表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/230

二年Fクラス

 四巻が無事発売されました。

 書店で見かけた際、手にしていただけましたら幸いです。

 では、どうぞ。

 翌日、俺はベアトリスさんに言われた通り、職員室に向かった。

 地球の高校と同じ感覚でノックし、入室すると、そこにはベアトリスさんと、サリアたちの姿があった。

 しかし、そのほかの職員の方々の姿はない。


「おはよー! 誠一!」

「っ……お、おはよう、サリア。みんなも、おはよう」


 入室してすぐ、サリアは笑顔を浮かべながら挨拶をしてくれたので、返しながら他の皆にも挨拶をした。

 サリアは、昨日渡された制服に身を包んでおり、正直……何の心構えもしていなかっただけに、その可愛さに一瞬どもってしまった。……いつまで経っても美少女耐性が付かない。慣れられるのか? 俺……。


「見て見て! この制服、やっぱり可愛いよねー!」


 そう言うと、サリアはその場でくるりと一回転した。あの……制服も可愛いんですが、サリア自身が可愛すぎると言いたい。……いやいやいや、バカップルじゃねぇんだから、惚気るのも大概にしろよ、俺。

 ルルネも、サリアと同じ制服に身を包んでいるが、こちらは、もう既に軽く着崩しており、また違った印象を受けた。美人にも美少女にも見えるルルネも、サリアと同じくらい制服が似合っている。

 オリガちゃんとアルに関しては、二人とも動きやすい服装ということで、いつも通りだった。

 それぞれの服装を確認していると、ベアトリスさんがキリッとした表情で挨拶をする。


「おはようございます、誠一さん。今日から一緒に頑張りましょう」

「あ、おはようございます。至らぬ点もあるとは思いますが、よろしくお願いします」


 ……こんな感じでいいのか? バイトとかしたことないから、俺の敬語や言葉やらが正しいモノなのか、少し自信がないんだが……。


「さて、誠一さんもいらしたことですし、早速教室のほうへ向かいましょうか」

「あ、あの……オレ……じゃねぇ、私はどうしたらいいですか?」


 俺とサリアたちを連れて、出発しようとしたベアトリスさんに、アルが訊ねる。


「そうでした……アルトリアさんは、いわゆる専門科目を教える先生……という立場ですので、特定の教室に出向き、挨拶をするということはありません。ですが、これから授業を行っていくにあたり、新しいクラスを教えるたびに自己紹介する必要になるかと思われます。そう言えば、昨日お渡しした授業日程は確認されましたか?」

「あ、はい」


 授業日程? あれ? 俺、そんなモノ貰っていないんですが……。

 まあ、俺は担任らしいし、別に要らない……わけないよね!?


「あのー……ベアトリスさん? 俺はその授業日程というモノをいただいていないのですが……」

「すみません……説明不足でしたね。誠一さんは、アルトリアさんとは違い、担任教師です。なので、専門的な知識を教えることはしないのですが、その代わり、担任は一つだけ、ある授業をそれぞれのクラスで行っているのです」

「ある授業……ですか」

「ええ。それは【総合実技】というモノで、それぞれのクラスの生徒たちが、【冒険科】、【魔法実技】、【戦闘実技】を学んだうえで、それらを実際に実戦でどこまで使えるのかを確認するという授業です。この授業は、毎日の最終時間割になっており、その日の成長を確認するのです」

「なるほど……」

「なので、他に授業を教えることはないですが、毎日絶対にこの授業がありますので、授業日程をお渡しする必要がなかったのです」

「そう言うことですか。分かり――――」

「ただし、Fクラスは違います」

「へ?」


 てっきり、俺が教えるのはベアトリスさんの言う【総合実技】だけだと思っていたのだが、どうやら違うらしい。


「Fクラスは、残念ながら、落ちこぼれというレッテルを貼られてしまっています。なので、学園の先生方のなかには、Fクラスで授業を行うのが嫌だ、とおっしゃられる先生もいるわけです。先生だけでなく、各国の貴族の方々などからも、先生は落ちこぼれに時間を割くのではなく、優秀な生徒に時間を割け……と言われているのです」

