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実技授業~後篇~

「そう言えば、ブルードの作戦って何だったんだ?」


 ブルードたちが立ち上がる姿を眺めながら、疑問を口にすると、ブルードは教えてくれた。


「難しいことではない。ただ、誠一先生の意識が、アグノスとベアードに向くように、二人に誠一先生が考える暇を与えず攻撃をさせる。そこで、完全に俺から意識を外した瞬間、背後から俺が攻撃するといった内容だっただけだ」

「なるほど……なら、ブルードが俺に声をかけたのは間違いだったんじゃないか?」


 そう、あの時、ブルードが声を出さなければ、不意打ちが決まっていたかもしれないのだ。……『世界眼』と『反射防衛』のスキルがある時点で、それは難しいかもしれないが、『世界眼』に意識が向いていなければ、結局『反射防衛』も発動しないわけだし。

 そもそも、俺が体を制御さえできていれば、『反射防衛』に頼らなくても普通に攻撃は避けられるわけだから、振り回されてることを強く実感する。

 すると、ブルードは首を横に振った。


「いや、俺が声をかけたことによって、強制的に意識を再び俺の方へ向けることが狙いだったのだ。そうすることで、アグノスたちに大きく割かれていた意識が、急に現れた俺によって大きく揺らぐわけだからな。それに、俺は剣を扱うことはできるが、決定力に欠けることを自覚している。そこで、アグノスたちを囮と見せかけ、急に現れた本当の囮である俺を警戒させることで、本命のアグノスたちに攻撃させようと考えていたわけだ」

「……」


 俺は思わずポカーンとしてしまった。

 つまり、ブルードが本命と見せかけて実は囮であり、逆にアグノスたちが囮と思ってみれば、本命だったということだ。難しいことではないって……ウソだッ!

 ここまで考えて戦うなんて、俺には無理です。同い年とは思えません。……いや、俺ができないだけで、案外誰でもできることかもしれないけどさ。

 ただ、残念なことに……俺、戦っている最中に、どちらが囮だとか本命だとか、まったく考えてなかった!

 いや、結局全員倒さなきゃダメなわけだから、そんなことどうでもいいというか……。

 いいわけですね! はい、気付きませんでしたよ! これで満足か!?

 内心荒れていると、ブルードは苦笑いを浮かべた。


「まあ、誠一先生には関係なかったようだがな」


 見透かされてるぅぅぅぅぅううううううう!

 俺は、乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。

 ブルードたちは、そのままベアトリスさんの場所まで移動し、今からは観戦モードに入るようだ。

 それを確認すると、俺は残りのメンバーに訊く。


「さて……それじゃあ今度はどうする?」


 すると、フローラとレイチェル、そしてイレーネが手を挙げた。


「はいはいはい! 今度はボクたち三人にやらせてよ!」

「お願いします~」


 どうやら、フローラは、レイチェルとイレーネとチームを組んで、挑んでくるらしい。

 もちろん、ブルードたちを許したのだから、フローラたちがダメということはない。

 それに、さっきの戦いの反省点を意識しながら、戦えるのは俺にとっても有り難かった。


「よっしゃー! 頑張っちゃうよ~!」

「お手柔らかにお願いしますね~」


 フローラは気合十分と言った様子で、レイチェルはどこか気弱な感じだった。

 ふと、イレーネの様子がおかしいことに気付く。


「どうした? イレーネ」

「……」


 顔を俯かせるイレーネ。

 俺が訝しげに見ていると、やがて凛とした表情で言い放った。


「もったいないです!」

「へ?」


 イレーネの言葉に、俺は間抜けな声を上げた。

 そんな俺をよそに、イレーネは言いたいことを次々と言ってくる。


「貴方は自身の美しさを理解していますか? それをフードで隠す……それが人類にとって、どれほどの損失であるか! 美しいということは、それだけで義務が生まれるのです。そう、万人にその美しさを見せるという義務が! 『美』は偉大であり、だからこそ、『美』を持つ存在は常に一番であり続けなければならないのです! 誠一先生……貴方は、その義務を放棄しているのです!」

