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実技授業~前篇~

 タイトルが、内容と合致していないようだったので、変更しました。

「さて、それじゃあ……早速みんなの実力を見せてもらおうかな?」


 Fクラスのメンバーを見渡しながら、俺は口を開く。

 どこか上から目線な発言だが、ベアトリスさんが提案したように、皆の実力を見るために今日一日を実技授業にしたのだ。


「一番最初にやりたい人は――――」

「はいはいはい! 兄貴! ぜひ、俺に――――」

「私がやるわ」

「――――っておい!? 割り込み!?」


 アグノスが元気よく手を上げ、一番にやろうとしたところを、どこか妙な威圧感を放ちながら、ヘレンが言葉を遮った。


「おい、ヘレン! 俺が一番最初に――――」

「アンタは黙ってて」

「…………兄貴。みんなの俺に対する扱いが酷い…………」


 気合で頑張れ。テストの解答のようにな。

 心の中で無責任なエールを送っていると、ベアードがアグノスの肩を叩き、あのスケッチブックを見せた。


『気にすることはない。そんな日もある』

「お前さっきからその文面使いまわしすぎじゃねぇか!? って露骨に顔を逸らしてんじゃねぇ!」


 確かに、俺のときも同じ言葉だったなぁ……とか思っていると、いつの間にかヘレンは俺に対峙する形で立っていた。


「えっと……まあ取りあえず、ルールを決めようか。武器は、普段から使ってるもので大丈夫だ」


 当たっても、俺の防御力なら大丈夫! ……なはず。


「それと、実力を確認したいから、魔法も使用ありだね。ただし――――俺は魔法は使用しない」

「!」


 俺が魔法を使用しないといった瞬間、ヘレンの表情が変わった。

 先ほどまでは、どこかピリピリとした雰囲気を発していたのだが、今はそれ以上の威圧を向けられている。


「……アンタ、舐めてるの?」

「いや、そう言うわけじゃないんだけど……」


 別に舐めてるワケじゃなく、単純に俺が魔法を使うにはまだ危ういだけなのだが。うっかりで大惨事とか笑えない。それに、俺が魔法使う意味がない。だって、皆の実力を見るわけだからね。……いや、俺も魔法を使って、それに対してどう対処するかも見た方がいいのかな? うーん……まあ、今回はパスでいいか。どうせ、今日一日で実技授業が終わるわけじゃないし。


「……後悔しても知らないから」

「あ、はい」


 すごい形相で睨まれてるんですけど……俺の魔法を使わない発言がそんなに気に入らなかったのだろうか? 許してほしいです。


「でも残念ね……私は魔法が使えないわ」

「へ?」


 唐突に告げられた内容に、俺は思わず間抜けな声を上げた。

 魔法が……使えない?

 俺は急いでスキル『世界眼』を発動させた。

 サリアたちに魔法を教えた時も、このスキルでそれぞれがどの属性の潜在能力を秘めているかを見たためである。

 すると、ヘレンは今は魔法が使えないらしいが、潜在能力としては火属性と土属性の二つの潜在能力があることが分かった。

 確認した対象が魔法を使える場合は、そのままスキルで属性が俺の視界に表示されるのだが、未だに発現――――つまり、魔法の才能はあるが、今は使えないという状態の場合は、その属性の横にカッコ書きで『未発現』と表記されるのだ。

 まあ、どうせいつかは教えることになるわけで、今そのことについて話していたら実力を見るどころじゃなくなってしまうので、今回は黙っておくことにした。

 それにしても……落ちこぼれって呼ばれる理由は、魔法が使えないからなのか?

