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勇者初心者レベル2(4)

 俺と巫女ちゃんはファミレスで、少し遅い昼食をしていた。


 さぁーて、これから物資を買い込みに行くのだが、いったい何があればいいだろうか?


(あ、あれを買ってたんだっけ)


 俺は、情報屋から奨められて、ガイドブックを本屋で買っていたことを思い出した。床に置いてあったリュックをゴソゴソとまさぐると、まず『異世界の歩き方』を取り出した。

 本をパラパラめくりながら、俺は巫女ちゃんに尋ねた。


「巫女ちゃん、これから俺たちはこの町を出て、巫女ちゃんの言うところの『邪の者』を倒すためと、この世界の『アマテラス・ネットワーク』を回復するために、『アマテラスの祭壇』を浄化していけば良いわけっすよね」

 すると、巫女ちゃんは同意して、こう応えた。

「はい、そうです。前にも言いましたが、そのためにアマテラス様は他の世界から勇者を呼び込んできたのです」

「しかし、これまでどの勇者も成功しなかった。で、俺が呼ばれた。ってことっすよね。でも、俺みたいに普通の高校生が呼ばれたって、そんな壮大なことが出来るなんて到底思えないんすけど」

 これは、俺の正直な感想だった。元の世界でだって、俺は決して『いけてる男』じゃなかった。運動部で活躍していたわけでもないし、特別に成績が良いわけでもない。せめて剣道くらいやってれば、役に立ったものを。

「勇者様、わたくしは思うのです。アマテラス様は、決して無作為に外界から勇者を呼んでいたわけではないはずです。わたくしの知っているこの世界とは全く違った、このような『町』や『都』を作りあげてしまうほどの、何らかの『能力』や『力』を持った人を選りすぐって、選んで、召喚していると思うのです」

「でも、俺には、巫女ちゃんが言っているような、特別な何かなんて持ってるような気がしないんすけど」

 俺がこう言うと、巫女ちゃんは少し考えてから、こう言った。

「もしかしたら……、アマテラス様は考え方を変えたのかも知れません。特別な技術や能力を持っていたり、格闘技に長けた者ではなくて、何て言ったらいいか……。そう、『運が良い』人。ラッキーな人を呼び込んだのではないでしょうか」

「へ? ラッキーな人? 俺が運の良い人だって事っすか」

 俺は、「う~ん」と考え込んでしまった。俺って運が良い人なの?

 確かに巫女ちゃんみたいな美人とお近づきになれたのは、ラッキーには違いない。それに、最初のアマテラスの祭壇で『セイバータイガー』に襲われた時に、ぎりぎりでやっつけられたのも、確かに強運と言えるだろう。もし、あの時に『レベルアップの薬』が『勇者の棍棒』にかかっていなければ、最初に襲われた時には退けられても、次は無かったに違いない。

 『運が良い』。これをキーワードにすると、結構、これまで俺が生き延びてきたことの証明になるのかもしれない。

 もう一つ証拠がある。俺が今読んでる『異世界の歩き方』にも『異世界の謎マップ』にも、アマテラスやその祭壇に関する言及はなかった。『邪の者』についての情報もない。俺だけがそれを知らされ、俺が初めて祭壇を浄化できたのだろう。


「だから、わたくしは、勇者様がそんなにご自分を卑下する事はないのだと思います」


 巫女ちゃんにそう言われて、半分嘘くさいと思いながらも『俺がラッキーな勇者』説を受け入れることにした。まあ、何とかならなかったらジョブチェンジしちまえばいいことだし。そうなっても、次の勇者が呼び込まれて、この世界を救おうとしてくれるだろう。安直と言えば安直だし、無責任と言われてもしょうが無いけど。そんな風に考えた方が、気が楽だ。


「わかったっす。俺、勇者として頑張ってみるっす。まぁ、まだLevel 2っすが」

「さすが、わたくしが見込んだ勇者様です。勇者様ならきっとできます」


 巫女ちゃんにも言われて、俺はちょっぴりやる気が出てきた。


「さて、取り敢えずお腹もいっぱいになったし、そろそろ買い物に行きましょうか」

 俺は巫女ちゃんにそう言った。彼女は、

「はい。美味しくいただきました。では、参りましょう」

 と言って、俺と一緒に席を立った。

 俺は会計を済ますと、巫女ちゃんと店を出た。


(そう言えば、巫女ちゃんは全然荷物を持ってないなぁ。サバイバルグッズもいるけれども、着替えとか必要だよな。俺も替えのパンツくらい持ってないとな。先に服屋にでもよるかぁ)


