校内対抗戦~貴き血の王族対穢れた血の王族~
10月26日、司会の名前をマリーからリリーに変更しました。
『い、いやぁ……凄まじい戦いでしたね! 私にはベアード選手たちの動きを追う事が出来なかったのですが……』
『そうですね。まず、ベアード選手がトリマキー選手の魔法を殴り落とし、徐々に近づいたかと思うと、その場で超高速のサイドステップを踏み、トリマキー選手を惑わすと、そのまま背後に回り込み、華麗な一撃を脳天に叩き落とす……学生とは思えない身のこなしですね』
誰だよお前!? 本当にマイケル!?
アンタ、今までまともに解説できてなかったじゃん!? 何で急に詳しい解説始めてるの!?
それに、試合のレベルだけで見たら、圧倒的にベアードの試合の方が高次元だったよね!?
俺は元々目で追えるけど、マイケルもあの速度の試合展開を確実に追えてるとは思わなかったよッ!
『マイケルさん、目で追う事が出来たんですか!?』
『何もそうすごいことではありません。それに、私の愛馬……【流星馬】に比べれば、どんなスピードでも遅く感じるんですよ』
『なるほど。では次行きましょう!』
『切り替え早ッ!?』
全然遅く感じられてねぇじゃねぇかッ!
てか、今思い出したけど、この人王都カップの前回の優勝者じゃない!? 【流星馬】って言ってたし!
俺が優勝した時の表彰者の中にいたのかもしれないけど、あの時はルルネがバハムートを手に入れられなかったショックで俺は表彰台に上がってないからな。バハムートを交換してもらえそうか確認するために、バハムートを手に入れた人だけは確認したけどさ。
そんなことはいいとして、本当に何者なの!? マイケルって!
ぼ、冒険者なのかな……? そうだとしたら、バーナさんも知らないみたいだし、ランクがあんまり高くないか、難しい依頼とかをあんまり受けてないのかもしれない。
……あの街出身なら、ランクなんてあってないようなもんだけどねっ!
『続いては、Sクラスのテオボルト選手対、Fクラスのブルード選手です! これは、目が離せませんよ!』
『と、言いますと?』
『実は、テオボルト選手は、カイゼル帝国の第一王子でして、ブルード選手は、第二王子なのです! ですが、ここだけの話、ブルード選手の母君は、平民の方でして、異母兄弟ということもあって、あまり良好な関係とは言えないようなのです』
『なるほど。今この瞬間、ここだけの話じゃなくなりましたね』
『……皆さん、忘れましょう!』
それは無理があるだろ!?
『まあなんにせよ、国の闇があふれ出てきそうな試合になるのではないでしょうか!? 学園に国家の対立を持ち込むなんて、驚きですね!』
『私は貴女の口の軽さに驚きですね』
マイケル、今はアンタが正しいよ!
リリーさん、大丈夫かな……俺の中でいい印象がほぼないカイゼル帝国に喧嘩売ってるようなもんだけど……。
そんなことを考えていると、闘技場の中心には、ブルードと、金髪の男子生徒が向かい合っていた。恐らく、彼がブルードの兄であるテオボルトなのだろう。お互い武器は同じで、ロングソードだった。……そう言えば、アルがテオボルトの平常点をゼロにするって言ってたような……。
「兄上……」
「いい気になるなよ? 落ちこぼれ。アイツは俺たちSクラスの中でも最弱だ」
スゲェ! まさか『ヤツは○○のなかでも最弱……』って台詞を本当に聞ける日が来るとは思わなかったよ!