 そんなことを考えていると、おそらくアイテムボックスからだろうが、ヘレンは二振りの短剣を取り出し、両手で構えた。あれが、彼女の武器なのだろう。

 ヘレンが武器を構えたところを見て、俺も腰に差してある『慈愛溢れる細剣ホワイト』を抜き放った。

 ……とんでもなく久々に触った気もするが、最近は剣を使っての戦闘をルイエスとの訓練でしか行っていなかったため、ちょうどよかった。訓練も木剣で、魔物の大群のときは、魔法で一掃だったし。

 ちなみに、刃引きした訓練用の武器を使わない理由は、普段から使っているモノでこそ実力が発揮できると思ったからで、俺もステータスが低ければ、普段使っている武器を使えだなんて言わなかっただろう。地球の俺なら、瞬殺される自信がある。スゲーだろ。

 それと、俺がホワイトを使うワケは、ホワイトの能力である、『触れた仲間に魔力や体力を譲渡する』という効果があるからだ。

 この『触れる』という部分は、俺が触れるのではなく、剣身で触れるのである。

 いくら回復させるためとはいえ、普通剣身で触れれば、誤ってケガをさせてしまうかもしれない。

 だが、このホワイトの場合、俺が『仲間』と認識してさえいれば、どんなに攻撃しても、ダメージを与えたり、ケガをさせたりすることはないのだ。

 だからこそ、俺はホワイトを選択した。

 俺もホワイトを抜き、自然体で構えていると、不安そうな表情でベアトリスさんが口を開く。


「あの……誠一さん。本当に魔法を使わなくても大丈夫ですか? 彼女……ヘレンさんは、魔法が使えずとも、この学園でもかなりの実力者ですが……」

「大丈夫ですよ。あ、それと、審判をお願いしてもいいですか? 勝負の判定基準は相手に降参させるか、気絶させるかのどちらかでお願いします」


 俺が気負った様子を見せないでいると、ベアトリスさんは未だに不安そうながらもこれ以上言うことをやめたようだった。


「本当に後悔しても知らないから」

「大丈夫だよ。でもちゃんと本気で来ること。……あ、開始はヘレンの好きな時で大丈夫だから」

「……泣かせてあげる」


 そう言うやいなや、ヘレンは一気に俺との距離を詰め、右手で持った短剣を顔めがけて突き刺してきた。

 だが、俺には、その一連の動作がひどくゆっくりに見えていた。

 うーん、やっぱりルイエスと比べちゃうとなぁ。

 ただ、刃引きしていない武器を使っているにもかかわらず、完全に致命傷になるだろう攻撃を繰り出すあたりは、十分だと思う。

 ルイエスが言うには、模擬戦や訓練ばかりでは、初めての実戦のときに躊躇してしまい、本当の実力を出せず、危険なんだとか。

 その点、ヘレンは躊躇している気配はなく、確実に俺を殺す気で来ているため、高く評価できる。

 そんなことを考えながら、俺は体を半歩ずらすだけで、その攻撃を避けた。


「っ!? なら……!」


 俺が避けたことに驚きの表情を浮かべるも、すぐにそのままの勢いで回し蹴りを放ってきた。

 今度は、しゃがんで躱す。

 その後も、次々と攻撃を繰り出されるが、どれも俺にかすりもせず、それどころか俺を最初の位置からほとんど動かすことさえできずにいた。

 うん、こうして実際に体を動かしてみると、ルイエスとの訓練の成果が出ていると実感する。

 俺がルイエスとした訓練の内容は、主に体捌きだったりするのだが、それだけでも戦闘系のスキルを使う上で、使い方が自然とわかるようになったのだ。

 他には、地球のころの俺では不可能だろうが、ルイエスが今まで見て習得してきたという様々な剣術を、俺も見るだけで身に付けた。

 ステータスにそれらが表記されない理由は、すべてルイエスが習得したうえで最適化され、もはや別物の剣術となっただけでなく、その剣術をルイエスが剣術と認識していないため、教えてもらった俺のステータスにも表記されなかったのだと思う。