「えっと……つまり……?」

「大変申し訳ないのですが、Fクラスのみ、担任の先生が全科目を請け負っているのです」


 どうなってんの、この学校。

 いや、学校が、というより、一部の先生や、各国の貴族とやらがうるさいんだろうけどさ。

 そりゃあ我が子をしっかり教育してほしい気持ちは分かるけど、だからと言って他人をないがしろにしていいわけでもない。

 何より、先生が授業をすることを拒絶するというのがおかしい。

 もちろん、先生にも人権があるわけだから、生徒からの虐めがあって、授業を行いたくないって言う先生がいれば、それは仕方ないのかな、とも思う。

 でも、落ちこぼれだからって理由だけで職務を放棄するその精神が、ちょっと理解できない。

 教育の結果で給料が変化するとかっていうんなら、先生も生活があるだろうし、落ちこぼれの生徒を受け持ちたくないって気持ちも分かるけど、授業を拒絶さえしなければ、担任でもない限り結局は等しくFクラスの生徒を受け持つわけで、皆平等になるはずだ。

 つか、教員免許どころか高校すら卒業していない俺が全科目教えるとか無理でしょ!? 英語とか特にダメだよ!? ……あ、異世界だから英語はないのか。それはそれで羨ましいな!


「理由は分かったのですが……俺、全科目教えるだなんて、とてもじゃないが無理だと思うんですけど……」

「その点につきましては、私がサポートいたします。なので誠一さんには、アルトリアさんの代わりに【冒険科】、【魔法実技】、【戦闘実技】、そして【総合実技】を請け負っていただけたらと考えております」

「なるほど……そう言うことでしたら、大丈夫だと思います」


 数学とか歴史とか教えろって言われたら、俺にはどうしようもないからな。微分積分? HAHAHA!

 結局は、俺は毎日学園に行く必要があるわけで、ベアトリスさんからいちいち日程表を貰う必要はないってことだな。……やっぱり不安だから、後で俺も貰っておこう。

 俺がそう言うと、ベアトリスさんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「本当に申し訳ございません……それで、アルトリアさんですが、本日の日程は確認されましたか?」

「はい。確か、今日は一つも授業がなかったはずです」

「分かりました……でしたら、アルトリアさんは本日は特にすることもないかと。アルトリアさんは、学園長が招かれた教師ですので、書類などの仕事はございません」

「あの……それなら、私は何をすればいいんでしょうか?」

「そうですね……何もすることがない教師は、基本的に家に帰ったり、学園内の出店などを見て回ってますね。中には、思いっきり羽目を外して遊びに行く人もいますよ?」


 昨日は気付かなかったけど、学園内に出店があるってスゲーよな。ベアトリスさんの口調から察するに、学園内、または付近に遊べる場所もあるっぽいし。

 てか、遊ぶ暇があるならFクラスでも授業しろよ!

 思わず内心でそうツッコんでいると、アルは少し考える仕草をした。


「あの……それなら、誠一たちのクラスにお邪魔するのはダメですか?」

「え? 二年Fクラスにですか? それは構いませんが……」

「なら、今日はそちらにお邪魔させていただきます」


 そう言うと、アルは俺の方に向いて、どこか面白そうに笑った。


「どんな授業をするのか、楽しみにしてるぜ? 誠一先生・・?」


 一気にハードルが上がってしまった。ナンテコッタイ。


◆◇◆


「では、サリアさんとルルネさんは、私のあとに続いて入室してください。誠一さんとオリガちゃんですが、私が呼びますので、そのときに入っていただければ大丈夫です」


 そう言うと、ベアトリスさんはサリアたちを連れて、目の前のFクラスの教室へと入って行った。アルは、後ろから入室している。

 あの後、すぐに俺たちは二年Fクラスに移動した。

 だが、道中驚いたのが、このFクラス、本校舎に存在しないということだった。

 どういうことかというと、職員室や、他のクラスは全て、あの宮殿のような本校舎に存在しているのだが、Fクラスのみ、少し離れた位置にある、ボロボロの旧校舎に存在するのだ。