「ご、ごめんなさい!?」

「いいえ、許しません! 先生が自身の価値を真に理解するまで、私は何度でも訴え続けますよ! この完璧な私が!」

「いえ、結構です」


 ガンガン言いたいことを言ってくるイレーネに、引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。

 それにしても、俺の顔ってどうなってるの? この世界に来て、鏡とか見てないし……というより、鏡の存在自体を見ていない気もする。それ以前の問題で、あまり気にもしていなかったってのが一番の理由だろうけど。だって、知らなくても特に不便じゃないし……。

 まあ、『進化の実』の効果で、明らかに骨格が替わったというか……いや、整形とは違って、体が遺伝子レベルで創りかえられたといった方が正しいか? とにかく、身長や体型を含めて、地球のころと比べて、劇的に変わったことは分かる。

 本当にメイの描いた絵みたいな見た目だったりして。……いや、本当にそうなら嬉しけどね。あの絵の俺は、スゲーイケメンに描かれてたし。

 ちょっと自分の容姿に関して考えていると、イレーネは鼻息を荒くしながらいつの間にか武器を構え、フローラたちのもとに移動していた。


「誠一先生! 何をしているのですか? 早く始めましょう! そう、『美』の追求戦を……!」

「いや、ただの模擬戦だから」


 そうツッコみつつ、イレーネたちと対峙する。

 ブルードたちと同じように、皆の魔法の適性を確認すれば、やはりまだ発現段階にはないことが分かった。

 これはもう確定していいんじゃないだろうか?

 明らかに、ブルードたちの戦闘力は落ちこぼれクラスって呼ばれるようなものじゃない。

 だから、落ちこぼれと呼ばれる理由は、魔法が使えるかどうかにあるって言うことだ。

 まあ、バーバドル魔法学園って言うくらいだから、魔法がメインなのかもしれないけど、それにしたって極端な成績のつけ方だよな。

 ただ、この学園がブルードたち以上の実力者で溢れてるって言うのなら、落ちこぼれになるのかもしれないけど、ベアトリスさんはヘレンを実力者って言ったし、それはないだろう。

 他にも、レオンは魔法が使えるっぽいのに、落ちこぼれクラスにいることもよく分からないんだけどさ。

 あっ、ちなみに俺は、魔法の部分以外はみんなの情報は見てないからな! ちゃんとプライバシーは守ってますからね! スリーサイズとか女性が見られたくない場所は特に注意してますから! マジで『世界眼』は怖いからっ!