 そんな修行の成果をどんどん発揮して、俺はヘレンの攻撃を避け続ける。

 しばらくの間、怒涛の連続攻撃が繰り出され続けたが、ヘレンはいくら攻撃しても俺に当たる様子がないため、一度大きく距離をとると、息を切らしながら睨みつけてきた。


「ハァッ、ハァッ……アンタ、いったいいくつの剣術を習得してるわけ!? 私が分かる範囲じゃ独特の足捌きを持つ【ヘルザード流風柳ふうりゅう剣】と、あの≪剣神けんしん≫の創始した【ガルディア流神剣術】しか分からなかったけど……他にも見たことのない動きがいくつもあったわ! それを師範レベル……いえ、創始者レベルで使いこなすアンタは本当に何なのよ!?」

「え……知らない……」

「何でよ!?」


 いや、そう言われましても……俺の動きは、全部ルイエスから見て学んだわけで……。

 それに、何だかんだかと訊かれれば、答えてあげるのが世の情け……って有名な三人組が言うけどさ? 難しいよね。俺って何者なんだろう? 勇者のなりそこない? 冒険者? うーむ、哲学。

 思わず俺が何者なのか考えていると、ヘレンは頬を引きつらせた。


「……正直、アンタを見くびってたみたいね」

「え?」

「いいわ。私の本気――――見せてあげる」


 そう言うと、ヘレンは両手の二つの短剣の切っ先を合わせ、それを俺に向ける。

 そして、腰を深く落とし、切っ先は俺に向けたまま、自身の顔の横まで引いた。

 何というか、一本の刀で同じ構えをしてたら、剣道とかにありそうな構えなんだけど。あるのかな? こんな構え。

 どこか見当違いなことを考えていると、ヘレンは目を細めた。


「――――死ぬんじゃないわよ?」

「え!? 死ぬの!?」


 そんな危ない攻撃を俺に放つわけ!? って、俺が訓練用の武器も使わず、全力で戦えるようにしたんだけどね!

 驚く俺をよそに、ヘレンは一気に加速し、引いていた両腕を勢いよく突き刺してきた。


「奥義……【双穿突そうせんとつ】!」


 先端の合わさった短剣は、鋭く俺の顔面を穿ち抜こうと加速しながら迫る。

 ――――だが、俺のなかでは、『最初より少しだけ速く……なった? あれ? 違いが分からん!』というだけで終わっていた。

 戦闘のプロではないため、そんな微妙な違いなど分かるはずもなく、俺は体を半身にしてその突きを避けながら、伸ばされているヘレンの両腕を掴み、そのまま勢いに任せて軽く……本当に軽~く投げた。


「きゃああああああああああっ!」

「あ、やべぇ」


 しかし、そこは化物な俺。

 本当に軽く投げたつもりなのに、結構な高さまでヘレンは打ち上げられてしまった。

 具体的な高さで言うと……うん、50メートルくらいかな? ……じゃねぇよ!?

 スキル『世界眼』や『鑑定』でステータスを確認していた俺は、ヘレンが今の高さから落ちて助かる術を持っていないことを知っていた。

 つまり、このまま落ちれば――――考えたくねぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!