 バーナさんや、ベアトリスさんは、この旧校舎を壊して、Fクラスの生徒も本校舎で授業を受けられるようにしたいそうなのだが、各国のお偉いさんたちが、落ちこぼれと同じ空間で授業を受けさせると、それだけで落ちこぼれになるとか訳の分からない理屈の苦情が殺到して、難しいらしい。本当に意味分からねぇよ。落ちこぼれって病気なのかよ。

 ともかく、こういった場面などが、中立という立場が危うくなっているという現状のサインなんだろう。大人の世界って大変で、面倒くさいなぁ。

 そんなことを思っていると、不意に教室から歓声のようなモノが上がった。恐らく、サリアたちを見て、クラスの人たちが騒いでいるんだろう。

 サリアたちは、文句なしの美少女なので、男子たちはそれだけでもテンションが上がるだろうし、女子もサリアの性格なら、すぐに打ち解けられるだろう。


「――――それでは最後に、私の代わりに、貴方たちに指導してくださる新しい担任の先生をご紹介いたします」


 ベアトリスさんの声が聞こえた瞬間、今度はさっきとは違ったざわめきを教室内から感じ取った。

 そりゃあ、今まで教えてくれていた先生が、急に変わるってなればみんな驚くだろうし、疑問にも思うだろうからなぁ。


「誠一さん、どうぞ」


 おっと、とうとう俺が教室に入るわけか。

 いざ、入ろうと思うと、すごく緊張するなぁ……。

 オリガちゃんも俺のあとに続いて入るわけだが、大丈夫かな?

 取りあえず、心を落ち着かせるため、何度か深呼吸を繰り返す。


「ふぅ……よし。オリガちゃんは大丈夫か?」

「……ん。だいじょうぶ」


 オリガちゃんは、サムズアップを向けてきた。

 その様子に心が静まった俺は、教室の扉を開けた。

 ガラガラガラ。


「あ゛あ゛ん?」


 ピシャン。

 俺はすぐに扉を閉めた。

 オカシイ……扉を開けた瞬間、立派なリーゼントの男子生徒が、眼前でガンを飛ばしてくる姿が見えた気が……。

 そんなわけないよな。俺の気のせい気のせい!

 気を取り直して、俺は再び扉を開けた。

 ガラガラガラ。


「やんのかゴルァア゛!?」


 ピシャン。

 …………。

 気のせいじゃなかったな。

 何で扉開けた瞬間にガン飛ばされてんの? 俺。

 そもそも初対面なはずなのに、なぜあそこまで敵意むき出しで出迎えられるんだよ。

 思わずその場で考え込んでいると、今度は扉の方が勝手に開いた。


「テメェ! 俺のことを無視してんじゃ――――」

「…………アグノス君?」

「――――仲良くやろうぜ、マイブラザー!」


 先ほど、俺にとんでもないガンを飛ばしてきた男子生徒は、背後にベアトリスさんが立った瞬間、冷や汗を流しまくりながら、俺の肩に手を回してきた。……ベアトリスさんって、そんなに怖い人なんだろうか?