「俺は……貴方を倒します」
「ハァ? 貴様、いつからそんなに偉くなったんだ? 平民の血を引く分際で」
「……」
「気に食わないなぁ、その顔。メチャクチャにしてやりたくなる……ん? おお、そうだ! いいことを思いついた! 確か、貴様の母親のところにいたメイド……名は……リリアンだったか?」
「っ!」
「光栄に思え。俺が国に帰ったら、俺専用のメイドとして雇いなおしてやろう。フフフ……一度だけ見たが、顔だけはよかったからな。たっぷり奉仕させてやろう」
「貴様ッ……!」
ブルードが、先ほどまでの態度を一変させ、視線で人を殺せるレベルでテオボルトを睨みつけていた。
詳しい話は分からないが……とんでもなくゲスい性格をしているようだ。
思わず眉をひそめていると、隣で様子を見守っていたサリアが口を開いた。
「うーん……無理じゃないかなぁ」
「へ?」
「だってあの人、雄として全然だめだもん。この間私たちに寄って来た、あの人たちと同じかそれ以下だね!」
「……ブルードは?」
「え? 全然大丈夫だよ!」
野生の勘ってコワイ。
一人戦慄していると、アグノスが叫んだ。
「バカ野郎ッ! そいつの言うことに耳を貸してんじゃねぇ! いつものいけ好かねぇ態度はどうした!?」
「アグノス……」
「心配すんな! 変な気が起きねぇくらい、ボコボコにぶっ潰してやればいいんだよ!」
その応援はどうなんだろうか。いや、ある意味正しいかもしれないが。
アグノスの応援を受け、ブルードは一瞬を目を見開いたが、すぐにいつもの余裕のある笑みを浮かべた。
「そうだな……その通りだ」
納得しちゃったよ! もうちょっと穏便に済ませられないかなぁ!?
内心で盛大にツッコんでいると、アグノスが俺に声をかけてくる。
「兄貴! 兄貴からも一言お願いします!」
「え? あ、じゃあ……」
俺は、ブルードに向かってしっかりと言い放った。
「ぶっ潰せ」
言ってることが同じ? 何のことだか分かりませんねぇ。
俺の言葉に、ブルードは驚いた様子だったが、すぐに笑みを深めた。
「フッ……そこは教職者として、穏便に済ませるように言うのが普通じゃないか?」
「さっき君も納得してたよねぇ!?」
とんでもない言いがかりだ。
とにかく、もう心配はいらないだろう。
俺は安心して試合を見ることにした。
『さあ、すでに両者火花を散らしておりますが……さっそく始めていきますよ! テオボルト選手対ブルード選手……始めッ!』
リリーさんの合図とともに、ブルードは剣を振った。
「ハアッ!」
その瞬間、斬撃が飛び出し、テオボルトに襲い掛かる。
『な、なんと! ブルード選手、斬撃を飛ばしております! 見たところ、スキルでもなさそうですが……』
『いよいよ学生なのか疑わしくなってきましたね』
俺も驚いたが、やはり斬撃を飛ばすのは普通じゃないらしい。ルイエスはそんな斬撃を何発もぶっ放してきたけどね……。
「ザコの分際で……調子に乗るなよ!」
しかし、テオボルトは、斬撃を簡単に避ける。
斬撃は、誰もいない地面を軽く抉るだけで終わってしまった。
斬撃を避けたテオボルトは、右手をブルードへと向けた。
「『サンダーランス』!」
槍の形をした雷が、高速でブルードへと打ち出された。
「くっ!」
それを何とか避けると、ブルードは再び斬撃を飛ばす。
だが、その斬撃はテオボルトに向かわず、見当違いな方向へ飛んでいった。
「ハハハハハ! 狙いすら定められないのか? ザコめ! 『エレキサークル』!」
今度は、テオボルトは高速回転している電撃の円を浮かび上がらせ、ブルードに大量に射出した。
『おおっと! テオボルト選手! すごい数の魔法です!』
『エレキサークル……確か、中級雷属性魔法でしたね』
さっきまで試合途中に実況してなかったよねぇ!? 本当に急にどうしたの!? まあ仕事してるから文句はないんだけどさ!
