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契約で結ばれた、異世界道中  作者: 中野 翼
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7.スケイル

「やっぱり脆いなぁ~」

セイヤはまた、あっさりとオリハルコンゴーレムの拳が切り裂けたことに、こう思わずにはいられなかった。なんせ、なんの抵抗感もなくスッパリ切断出来ているのだ。精霊竜が硬いと保証していても、セイヤはオリハルコンゴーレムが硬いということをまったく実感出来ずにいる。


『脆くない、脆くない。【星竜の鎧】が硬すぎるんだよ』

セイヤのその言葉を、精霊竜は小さな前足を横に振りながら否定した。


「そうなのかな?」

『そうそう。だって、【星竜の鎧】の元になった星竜は、ブラックホールの無限圧力や惑星の超新星爆発の中でも無傷でいられるんだよ。たかがオリハルコン程度と硬さを比べること自体が間違いだよ』

「ブラックホールやスーパーノウ゛ァにも耐えられるんだ、この鎧…」

精霊竜がだした具体例に、セイヤは【星竜の鎧】のスペックの高さを思い知った。はっきり言って、その二つを耐えられる生物に傷がつく光景を、セイヤは想像出来なかった。


「だったらこの結果は、ただただ当たり前の結果ってことか」

『そうだよ!』


そういうことなのだと納得したセイヤは、淡々とオリハルコンゴーレムをバラバラにしていった。攻撃を仕掛ければ簡単に切断出来るのだ。それはもう戦闘などではなく、ただの作業である。

当然というか、オリハルコンゴーレムの方はセイヤ達を排除しようと頑張っている。しかし、自身の拳は障壁に何度となく遮られ、セイヤ達は今だに無傷。対してオリハルコンゴーレムの方は、時間が経過するごとにバラバラにされていた。セイヤがここから作業のペースアップをはかった場合、後10分も戦えないだろうというのが、オリハルコンゴーレムを除いたその場にいた全員の共通の見解である。

そしてそのことから、この状況を見守っている【王】達は、少し前からセイヤのことをただの人間の幼体とは認識しなくなっていた。

オリハルコンゴーレムを無傷でバラバラに出来る人間の幼体。

下手をすれば自分達よりも強いかもしれない相手。

結果として【王】達は、セイヤのこと庇護すべき幼子ではなく、自分達と対等な相手と認識しだしていた。


「うん?」

セイヤが切断作業を進めていると、オリハルコンゴーレムに新たな動きがあった。セイヤがバラバラにした結果、地面に落下していた部分がそれぞれ寄り集まりだしたのだ。それらはやがてそれぞれの場所で一つに纏まり、人間大サイズのオリハルコンゴーレム達となっていった。どうやらオリハルコンゴーレムは巨大でも不利だと判断したらしく、数で攻める戦い方にシフトしたようだ。


「うわー!結構殖えたなぁ」

『たしかにゾロゾロ殖えてるね』

『・・・』

バラバラにする度に殖えていくオリハルコンゴーレム達に、セイヤはなぜか歓心していた。


「けどこうなると、そろそろ僕も戦い方を変えないとね」

『そうだね。いくら切断しても、端から変形されて活動を再開されていっちゃうと、全然意味が無いしね』

「だね。切ってダメなら、潰しちゃおう!」

『そうだね、潰しちゃおう!』

『・・・!』

セイヤが次の攻撃方法を提案すると、精霊竜とアンノーンもセイヤと一緒に攻撃を始めた。


「スケイル」

まず最初にセイヤがそう呟くと、亜空間から白銀に輝く無数の鱗がセイヤの周囲に出現した。それは、セイヤが先程から斬撃や障壁に使用しているものとまったく同じものだった。


「行け!」

そしてそれらは、セイヤのその言葉を合図にオリハルコンゴーレム達に殺到した。無数の鱗達は複雑な機動でオリハルコンゴーレム達を翻弄しつつ、隙を突いてはオリハルコンゴーレム達の体表に自身を突き刺していく。

