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両親

「と、父……さん……? 母……さん……?」


 俺は、目の前にいる二人の人物を見て、絞り出すようにそう口にした。

 呆然と立ち尽くす俺を見て、穏やかな笑みを浮かべる父さん――――柊誠ひいらぎまことと、泣き笑いをしている母さん――――柊一美ひいらぎかずみ


「……どう……して……」

「父さんたちにも分からないんだが、気付けばここにいてな」

「そしたら、近くにいたそこのゼアノスさんたちと出会って、それで……」


 母さんたちが理由を説明してくれるが、俺の頭のなかは真っ白で、何も入ってこない。

 二人とも、事故で亡くなり、もう二度と会えないと思っていた。

 なのに……。


「ほ、本当に……父さんと母さん……なのか……?」

「ああ」

「そうよ……一人にしてごめんなさい……辛かったわよね? 苦しかったわよね?」


 母さんは俺を抱きしめ、父さんは俺の頭を撫でてくれた。

 確かに、俺を抱きしめてくれる感触がある。撫でてくれる感覚がある。

 それを実感した瞬間、俺の目からは涙があふれていた。


「と、父さん……母さん……あ……ああ……うああああああああああああああああっ!」


 地球での日々を、二人が死んでから翔太たちに頼ることもしないで、勝手に自分で抱え込んで、何度も心が折れそうになった。

 何で死んでしまったのか。

 一人にしてほしくなかった。

 死んでしまったことへの悲しみと、どうして俺を置いて行ったのかという怒り。そして一人取り残されたという恐怖。

 そんな感情と、こうして会えたことの喜び。

 様々な感情が混ざり合って、何か言葉にしようと口を開いても、ただただ嗚咽しか出てこない。

 それでも――――こうしてもう一度触れられたことが、何よりも嬉しかった。

 小さい子どもの様に泣きじゃくる俺を、母さんは優しく背中を叩き、父さんも頭を撫で続けてくれる。

 みっともない姿なのに、ゼアノスたちは誰も笑うことなく、慈愛に満ちた笑みを浮かべて、俺たちの様子を見守ってくれるのだった。


◆◇◆


「うっ……ぐす……ご、ゴメン……急に泣き出して……」


 どれくらい時間が経ったのか分からないが、ひたすら泣き続けていた俺は、ようやく落ち着く事が出来た。

 少し冷静になったことで、俺はふとあることに気付く。

 それは、俺の容姿が大きく変わっているはずなのに、二人とも俺が誠一だということをしっかり認識していたことだった。

 フードは、悪霊との戦闘で脱げていたため、顔が見えるといってもかなり変わっていると思うんだが……。

 思ったことを口にすると、二人とも逆に首を捻った。


「? 何を言ってるんだ? どこの父親が自分の息子を見間違えるというんだ」

「そうよ? 一目見ただけで息子だってことが分かるに決まってるじゃない。ねぇ?」

「そうだぞ。少し見ないうちに大きくなって……それに、男前になったな」


 二人とも顔を見合わせて笑いあう。

 そんな二人を見て、俺は呆気にとられながらも、本当に敵わないなと強く感じた。


「それに、なんだか二人とも若返ってる……?」


 そう、なぜか二人の容姿は、俺が最後に見た姿より、若返っており、年齢的には30代くらいだろう。

 父さんも母さんも、黒髪黒目のいたって平凡な容姿で、本当にどうしてこの二人からブサイクな俺が生まれてきたんだろうか……。


「そうなのよ! すごいわよねぇ? 誠さん。この世界に来るだけで簡単に若返っちゃうんだから!」

「そうだな……待てよ? これ、商品にできないか? 『行くだけで若返る魅惑のスポット!』……イケるな」

「イケないよ!?」


 イケるわけないでしょ!? 知ってるかどうか分からないけどここ冥界だよ!? 死んじゃうって!

 こんなやり取りを見るのもするのも久しぶりで、昔は疲れることもあったけど、今はとんでもなく嬉しい。

 ため息をついた後、また一つ気付いたことがあり、それを口にした。


「でも……本当にどうして二人がここに? だってここ、異世界の冥界なのに……」


 そう、二人が死んだのは地球での話なのに、何故異世界の冥界に二人がいるんだろうか?

 すると、今度は両親じゃなく、今まで黙って見てくれていたルシウスさんが教えてくれた。


「世界ごとに冥界って言うモノは存在して、本来混ざり合うことはないんだ。でも、君という神にすら匹敵……いや、それ以上の存在がこうして冥界にやって来たことで、君と強い繋がりのあった二人が、冥界の枠を超えて引き寄せられたのさ。まあ、元々違う世界の冥界から引き寄せられたせいか、僕たちと違って君の現状は把握できてないみたいだったから、教えておいたけどね」


 スケールデカすぎかよ。

 てか、サラッと流しかけたけど、ルシウスさんが俺のこと神以上って言ったよね!? 本当に俺の体は俺の意思とは関係なく迷走してますね!