「巫女ちゃん。野外生活用のグッズを買う前に、着替えの服とかを買っとこうと思うんすが。いいっすかね?」

「着替えですか? わたくしには、この服があれば過ごせると思っていたのですが……。やっぱり替えは要るでしょうか?」

「そ、そりゃ要るでしょう。戦闘とかで服が破けたり、普通に生活していても汚れたりするっすよね。それに、服の他にも、し、下着とか……」

 俺はちょっと恥ずかしくなって、声が尻すぼりになってしまった。

「下着って何ですか?」

 だが、巫女ちゃんの、この返事に俺は一瞬「えっ」となった。

「し、下着って言ったら……、えーと、ぱ、パンツとか、ぶ、ぶぶ、ぶ、ブラジャーとか。お、女の子だと必要じゃ、な、な、な、ないっすか」

 俺は口に出して言うのも恥ずかしくて、どもってしまった。

「パンツって、何でしょう?」

「え?」

「下着って言うくらいですから、きっとこの服の下に着るものですよね。寒い地方に行った時には、必要かも知れませんね」

「え、え~と……。い、いや、そういうことではなくってですね。普段から服の下に着ているモノとかあるでしょう、ほら」

「いえ。わたくしは、そんなモノは着ていませんが。着ていた方がいいのでしょうかぁ?」

 彼女の言葉に、俺は何て言ったらいいか、少し混乱していた。


(異世界ってパンツ履いてなくてもいいのか? いや、やっぱり女の子だとヤバいっしょ、それじゃ。……でも、てことは巫女ちゃんて今ノーパン? あ、だめだ。想像しちまう。や、止めろ止めろ、俺の頭)


「勇者様、どうしたのですかぁ」

「ひ、ひゃー」

 頭の中がグルグルになっているところに突然話しかけられたものだから、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。


(ど、どうしよう。女の子の服とか、し、下着とか、俺には全然わかんないぞ。てか、すぐ隣に、ノーブラ・ノーパンのカワイイ娘が立ってんだぞ。これって、凄くないか? やっぱり俺ってラッキーなの?)


 思考が段々変な方向に進んでいる。俺がまだ異世界に慣れてないからか? それとも、異世界って言うだけあって、この世界の方が変なのか?


「と、とにかく、ふ、服屋さんに行くっす。着替えは絶対要るっす!」

「ああ、ちょっと待ってください、勇者様ぁ」

 俺は巫女ちゃんの手を取ると、無理やり服屋向かった。


 そして、俺は服屋に着くなり、女性の店員さんを見つけると、そこへ巫女ちゃんを引っ張って行った。

「すんません。この娘に合う服を二着くらい選んでもらいたいっす。そ、それから……、し、し、し、下着とかも合わせて下さいっす」

 俺は真っ赤になりながら、必死でしゃべっていた。自分でも半分何を言ってるのか分かっていなかったが、とにかくここは専門家に任せるしかない。

「お客様、承知しました」

「あっと、それから、俺っちあんまりお金持ってないっすから。えーと、出来れば三万円くらいにおさまると、嬉しいっす」

「はい、承知しました。では、お嬢様、こちらにお越し下さい。お客様、他にご要望はございますか?」

 物腰の柔らかな質問に、俺は少し頭をひねると、こう応えた。

「え、え、えと、寝巻みたいなのもあると嬉しいっす」

「承知いたしました。では、お客様はこちらでしばらくお待ちください」


 ふう、汗かいた。取りあえず、店員さんに任せないと。俺じゃ全然わかんないもんな。


(あ、自動販売機だ。取りあえずコーラでも飲んで落ち着こう)


 俺は、自動販売機でコーラを買うと、それを飲んでしばらく休憩していた。


「お客様、お待ちください!」

 とその時、突然の声がした。それから、

「勇者様! 見てください。これなんてどうでしょう」

 と、巫女ちゃんの声が聞こえたので、俺は思わず振り向いた。

 そこにいたのは、下着姿の巫女ちゃんだった。

「う、うわっ。み、巫女ちゃん。下着は人に見せるもんじゃないっす。俺、恥ずかしいっす」

 突然のことに、俺は慌ててそっぽを向くと、巫女ちゃんを制した。

「そうですかぁ? せっかくカワイイものを選んでもらったので、勇者様にも見てもらいたかったのですがぁ……」

「その上に、服を着たところを見たいっす。下着だけのは、俺には刺激が強すぎるっす」

 巫女ちゃんは店員さんにも諭されて、渋々試着室の方へ戻って行った。


(み、巫女ちゃんが生粋の異世界人だってのは分かってるけど、もし、毎日こんなことがあると、俺、身が持たないよ。我慢できなくなって襲ってしまうかもしれないっす。これじゃあ、勇者失格っす)


 ううう、俺はラッキーなのかアンラッキーなのかよく分からなくなってきた。

 こんなんで、女の子との異世界二人旅なんて出来るんだろうか。果てしなく不安だ……。

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