ブルードは、自身に向かってくる電撃の円を、紙一重で避け続け、避けられないものは剣で切り落とし、反撃とばかりに再び斬撃を飛ばした。
だが、斬撃はまたも見当違いの方向へ飛んでいく。
「どうしたどうしたどうした!? 逃げてばっかじゃ面白くないぞ!? せいぜい俺の魔法の実験台になれ!」
Sクラスの皆さんはどんだけ人を使って魔法の実験がしたいんだよ。マッド過ぎるだろ。
思わずそう思っていると、テオボルトの攻撃は一向に当たらず、ブルードも斬撃を変な方向に飛ばし続けるせいか、試合は平行線だった。
「穢れた血を引く貴様が、次期帝王のこの俺に逆らうか!? 平民は平民らしく、泥にまみれて這いつくばっているがいい!」
そんな状況を少しでも変えようと、テオボルトはいろいろな魔法を放つが、すべてブルードに巧く捌かれていた。
しかも、ブルードは勝負に出るつもりか、少しずつだが、テオボルトとの距離を詰めている。
「この俺の前に立ちやがって……くたばれ愚民があああああああああっ!」
少しずつ迫って来るブルードに、恐怖したのかは分からないが、テオボルトは叫び声をあげ、両腕をブルードにかざした。
「感謝するがいい、貴様への贈り物だ! 『トリプル・チェイス』!」
「っ!?」
すると、高速で炎の玉、風の玉、雷の玉が、ブルードめがけて飛び出した。
突然のことで驚いたブルードだったが、すぐに冷静さを取り戻し、避けようとする。
だが――――。
「くっ!?」
「バカめ! その魔法は貴様に当たるまで追い続けるぞ!」
テオボルトの放った魔法は、ブルードを執拗に追いかける追尾型の魔法だったのだ。
それを察したブルードは、すぐに目標をテオボルトに切り替え、突撃する。
『おっと、ブルード選手! 魔法への対応を諦め、テオボルト選手を直接攻撃しに向かうか!?』
『いえ、これはテオボルト選手の魔法を、テオボルト選手にぶつけようと考えているのではないでしょうか? 本来、魔法が使える者同士の戦いならば、壁を出現させ、それにぶつければ終わりですが……彼は、どうやら魔法が使えないようですしね』
なるほど、ブルードはそんなことを考えているかもしれないのか……。
しかし、もうブルードは魔法が使えるのだ。
それを使えば、簡単にこの状況を切り抜けられる。
だが……なぜか、ブルードは魔法を使おうとはしなかった。
一瞬、ブルードは相手を舐めているのか? とも思ったが、そんなはずはないだろう。
何か理由があるはずだが、俺には分からなかった。
「つくづくバカなヤツだなぁ!? お前にその魔法から逃れる術はない! 大人しく降参すれば、許してやらんこともないぞ?」
「……」
そんなテオボルトの挑発にも動じず、ブルードはただひたすらにテオボルトを追い続けた。
そして、ブルードは、とうとう勝負に出たのか、思いっきりテオボルトに飛びかかった。
しかし――――。
「空中に飛び込むとは……これで逃げ場は完全になくなったなぁ!? さあ、落ちろ! 『トリプル・チェイス』!」
またも、追尾型の三属性の玉が、空中で逃げ場のないブルードに襲い掛かった。
しかも、テオボルトはしっかりその場から飛び退き、巻き添えを食らわないようにしている。
誰もが、テオボルトの勝利を疑わなかった。
そう、俺たちを除いて――――。
「かかったな?」
ブルードは、静かに……それでいて獰猛な笑みを浮かべた。
何と、ブルードは、空中で体を捻ると、自身に向かってくる魔法のうち、風属性の魔法を一つ、全力で踏みつけた。
魔法がブルードの足の裏に当たったことで、すさまじい衝撃が足の裏で発生する。
しかし、それに合わせてブルードも突進する動作をしていたため、一気にテオボルトへと距離を詰めていた。
「なあっ!?」
急な方向転換に加え、猛スピードで迫って来るブルードに、テオボルトは完全にパニック状態になり、急いでその場から離れようとした。
だが――――。
「あひぃ!?」
情けない声を上げ、テオボルトはその場でこけた。
なぜならそこは、ずっとブルードが斬撃を飛ばし続けたことによって、大きく穴が開いていたのだ。
テオボルトは、ブルードを追い詰めることに必死すぎて、足元の確認を完全に怠っていたのだ。
足をとられ、こけたテオボルトに、難なくブルードは接近すると、すぐに背後に回り込み、テオボルトの制服の襟を掴んで立たせ、まるで魔法から守る盾のように構えた。
「兄上の贈り物は趣味が悪いので、お返しします」
「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおっ!」
テオボルトの叫びも虚しく、魔法は全弾、テオボルトに命中した。
煙が晴れると、そこには無傷のブルードと、黒焦げのテオボルトが。
誰が見ても、勝敗は明らかだった。
『し、勝者……Fクラスのブルード選手!』
リリーさんが、動揺を隠せない様子でそう言い放つ。
するとブルードは、黒焦げのテオボルトを見て、眉をしかめて雑に放り投げた。
そして、ハンカチを取り出すと、汚れたと言わんばかりに手を拭いた。
「兄上。貴き血を引く王族ともあろうお方が、泥まみれですよ? 気休めですが、これでお拭き下さい」
手を拭いたハンカチを、テオボルトに向かって投げると、ブルードは優雅に背を向けるのだった。
10月26日、司会の名前をマリーからリリーに変更しました。