 そのせいで、ヘレンが何の武術を学んでいるのかとかはまったく分からないんですけどね。

 ふとそんなことを考えながら、俺は対峙している三人に目を向けた。

 フローラは、自身の背丈に迫る大剣を構え、レイチェルは槍を。そして、イレーネは大鎌を構えた。


「ああっ! 何を持っても似合ってしまう罪な私……そう、私は美しき死神。自身の『美』を理解していない愚かな先生に死を与える、美しすぎる死神なのです!」

「よろしくお願いします~」

「本気で行くからね! 覚悟しておいてよっ!」


 性格がよく分かる場面ですね。

 三人を眺めながら、そんな感想を抱きつつ、俺も戦闘へと意識を切り替えた。

 そして、次の瞬間――――まずはフローラが大剣を軽々と振り回しながら迫ってきた。


「いっくよぉ~! そりゃああああああああああああああっ!」


 俺にめがけてかなり鋭い一撃が、俺の横腹めがけて振り抜かれる。

 だが、俺はそれを軽く受け止めながら、その勢いのまま、三人から大きく距離をとった。

 すると、それに追撃する形で、イレーネが俺の首を刈り取るように、大鎌を振って来る。


「その首、頂戴いたします! そして、民衆の前に晒すのです!」

「俺何も悪いことしてないのに、晒首にされるの!?」

「いえ、体も完璧な肉体バランスならば、死体のまま晒すことも考えましょう!」

「マッド過ぎるぜ……!」


 狂気を孕んだイレーネの言葉に返しながら、イレーネの追撃を避け続ける。

 ……よし、いい感じに動けてるな。

 足運びなんかは、しっかりルイエスから学んでいるので、あとは俺が実践の中で、使えるようにすればいいだけなのだ。

 俺は、冷静にイレーネとフローラの攻撃を最小限の動きで躱した。


「あ~もうっ! 全然当たらないじゃん!」

「クッ……やりますね、誠一先生! ですが、私はまだ諦めませんよ! その首を民衆の前に晒すまで……!」

「いや、それは諦めて欲しい!」


 イレーネは、多少の疲れを見せながら攻撃を続けているのに対し、フローラは、まったく疲れた様子を見せず、未だに勢いを衰えさせることなく、大剣を振り回し続けている。……体力スゲェな。

 そんな感想を抱きながら、二人の猛攻を凌いでいると、突然、背筋がぞっとした。

 俺は、イレーネとフローラの二人にも意識を向けながら、背後を『世界眼』で確認する。

 すると、いつの間にかレイチェルが俺の真後ろに回っていたことが分かった。

 レイチェルの存在を確認すると、俺はすぐにその場で大きくしゃがみ込む。

 その瞬間、先ほどまで俺の頭があった位置に、鋭いが、どこか躊躇いの感じられる槍が出現した。

 ……なるほど。今までは全員躊躇なく攻撃してきたが、どうやらレイチェルはそれができないらしい。

 しゃがんだまま、視線をレイチェルに向けると、そこには避けられたことに対する驚きと、安心した二つの感情が混ざった表情を浮かべるレイチェルが、槍を突き出した状態で立っていた。

 しゃがんだ状態の俺は、そのまま三人が一度に見渡せる位置まで、大きく飛び退く。

 しかし、今度はレイチェルもしっかり参戦してきて、三人の追撃が始まった。


「やああああああああっ!」


 ズドォォォォォオオオオオオン!

 地面を陥没させる、強力な振り下ろしを浴びせてくるフローラ。


「ハアッ!」


 ブォン!

 確実に、俺の首を刈り取りに来るイレーネ。

 そして――――。


「とりゃあ~っ!」


 ヒュンッ!

 躊躇いながらも、一つ一つが洗練された動きを見せるレイチェル。

 フローラは、ごり押しでがむしゃらに大剣を振っているだけのようだが、イレーネとレイチェルの動きは、ヘレンと同じように、何かしらの武術を学んでいる動きだった。

 特に、レイチェルはとんでもない。

 躊躇がよく目立ちはするものの、足運びや、攻撃のタイミング、何よりスキルを発動させていないにも関わらず、すべての攻撃が『技』となって、俺に襲い掛かるのだ。

 ……ちなみに、俺の『業盗り』のスキルだが、これは相手の使ったスキルを自分も使えるようになるスキルであって、ヘレンの放った奥義や、魔法などは使えるようにはならない。

 もちろん、教えてもらえれば、俺の体的に、一発で覚えられそうな気もするけど……。

 レイチェルは、技術はあるのに、戦闘に慣れてないって感じだな。

 すべての攻撃を受け、避け続けた俺は、そろそろ反撃に出ようと思った。


「おりゃああああああああああああああっ!」


 大きく振りかぶった大剣を、俺の頭めがけて振り下ろしてきた瞬間、俺はその大剣の側面に【慈愛溢れる細剣ホワイト】添えるように触れさせ、そのまま滑るようにして一気にフローラへと近づいた。


「へ!? ウソ!?」

「させません!」


 すると、俺の攻撃を阻止しようと、イレーネが首ではなく、胴体めがけて大鎌を振るってきた。

 だが、俺はその大鎌を足で踏みつけ、更に加速してフローラに接近する。


「取りあえず、一人」

「きゃっ!」


 だいたいどんな戦闘スタイルで、どの程度戦えるのか見極めた俺は、大剣から滑らせたホワイトを首に突きつけることで倒したということを示した後、そのまま軽く小突いて吹っ飛ばした。