 そう思った瞬間――――。

 ゴスッ。


「ノオオオオオオオオオオオオオオオオン!? べ、ベアトリスの姐さん!? か、角は勘弁してくれっ!」

「アグノス君。彼は君の兄弟ではありません。新しい担任の先生です」

「はあ!? こんな不審者が先公だと――――」

「先公?」

「大先生です!」


 謎の威圧を放つベアトリスさんは、目の前の男子生徒に、容赦なく名簿の角を頭部へ振り下ろしたのだ。……怖い人だった。

 頭を抱えてうずくまる男子生徒を放置して、ベアトリスさんは申し訳なさそうに言う。


「すみません……彼は、少々やんちゃなところがありまして」

「い、いえ。大丈夫ですけど……」

「ありがとうございます。さあ、中へどうぞ」


 中に入るとき、未だにうずくまる男子生徒はどうするのだろうと思ったが、なんだかスルーするほうがいい気がしたので、そのまま放置して中に入った。

 すると、教室内はいろんな意味でカオスだった。

 どこか卑屈そうな笑みを浮かべ、縮こまっている男子生徒。どこか自信満々な雰囲気を纏い、優雅に座る男子生徒。がっしりとした体格の、なぜか頭に可愛らしい熊の被り物をした男子生徒。

 窓の外を眺め、どこか他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出す女子生徒。ぽわんとした柔らかい雰囲気を持つ女子生徒。何故か鏡を見て、自分に酔いしれている女子生徒。そして、なぜかルルネに踏みつけられながらも、必死にサリアに近づこうと躍起になっている女子生徒。

 ……………………。

 そんなことだろうとは思ってたよ!

 もうね、この世界には変人しかいないのかな! 

 え? いるって? なら連れて来いよおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 内心盛大にツッコむ俺をよそに、ベアトリスさんは話を進める。


「こちらの方々が、今回私の代わりに担任になられた誠一さんと、その助手のオリガちゃんです」

「あ、えっと……みんなとほとんど同い年だけど、できる限りのことを教えられたらと思います。よろしく」

「……よろしく」


 そう、今さらだが、俺は本来、この教室の生徒と同じで、授業を受けているはずの年齢なのだ。

 だからこそ、先ほどの男子生徒じゃないが、あんなふうに快く思わない生徒がいても不思議じゃないと思う。


「はい、ありがとうございます。それでは、アグノス君から、自己紹介をしていってください」


 続いて、生徒に自己紹介を促すと、大きなたんこぶができた頭のまま、元気よく飛びあがり、先ほどの男子生徒がサムズアップを向けてきた。


「応っ! 俺はアグノス・パシオン! 何で急にベアトリスの姐さんから担任が替わったのか知らねぇが、夜露死苦!」


 そんな個性的な自己紹介をしてくれた男子――――アグノスは、立派な紺色のリーゼントに、なぜか黒の長ランに腰パンという姿。地球なら時代が少し古い不良の姿だった。

 目つきが悪いことも、アグノスが不良に見える理由だろう。ただ、大きなたんこぶのせいで、ギャグにしか見えない。

 アグノスが自分の席に座ると、次は優雅に座っている男子生徒が口を開いた。


「俺の名前はブルード・レフ・カイゼル。先ほどの低能とは格が違う。覚えておけ」

「んだとゴルァア゛!?」


 傲岸不遜な態度で自己紹介を終えた男子生徒――――ブルードは白髪に綺麗な青い瞳を持ったイケメンだった。足を組んで優雅に座る姿は、気品を感じさせる。

 というか――――。


「今、カイゼルって言ったか?」

「フン。そこに気付くとはな。お前が察する通り、俺はカイゼル帝国の第二王子。まあ、この学園では身分など関係ないがな」


 なんと、ブルードはカイゼル帝国の王子さまらしい。世間って狭いね!

 まあ、カイゼル帝国には、いろいろと訊きたいこともあるんだけどね……。

 ブルードが自己紹介を終えると、続いて可愛らしい熊の被り物をした男子生徒が自己紹介の番になった。

 さっきからとんでもない存在感を放つその男子生徒は、一体どんなことを言うのだろうと構えていると……なぜか、スケッチブックのようなモノを取り出し、俺に見せてきた。


『ベアード・ルトラ。よろしく頼む』


 しゃべらんのかいっ!

