巫女ちゃんの方をちらっと見た。彼女は涙目でこちらを見つめていた。長い髪の毛が乱れて両手で胸を隠したその様子は、破壊的にセクシーだった。

「お願いです、勇者様」

 巫女ちゃんは、もう一度俺に懇願した。

「わ、分かったっす。ど、どど、どうすればいいっすか?」

 俺は吃りながらも、彼女の背中に近づいた。

「背中のバンドみたいなところに、引っかけるフックがあるのです。それをとめて下さいませんか」

 俺は意を決すると、彼女の背中に両手を伸ばした。白い肌が眩しい。

「こ、これっすね?」

 俺はブラの背中側のバンドを引っ張ると、なんとかしてフックをとめてみた。

「ど、どおっすか?」

「ちょっとぉ……、弛いみたいです」

 巫女ちゃんがそう言ったので、俺はもう一段きつく止めてみた。

「こ、これで、どおっすか?」

 すると巫女ちゃんは、

「あっ、丁度いいみたいです。勇者様、ありがとうございました」

 と返事をすると、少し恥ずかしそうに首をこちらに向けた。

「じゃ、じゃぁ、また何か不都合があったら呼んでくださいっす」

 俺は、恥ずかしさでいたたまれなくなって、そそくさと後ろを向いた。そして、自分の荷物のあるところに急いで戻って行った。

(うう、毎日これじゃ、拷問っす。間違いを起こしてしまいそうっす)

 俺は、この先を考えると頭が痛くなった。


 そうやってダラダラと時間を使って着替えを済ました俺は、適当に寝袋なんかをリュックに仕舞うと、水車小屋の外に出た。太陽が眩しく世界を照らしていて、とても清々しかった。

(そうか、だから、守護神の名前がアマテラスなんだな)

 空を眺めていた俺は、変なところでこの異世界に納得していた。


 そうするうちに、水車小屋の中から鈴を鳴らすような声が聞こえた。

「お待たせしました、勇者様。着替え終わったので、入っていいですよ」

 俺は、ほっと一息ついて、水車小屋の中に入った。

 巫女ちゃんの今日の出で立ちは、Tシャツにショートパンツ・黒いタイツだった。細い足と、ギリギリまで出ている太ももが魅力的だ。

「じゃあ、朝御飯にしようっすか」

「はい」

 俺の提案に、元気な応えが返ってくる。

 さて、今日の朝食はというと、昨日パン屋で買った菓子パンや惣菜パンだった。

「このコロッケパンと言うものが美味しいですわね」

 パン屋で試食して、巫女ちゃんが気に入ったものだ。

 俺は、定番のあんパンを頬張っていた。

「あっと、巫女ちゃん、これを飲んでみるっす」

 俺は、傍らにおいてあったコーンポタージュの缶を巫女ちゃんに渡した。水車小屋の側に立っていた自動販売機でさっき買ったものだ。まぁ、水車小屋に自動販売機というのも奇妙な組合せだが、それも異世界だからだろう。気にしてはいけない。

「わぁ、暖かい。……でも、どうやって開けるのでしょう」

 ポタージュの缶を手に取った巫女ちゃんは、初めて見る缶飲料を持て余していた。それで俺は、自分の分の缶でプルトップを引き上げて、開け方を示して見せた。

「こうやって、丸くなっている部分を摘まんで引き起こすと開けられるんすよ」

「こうですか?」

 巫女ちゃんはみようみまねで、ポタージュの缶を開けることに成功した。

「わぁ、勇者様、見て下さい。開けられましたよ。……うーん、いい香りですぅ」

「まだ、熱いから気を付けてね」

 しばらくコーンの香りを楽しんでいた巫女ちゃんは、缶を口元に運んだ。そしてポタージュを一口飲むと感想を言った。

「暖かくて美味しいですぅ。勇者様の世界には美味しいものが一杯ありますね」

「そうっすかぁ。喜んでもらって、俺も嬉しいっす」

 そう応えた俺は、少し照れて赤くなった。


 そんなこんなで軽い朝食を終えた俺たちは、これからどうするかを相談することにした。

「この『異世界の謎マップ』によると、遺跡──つまりアマテラスの祭壇の確認されている森や丘が、ほぼ等間隔で都や町に寄り添うように同心円状に存在しているみたいっすね」

 俺は地図を広げると、巫女ちゃんに見せた。

「特に都には、最大の祭壇状遺跡が確認されているそうっす。何でも、この異世界では『テスラコイル』というものを応用して、大地から電力を取り出すことが出来るそうっす。でも、どこでも出来る訳ではなくって、『電気がとれるところを探して町を作っていったら偶然か必然か遺跡の近くになった』ってことらしいっすよ」

 俺は、本の知識の受け売りで、地図を巫女ちゃんに説明していた。まぁ、本来なら異世界人の彼女がガイド役のはずなんだが……。どうも、この『異世界』ってのは、俺がマンガやラノベで見知ったようなファンタジーな世界とは違っているようだ。まぁ、今更それを気にしてもしようがない。

「えーっと……、それでは、それぞれの町を旅して回れば、アマテラス様の祭壇を見つけることが出来るというわけですね」

 俺の説明を理解した巫女ちゃんは、もっともな推論を言葉にした。

「まぁ、その確率は高いっすね」

「ということは、次の目的地は……、この町の遺跡ですね」

 そう言った巫女ちゃんは、指でマップの一角を指し示した。

「地図で見ると近そうに見えるっすが、徒歩で行くとなると三日くらいはかかると思うっす。巫女ちゃんは大丈夫すか?」

「はい、わたくしは『異世界人』ですから」

 と、元気な応えが返ってきた。

「じゃあ、次の町に出発しましょう」

「はい、勇者様」


 こうして、俺と巫女ちゃんの奇妙な旅が始まったのである。


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