「フローラっ!」

「二人目」


 続いて、俺に踏まれたことで、大鎌の切っ先が地面に刺さった状態で叫ぶイレーネの背後に回り、両腕に手を添え、大鎌を地面から引き抜いてやると同時に、そのまま後ろに軽く放り投げた。

 放り投げる瞬間、首にホワイトを添えることも忘れない。


「きゃあああああああっ!」

「さて、最後は――――」

「やあ~!」


 残るレイチェルのほうへ向こうとした瞬間、槍による鋭い一撃が俺めがけて放たれた。

 焦らず、その攻撃を躱し、ホワイトで斬りかかる。


「ッ!!!!」

「!」

「やああっ!」


 だが、驚いたことに、レイチェルは俺のホワイトを受け止めた。

 それどころか、俺に対して、反撃まで行ってきた。

 未だ躊躇いを感じるモノの、レイチェルは俺と打ち合ってくる。

 ……すごいな。ヘレンやイレーネも何かしらの武術を修めてるっぽかったが、レイチェルはその上をいく。

 しかし――――。


「取りあえず、今日はこれで終わりかな?」

「え?」


 俺と打ち合う中で、レイチェルの槍の柄の部分を掴むと、そのまま俺の方へ引き寄せた。


「わわっ!」


 レイチェルは踏ん張ろうとするも、手加減しているとはいえ、化物じみたステータスを誇る俺の筋力を上回るはずもなく、いとも簡単に俺に引き寄せられた。

 その勢いを利用したまま、俺はレイチェルを軽く振り回し、そのまま投げた。

 このときもまた、二人と同じように一瞬でホワイトを首に当ててある。


「あれれ~!」


 今度はヘレンのときみたいな失敗はせず、うまく放り投げることができた。うむ、俺も成長している。

 ただ、本当に今の戦いは、俺にしてはよく頑張れたと思う。スキルに振り回されることもせず、自分の意志でスキルを発動させながら戦えたからだ。

 ルイエスとの戦闘訓練の確認もできたし、俺にとっても実りのある模擬戦闘だったな。

 そんなことを思っていると、たった今、俺にやられた三人が起き上がった。


「痛たたた……もぉ、先生酷いじゃないかぁ! ボクの頭がバカになったらどうしてくれるんだい?」

「……負けた……この完璧な私が……『美』を争う戦いにおいて、負けるだなんて……!」

「はう~……誠一先生~強すぎですよぉ~」


 イレーネの反応はともかくとして、三人とも意外と元気そうなことに驚いた。まあ、全力で手加減しているので、怪我をされても困るんだけどさ……。


「……ハッ!? しょ、勝者、誠一先生!」


 三人の反応に苦笑いしていると、呆然としていたベアトリスさんがそう宣言した。

 取りあえず、サリアたち以外の全員と模擬戦を終え、一息ついた瞬間、学園の鐘が鳴った。


「あ……どうやら、お昼休憩になったようですね」

「へ? もうそんな時間ですか?」


 ベアトリスさんの言葉に、俺は驚く。

 模擬戦に集中しすぎて気付かなかったけど、そんなに時間が経ってたのか……。


「よっしゃあああああああっ! 動き回ったから、腹が空きすぎて死にそうだぜぇ!」

「そうか。短い付き合いだったな」

「まだ死んでないからね!?」

「……誠一先生、か。あの強さでここまで何も情報がない相手とは……謎が多い男だな」

「そうね……でも、レイチェルがあんなに動けることにも私は驚いたわ」

「フン。人は見かけによらんということだな」

「……おーい、聴いてる? 俺、死んでねぇからなー?」


 アグノスたちも、お昼休憩のモードに入っている。

 よく見れば、最初にいた他のクラスの人間たちも、バラバラに移動を始めていた。


「ベアトリスさん。このままお昼休憩に入りたいのですが大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。昼休憩のあとはどうしますか? サリアさんたちは、誠一さんの知り合いということですし、お互いの実力も知っているかと思いますが……」