 それに顔に似合わず口数の少ない漢らしいキャラですね!?

 そんな男子生徒――――ベアードは、マスコットのような可愛らしい熊の被り物はもちろんだが、アグノスと違い、短ランに腰パンというこれまた少し古めの不良スタイルだった。

 しかも、ガタイがよく、腕まくりした場所からは筋肉質な腕が見える。ミスマッチすぎるぜ。

 そして、最後の男子生徒の自己紹介になったのだが、なぜか卑屈な笑みを浮かべるだけで、なかなかしゃべろうとしない。

 すると、とうとうベアトリスさんが男子生徒に促した。


「レオン君。いい加減、自己紹介を始めなさい」

「ぼ、僕なんかの紹介だなんて……そ、そんな滅相もない! そそそ、そんな恥知らずな真似……ぼぼ僕にはできません! すみません、すみません。口答えして、すみません!」


 重症ですね。

 名前はレオン・ハーディーというのだが、結局ベアトリスさんから名前を教えてもらい、とんでもなく卑屈で暗い生徒だということが分かった。

 何故か、言葉をかけただけで謝られるし、レオンが口を開いても最後には謝罪の言葉が出る。もうね、どうすりゃいいの?

 そんなレオンの容姿は、少し暗い印象を受けるモノの、パーマがかかったクリーム色の髪と茶色の瞳を持つ、小柄な美少年だった。卑屈になる理由が分からない。

 ここまでが男子生徒の自己紹介だが、もう既にお腹がいっぱいである。

 というより、アグノスとベアードだけ、なぜか改造された学ランで、ブルードとレオンは白を基調とし、青色のアクセントが入った、サリアたち女子の制服とは色違いのブレザータイプの制服を着ているのだ。

 考えるまでもないが、ブルードたちが正しい制服姿で、アグノスたちが間違っているのだろう。怒られないのかな?

 そんなどうでもいいことを考えているうちに、女子生徒の自己紹介となった。

 最初の自己紹介をしたのは、窓際で人を寄せ付けない雰囲気を放つ女子生徒だった。


「ヘレン・ローザ」


 …………終わり!?

 チラッとこっちを一瞥しただけですけど!?