「あらあら、誠一はすごいわねぇ」

「そうだな。男ならビッグにならないとな」


 よく意味も分かってないだろうに、二人はうんうんと頷いている。

 ……いや、でも、今はそんな俺の体に感謝しなきゃな。

 俺の体がそれだけぶっ飛んだ存在であったからこそ、こうしてトンデモ現象を引き起こせたわけだからな。


「……この世界に来たときは驚いたけど、納得もしたわ。私たちはずっと貴方を見守ってきたのに、ある日学校の生徒全員が消えちゃったんだもの。ずっとどこに行ったのか分からないで、不安だったけど、こうして別の世界にいたことが分かったから……」

「そうだな……父さんたちはお前が辛い目に遭ってたのも知っている。よく我慢したな。見えているのに、それを助けられない悔しさ……お前を虐めてきたヤツらを殺してやりたいと思ったよ」


 父さんは悔しそうに、そして怒りを堪えながらそう口にした。

 俺が不甲斐ないばかりに、死んだ後も父さんたちを心配させてきたという事実が、虐められてきたことよりも俺は辛かった。

 それと同時に、死んでもなお、俺のことを見守っていてくれたことが、とても嬉しくてまた涙が溢れそうになった。


「大丈夫だよ。父さんたちが教えてくれた通り、前向きに考えるようにしてきたからさ」


 できる限り安心させるように、俺は精いっぱいの笑みを浮かべた。

 そして、俺たちの話が終わるのを待っててくれたゼアノスが口を開く。


「さて……そろそろ本題に入らせてもらってもいいだろうか?」

「あ、大丈夫だ。ありがとう」

「気にするな。ご両親を大切にな。……さて、誠一殿。貴殿は悪霊……否、悪霊の王を倒さなければならない。無論、それには我々も力を貸そう。だが、誠一殿は今のままでは悪霊と戦う事が出来ない」

「それは……」


 確かに、俺の攻撃はことごとく悪霊に反射されてしまったのだが、ゼアノスたちはダメージを与える事が出来ているのだ。


「そこで、俺たちが協力して倒すだけでなく、誠一に悪霊との戦い方を教えるってわけさ」


 ゼアノスの言葉を引き継いだアベルが、爽やかな笑みを浮かべてそう言った。


「戦って分かったと思うが、普通の攻撃じゃ悪霊には通用しない。そこで、重要になって来るのが……『生命力』だ」

「『生命力』……?」


 生命力って……あの黒光りする人類最大の敵、【G】がそれを有する代表格みたいなもんだよね。恐ろしい。


「そう、『生命力』だ。悪霊は、その名の通り霊……つまり、死んだ存在なわけだが、そこに生きている証でもある『生命力』を流し込むことで、悪霊は存在を維持できなくなるのさ」

「でも、アベルたちも死んでるよね?」

「おう! 俺たちも死んでるが、誠一のおかげで冥界のなかでは生者と変わらない扱いでよ。それに、俺たち勇者クラスの『生命力』なら、たとえ瀕死であろうが、悪霊程度なら簡単に消し飛ばせるぜ! ガハハハハッ!」

「いや、さすがに瀕死は無理でしょ。これだからバカは……」


 戦士のガルスの言葉に、狩人のアンナは呆れた様子でそうツッコんだ。


「あはははは……まあとにかく、私たちは誠一さんのおかげで生きているときと変わらず活動ができるので、『生命力』を持った状態で悪霊たちと戦う事が出来たんですよ。大丈夫、誠一さんならすぐに扱えるようになりますよ!」


 賢者のリリアンナは、俺を励ますようにそう言った。


「そうだな。実際、やることはそこまで難しくない」

「そうなのか?」


 ゼアノスも安心させるようにそう言う。


「何、すぐにできるようになる。それを教えるのも我々の役目だからな」

「なるほど……それじゃあ、ゼアノスたちが俺に修業をつけてくれるってことか?」

「そう言うことになるな」

「それなら早速頼む! 時間が惜しいからな。で、どうするんだ? 『生命力』を感じるところから始めるとかか?」


 俺がそう訊くと、ゼアノスは笑いながら答えた。


「ハハハハハ! 誠一殿は冗談が得意だな。実戦で学んでもらうに決まっているだろう?」

「…………………………へ?」

「さあ、今すぐ悪霊を探そう。おっと、悪霊の見つけ方も教えるから、そのつもりでいるように」

「マジかよ!?」


 俺の想像してた修行と違う!

 いや、確かに時間がないからそれが一番早いのかもしれないけどさ!

 俺たちの会話を聴いていた父さんは、感心したように頷いた。


「なるほど……こうして我が子は成長していくのだな」

「これは特殊な例だからね!? 全員こんな成長の仕方しないよ!? ……しないよね?」


 言ってて不安になって来た。

 こうして、俺はゼアノスたちに修業という名の実戦をさせられるのだった。

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― 新着の感想 ―
和気藹々としてて良い感じですな
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