「そうですね……そこは二人に訊いてみないと分かりません」

「なるほど。では、取りあえずお昼休憩にしましょう」


 そう言うと、ベアトリスさんはテキパキと指示を出し、アグノスたちも空腹を満たそうと、すぐに行動を開始した。

 だが、俺たちはまだこの学園のことを詳しく知らないため、お昼もどこで食べればいいのか分からない。

 すると、ベアトリスさんが俺たちを誘ってくれた。


「そう言えば、みなさんにはまだ食堂などについて説明していませんでしたね。せっかくですので、一緒にお昼を食べませんか?」

「すみません、いいでしょうか?」

「はい! 生徒もいますが、先生同士で食事をするというモノに憧れてまして……」


 照れくさそうに笑うベアトリスさんだったが、俺はベアトリスさんの言葉に疑問を覚えた。

 ……なぜ、先生同士で食事することに憧れが? え? もしかして、今まで先生と食事をしたことがない……とか?

 生徒だけでなく、先生もそんな扱い受けるの? もう嫌だー。社会が陰湿すぎるー。もうちょっと楽しい社会になりませんかねぇ?

 知りたくなかった社会の一面に、げんなりとしながらも俺たちはベアトリスさんのあとに続き、学食へと向かった。

 その道中、サリアたちに模擬戦をするかどうか訊いてみたところ……。


「戦ってみる! 森から出て、誠一がどれだけ強くなったのか、肌で体感してみたいから!」

「主様! 食堂にはどんな美味しいものがあるのでしょうね! 今から楽しみで仕方がありません!」


 サリアは俺と戦う意思を示したモノの、ルルネは完全に食事へと意識が向いていた。

 まあ、サリアが戦うんだし、ルルネにも戦ってもらうとしよう。話を聴かないルルネが悪い。うん、そういうことにしよう。

 軽い雑談をしながらも、俺たちは食堂へとたどり着いた。

 そこには、地球の高校では考えられないような、立派な食堂が存在していた。

 テーブル席だけでなく、カウンター席やテラス席まであり、大人数が食堂でひしめいていた。

 高校の食堂よりは、どちらかと言えば大学の食堂に近いだろう。

 予想以上に綺麗で豪華な食堂に、俺はただひたすら圧倒されていた。


「すげぇ……」

「あ、主様! あれを見てください!」


 ルルネの指示した方向に視線を向けると、食堂の受け取りカウンターらしき場所の上部分に、大量のメニューが書かれた看板が掛けられてあった。


「スゲェな……学園の学食ってこんなに種類があるもんなのかよ……」


 アルも、そのメニューの多さに驚いていると、ベアトリスさんが誇らしげに答えた。


「ここは各国の郷土料理など、あらゆる食事が食べることができるんですよ。国によっては、食べてはいけない食材などもありますし、そう言った生徒や先生方のために、こうして多くのメニューが用意されているのです。これも全て、この学園が各国の出資によって成り立っているからこそ、できることなのです」

「せ、世界中の料理……だと……!?」

「……食いしん坊。涎垂れてる」


 戦慄するルルネの口元を、オリガちゃんはよじ登って拭いてあげていた。……どっちが年上か分からんぞ、ルルネよ。

 俺たちは、ただひたすら学園の食堂に圧倒されっぱなしだった。

 すると、目をキラキラさせたサリアが腕を引っ張った。


「誠一! 早く見に行こうよ!」

「ちょっ! 引っ張らなくても行くから!」


 そんなやり取りをしている時だった。


「…………せい…………いち…………?」

「え?」


 懐かしい、昔は聞き慣れたはずの声が、俺の耳に届いた。

 反射的に後ろを振り向くと、そこには――――。


「――――」


 目を見開いて立ち尽くす、俺の先輩にして幼馴染の――――神無月華蓮が立っていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誠一が鏡の存在自体見てないって言ってますが、何話か前にイレーネが鏡見てたのを誠一は確認してたと思いますよっ。
[良い点] 死にそうだぜ!に対する返しでめちゃくちゃ笑いました [一言] すごい好きなシリーズです、応援してます!
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