オリハルコンゴーレム達は当然そんな鱗達を防ごうとするが、その鱗達は先程から自分達をバラバラにしていたものと同じもの。当然の結果として、オリハルコンゴーレムが防御した箇所は簡単に切断されていった。そうなると、オリハルコンゴーレム達には鱗を回避するしか対処方法が無い。だが、それも所詮は不可能ごとだった。元々オリハルコンゴーレム達は防御力が自慢のパワーファイター。いくら運動性が普通のゴーレム達よりはマシだとはいえ、回避能力も、それを維持し続ける能力もそう高いわけではない。というか、プログラムどおりにしか行動出来ないオリハルコンゴーレム達に、そんな柔軟かつ的確な対処が出来るわけがなかった。それに、例えオリハルコンゴーレム達が回避特化型だったとしても、結局全ての鱗をかわすことは無理だっただろう。セイヤのスケイルを用いた攻撃方法は複数ある。スケイル単体を縦横無尽に飛翔させる点の攻撃。スケイルを複数連ね、連結刃として使う線の攻撃。スケイルを縦横に並べて壁状にして使う面の攻撃。前後左右、360度の何処からでもこれらの攻撃を仕掛けられる。結界かバリアでも張れなければ、理論的に防ぐのは不可能だ。いや、それでも防ぐのは不可能かもしれない。なぜなら、セイヤにはスケイルによる第四の攻撃があるからだ。


「歪め、捩り、押し潰せ!」


スケイル達がオリハルコンゴーレム達に一定数刺さったことを確認したセイヤは、スケイルに新たな命令を出した。

セイヤの命令を受けたスケイル達は、各々今いる場所で回転を開始した。スケイル達の回転速度はだんだん加速していき、それにあわせてスケイル達の周囲の空間が歪んでいく。時間経過でその歪みは激しさを増していき、やがて周囲の光りを捩曲げる域にまで到達した。そうなるとスケイル達の姿は目視がきかなくなり、光りが届かない球状の空間だけが認識出来るようになった。

ただ、それは空中にあるスケイル達の話し。オリハルコンゴーレム達に刺さっているスケイル達の方は、さらに周囲に変化を引き起こしていた。

オリハルコンゴーレム達の身体が、スケイルの発生させている黒い空間にそって引き寄せられ、その内部に入った部分が片っ端から押し潰されていっているのだ。これがスケイルの第四の攻撃方法。高密度圧縮重力による、球の攻撃だ。

この攻撃の範囲に僅かにでも入ったものは、スケイルから発生している強い引力によって内部に引き寄せられる。そして、スケイルを中心に発生している空間を歪める程の重力。通常の何十倍もの重力によって、一気に圧縮される。これにより、大半のものがぺしゃんこになるのだ。また、スケイルの発生させられる重力の最大値は、通常の何十倍程度までではない。それこそ、惑星の核が重力崩壊を起こして発生するブラックホールに匹敵する程の重力を発生させることも可能なのだ。だからそのまんま、マイクロブラックホールを生み出せると言ってしまっても良いかもしれない。

余談ではあるが、マイクロブラックホールの域にまで重力を高めると、スケイルを攻撃以外のことにも使えるようになる。例えば、セイヤがこの場所に来る時に使った白い穴。あれは、マイクロブラックホールの対になるマイクロホワイトホールがその正体なのだ。マイクロブラックホール並になった重力は、周囲の空間を歪曲させて空間の連結性をたわめることが可能になる。後はそのたわめた先の空間に穴を開けてやれば、時空トンネルが開通するのだ。これらをSF的にまとめて名称にすると、ワームホールとなる。このワームホールを利用することにより、セイヤは長距離を一瞬のうちに移動出来る。また、あらゆる角度、場所からスケイルを送り込むことが可能になる。最初にオリハルコンゴーレム達の四肢をバラバラにしたのは、これを用いた攻撃だったのだ。

ただし、これは扱い方に気をつけないといけない能力でもある。なんせ、基本はあくまでもマイクロブラックホール。セイヤと契約をしている相手はともかく、それ以外のものは敵味方の区別なく、また重要度なんかもお構いなしに、吸い込んだらおしまいになる。一切合切まとめてぺしゃんこのスクラップ。さらに行くところ行ってしまえば、SFにある縮退炉よろしく、物質から純粋なエネルギーに変換されることになる。

はっきり言って、攻撃力は過剰である。

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