 俺は急いでヘレンの落ちてくる位置まで移動し、その場で軽くジャンプした。

 すると、一気にヘレンの位置まで辿り着く。

 突然目の前に現れた俺を見て、ヘレンは目を見開いた。


「あ、アンタ! どうして……」

「ゴメン! まさかここまでだとは思わなかった! 今助けるから我慢してくれ!」


 すぐに謝罪の言葉を伝えると、高所から落ちるという恐怖で顔を青くしているヘレンを、いわゆるお姫様抱っこのかたちで抱き留めた。


「へ!?」

「スマン! 少しの間、我慢しててくれ!」


 自分のせいでヘレンを命の危険にさらしてしまったため、俺は気が動転していた。

 なので、魔法を使ってゆっくり降りるだとか、装備の『空王のブーツ』を使って、歩くように降りるだとか、そんなまともな思考をすることができなかった。

 落下の際に生じる風の力で、俺のフードも簡単に外れる。それでも、今の俺にそんなことを気にする余裕はない。

 ヘレンは、迫りくる地面に恐怖し、目を思いっきり瞑っていた。


「ちょっと衝撃があるかもしれないが、許してくれ!」

「え……」


 結局、そのまま俺とヘレンは、地面に落下した。

 だが、ここでも俺のステータスが力を発揮する。

 地面に俺の足が触れる瞬間、完璧なタイミングで膝を曲げ、衝撃を完全に殺したのだ。しかも、クレーターができるなどの地面への影響はない。もうね、俺の体はオカシイ。

 普通、膝曲げただけで衝撃を殺しきれるわけがないし、第一人間なら確実に死んでるのだ。

 でも、前回り受け身をするわけでもなく、ただ膝のクッションだけであの高さから無傷で生還する俺は、人間を辞めているのだろう。誰にも言うつもりはないが、あの高さから落ちたくせに、余裕というか……限界を感じない俺はどうしたらいいのでしょう? 種族『人間』とか信用できねぇ!

 お姫様抱っこの状態で、片膝をついたまま、ヘレンの様子を見る。

 すると、思いっきり目を瞑っていたが、いつまでも衝撃が来ないことを不思議に思ったのだろう。恐る恐る目を開け、今度は思いっきり目を見開いた。


「わ、私……生きて……る……?」

「本当にごめんな?」

「へ?」


 ヘレンが目を開いたことを確認すると、俺は謝罪の言葉を口にした。

 俺の言葉を受けたヘレンは、ゆっくりと俺の顔を見上げた。……うん、ヘレンもすごい美少女なため、間近で見られると照れるが、今はそんな場面じゃないよなぁ。

 ボーっと俺の顔を見ていたヘレンだったが、徐々に意識が戻ってきたのか、顔を赤く染め、俺の腕での中で暴れ出した。


「なあああっ!? は、離しなさいよ!」

「え? あ、ああ。ゴメン」


 俺はゆっくりとヘレンを地面におろしたが、彼女は立ち上がれなかった。

 ヘレンはさらに顔を赤くする。


「えっと……?」

「…………よ」

「はい?」


 よく聞こえなかったので、思わず聞き返すと、顔を真っ赤にしながら、すごい形相で俺を見てきた。


「だ、だから! こ……腰が抜けて動けないから、手を貸しなさいって言ってるのよ!」

「ご、ごめんなさい!?」


 あまりの迫力に、俺は身を引きながらも素直に謝った。

 そして、腰が抜けて立てないヘレンをもう一度抱きかかえ、Fクラスのもとに戻った。

 だが――――。


「「「…………………………」」」

「誠一、やっぱりすごいね!」

「……あ、主様のお姫様抱っこ……」


 サリアとルルネはいつも通りだが、アルとオリガちゃんを含めた残りの全員が、俺のことをポカーンとした表情で見ていた。

 アルとオリガちゃんは、魔法以外で何気に俺がこうして化物じみた動きをしているところを初めてみるわけで、Fクラスのメンバーと一緒に驚いているのは理解できた。

 幸い、遠くで授業している他クラスには見られていなかったようなので、安心した。


「えっと……こんなことになっちゃったけど……どうする?」


 模擬戦を続けるかどうかを確認すると、ヘレンは少し頬を赤く染め、顔を逸らしながら小さく呟いた。


「……で、できるわけないでしょ。こんな状態じゃ……」

「そっか」


 そんなやり取りをしていると、真っ先に正気に返ったベアトリスさんが、慌てて告げた。


「あ、へ、ヘレンさんの戦闘不能を確認しました。……まさか、本当に大丈夫だったなんて……」

「ははは……すみません。ヘレンをお願いしてもいいですか?」

「はい、分かりました」


 ベアトリスさんにヘレンのことを任せると、俺はさりげなくフードを被りなおしながら、再び残りのメンバーに向き直った。……自然にフードを被れたよね? ここは勇者のいる場所だし、あまり顔を大っぴらにしたくないんだけど……。

