勇者初心者レベル2(5)
俺たちは、服屋で替えの服とか下着とかを買い揃えようとしていた。
「お客様、このような感じでどうでしょうか?」
店員に言われて顔を上げると、目の前に薄緑色の花柄のワンピースを着た巫女ちゃんが立っていた。
「勇者様、どうでしょうか? わたくし、変じゃないでしょうか?」
巫女ちゃんは初めて着る洋服に戸惑っているようだったが、それを見て感想を聞かれた俺は、彼女に見とれて、ぼ~っとしてしまっていた。巫女ちゃんが、俺の想像以上にかわいかったからだ。
「やっぱり、わたくしには勇者様の世界の服は似合わなかったのでしょうか」
俺がいつまでも黙っていたせいか、巫女ちゃんは似合ってないと思い込んでしまったようだ。
「そ、そんなことないっす。すっごく似合ってるっす。あんまり似合っててかわいかったんで、俺、声も出なかったっす」
隣にいる店員は、少し笑いを抑えているようだったが、自分の見立てに満足してもらえたせいか、少し誇らしげに見えた。
「お客様たちは、これから町の外に行くのでしょうか?」
店員は、俺たちにそう訊いた。
「はい。もう少し買い物をしたら、宿で一泊して。それから、明日の朝、出発しようと思ってるっす」
俺がそう言うと、店員は、
「でしたら、もう一着の方は動きやすい服の方がよろしいですね」
「あ、そうですね。……はい、動きやすい服でお願いします」
俺がそう応えると、店員は巫女ちゃんを連れて売り場へ戻って行った。
しばらくして戻ってきた巫女ちゃんは、白いブラウスにデニムのショートパンツ、黒のストッキング、足元はスニーカーという出で立ちであった。
「勇者様、どうでしょうか? ブラウスの代わりに、このTシャツという物を着てもいいそうです」
巫女ちゃんはそう言って、手に持っていたTシャツを合わせて見せてくれた。
「うん、凄く似合ってるっす。とってもかわいいっす」
「ありがとうございます、勇者様」
横に並んでいた店員は、
「先ほどのワンピースと下着のセットが三種類、それとこのお召し物を合わせて、二万九千八百五十円になりますが、いかがでしょうか?」
「えっ! そんなに安くていいんですか?」
「大丈夫ですよ。あと、生地はそれなりに丈夫な物を選んでおりますので、きちんとお手入れさえすれば長持ちすると思います」
「ありがとっす。巫女ちゃんも、その服でいいっすか?」
「はい、勇者様」
「じゃ、これで決めたっす。お会計は……」
「はい、こちらでお願いします。それから、これを」
そう言って、店員さんは、俺にメモのようなものを渡してくれた。
「お嬢様のサイズです。お洋服を選ばれるときの、ご参考になさってください」
「え⁉ あ、ありがとっす」
俺はメモを受け取ると、一瞬、見ていいものか迷ってしまった。これに巫女ちゃんのスリーサイズとか書いてあるんだろうな。そんなのを俺なんかが見ていいものか? もしかしたら、これもラッキーのせいなの?
「勇者様、どうかなされたのですか?」
巫女ちゃんに訊かれて、俺は何だか悪いことをしているような気になってしまった。それで、そそくさとメモをしまうと、すぐに会計をしてもらうことにした。
「巫女ちゃんはちょっと待ってて欲しいっす。今、お金を払って来るんで」
「はい、分かりました」
「それじゃ、お会計お願いします」
俺はレジで会計をすますと、巫女ちゃんと服屋を出た。
残念なことに、彼女はいつもの巫女装束に着替えていた。左手の紙袋には、店で買い揃えた洋服一式が入っている。
俺は、チラリと紙袋を見ると、さっきの下着姿の巫女ちゃんを思い出してしまって、恥ずかしくなった。
(いかんいかん。勇者たる者、邪念は禁物)
そう心に誓って、俺たちは大通りをホームセンターに向かった。
ホームセンターに着くと、俺たちはキャンプ用品のコーナーを見て回った。
(まずは巫女ちゃんの分の寝袋だな。テントも欲しいけど、服屋での出費があったからなぁ。また今度だ。あとは、サバイバルナイフかな。料理にも使えるし、いざという時は巫女ちゃんの護身用にもなるし。それから、カセットコンロと鍋や食器類か。あっと、救急セットや懐中電灯もいるなぁ。残りのお金で買えるかなぁ)
俺は手持ちのお金が少なくなっていることを気にしながらも、必要なツールや用品をカートに入れていった。
「勇者様、どうなされたのですか? 難しい顔をして」
巫女ちゃんに言われて、俺は応えた。
「この、サバイバルキットを買っておくと凄く役に立つんすが、そうすると手持ちのお金が無くなって、宿に泊れなくなるんす。それで、どうしようかって悩んでたんす」
「宿というところに泊れないと、どんな不都合がありますか?」
「今夜は野宿することになるんす」
「わたくしは野宿など平気ですわ。昨夜だって、森で野宿だったではありませんか」
俺は巫女ちゃんのために宿に泊まった方がいいかなって思っていた。なので、彼女が平気なら野宿でもいいかぁ、と思い始めた。
「そうっすかぁ。じゃぁ、今夜は野宿ということにしましょう。それで、また狩りをしてお金を稼いだら、宿に泊まりましょう」
「はい。勇者様のお好きになさってください」
こう言われて俺は踏ん切りがついた。あれも、これも、買っちゃえ。俺は持ち金、ぎりぎりまでサバイバルグッズや非常食をカートに放り込んでいった。
そのため、会計をすました後には、五千円くらいしか手元に残らなかった。
「巫女ちゃん、手元のお金は五千円ちょっとになってしまったっす。今日も野宿になるっすが、いいですか?」
「はい、わたくしは大丈夫です」
「じゃぁ、せめて夕食は豪華なところにしましょう。美味しいものを食べて、明日に臨むっす」
「はい!」
そうして、俺と巫女ちゃんは、少し早い夕食を摂ったのだった。と言っても、ハンバーグ屋さんの「ドッキリポニー」だったけどね。