 本当に近寄りがたい雰囲気の女子生徒――――ヘレンは、茶髪の……ツーサイドアップ? とかいう髪型に、少しツリ目な同じ茶色い瞳を持った美少女だった。

 サリアたちと同じ制服を着ているし、皆同い年なのだろうが、ヘレンはどこか大人びて見える。

 ヘレンの自己紹介が終わると、今度はぽわんとした雰囲気の女子生徒が自己紹介を始めた。


「私は~、レイチェル・マダンです~。新しい先生さん~、よろしくお願いしますね~」


 間延びした口調と、ぽわぽわした雰囲気の女子生徒――――レイチェルは、ウェーブのかかった長い銀髪に、少しタレ目な紫色の瞳を持つ美少女だった。

 どこがとは言わないが、発育がいい……とだけ言っておこう。

 レイチェルの自己紹介が終わり、続いて立ち上がったのは、鏡を見て、自分に酔いしれていた女子生徒だった。


「私はイレーネ・プライムです。よろしくお願いしますね、誠一先生」


 一番まともな自己紹介を終えた女子生徒――――イレーネは、ハッキリ言って、とんでもない美人だった。

 パールピンクの長い髪に、同じくパールピンクの瞳。

 鏡を見ていた姿だけを見れば、自分大好き人間にしか見えなかったのだが、こうして普通に自己紹介をしている姿は、所作も言葉遣いも含めて、とても綺麗だった。

 なんだ、結構まともじゃ――――。


「はぁ……私は何でこんなに美しいのでしょう」


 まともじゃねぇな。

 悩まし気なため息とか、妙に色っぽいのだが、俺はそんなことよりも自分にそこまでの絶対的自信を持てる方がすごいと思った。俺には無理だわ。

 そして、最後の一人となったわけだが――――。


「ぜ、ぜひボクと友達に……!」

「サリア様に近づくな!」

「おほっ! ルルネさんのパンツが見える……!」

「やっぱり貴様は近づくな!」


 何故か、その一人はルルネに踏まれていた。

 そんな様子を見て、頭を痛そうにしながらベアトリスさんが口を開く。


「はぁ……フローラさん? 何をやっているのですか……」


 ベアトリスさんの問いに対し、なぜかルルネに踏まれたままの女子生徒――――フローラは、キリッとした表情で言い放った。


「可愛い女の子がいるんですよ? 声をかけないだなんて失礼じゃないですか。ということで……嬢ちゃん、ちょっとだけでいいんよ? 減るもんじゃないしさ、ボクにちょこぉっとだけ触らせてくれたら……グヘヘヘヘ!」

「フローラさん、その笑い声は自重してください。女の子でしょう……」


 どこぞのエロ親父みたいな台詞を吐くフローラに代わり、ベアトリスさんが紹介してくれた。


「彼女はフローラ・レドラント。見ての通り……ちょっと変わった子です」

「ハハハ! 新しい先生さん! ボクは見ての通り、可愛い女の子とか好きだけど、別に本気で女性が好きってわけじゃないので、そこのところよろしく! だから、ちょっとだけ触らせて――――」

「ええい、いい加減しつこいぞ!?」


 足蹴にされてもめげないフローラは、俺から見て前髪の左側が、襟足にかけて流れる感じで少しだけ右目が隠れるワインレッドのショートヘアーで、同じワインレッドの瞳を持っている。

 普通にしていれば【剣聖の戦乙女ワルキューレ】に所属しているクラウディアさんに似た、宝塚の男性役のようなカッコよさがあるのだが、残念ながらその印象は全く受けず、どスケベなエロ親父の顔になっていた。

 珍しくルルネが疲弊しており、その後ろでサリアはよく分かっていないのか、不思議そうな表情でフローラのことを見ている。

 それに対してフローラは、本格的に変態親父のような表情で両手をワキワキさせているのだが、ルルネが足で踏みつけているため、サリアに被害はないようだった。……ルルネが疲弊しているのも珍しいけど、それ以上に騎士っぽい行動をしている方に驚きを感じる俺は、末期かもしれない。


「以上が、この二年Fクラスの生徒です」


 そう締めくくったベアトリスさん。

 なるほど。ギルド本部から出て、やっと変態から解放されたと思ったら、またここでも似たような連中を相手にしなきゃいけないわけですか。

 俺は腕を組んで、何度か頷いた。


「誰か助けてください」

 またも一気に登場人物が増えたので、簡単なまとめを。

●アグノス・パシオン……リーゼントの不良。

●ブルード・レフ・カイゼル……傲岸不遜なイケメン。カイゼル帝国の第二王子。

●ベアード・ルトラ……可愛らしい熊の被り物を被った、寡黙でガタイのいい不良。

●レオン・ハーディー……とんでもなく卑屈。小柄な美少年。

●ヘレン・ローザ……人を寄せ付けない雰囲気を放つ美少女。

●レイチェル・マダン……ぽわんとした雰囲気を持つ、発育のいい美少女。

●イレーネ・プライム……自分大好きのとんでもない美人。

●フローラ・レドラント……見た目は宝塚男優。行動はただのエロ親父。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ホントこの世界のヤツらはぶっ飛んでやがるな 昭和の不良まで居るとはたまげたなぁ
[良い点] 濃いメンツだ [気になる点] 幼なじみの教師じゃなかったw [一言] 成り上がりパートは面白いよ
[一言] そしてそこにゴリラとロバ、と… これはひどい…普通クラスで割と浮くはずのレイチェルが一番まともに見える…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