 それでも、翔太たちには会って、話をしたいと思っている。ただ、俺を虐めていた連中に遭いたくないだけだ。……トラウマってほどじゃないが、それでもね。変なことに巻き込まれたくないし、サリアたちを巻き込みたくもない。


「さて、それじゃあ……次は誰がやる?」


 俺がそう呼びかけるも、未だに先ほどの衝撃から抜け出せておらず、皆唖然としている。

 だが、次にブルードが正気に返ると、少し考える仕草をしたのち、口を開いた。


「フム……誠一先生……と呼べばいいか?」

「え? あ、うん」

「ならば、誠一先生。次の相手は俺にやらせてくれ」

「もちろん」

「――――ただ、俺だけではなく、アグノスたちも一緒ではダメだろうか?」

「は!?」


 ブルードの言葉に、真っ先に反応したのはアグノスだった。


「ちょっ……ブルード、どういうつもりだ!?」

「どういうつもりも何も、それが一番俺の実力を発揮できるからだ」

「お前のためかよ!?」

「それ以外に何がある? これは俺たちの実力を知ってもらうための模擬戦だ。俺が実力を発揮するには、お前たちの力が必要なのだから仕方のないことだろう?」

「威張って情けねぇこと言ってんじゃねぇよ!?」

「情けない? バカめ。一人で何でもできると思いこむことこそが愚かなのだ」


 またも漫才のようなやり取りを始めた二人。……お前ら仲良しだろ。

 それはともかく、ブルードが一人じゃなくて、多数で挑む方が実力を発揮できるというのなら、俺は別に構わない。ルイエスとの訓練で、多人数戦闘もやったしな……一応。


「ブルードがチームを組んで戦うのが一番実力を発揮できるなら、それでもいいよ」

「迷惑をかけるな。……それで? どうする?」


 問いかけられたアグノスは、後ろ頭をガシガシとかくと、投げやり気味に叫んだ。


「あーあーあーあー! やってやるよ! 一人じゃなんもできねぇテメェの手伝いしてやるよ!」

「フン。最初からそう言え」

「お前本当に腹立つな!?」

『ブルード。俺も手伝おう』

「ベアード……助かる」

「俺との扱いの差! そのうち泣くぞ!?」

「勝手に泣け」

「うわああああああああああああああん!」


 ベアードも、ブルードとチームを組むことを了承した。……アグノス。本当に泣くなよ……。

 泣き始めたアグノスを綺麗にスルーしたブルードは、残った最後の男子……レオンに顔を向けた。


「レオン。お前の力も貸してくれないか?」


 だが、レオンは、ひどく怯えた様子を見せ、首を横に振り続けた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ぼ、僕は……!」

「…………いや、すまない。無理を言ったな」


 よく分からないが、レオンの様子がどこかおかしい。

 いや、まだ出会ったばかりなので、詳しい事情とか知らないが、それでも教室で自己紹介をしたときとは違う、本当の『怯え』を感じた。


「レオン? 大丈夫か?」


 あまりにも怯えているので、声をかけると、レオンは体をビクッとさせる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 僕は……た、戦え……ません……」


 蚊の鳴くような、か細い声で、レオンは顔を俯かせながらそう言った。

 ………………これは、無理させられないな。

 先生によっては、無理やりにでも実力を見るために戦わせたりするのかもしれないが、俺にはとてもじゃないが無理だった。

 他のFクラスのメンバーを見てみると、やはりレオンの様子がおかしいと思っているらしく、首を傾げたり、レオンを訝し気に見ていた。


「それじゃあ、レオンは、ベアトリスさんのところで見学しててくれ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 ずっと『ごめんなさい』と呟きながら、レオンはベアトリスさんのの元まで移動した。

 レオンの様子を見て、ベアトリスさんも何かを察したらしく、俺の方に顔を向け、一つ頷いた。……ベアトリスさんに任せれば、大丈夫だろう。


「さて、それじゃあ用意をして、さっそく始めようか?」


 俺は、再びヘレンと戦った位置まで移動し、ホワイトを構える。

 すると、ブルードは普通のロングソード。ベアードはナックルダスター……いわゆる『メリケン』と呼ばれる、指に嵌める武器。そしてアグノスは…………釘バットを構えた。


「あー……アグノス? アグノスの武器は……それ?」

「はいッス! 俺の愛用の武器――【不流朱陰愚フルスイング】ッス!」


 武器の名前! 自己紹介の『夜露死苦』みたいになっちゃってるよ!? でもスゲー不良っぽい!

 ベアードも、武器としてどうなのかは分からないが、メリケンがとても似合っている。

 それぞれ武器を構えたので、始めようとすると、ブルードが手を上げる。


「誠一先生。少し、時間を貰えないだろうか? 作戦を練る時間が欲しい」

「え? あ、うん。大丈夫だよ」


 作戦を練るのも大事だからなぁ。俺は、そんなことができるほど頭はよくないわけですが。

 ただ、作戦が練り終わるまで暇な俺は、レオンとブルードたちを、スキル『世界眼』で見た。

 すると、案の定、ブルードたちは、魔法を使う才能があるモノの、未発現の状態となっていた。

 だが、レオンだけ、違っていた。

 スキルで見ると、レオンは魔法を使えることを示しているのだ。それも――――五属性。

 テルベールの図書館や、王城内の図書室で調べたからこそ分かるが、この世界では、二属性魔法が使えるだけでもすごいらしい。

 つまり、レオンは才能の塊と言えるのだ。

 だからこそ、分からない。

 なぜ、レオンがこのFクラスにいるのか。何をそんなに怯えて、卑屈になっているのか、まったく分からなかった。

 思わず首を捻っていると、どうやらブルードたちの話がまとまったようで、それぞれの武器を構えた。


「待たせた。すまない」

「いや、大丈夫。それじゃあ、好きな時に始めていいからね」


 そう言って、俺もホワイトを構える。

 そして――――。


「そんじゃあ、俺から行かせてもらいますぜ、兄貴!」


 アグノスが、俺に向けて突っ込んできた。

 大きく振りかぶった釘バットを、俺の頭めがけて振り下ろす。……アグノスも、ヘレンと同じで、躊躇とかはなさそうだな。

 余裕を持って、その攻撃を避けると、アグノスは叩き付けたバットを軸にして、体を支えながら回し蹴りを放ってきた。


「オラァァァァァァアアアアアアアッ!」

「!」


 そんなアクロバティックな動きで来るとは思わなかったので、一瞬虚を突かれる。いや、ルイエスとかは、地面に武器が触れた時点で、なるべく距離をとるような動きをしてたから……。

 そこまで考えて、俺は対人戦において、妙なクセが付いてしまっていることに気付いた。

 マズいよなぁ……動きなんて人それぞれなのに……このクセも、なおさないとなぁ。

 そんな感想を抱きながらも、次々と繰り出される、予測不能の攻撃を避け続ける。

 何というか、アグノスの攻撃は、さっき戦ったヘレンのような洗練された動きがないモノの、とても自由な攻撃をしてきた。

 それはつまり、とても攻撃が読みにくいわけで、読みにくい攻撃だからこそ、俺の体が思わず反応してしまった。


「あっ!」


 戦闘経験がとても浅い俺は、不意を突かれたりすると、せっかく訓練して身に付き始めたスキルを制御できなくなり、ほぼ無意識にスキルによって、体を動かされてしまうのだ。

 今回もそれが出て、思わず防御に徹するつもりが、ホワイトをすごい手加減しながら突き出した。

 普通なら、ここでアグノスは終わっている。

 だが――――。


「ッ!」


 何と、ベアードが、アグノスの前に出て、俺の突き出したホワイトを、上下からメリケンで挟み、攻撃を受け流したのだ。

 確かにすごい手加減しているので、避けたり反撃しようと思えばできるレベルの速さだが、あまりにもそんな経験がなさ過ぎたので、またも俺は隙を作ってしまう。

 その隙をアグノスが見逃すはずもなく、再び予測不能な攻撃を、怒涛の勢いで繰り出してきた。


「らあああああああああああああああ!」

「おっと」


 しかし、そこは化物な俺。

 すぐに化物級の身体能力を駆使し、それらすべてを避ける。

 ……アグノスとベアードは、息のピッタリ合ったコンビネーションを繰り出してくるが、それに比べて俺は、ダメダメだった。

 確かに、俺のステータスなら、戦闘の素人だろうが、負けることはありえないかもしれない。

 でも、こうして戦っていると、その素人の部分がよく目立ち、何か大きなミスをするんじゃないか? って気持ちになってしまう。

 それは、俺が負けるというより、周りへの被害がどうこうって心配なのだが。

 とにかく、一度頭を冷やしながら、冷静にアグノスとベアードの攻撃を捌き続けた。

 ――――だが、俺は気付かなかった。


「俺から意識を外したな?」


 不意に、俺の背後から声がかかる。

 考えるまでもなく、ブルードの声だった。

 そう、俺は目の前のアグノスとベアードに気を取られ、ブルードの存在を完全に忘れていたのだ。

 後ろを振り向くと、眼前に迫る剣の切っ先。

 とてもゆっくりと俺に迫ってきてはいるものの、俺と接触まであと数ミリって距離に、あ、こりゃ避けようがねぇわ……と、思わず諦めてしまった。

 ……それすらも、俺の体が覆すとは思わなかったが。

 未だに制御できていない、『反射防衛』のスキルが発動したのだ。

 俺の体は、その場ですごい勢いでしゃがみ、三人の足元をすくいあげるように蹴りを放った。

 防ぎようのない俺の攻撃力を前に、簡単に三人は足を取られる。

 ゆっくりと動く俺の視界の中で、それぞれが地面に転がるのを確認すると、俺の体はさらに動き、三人の顔の真横に小さな斬撃を放ち、本当に小さな斬痕を地面に残した。

 そして、俺はホワイトをブルードに突きつけていた。

 ………………。

 やっちまったあああああああああああああああああああああ!

 もうどんなに頑張っても制御できねぇよ! 俺の体なのに!

 ただ、俺の身に何かしらの害意が迫ると、勝手に体が動いてしまうのだ。

 やっぱり俺は未熟すぎる。

 簡単に不意を突かれるし、翻弄されるし……。

 とんでもないスキルを持ってても、使いこなせなければ意味がないってのを体で表してるようなもんだな、俺って。

 もちろん、ちゃんとこの戦いで、それぞれの戦い方の特徴を知ることはできた。

 でも、それ以上に俺の今後の課題が目についてしまった。

 おかしな話だが、それはつまり、まだまだ俺に強くなる余地があるということだ。

 ……いい加減、俺の体なんだから、振り回されないようにしないとなぁ……。

 そんなことを思っていると、アグノスはキラキラした目を向け、ベアードはスケッチブックを取り出し、ブルードは苦笑いを浮かべながら、口を開いた。


「さ、さすが兄貴! 参りました!」

『降参だ』

「フッ……フードの下の顔といい、化物じみた強さといい……新しい担任は、よほど俺たちを驚かせるのが好きなようだな。参ったよ」


 どうやら、全員降参のようだった。

 顔のことはよく分からんが、強さについては……うん、強さについてもよく分からなかった。

 ただ、一言いたい。

 一番驚いてるの、俺ですから!

 おそらく、次回で勇者と接触すると思います。

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